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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
みそっかす編

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第65話 モツ煮込み定食

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「いやぁ、腹減ったなぁ……。なにか飯を食べたいものだ」




 ヘルムート王国南部にあるリーグ大山脈を南北に貫き、ブライヒレーダー辺境伯領とバウマイスター辺境伯領を結ぶ大トンネルを利用する人は増え続ける一方だ。

 魔導飛行船を利用すれば時間をかけずにリーグ大山脈越えができ、ブライヒブルクとバウルブクに辿り着くことができるが、便数が少ないのと運賓が高いという弱点がある。

 なにより、人の運搬が最優先であり、あまり荷物を運べないというのもあった。

 大量の商品を魔導飛行船で運ぶととてつもない運賃がかかってしまい、それは当然その商品の値段に乗っかってくる。

 その点、大トンネルを利用すれば、時間はかかるが安く移動でき、多くの荷物を運べる。

 そのため、大半の行商人がこの大トンネルを利用していた。

 魔導飛行船の運賃を払えない人たちも、乗り合い馬車で大トンネルをくぐることが多い。

 そんなわけで大トンネルは、人を運ぶ乗り合い馬車と、荷を運ぶ商人たちで混んでいた。

 一般的なトンネルは狭いし暗いので、松明を持参する必要があったり、なんなら馬車の大きさによっては通れなかったりする。

 ところが大トンネルでは、常に魔道具の明かりが灯っており、馬糞を馬の持ち主が処理せずに放置されていても、トンネル内が臭くなることがない。

 なぜなら、すぐに馬糞は配置されている警備隊員によって片付けられ、魔道具で換気しているので臭くなかった。

 さすがは、古代魔法文明時代の遺産をバウマイスター辺境伯様が発見、整備して利用できるようにしただけのことはある。

 ただ、そんな便利な大トンネルではあるが、さすがにトンネルの中で食べ物や水を買うことは出来ない。

 事前にお弁当を用意するか、あとは出入り口付近に集中しているお店で食事をとる者が大半だった。

 ブライヒレーダー辺境伯領側から、バウマイスター辺境伯領側に出た行商人の私は、早速食事をとるお店を探し始めたのだが……。


「お店が増えたなぁ……」


 大トンネルを出た道沿いにあるお店が、去年に比べると大幅に増えた。

 みんな、長いトンネルを馬車で移動している最中はお弁当か軽食、お菓子くらいしか食べられないし、明かりが点いているとはいえトンネル内は狭苦しい。

 大トンネルを出てから美味しい物を食べようという需要が大きいことに気がついた商売人たちが、街道沿いに続々とお店をオープンさせたようだ。


「選び放題ではあるな。どのお店にしようかな?」


 とは言いつつ、お店選びは慎重にだ。

 大トンネルを利用する人たち向けのお店だが、さすがに増えすぎな気がするのだ。

 飲食店は場所が大切とはいえ、出される料理の味も問われる。

 最初は美味しくなくても、場所がよくて新店というだけで沢山の客が訪れるが、美味しくなければすぐに閑古鳥が鳴いて潰れてしまう。


「美味しいから繁盛しているお店を見極める。新店だからとりあえず賑わっている店に入らないようにしないと……」


 長い大トンネルを頑張って移動してきてお腹が減っている……私は、トンネルの中で食べやすいだけのお弁当や軽食を食べるのを良しとしない人間だ……ので、美味い飯をお腹いっぱい食べたくて仕方がないのだから。


