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二人の男
岸谷は、息を殺して、その部屋の様子を見守っていた。
荒井は、自分が設置したビデオカメラに、向き合い淡々と話をしていた。
もう誰もいない研究室で、ただ一人で。
10年前ー。
ある大手の薬品会社に二人は、入社した。岸谷と荒井だった。二人は、同期であり、いつのまにか仲良くなっていった。
会社の中のみならず、プライベートでも交流するようになった。
そんな中で、岸谷の方には、彼女ができた。『綾子』という、その女性と岸谷は、愛を育んでいった。
そんな岸谷は、会社で残業することを極力、減らして行った。
ある日、定時で帰る岸谷に荒井が声を掛けた。
「俺の方の研究で、うまくいっていないことがあるんだ。できたら、今から手伝ってくれないか?」
それを聞いた岸谷は、胸ポケットから綾子の写真を取り出して、小指を立てた。
「今日は、これと色々とあるので」
そう笑い、岸谷は、足取り軽く研究室を出ていった。
後ろから、荒井の視線を感じながらも帰路を急いだ。




