1.プロローグ
風吹きすさぶ荒野の中、少年がひとりたっている。酷く吹き付けてくる砂まじりの荒れ狂った風が、無防備な少年の体に当たり、時折小さな石礫が柔らかな皮膚を傷つけていた。その痛みに顔をしかめるでもなく、表情は虚ろなまま、草も生えぬ無毛の大地を見下ろしている。
ふいに、風が止んだ。少年は顔を上げ、辺りを見回した。西方から青毛の大きな馬に乗った人の影。それを見定めると、傍らの地面に突き刺さった少年の背丈ほどもある長剣に手を伸ばす。ずしりと重いはずであろうそれを、軽々と片手で引き抜き、下段に構えた。
やがて、現れた馬上の人物は少年の前で止まり、馬より下りた。無言で少年の前にたち、彼を見下ろす。構えられた剣先がぴくりと動いた。その瞬間ーー
振り上げた刃は、確実に相手の心臓に突き刺さった。持てる力のままに突き入れ、引き抜く。どさり、と倒れる体。音もなく流れ出す鮮血が乾いた大地を赤く染めていった。その様子を見る少年の表情には、敵を打ち倒した興奮も喜びも何の感情も浮かんではいなかった。ただ、先程と同じように虚ろな顔で足元に転がった骸を眺めている。
ぽつり、と立ち尽くす少年の頬に雨粒があたった。いつの間にか照りつける太陽を覆い隠した雲が雨を振らせはじめたのだ。掌をまるで雨を受け止めるかのように差し上げる。その上に激しく振り出した雨が落ちてきた。が、やがてその手は力なく下ろされる。
「約束は果たされた。俺は、どうしたら・・・・・」
震える声で呟く少年の声を、強い雨音が掻き消していく。
そしてその場所には、物言わぬ骸とその命を奪った長剣だけが残った。