「まずは……」


 荷物を載せた馬車を、駐馬車場に預ける。

 せっかく運んできた馬車と商品を盗まれでもしたら大変だからだ。

 大トンネルとそれに繋がる街道はバウマイスター辺境伯家が管理しているからか、とにかく利便性がよかった。

 大トンネル付近と、街道沿いに一定の間隔で駐馬車場があり、そこに預けるとお金はかかるが、警備員がいるので盗まれる心配がなかった。

 安心して食事や休憩を取ることができるのだ。


「馬車を預けてから、安心して食事と……あれはお土産屋か?」


 我々商人を相手にお土産を売ろうとは、バウマイスター辺境伯家も商魂逞しい。

 どんなものがあるのか、ちょっと様子を伺うと……。


「バウマイスター騎士爵領産のハチミツと、ハチミツ酒か……」


 バウマイスター騎士爵領は、バウマイスター辺境伯様の実家だと聞いたことがある。

 騎士の八男が、十年ほどで辺境伯にまで出世したのだから、まさに立志伝的な人物だろう。

 私は商人だが、是非彼にあやかりたいところだ。

 それもあってか、ハチミツとハチミツ酒はよく売れていた。

 縁起がいいと思われているのと、実は転売すると儲かるからってのもあるのだろう。

 我々のように馬車一台で仕入れた荷を運び、販売する零細商人は、行きも帰りも馬車に空きスペースを作らないことが利益率を上げるコツなので、たとえ利幅が小さい商品でも馬車がいっぱいになるまで積む必要があった。


「日持ちはしないが、お菓子もあるのか」


 ハチミツとマロイモのパイにクッキー。

 そしてダイガクイモ? 

 揚げたマロイモに、ハチミツを使ったタレを絡めて作るお菓子のようで、作りたてのダイガクイモからは甘い香りが漂っていた。

 この香りにつられて、長い大トンネルを越えてお腹を空かせている人たちが競うように買って食べていた。


「甘い物は疲れが取れていいな」


「俺の故郷では食べられないから、つい買ってしまったよ」


「クッキーは日持ちするんだな。家族へのお土産に買って帰ろうかな?」


 いいお値段だが、ハチミツもマロイモも高級品にしては安い。

 産地が近いのと、間に商人を挟んでいないからだろう。

 どうやらこのお土産屋。

 バウマイスター騎士爵家、オイレンベルク騎士爵家、バウマイスター準男爵家、ヴァイゲル男爵家など。

 バウマイスター辺境伯家の寄り子が共同で経営しているようだ。


「だから安くても利益率を確保できる。考えてるなぁ……」


 多分、寄親であるバウマイスター辺境伯様のアイデアだろう。

 噂に聞くところによると、彼は貴族なのに商売の才能もあると聞く。

 御用商人のアルテリオ商会は、バウマイスター辺境伯様と組んだおかげで、ヘルムート王国南部一の大商人と称されるようになったのだから。 

 それも、同じ南部の雄であるブライヒレーダー辺境伯家の御用商人たちを差し置いてだ。

 そのことで彼らはアルテリオ商会を敵視していると聞くが、私も含めた多くの商人たちは、老舗であることに胡坐をかき、新興であるアルテリオ商会に出し抜かれたブライヒレーダー辺境伯家の御用商人たちを笑っていた。

 貴族の世界とは違って、商人が商売で負けた相手に恨み言を言うなんて、情けないことだと思われていたからだ。


「帰りに、馬車の空いたスペースにハチミツとハチミツ酒を積んで帰ろう」


 故郷で売ると、バカにならない利益が出るからな。

 あとは、妻と子供たちにクッキーを買って帰るか。


「ここはどちらかというとデザートだから、先に飯だな」


 ダイガクイモを食べたくなったが、まずは食事だ。

 一度お土産屋を出た私は、飲食店が立ち並ぶエリアへと向かった。


「どのお店にしようかな?」


 色々な飲食店があるが、いまいちピンとこない。

 グルメで知られるバウマイスター辺境伯様の薫陶よろしく、どのお店も、他領の街道沿いだから客が入っている微妙な食事を出す店よりも美味しそうなものを出していて、多くの客で賑わっていた。


