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精神疾患

精神疾患と形容詞

作者: 酒井順

 多くの精神疾患者は自覚症状を医者に伝えるときに、形容詞を多く使う。あるいは副詞だ。と、初っ端から形容詞を使ってしまった。『多く』は形容詞である。辛い、悲しい、怖いと医者に話す言葉の大部分が形容詞で埋め尽くされる。おそらく、医者は形容詞以外のとぎれとぎれの文言を繋ぎあわせ、連想するのではないかと思われる。


 『多くの』と表現したのは『僕の場合は』とほぼ同義であり、決して多くはないのかもしれない。つまり、形容詞的表現は自己の押し付けなのかもしれない。何故なら『多く』と『僕の場合』では数がまるで違うと思うからだ。


 十年近く前まで都心で職を持ち生活していた僕は、3度くらい精神科を訪れたことがある。その精神科は皆異なった病院であった。同じ病院を訪れるつもりは、全くなかったのだ。

「精神に異常をきたした人は自ら精神科を訪ねたりしませんよ」と追い返されることがわかっていたからだ。そして、3度とも追い返された。

 今では、精神疾患者の中に自覚症状を持つ人たちがいることを知っている。その人たちが救いを求めて病院を訪ねても不思議ではないような気がする。その人たちが病院を訪れないのは、自覚症状がないからではなく、世の認知度の低さからくる偏見視を恐れているからではないだろうか。しかし、ここでは認知度や偏見視のことを書くつもりはない。ここでの主題が形容詞であるからである。


 ということで(文章が継っているか自信はないが)、最初に精神科を訪れるときは、第三者を伴うことが多いようである。また形容詞を使ってしまったが、気にしていたら文章が進まないので、気にしないことにする。

 第三者は家族の場合が多いようである。しかし、数度目からの通院は第三者を伴わない人もいるようである。これは病院の待合室で感じた結果なのであるが、その人数を数えたことはない。まさか「お一人ですか?」と尋ねて歩くわけにもいかないだろうし、ましてや地方の病院である。その比率のサンプルをとるためには、まるで不適切な場所なのである。そして、比率を完全に把握しても僕には結論の持っていくところがない。


 述べたいことは、ここからである。おそらくではあるが、独力で通院している人たちは現実検討力の高い人たちであると予想する。そうでない人たちは第三者を伴うのであろう。しかし、独力で通院している人たちは的確に症状を医者に伝えることができているのであろうか。僕のように形容詞を連発しているのではないだろうか。病院で知り合いになった何人かの愚痴を聞くことがある。「あの医者はまるで話を聞いてくれない」と。何となく、会話が想像できる。しかし、僕はその解決策を持っていない。


 第三者を伴うケースでは、全てが僕の想像となる。第三者が医者に伝えているのは患者の精神状態を代弁した言葉ではなく、患者の行動なのだろうと思う。こういう言葉は医者との会話を円滑に進め、症例を多く積み重ねていくのだろうと思う。しかし、それでいいのだろうかと半信半疑になる。


 恐ろしいのはここからだ。これは被害妄想ではないと思うのだが、どのような薬にも副作用があるようである。僕は昨年に素人ながらネットで神経細胞などのことを調べた。当然のことながら神経細胞は脳に集中しているようである。精神疾患の原因は神経伝達物質であるセロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンの過剰な分泌やその逆であると主張している記述が多く見られた。

 過剰を言い換えれば、多いである。形容詞である。精神医学も脳生理学も形容詞に支配されているように感じた。

 製薬会社はどのようにして、精神薬を作っているのであろうか。形容詞で作られた精神薬が副作用を伴わないという方が信じられない。


 つい最近、投薬されている薬の種類を半分にしてもらった。ものわかりのいい医者で、一切の反対はなかった。僕の病の原因は当初アルコールであったが、ここ1年医者にまともな病名を与えられていない。医者ははっきりとは言わないが、原因不明であるらしい。


 薬の種類が半分となり、困っていた症状が1つなくなった。喜んでいたが、ある日の晩に「医者は匙を投げたのではなかろうか」と思った。これも被害妄想かもしれない。しかし、何かを思うということは、生きている証なのだと思ってこの文章を書いている。


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