ー師 走ー
タイトル、変えました。
最終章になります。
最後までよろしくお願いします。
-師 走-
公演は目の前に迫っていた。
劇団の誰もが緊張している。
アマチュアが集まってそれぞれの分野を披露する。
パフォーマンスあり、ダンスあり、変わった所では落語とか民謡なんて演目もある。
「若手の育成、町おこし、芸術の発展なんて言ってるけど、知名度は低いんだよな」
幹人君が笑っている。確かにマイナーかも…。私も知らなかった。
公演当日。
演目は順調に進み、うちの番になった。
春の公演を観ていない人にも分かるストーリー構成は、あさみさんが太鼓判を押しただけあってスムーズに進んでいた。
「あっ‼」
舞台の裾で私は口を抑えた。
母役のあさみさんのエプロンが違う!エプロンの中には小道具の手紙が入っていてそのエプロンは今かけている白じゃなくピンクの方。
青ざめて振り返ると…あった!
私は観客席から気付かれない様にそのエプロンを振り回した。
結局子供役の幹人君が気付いて、アドリブを効かせてくれたおかげで進行に何の支障もなかったのだが、私は楽屋で椅子に座り込んだまま落ち込んでいた。
‘大失敗…’
「落ち込むなって、母ちゃんのドジぶりが目立っただけじゃないかよ」
幹人君が私の頭をポンポンと叩いて慰めてくれていた。
「でも…」
「しょげる前に、俺にありがとうって言ってくれよな」
「うん…。ありがとう」
「バッカ。元気出せって!」
打ち上げは後日改めてって事になって、私は敏夫さんと並んで歩いていた。
私が告白してから、敏夫さんは自然に側に居てくれる。
「先生って俺のどこが気にいったの?」
突然聞かれて戸惑う。
「どうして?」
「いや、何で俺なんか…って、不思議だったからさ」
最初は舞台の上の夫に魅かれた。練習を見ているうちに舞台の上の夫は敏夫さんそのものだと気付いた。 この人は実生活でもこんな夫になる。
子供たちの父兄と接するうちに、そんな事が分かる様になっていた。
敏夫さんは私がこういう人と結婚したいと思う理想の男性だ。
「恥ずかしいから、言えない。でも、好きなのは本当よ」
敏夫さんは少し照れた様に笑った。
打ち上げの日。
皆それぞれに盛り上がっていた。
反省する人、越に入っている人、何となく飲んでいる人。
そんな中、敏夫さんが起ちあがって大声を出した。
「みんな~、今までありがとう!俺は、今度の公演を最後に、田舎に帰ります‼」
一瞬静まり返った会場は、次の瞬間弾けた。
皆、口々に「うそだろ~」とか「何のサプライズだよ」とか言いだして、大騒ぎになった。
俯いた私が視線を感じて顔を上げると、あさみさんの視線とぶつかった。
‘驚かないのね、あの娘は聞いていたのね’
敏夫はあの娘に一番先に話したのね。そう言えば、誰かが言っていたっけ。
「最近敏夫さん、先生と一緒にいるね」って…。
そう、そういう事だったんだ。
大騒ぎの中、俺は二人の女性が視線を絡ませているのに気付いた。
あさみさんと陽子先生。無言のまま視線を外さない二人。
でも、睨みあってるとかじゃなくて、いや、だからこそ不気味と言う感じ。
打ち上げがお開きになり、敏夫さんが皆に囲まれている間に、俺は陽ちゃんを捕まえた。
嫌がる陽ちゃんを引っ張って建物の陰に行く。あたりを見まわしてから言った。
「陽ちゃん、知っていたんだ」
「敏夫さんが、田舎に帰る事?」
「そうだよ。あさみさんも知ってたの?」
「私は聞いていたけど、あさみさんに言ったかどうかは…分からないわ」
「劇団の誰かが言ってたけど、陽ちゃんと敏夫さんって、その…」
「ええ、会ってるわ。二人で」
「付き合ってるって事?」
「そう。もういいでしょ」
陽ちゃんは小走りに戻って行った。
敏夫さんの目はあさみさんだけ見ていた。それなのに、陽ちゃんと付き合ってるって?