「どれも、美味しそうではあるのが凄いが……」


 多分、バウマイスター辺境伯様が駄目なお店を弾いているのだろう。

 大きなハンバーグとハンバーガーを出すお店などは、テイクアウト可能なのに行列ができている。

 子供たちを連れて行くと喜ばれそうだが、大トンネルを抜けてきたばかりの私にはピンとこないメニューであった。


「別のお店を探そう」


 魔物肉のステーキやロースト肉を出すお店。

 今、王都で大流行している、バウマイスター辺境伯様が考案した『ヤキニク』のお店。

 バウマイスター辺境伯領の海産物を魔法の袋で輸送して、それを新鮮なまま出すお店。

 リーズナブルな普通の食堂ですら、材料や調理方法が他領のお店よりもブラッシュアップされているようで美味しそうに見える。


「だけど、なにかが違う」


 どれもとても美味しそうだし、これだけの料理を故郷で食べるとなると、この数倍は払わないといけないか、同じ料理を出すお店がない。

 それなのに、私の魂がまったく揺さぶられないのだ。


「困った……」


 いまだどのお店にしようか決められず、飲食店が並ぶ街道沿いを歩いていると、その端にやたらと客が並んでいるお店を見つけた。


「この店は……。モツ煮込みの店か……」


 モツを使った料理とは、ありきたりで意外性の欠片もないな。

 猟師と冒険者が狩った野生動物と魔物を解体すると大量に出るモツは鮮度が落ちやすく、安く取引きされる。

 いわゆる庶民の味だが、上手く下処理してから調理しないと臭みが気になるので、家にいる時ならともかく、大トンネルを抜けたご褒美の食事には向かない。


「それは、他の人たちも同じはずのなのに、どうしてこんなに人が……。あれ? この香りは……」


 なんだ!

 この香りは!

 家で食べる、モツの臭みを消すために入れて煮込むハーブの香りがしない!

 臭みの強いモツといえば、ハーブの香りが定番だというのに。


「食べたい……」


 他のどんなご馳走にもピンとこなかったのに、私は店内から外に漏れてくるモツ煮込みの香りに釣られ、行列の一番後ろに並んだ。

 時間がかかりそうだが、今回は大トンネルを早めに抜けられたので少し並ぶくらい問題ない。

 なにより今の私は、このお店のモツ煮込みを食べたくて仕方がないのだから。






「いらっしゃいませ、このお店は初めてですか?」


「はい」


 行列の割には、さほど並ばずに店内に案内された。

 席はカウンターしかなく、客はほぼ一人で一台の馬車を引く零細商人ばかりだ。

 指示された席に座ると、若い女性店員が注文を取りにきた。


「当店は、モツ煮込み単品と、モツ煮込み定食とお酒しかありません。モツ煮込みの味は、ショウユ、ミソ、塩、カレーの四種類です」


 確かに周囲を見渡すと、一人の例外もなくモツ煮込みを食べていた。

 この近辺には宿もあるため、今日宿泊する人たちはもうモツ煮込みとお酒を楽しみ、まだ馬車を引く人はご飯かパン、小鉢がつく定食を頼んでいた。


「ダブル定食、トリプル定食、オール定食か……」


「はい。二種類の味、三種類の味、すべての味を楽しみたい人向けです」


 モツ煮込みは大、中、小、ミニを選べるから、沢山食べられないけど、すべての味を食べたい人はミニのオール定食を注文すればいいのか。

 よく考えてあるな。


「私は、小のオール定食を頼もうかな」


 オール定食は少し高いが、このくらいのささやかな贅沢くらい構わないだろう。


「ご飯とパン、どちらにしますか? ちなみにご飯だと、無料で大盛りにもできます」


「じゃあ、ご飯を大盛りで」


「オール定食小、ご飯大盛りです」


 大トンネルの中での食事を我慢してきたので、ここはガッツリといきたい。

 私は、すべての味のモツ煮込みがつくオール定食をご飯大盛りで頼んだ。


「お待たせしました。オール定食小とご飯大盛りです」


 注文すると、すぐに料理が出てきた。

 この提供スピードは、食事時間を節約して荷を運びたい商人にはありがたい。

 だから店内は、商人でいっぱいなのだろう。


「うーーーん、いい匂いだ」


 すべて小を頼んだが、モツ煮込みは思っていたよりも量が多い。

 ショウユとミソは、王都とバウマイスター辺境伯領ではメジャーとなった調味料だが、地方ではまだ塩とハーブが味付けの主流だから久しぶりに食す。

 カレーにいたってはかなりの高級品だと聞くが、材料である香辛料やハーブは温かい土地で栽培されていると聞くから、バウマイスター辺境伯領ではリーズナブルな価格の食堂でも出せるのか。


