第61話 同窓会
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「遅いぞ! イーナ!」
「エル、しぃーーー!」
「イーナちゃんこそ、声が大きくないかな?」
「ごめん、ルイーゼ」
「とにかく、ヴェルにバレないようにそっと出発しないと」
俺、イーナ、ルイーゼは、一緒に二日間の休暇を取った。
その目的は、ブライヒブルクで開催される冒険者予備校の同窓会に出席することだ。
俺たちはブライヒブルクにある冒険者予備校には三ヵ月ほどしか通っておらず、残りは王都の冒険者予備校に留学していたという扱いになっているけど、公式に卒業しているし、三ヵ月も通っていたら知人くらいはいて、彼らからお知らせがきた。
そこまでの縁でもないので欠席してもよかったのだけど、そうも言っていられない事情があった。
『バウマイスター辺境伯様も招待できないかな?』
と、招待状には書かれていた。
ヴェルは大貴族だけど、同じ冒険者予備校に通った仲だし、たまにはこういう集まりに出席して寛ぐのも悪くないのではないか?
的なニュアンスが招待状には書かれていたけど、彼らの真の目的は別だ。
俺たちも二十代半ばとなり、冒険者になって約十年が経った。
俺たちは貴族の家臣やその妻が主な仕事というか身分で、その合間に冒険者をやっているからあまり気にならないけど、そろそろ次のステップに進みたいと考える冒険者も出始める。
つまり、バウマイスター辺境伯家で雇ってくれという話だ。
ただ、さすがにヴェルが大貴族になって十年。
人手不足も解消しつつあり、以前のように誰でも雇うなんてことはなくなった。
いや、下っ端の兵士なら今でも割と簡単に雇ってもらえるのだけど、ヴェルを同窓会に招待した連中は、同じ冒険者予備校に通っていた誼で世襲可能な家臣にしてくれとか、そんなことを言い出すのが目に見えている。
だから今回の同窓会、ヴェルには内緒にしていた。
ヴェルは人がいいから、もし同窓会で直接同級生たちに仕官を頼まれると、断れないかもしれないからだ。
相談したブライヒレーダー辺境伯様もそれを懸念しており、だから俺、イーナ、ルイーゼの三人は彼に特別な用事で呼び出されてブライヒブルクに向かうため、休暇を取ったことにしている。
『時に、主君の代わりに汚れ役を担う必要もあるということですよ』
ブライヒレーダー辺境伯様の言うことは正しく、さすがは歴史の長い大貴族の当主だけあって、貴族の裏の事情に慣れていた。
『それにですよ。バウマイスター伯爵領が成立した時、目端の利く人たちはすぐに仕官しましたし、行き先がない子弟を抱えていた貴族たちもチャンスを逃しませんでした。そしてそれは、冒険者も同じです』
普通、ちゃんとした貴族に縁も所縁もない人が仕官するなんて、どれだけ優秀でもまず不可能だ。
なぜならいくら優秀でも、よく知りもしない人を雇ってなにかトラブルが発生する可能性を考慮するからだ。
よくわからない天才よりも、知り合いの凡人。
今は戦乱の時代でもないし、才能優先で家臣を選ぶことは少なかった。
たとえコネでも、貴族の子弟はちゃんと教育を受けており、貴族の家臣に目新しい仕事って少ないからあまり問題もないんだよな。
だから、貴族に仕官するのは難しいんだけど。
バウマイスター伯爵家のような例は滅多になく、事実、冒険者でもしっかりとキャリアを積み上げてきた人たちはすぐに仕官、その能力を発揮して諸侯軍の管理職や幹部に出世した人も少なくない。
若くてほとんどキャリアがない冒険者でも、最大のチャンスだと覚悟を決めてバウマイスター伯爵家に仕官し、この十年で成果を出している人も多い。
今さら同級生たちに仕官させてくれと頼まれても、そんな人は……という感想しか浮かんでこない。
だからヴェルには同窓会のことを知らせず、俺たちが盾として現場に飛び込むわけだ。
「全然休暇感はないな」
「ええ、完全な嫌われ役よね」
まあイーナの言うとおり、嫌われ役だよなぁ。
「もしかしたら、バウマイスター伯爵家に仕官させても問題ない人がいるかも……なんて同級生たちを値踏みするんだから、決していいことではないよね。『お前は何様なんだ?』って思われるだろうしね」
だが、ヴェル自身にそれをやらせてはいけないし、それこそが幸運にもバウマイスター辺境伯家の重臣、妻になった俺たちの仕事ってわけだ。
「思えば遠くにきたものだってな」
「そうねぇ」
「エル、イーナちゃん。ブライヒブルク行きの魔導飛行船に乗り遅れないようにしないと」
俺たちは、予約していたブライヒブルク行きの魔導飛行船に乗る。
下がったとはいえ運賃は割高だが、時間を節約できるのはいい。