皆から解放されて、あたりを見まわした。
先生の姿は見当たらなくて、その代わりに目にうつったのはあさみだった。
「あさみ…」
振り向いて俺を見たあさみの表情はいつもと同じだった。
「敏夫に決まったのね」
「ああ、秋に帰った時に…」
「そう。先生も一緒に帰るの?」
「えっ?」
「付き合っているんでしょう?」
「お試しでいいからって言われて、会ってはいるよ」
「お試し⁉敏夫っていつからそんな男になったの⁉」
あさみは俺に刺す様な視線を向け、‘ちゃんと責任取りなさいよ’と吐き捨てる様に言って帰って行った。
俺は電話で陽ちゃんを呼び出した。敏夫さんはあさみさんを見ていた事に気付いていた筈なのに…。
陽ちゃんが約束した店に来た途端、俺は質問を浴びせた。
「陽ちゃんて、敏夫さんのどこが好きなの?」
暫く俯いていた陽ちゃんは俺の目を見て答えた。
「敏夫さんは、理想の人なの」
「理想の人?」
「幸せな家庭を持つのが私の夢なの。敏夫さんは理想の人よ」
「いや、そうじゃなくてさ。敏夫さんのどこに魅かれたの?」
陽ちゃんは不思議そうな顔を俺に向けた。
「俺、陽ちゃんの夢ってよく分からないけど、俺的には、好きって気持ちの先に家庭って物があると思うんだ。幸せな家庭を作ってくれそうだから好きって、逆じゃない?」
「逆でも、好きならそれでいいんじゃない?」
「それって本当に好き、なのかな~」
幹人君は考え込む様に首をかしげた。
好きよ。決まっているじゃない。
幹人君の意地悪…。
一年の締めくくり。
通年なら来年の予定を確認して解散になるのだが、今年は急ぎ敏夫さんの送別会もやろうと言う事になった。
皆が集まる前に聞きたい事があった俺は、早目にあさみさんと約束した。
相変わらずのポーカーフェイスであさみさんが俺に言った。
「話って何?」
「陽ちゃんが敏夫さんと付き合ってるの、知ってますか?」
あさみさんは不思議そうに首をかしげて見せた。
「大丈夫よ。敏夫は無責任な行動をする人じゃないから…」
「あさみさんはそれでいいんですか?」
「私⁉」
一瞬表情を曇らせたあさみさんは‘私は関係ないわ’と言って離れて行った。
「陽ちゃん」
幹人君に声を掛けられて体が固くなる。
昨日、敏夫さんに言った。
「一緒に行きたい…」
敏夫さんは短く静かに「うん」と返事をして、私は「ありがとう」と言っていた。
何か違う。ずっとそう感じていた。その事を幹人君に指摘されそうで怖い。
「敏夫さんと行くんだろ?」
「ええ、今回は取りあえず、ご挨拶だけ…」
「見送り、行ってやろうか?」
「ホント⁉嬉しい」
両親も親友のむつみも反対。
「それ、違うって‼よく考えなよ!冷静になりなさいよ!」
むつみはこのところ毎日のように電話をかけてくる。
誰か一人位、私の事祝福して…。
「長いつきあいだったわね」
「ああ」
私を見る敏夫から視線を外す。今は何を言っても嘘になる気がする。
「元気でね」
「ああ、あさみもな」
敏夫の口がこれ以上動かない様に私は背を向けて歩き出した。
「あさみさん、見送り行きませんか」
幹人が突然電話をかけてきた。
「私が⁉そんな必要あるの?」
「必要とかじゃなくて仲間の見送り、じゃないですか?」
行きましょうよ、そんなに固く考えなくたって~と笑う幹人に押し切られてしまった。
駅のホームで電車のデッキに立つ敏夫と陽子先生を、幹人と並んで見ていた。
ニコニコと笑顔をを向ける陽子先生は幹人の冗談に時々声をたてて笑っていたが、隣の敏夫は微笑んでいるだけで私を見ようとはしない。
アナウンスが流れた。
ベルが鳴り「ドアが閉まります」と聞こえてきた。
陽ちゃんが電車から飛び下りた。
俺は咄嗟に隣にいたあさみさんを力一杯突き飛ばしていた。
一瞬あさみさんの身体が浮き、敏夫さんに向って倒れ込む。
敏夫さんがあさみさんをきつく抱きしめ、その姿は閉まったドアで見えなくなった。
車両の後ろの赤いライトが遠ざかっていく。
陽ちゃんはぽろぽろと涙を流して立ち竦んでいた。
「バッカだな~。そんなに泣くんなら、なんで飛び下りたんだよ?」
陽ちゃんが震える唇を噛んだ。
「泣くなって、バカ」
「敏夫さんの隣にいるのは私じゃないって事くらい分かっていたもの」
泣きながら俺の胸を叩きだした陽ちゃんの拳を肩を抱いて受け止めた。
「これでよかったのよね?」
唇を噛み締めて陽ちゃんが呟いた。
「うちの看板女優乗せちまった事は俺も一緒に謝ってやるよ」
「乗せたのは幹人でしょう?」
「なんだよ、悪いのは俺かよ?」
「私は降りただけだも~ん」
笑いながら走り出そうとする陽子を手を握って止める。
「初日の出は二人で見に行こうか?」
「うん」
慣れないパソコンに悪戦苦闘しながら、やっと最終章までたどり着きました。
何もかも初めてで、ホッと一息、が今の気持ちです。
拙い文章、表現に最後までお付き合い頂き、ただただ「感謝」です。
目を通して下さった皆様
あ・り・が・と・う