「塩も美味そうだな」


 故郷のように、ハーブと合わせて使ってモツの臭みを誤魔化すといった感じではなく、旨味が強くてモツの臭みもいっさい感じなかった。

 早速、塩味から一口……。


「美味い!」 


 モツが、とにかく新鮮なのがわかった。

 様々な動物と魔物の様々なモツが混じっているようだが、下処理も完璧だから臭みがなく美味しさしか感じない。


「塩だからこそ、モツ本来の美味しさを感じられるのか……」


 コリコリとした心臓、プルプルになるまで煮込まれた腸、フワフワと不思議な触感の肺、肝臓や腎臓も独特の食感が楽しく美味しい。

 少し濃い目に味付けされているので、とにかくご飯が進む。


「ご飯を大盛りにしておいてよかったな」


 ご飯をおかわりする人も多かったが、これは有料なので、最初から無料のご飯大盛りで注文するのが正しい。

 これはちゃんと覚えておいて、次も間違えないようにしよう。


「ミソとショウユも美味い!」


 こちらも安定の美味しさで、とにかくご飯が進む。


「辛味を足せるのか」


 カウンターの上に、シチミトウガラシとイチミトウガラシが置かれていた。

 これも、手軽に料理に辛味を足せると、王都と大都市とその周辺で普及していた。

 主に流通させているのがアルテリオ商店で、タバスコ、ワサビ、カラシなどと共に看板商品だ。

 これらの調味料も、バウマイスター辺境伯様のアイデアだとか。


「ミソとショウユのモツ煮込みに辛味が加わると、味が引き立つな」


 そしてご飯も進む。

 モツ煮込み、ご飯、モツ煮込み、ご飯と交互に食べていくと、永遠に食べられそうな気がする。

 この食堂の客は私も含め、ただひたすらモツ煮込みとご飯を交互に楽しむだけの魔道具と化すのだ。

 もしくは、この昼間からモツ煮込みをツマミに酒を楽しむ、貴族のような同業者たちもいた。

 次は私も、この大トンネル出口近く、バウマイスター準男爵領に宿を取ろうかな。

 あそこはヴァイゲル男爵家と組んで、大トンネルを利用する人向けの宿場町を作って大繁盛していると聞いた。


「味変で、小鉢の野草のお浸しを……。ホロ苦で大人の味だ」


 これでリセットできたので、また味を変えるかな。

 なお、モツ煮込み定食でパンを頼んでいる人は一人もいなかった。

 やはりパンは、モツシチューか……。


「カレーモツ煮込みは、この香りと程よい辛さがご飯に合う……すみません、ご飯おかわり!」


 ご飯大盛りくらいでは、四種類のモツ煮込みたちによる攻勢に耐えきれなかったか。

 ただ私も、そろそろお腹の出が気になる年齢だ。

 おかわりは普通盛りにしておこう。

 カレー味のモツ煮込みは、とにかくご飯とよく合う。

 汁をご飯にかけて食べると、噂に聞く王都のカレー料理みたいで美味い。


「ふう……。ごちそうさま」


 さすがに今の私の胃の容量だと、オール定食のモツ煮込みは小が限界か。

 だが、逆にミニにすると、ご飯とのバランスがよくない。

 なにしろご飯は、大盛りかおかわりが前提だからだ。


「ごちそうさま、お勘定を」


「ありがとうございました!」


 食べ終わったら、並んでいる同業者たちのために素早く席を立つ。

 それが、この食堂の暗黙の了解となっているようだ。

 急ぎ美味しい食事をとりたい同業者たちが、長時間並ぶことなくこの食堂を利用するために。


「さて、あとはあのお土産屋に戻って……。やっぱりダイガクイモかな? いや、イモケンピってのもあったか。あれは馬車に乗りながら食べられる……」


「お館様! こんなところでなにをしているのですか?」


 お勘定を支払ってお店を出て、このあとデザートをどうするか考えていたら、突然大声が聞こえた。

 その声の主に、お店に並んでいた客だけでなく、店内でモツ煮込みを食べていた客から店員たちまでもが注目する。


「かなり偉い人だよな?」


 それは謎の光景だった。

 貴族か大貴族の重臣といった趣の若い男性が、自分よりも若いモツ煮込み屋の男性調理人を店の外に引っ張り出し、大声で説教を始めたからだ。


「なにをって、せっかくの大トンネルの出入り口なのに、それを利用するお客さんが望む料理を、どのお店も出せていないのがもどかしくて……」


「お店ならどこも繁盛しているじゃないですか。それよりも、お館様には領内開発の仕事があるんです!」


「今のところ、確かに大トンネルの出入り口近くのお店は繁盛しているが、ここには足りないお店がある! そう、国道沿いのモツ煮込みを出すお店がなかったから、急ぎ作らせたんだよ。大トンネルを通って長い時間と距離、荷物を運ぶ人たちがお腹いっぱい食べられるモツ煮込みのお店。誰も作らないのであれば、それは俺の出番でしょう!」


 コクドウ? 