昔なら、どんなに時間がかかっても一番安い方法で移動していたはずだが、俺たちの生活も大きく変わったものだ。
「せっかくの同窓会だけど、楽しめそうにないわね……」
イーナ、元々そういう目的じゃないから、そこは諦めてくれ。
「三ヵ月で王都に行っちゃったから、もの凄く仲が良かった人がいるわけでもなく、そこは仕方がないというか、気楽?」
ルイーゼは、かえって仲がいい人がいなくてよかったって感じだ。
「親友に仕官をなんとかしてくれって頼まれるのは辛いけど、知人程度なら断っても心は痛くないしな」
「二度と会わない人が大半でしょうからね」
同窓会にどんなご馳走が出るか、期待するような年齢でもないし、支払った会費からして期待するだけ無駄というのもある。
あまり長居はせず、どうにか早めに切り上げないと。
「バウマイスター辺境伯様のご出席はやはり無理か……」
「忙しいなんてもんじゃないからさ」
「だろうな。なにしろ彼はヘルムート王国一の大貴族なんだから」
ブライヒブルクに到着した俺たちはすぐその足で、冒険者予備校へと移動した。
同窓会は、そこの大講堂を借りて行われる。
他の会場を借りると高くつくからな。
到着してすぐ、今回の同窓会を主催したヴィンセントと挨拶をした。
彼は魔法こそ使えないが、俺たちと同じ一番上のクラスで、委員長的な役割を担っていた人物だ。
ヴェルも同じクラスだったけど、あいつはヴィンセントのことを覚えているかな?
あの頃のヴェルって無意識に存在感を消していたというか、『長年、実家の領地でなるべく他人と接しないようにしていた癖が抜けない』って言っていたからな。
だとすると、もしヴェルがこの同窓会に参加しても、誰が誰だかわからずに微妙な空気が漂ったかもしれない。
「(エル、ちょっと人数が多くないかしら?)」
そう言われると、俺たたちが入学した年の全生徒数をはるかに越える参加者がいるような……。
「なあ、ヴィンセント。俺たちの同級生ってこんなにいたか?」
「ああ、それなんだが、他の年度の卒業生たちも一緒に同窓会を開くことになったんだ。卒業年度が違っても、知り合いだったり、交流があった生徒たちもいるだろうからさ。こんな機会はなかなかないだろうし」
「……そうだな」
冒険者予備校で卒業年度が違うとほぼ接点がない。
それなのに合同で同窓会を開いたってことは……ヴェル目当てなんだろうな。
これは、気を引き締めておかないと。
早速同窓会が始まるが、会費が安かったこともあり、料理や飲み物は……会費相応?
少なくとも、そっちはまったく期待できないのがわかった。
「ヴェルを参加させなくてよかったわね」
「本当だな」
イーナの意見に同意する俺。
ヴェルが一番嫌いなのは、料理が微妙なパーティーだからな。
今回はブライヒレーダー辺境伯と一緒に情報を遮断してまで、ヴェルを参加させないでよかった。
「冒険者予備校時代のヴェルに、俺たち以外の友達がいなくて助かったな」
「まあ、あの頃のヴェルはねぇ……」
ルイーゼが、当時を思い出すような表情を浮かべる。
凄腕の魔法使いを自分のパーティに入れれば、将来は約束されたようなもの。
そう考えた同級生たちが多くて、教室内がピリピリしていた。
結局、俺たちがヴェルとパーティを組んでからも、彼らとの関係の改善しなかった。
いや、できなかった。
『あいつらはズルい!』という人間の負の感情を取り去るのは難しい。
陰口やら嫌がらせもあったけど、それをヴェルに悟らせるわけにいかず、俺たちは相応に苦労していたのだ。
ルイーゼが勝手にパーティ申請用紙を出してしまったのと、ヴェルがそのことでなにも言わなかったのは運だけど、俺たちがヴェルの足を引っ張るような真似をすれば即座にパーティは解散だったわけで、パーティを継続させた努力は認めてほしい。
「パーティ結成当初は、教室内がかなりギスギスしてたよね。ヴェルはまったく気がついてなかったけど」
あいつにそんなところを見せても、ただ嫌われるだけだからな。
彼らも空気を読んだのだろう。
そんなわけで俺たちは、仲がいい友人なんて一人もいな同窓会の会場内に孤立……いや、多くの同級生や先輩、後輩に囲まれていた。
「エルヴィン、久しぶりだなぁ」
「ああっ……」
早速同級生の一人に声をかけられるが、同じクラスじゃなかったし、ほとんど話したことがないので名前を思い出せない。
これじゃあ、他人の名前を覚えるのが苦手だっていつも言っているヴェルのことを言えないよな。
イーナとルイーゼを見ると、二人も同性の同級生たちに囲まれていた。
女性の場合、仕官は難しいから、なにを頼まれているんだろう?
