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10/12

-神無月-

 他サイトに投稿したものに加筆致しました。

 文章がごちゃごちゃしていたら、御免なさい・・・

 宜しくお付き合い下さい。

 敏夫と舞台に立つ様になって何年になるだろう。

 私が今のアマチュア劇団に入団したのは公演を見に行ったのがきっかけ。

 そもそもお芝居なんて興味もなかったし、一緒に行った友人なんて「つまんない」って途中から居眠りしていた。

 家に帰って、私ならこう演じるとか、あそこはこうしてなんて考えていて、一週間後入団していた。

 私の単調な日々に舞台は刺激を与えてくれて、初めての舞台に立った時の感動は今でも忘れていない。

 一度しかない筈の人生を何度も何度も味わっている様な錯覚。私の現実も巻き込んで、お芝居は全てになりつつある。

 役に入り込むのは楽しい。猫の役なら猫になって、悪女の役なら男の目を引く仕草を考えている。公演までの僅かな時間が私を充実させていた。

 

 打ち上げが終わって家に帰った。化粧を落として鏡に映った自分を見た。

「お前は人生を演じている」

 敏夫に最初に言われたのはいつだったか?自分の時間をどう過ごそうと、人生をどう生きようととやかく言われる事はない。今は好きな様に生きていたい。

 毎日を楽しいと思って過ごした事など、子供の頃から一度もなかったのだから…。

「ねえ、鏡。私は今、幸せ?」

 鏡の中の私が微笑む。

「もちろんですよ、あさみさん」





12月の公演までちょっとひと休みと言った頃、一人の女性が紹介された。

 弾き語りを引き受けてくれた男の子の彼女の友人。

 以前から舞台や映画など小道具に興味があったと言い、友人から慰問での話を聞いてやって来たと言う事らしい。


「木下 陽子と言います。何でも言ってください!」

 若々しい笑顔に私は入団した頃の自分を重ねていた。






-神無月-


「もうそろそろ決めてくれないか?わしも母さんも手に負えなくなってきたんでなぁ…」

 小さく、丸くなった親父の背中を見た。農業一筋で俺達三人の息子を育ててくれた両親。他人に任せる事も、譲る事も出来ない広げ過ぎた農地は、兄弟の誰かが受け継がなければならない事を俺達は充分解っていた。ただ、それを先延ばししていたかっただけ。

 俺達兄弟は皆、受け継ぐことを嫌だと思っていないし、誰かが継ぐと言えば反対もしない。三人とも自分以外の誰かが名乗りを挙げるのを待っていただけ。

 だが、そんな時間も限界のようだ。あんなに大きく見えていた親父とお袋が、帰省する度に小さくなっていた。


「俺が…帰って来るよ」

「そうか。敏夫に任せて…いいか?」

 親父の言葉に兄と弟が黙ってうなづいた。俺達5人を包む空気が弛んだ。5人の顔は、誰かに押し付けた自責の顔でも、跡取りが決まった安堵の顔でもない。強いて言うなら、解放。長引いた呪縛から解放された顔だった。結婚して家族のいる兄や弟だったら、両親はもっと安心したのかも知れない。


‘あさみ…’

 不意にそう思った。今年の春にあんな事がなければ、帰って来るなどと言わなかっただろう。

 いい機会だったんだ。のめり込んでいた素人芝居に見切りをつけるのも、あさみと離れる事にも…。


 のめり込み過ぎていた素人芝居。趣味の域は越えていて、入って来ては辞めていく仲間の中で俺とあさみは古株。長年やっていれば気心も知れる。俺達は仲間で、友達以上恋人未満。そう思っていた。

 

 役になりきるあさみと主役のカップルを演じる事になった。

 ドタバタの恋愛劇。

 年に一度、入場料を取っての上演。あさみの入れ込みは半端なものではなかった。

 役をつかみたいとあさみから呼び出され、夜と言わず、休日と言わず付き合った。



 その日、いつもなら彼女になりきっている筈のあさみの様子がおかしい。

 友達以上恋人未満の付き合いでも素のあさみを見た事がなかった。いや、あさみは見せていなかったんだと気付いた。あさみはひどく落ち込んでいて、何を言っても返事すらしなかった。


 その夜、俺達は友達を超えた。

 たった一度、友達でも、仲間でも、共演者でもなくなった日。俺の背中に爪をたてたあさみは、はっきりと俺の名前を呼んだ。

 

 春の公演が終わると俺達は仲間に戻った。

 あさみにすれば、俺との人生は終わり、そういう事なのだろう。

 あの夜の一度きりの恋人は俺の頭から離れなくて、目の前のあさみの相手役は次々と変わった。

 猫だったり、悪者だったり、花の時もあるし、夢だったりもして相手役が俺に来ることはなくなった。



 実の父親は酔うと私と母に暴力を奮った。その父が亡くなって、母が再婚した相手は私に手をだした。

 高3だった私は、卒業するまでと黙って耐え、卒業と同時に出来るだけ遠くにと希望した就職先に、逃げる様に家を出た。あの男の居る所になどいられる筈がない。

 それなのに、今年の春、その義父が急死した。

 年一度の公演。私が幸せな女の子になっている時、あの男は死んだ。

 何も知らない母は「最後なんだから顔を見せてあげなさい」と泣いていた。

 遺族席で俯いたまま怒りと憎しみで震えていた。最後の最後まで私を苦しめた男に、悲しみにくれる娘を演じる事も出来なかった。

 

 逃げる様に帰って来て、何も考えられずに座り込んでいた私は、ケータイの着メロで我に返った。

「遅せ~ぞ。いつまで待たせるんだよ」

 約束していた敏夫からの電話。断る事も出来たのに慌てて出掛けて行った。

 その夜、家を出た時にたてた「男にすがらない」という誓いをあっさりと破った。

 それがどうしてだったのか、今も分からない。




 11月はあさみと敏夫の続きから始まります。

 今月もお付き合いありがとうございます。

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