 街道のことだろうか?

 確かにこの辺にあるお店はどれも美味しいが、すべて観光客向けというか。

 さらに、定期的に利用するには高い。

 だから馬車の上でお弁当を食べてお金を節約している行商人も多く、そんな彼らでも気軽に利用できるよう、モツ煮込みしか出さないこのお店ができたのか。


「新鮮なモツは、この野生動物と魔物が多いバウマイスター辺境伯領なら大量に安く手に入りやすい。モツ煮込みしか出さないから廃棄も少なく、席もカウンターしかないから回転率を上げられる。低価格でも利益率を下げない工夫か……」


 そしてこの街道沿いの、馬車で荷物を運ぶ行商人向けのモツ煮込み屋を考えついたのは……。


「それなら、他の者にやらせればいいじゃないですか!」


「まずは、俺が手本を見せないと駄目だ!」


「モツ煮込み屋の経営なんて、バウマイスター辺境伯の仕事じゃありませんよ!」


 やはりこの若い料理人は、バウマイスター辺境伯様だったのか……。


「(この人が、商人でなくてよかったな……)」


 この人に商売に集中されたら、私たちの仕事がなくなりそうだ。


「いいかローデリヒ、よく聞け! 確かにモツ煮込みだけを出すお店の経営は、バウマイスター辺境伯の仕事には見えないだろう。だが、この世界の流通を担う行商人たちに向けた、街道沿いのモツ煮込みを出すお店。これをヘルムート王国のみならず、アーカート神聖帝国、ガトル大陸などに広げていけば、それはバウマイスター辺境伯家の力の源泉になるのだ」


「……」


 バウマイスター辺境伯様は、これから全世界の街道沿いにモツ煮込みしか出さないお店を大量に出店させ、その利益と、流通を担う行商人たちの支持と、そのお店を通じた世界規模の情報網の構築を目指しているのか……。


「(バウマイスター辺境伯様はグルメで商売にも長けているからこその、モツ煮込み屋の出店だったのか……。なんと気宇壮大な……)」


 たかがモツ煮込み屋、されどモツ煮込み屋だな。

 さすがは、騎士の八男から短期間で辺境伯に様になっただけのことはある。

 着眼点が、他の貴族とは大違いだ。


「わかったか? ローデリヒ」


「なるほど。さすがはお館様です」


「そうか、わかってくれたか。それに俺ってさぁ、貴族よりも、モツ煮込み屋の店主の方が性に合ってると思っていてさぁ。これから頑張って、このモツ煮込み屋の支店を増やすから。だから俺はもう、領内の土木工事をしなくていいよね?」


「いいわけないじゃないですか!」


「ローデリヒが怒った!」


「モツ煮込み屋の経営と、これを利用した合法的な情報収集システムの構築は、拙者が適正のある家臣に役割を振ります。お館様は、急ぎ領内の工事現場に向かってください」


「俺は、夕方の分の仕込みがあるから忙しいんだよ」


「従業員たちに任せればいいでしょうが! なんなら屋敷の料理人を応援に回しますから」


「最後の味の確認は俺がしないと……」


「お館様、領内の開発にも同じくらい責任を持ってくださいよ! さあ、現場に向かいますよ。このままでは遅刻してしまいますから」


「味の確にぃーーーん!」


 実はバウマイスター辺境伯様だったモツ煮込み屋の店主は、バウマイスター辺境伯家のナンバー2である家宰様に引きずられ、この場から退場した。

 この光景を見ていた人たちは、みんな唖然としていた。


「……ダイガクイモでも買って、馬車の上で食べるかな。イモケンピもいいな」


 騒ぎを見ている間に少しお腹が落ち着いたので、お土産屋で買い物をしてから、馬車を目的地まで走らせよう。

 私もバウマイスター辺境伯様のようにしっかりと働いて、いつか自分のお店を持ちたいものだ。

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― 新着の感想 ―
実質仕事の息抜きに仕事してるわけだから、とんでもないワーカホリックと見られてるんじゃないだろうか。
自領以外での出店には(法的に)限界があるから、ローデリヒが追跡可能なエリアでしかヴェルくんといえども出店できないんだよねぇ(笑)
孤独のグルメを連想した。 モツ煮定食が食べたくなってきた。
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