「(おっと、他人の心配をしている場合ではなかった)ええと……」
「アルバートだよ、いやあ何年ぶりかな?」
向こうも俺とは顔見知り程度だって自覚があるらしく、名前を教えてくれる配慮を見せてくれたのはありがたかった。
問題は、彼がなにを望んでいるかだ。
「エルヴィンは出世したよなぁ。あのバウマイスター辺境伯家の重臣なんだから」
「ああ……」
こういう時、どう返事すればいいんだろう?
強く肯定すると嫌みになるかもしれないし、謙遜しすぎもまた然り。
結局、こういう曖昧な返答になってしまう。
「(前に、大貴族ってのらりくらりと曖昧な返答をすることが多いのがムカつく、とか批判してすまん)」
それは、言質を取られないためだったんだな。
もし俺が、わかりやすく大貴族家の重臣的な態度を取り続けた場合、ヨイショされて仕官を頼まれても断れない可能性もあったのだから。
「噂によると、バウマイスター辺境伯領にはまだまだ未開地が多く、軍人が足りないとか?」
その噂は間違ってないけど、欲しいのは末端の兵士だ。
下士官、士官、幹部は足りているというか、計画的に補充される。
貴族の子弟って余ってるから、あらかじめその貴族とヴェルの話し合いで決められているというか。
正直コネなんだけど、その貴族だって素行不良のバカを送り込むと逆に両家の関係が悪くなってしまうから、しっかり教育を施しているんだ。
余っている貴族の子弟を新規に仕官させてくれる大貴族家なんて、今ではバウマイスター辺境伯家くらいだから、その辺は気を使って当然だ。
だから大した実績もない二十代半ばの冒険者だと、一兵士になるしかない。
バウマイスター辺境伯家では、常に諸侯軍兵士の募集をしている。
それに応募すれば……ただ、最近は採用基準が厳しくなったと聞くから、アルバートは落ちてしまったのか?
「(聞きにくい……)」
昔はよほど酷い奴じゃなければ採用してたんだけど、バウマイスター辺境伯領の状態も大分落ち着いたので、領民たちからも兵士を募るようになったんだよなぁ。
俺の実家のような零細貴族だと、諸侯軍の兵士はぼぼ普段は他の仕事をしている
領民たちなんだけど、バウマイスター辺境伯家や大きな領地を持つ貴族だと、それだけでは回らない。
有事には事前に登録された領民を各町や村から徴兵し、数を揃えるのは同じだ。
だけど、彼らはあまり訓練もできないので数しかあてにならない。
そこで、あまり多くは雇えないが専業兵士を雇い、普段彼らには下士官教育を施しておき、有事には徴兵した領民たちを指揮させる。
中には途中で退職して他の仕事を始める者も出るが、彼らは予備兵士として登録可能で、年に決められた訓練を受けると手当てが出る。
彼らも、有事の際には諸侯軍に徴兵される予定だ。
なかなかに洗練された制度で、大貴族って色々と考えるものだなって思ったら、この軍制を考えたのはヴェルだってローデリヒさんから聞いて驚いた。
俺と同じような生まれて軍人としての教育なんて受けていないはずだから、本で見たのかね?
