-如 月-
短めです。さら~っと読んでくださいね。
「い~よなぁ、勇気は…。のんちゃんの手作りチョコ貰うんだろ?」
シューパン1個で1年生の彼女をゲットして、ラッキーって言うより人生なめてんのか~?ってカンジだ。
「のんに伊藤の分も頼んでやるよ!」って、要らねえよ、そんなお情けチョコ。
「じゃ、俺、のんが待っているから、お先!」
彼女が出来ると俺との友情なんてこんなものかと思ってしまう。勇気なんか大っ嫌いだ‼
そう言うわけで独り寂しく学校を後にした。
ラインで来たメール。
[寂しいヤツ大募集!
2/11 9時30分 駅前広場集合
優しい女の子が、手作りチョコをプレゼントしてくれま~す♡
エプロン持参。要返信‼]
出会い系サイトの募集メール的な文章に‘なんだ、これ??’と思いながら、ソッコー参加の返信をした。俺ってホント寂しい…。
当日、10人近くの<寂しい男達>を連れて送信元のヤツが向かったのは、ふっる~い公民館。
‘何だ?なんだ~?’とザワついている俺達は、調理室に案内されエプロンを着せられ、3~4人の‘フツーのお姉さん達’の指導のもとスイーツを作る事になった。
そういやアイツの姉さん、どっかの料理教室の先生してるって…。やられた。
講師は男⁉スイーツ作りを仕事にしている男なんて…。
「デモンストレーション」と言って、薄くのばしたチョコが木くずの様に削られた瞬間、俺の偏見も削られていた。
身体中粉だらけにして、寂しい俺達が作ったスイーツがオーブンから出て来て、試食会が始まった。
作品名 フォンダン・ショコラ -バレンタインの粉雪をのせて-
名前だけは立派だったのに、出来上がったソレはどう見ても「土だんご」にしか見えないし、粉砂糖は粉雪って言うより豪雪地方の踏み固められた路肩の雪状態。
ホラ、フツーのお姉さん達は引いてるし、目の前の皿を見て寂しい男達がため息ついている。
‘コレ、食うのか?ってか、食えるのかよ…’
初めて作ったスイーツは美味かった。見た目はサ・イ・ア・クだったけど味はサイコ―だった。
講師のパティシエだという男性が自分で作ったというスイーツを持って来て、俺の目は釘づけになった。お盆の上にのっていたのは、スイーツという名の宝石だった。
‘俺もあんな輝くものが作りたい!’
その時、漠然とそんな事を思った。
バレンタイン。勇気は得意顔で彼女の手作りチョコを持って来た。
「コレ、伊藤の分」
「サンキュ。ってか、コレ自慢か?」
「ま、いいじゃん」
箱の中のチョコを一つ口に放り込む。
ケーキを作った日、講師が作ったというケーキの上にのっていたチョコの味を思い出していた。
「決めた!」
「なんだよ、伊藤」
「へへへ、何でもない」
俺は独り寂しく家に向って歩いていた。勇気は今日もお手々つないでのんちゃんと帰宅。
毎年そこそこ余らず足らずのチョコは貰っているけど、お返しなんてした事がない。でも、のんちゃんにはお礼しないと勇気のヤツ怒るだろうな…。
バスを下りて、家とは反対の方に歩いて行った。
‘どうせ暇だし、怒られるのもヤだし。何か見てみるか…’
気まぐれに路地に入ってみた。一軒の店が目に付いて俺の足が止まった。
‘この店って…’
カフェバーかマニアックな趣味物でも扱っていそうな店構えだけど間違いなくあのパティシエのスイーツ店だった。中を覗くとお客さんの姿がある。店のガラスに「アルバイト募集」の手書き文字が見えて俺は店の中に吸い込まれて行った。
三月はどんな人のどんな出逢いになるのでしょう?弥生は少し大人ラブです。