そんなわけで、兵士の採用条件が大分上がった。
常雇の兵士は有事の際の下士官相当なので、常に応募はしているけど、能力が達していないと落とされるようになったのだ。
「前に、バウマイスター辺境伯家諸侯軍の試験に落ちちゃったんだよ」
「そうかぁ……。受かるまで受けるしかないよ」
「……」
アルバートは、俺が採用枠を持っていると思ったんだろうな。
しかし、そんなものは……俺がヴェルに頼めば採用してくれるんだろうけど、そういうことはしたくないしなぁ。
ローデリヒさんに目をつけられそうだし。
なにより、無二の親友にでも頼まれたのならともかく、顔見知り程度の人に手を貸す義理もないというか……。
「(冷たい奴だと思うかもしれないが、キリがないし、世の中なんてそんなものだと思ってくれ)」
もしアルバートに便宜を図ると、彼と同じような立場の冒険者たちが俺に殺到し、収拾がつかなくなるというのもあった。
「頼むよ! 両親が病気で、俺は冒険者を続けられなくなるんだ。安定した職を紹介してくれ!」
「……」
アルバートはすぐに引き下がったけど、泣き落としを使ってでも俺に食い下がる人もいた。
彼に至っては冒険者予備校の先輩なのでまったく面識がなかったのに、自分は俺の先輩だから融通を効かせてくれると思っているらしい。
どうしてそう思えるのか不思議でならなかった。
「なっ? エルヴィンの枠を使ってさ」
「そんなものはありませんよ」
「嘘だ! だってお前は、バウマイスター辺境伯様の親友じゃないか! 優先枠の一つくらいあるだろう?」
「ありませんって。毎月兵士の募集をしているので、そちらを受けてもらうしかないです」
「お前ばかりズルいぞ! 俺だって、バウマイスター辺境伯様と同じクラスだったら!」
先輩が怒鳴り声をあげ、会場内が一時騒然となるが、状況を察した参加者たちは食事や歓談に戻った。
多分、先輩のことをバカな奴だと思ったのだろう。
そして、自分はそんなミスはしないと。
隙あらば、俺に便宜を図ってもらおうと思っているのだろうが、そんなことできるわけがないけど。
「(上手くかわさないとなぁ……。ヴェルを参加させなくてよかったよ)」
ブライヒレーダー辺境伯様の助言に従って正解だったな。
そういえばあとで、自分のお膝元でこんな同窓会を開いた冒険者ギルドブライヒブルク支部に文句を言うって言ってたな。
ブライヒレーダー辺境伯様からすれば、自分もグルだと思われるのが嫌なんだろう。
「(あーーーあ、早くパーティーが終わらないかなぁ)」
ふとルイーゼとイーナを見ると、二人も女性冒険者たちに囲まれている。
「(なんとなく、彼女たちが二人になにを頼んでいるのか想像できたけど、残念ながら俺には助ける余裕がない。なんとか振り切ってくれ)」
同窓会がこんなに大変だとは……。
もう二度と参加したくないよ。
※※※※
「バウマイスター辺境伯様は、奥さんを増やす予定はないのかしら?」
「……それは、私にはわかりません」
「ボクたちが決めることじゃないからね」
同窓会って、こんなに息苦しいものだったかしら?
初めて出席したからよくわからないのだけど。
実質三ヵ月ほどしか在籍していなかったけど、冒険者予備校の同級生たちと久々に会い、学生生活の思い出や近況について語り合う。
そういうものを想像していたのに、なぜか顔を見たこともない先輩や後輩たちまで参加していて、私たちを囲んでヴェルの奥さんになりたいとアピールしてくるのだ。
「(私やルイーゼに言っても無駄だって)」
「イーナさんは、バウマイスター辺境伯様のお気に入りの奥さんだって評判じゃない」
「だからあなたが推薦すれば、私たちも」
「お願い!」
「……(無理言わないでよ!)」
私がヴェルお気に入りの妻?
そんな噂、どこから出たのかしら?
間違いなく、私をおだてて自分をヴェルの妻に推薦してもらおうって魂胆だろうけど、そんな権限、私は持ってないわよ。
「(もし権限を持ってたとして、ヴェルによく知りもしない人を奥さんに推薦できるわけがないでしょうが!)」
もしその得体が知れない女性が、ヴェルに対する刺客だったらどうするのよ。
たとえ屋敷のメイドや使用人だって、大貴族や重臣の紹介状がない人なんて採用できないのだから。
そりゃあ、最初は人手不足だったからルールも緩かったけど、今は無理に決まっている。
「(疲れた……)」
ルイーゼの方を見ると、私と同じように多くの女性冒険者たちに囲まれ、その顔は珍しく疲れ果てていた。
「お館様の妻を決めるのは、お館様なので」
「じゃあ、私とバウマイスター辺境伯様を会わせて!」
「一目私と会えば、きっとバウマイスター辺境伯様は気に入ってくださるから!」
「私の大人の魅力に、きっと気がついてくださるわ」
「お館様は忙しいので……」
私は、同窓会の前にブライヒレーダー辺境伯様が言っていたことを思い出した。
『冒険者になって十年ほど、そろそろ結果が見えてくる頃ですからね』
『結果ですか?』
『はい。十年間冒険者をやって、それなりの評価を得られていないと、そのあとが厳しいですから』
『確かにそうですね』
冒険者を十年やって評価が微妙だと、そのあと何年やってもそう評価が上がらないケースが大半だ。
『結婚していれば、それでもいいんですけど……』
そろそろ冒険者としては見切りをつけ、結婚して家庭に入る時間を増やしたり、子供を作って子育てを始めたりする人が増える。
完全に冒険者を引退する人と、子育てが落ち着いたら冒険者に戻る人もいるけど、その選択肢は女性冒険者本人が決まることだった。
『二十代半ばで結婚できておらず、それでいて冒険者としての評価も微妙では、将来が不安になるでしょうからね。だからバウマイスター辺境伯と一目会いたいわけです』
もしヴェルに見染められたら、バウマイスター辺境伯の妻として将来は安泰……という夢を見てるわけね。
『まあ不惑の年代ですよね。自分でできる範囲で将来設計を立てるしかないです。二十代半ばになって、白馬の貴族様が自分を迎えに来るなんて思わないことです』
ブライヒレーダー辺境伯様の言い方は辛辣だったけど、現実を直視して行動しないと、今後ますます辛くなるから。
「キィーーー! ルイーゼのようなお子様がバウマイスター辺境伯様の妻になれて、どうして大人の女性である私がぁーーー!」
ルイーゼに対しヴェルに会わせてくれって頼んだけど、断られた女性冒険者がヒステリーを起こしている。
ルイーゼの容姿を見て子供っぽいって言っているけど、逆に言えば今でも若くてお肌もスベスベだから、ヴェルに気に入られていると考えることもできるわけで。
それに大人の女性って言うけど、女性冒険者の中には自分の容姿に無頓着な人が多くて、彼女もあまり髪や肌の手入れをしていなかったり、服装も微妙で……。
ヴェルに見染められたかったら、まずはそこを努力しないと厳しいんじゃないかしら?
私たちは今でも定期的に冒険者として活動するから、日焼けでお肌がボロボロ、髪がゴワゴワにならないよう、ちゃんと手入れはしているのだから。
「私は中身で勝負するのよぉーーー!」
中身って……。
今この場でヒステリーをあげているあなたよりも、優しいエリーゼをヴェルは選ぶと思うけど。
「(本当、早く終わってほしい……)」
その後も、エルはバウマイスター辺境伯家に特例で仕官させてくれと頼んでくる男性冒険者たちの相手を。
私たちは、ヴェルの奥さんになりたい女性冒険者たちの相手で、心身共にヘトヘトになってしまう。
大貴族の妻って奥の秩序を守るのも大切な仕事で、その過程で多くの人たちに嫌われるのも仕事のうちなのだと、大いに実感したのであった。
※※※※
「エル、イーナ、ルイーゼ。ブライヒブルクの冒険者予備校で同窓会があったんだって? どうして俺に教えてくれなかっただよ! 俺も出たか……」
「「「それは、やめた方がいいから(やめとけって)!」」」
「どうしてそこまで強く否定されるんだ?」
ようやくブライヒブルクで地獄の同窓会を終えて戻って来たら、どこからかその情報を聞きつけたヴェルが、どうして自分も誘わなかったのかと文句を言ってきたので、つい三人で強く言い返してしまった。
こっちは大変だったってのに!
そして……。
「しかし、冒険者予備校で同窓会なんてやるんだな。カタリーナは、ホールミアランドの冒険者予備校の同窓会に参加したことあるか?」
「……わ、私は忙しいので、断りましたわ。ヴェンデリンさんはバウマイスター辺境伯なのですから、無理にそのような集まりに顔を出す必要ないですわ」
「大貴族になると堅苦しくて嫌だねぇ」
カタリーナが上手くヴェルの気持ちを逸らしてくれたけど、俺も、俺に視線を送るイーナとルイーゼも気がついてしまった。
カタリーナも俺たち以外に友達がいないから、同窓会に招待されても居場所がないから参加しなかったか、もしかすると招待されなかったのかもしれないと。
そこを詳しく聞くのは人としてどうかと思うので、絶対にやらないけど。




