第59話 ウィザードギャザースープ(中編)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
読んでください!
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「バウマイスター辺境伯様、今日はお休みなのですか?」
「適度なお休みは体と精神の疲労を取り除き、労働と鍛練の成果を効率よく得るために必要だ。ただ我武者羅に休みもなく続ければいいってもんじゃない」
「そうですか……」
「アリスは、休日ってなにをしているんだ?」
「ええと、魔法の自主訓練をしたり、魔法の本を読んだりですね」
「(真面目か!)たまには魔法から離れることも、魔法を効率よく習得するために必要なんだけど……」
「私はそうは思いません! 私は他の優れた魔法使いたちよりも大分遅れているのですから、だから私はもっと努力しなければいけないのです!」
「(……頑固すぎる! だからダンテさんは、彼女を俺のところに? この調子だと、ダンテさんに休めって言われても、休まずに魔法の鍛練を続けていたんだろうなぁ……)」
ならば、魔法を使っても休めるというか、気分転換できることをするか。
そういえば、前から試してみたいことがあったのでそれをやってみよう。
魔法は使うけど、遊びみたいなものだし。
「では、俺を手伝ってもらおうか」
「バウマイスター辺境伯様、なにをするつもりなのですか?」
「ちょっと試したい料理があってね。その材料を集めるのを手伝ってほしい」
「料理ですか? 私は遊んでいる暇など……」
「アリス、これは一見遊びに見えるが、魔法の修練でもあるんだ。真面目に取り組んでもらわないと困るな」
「魔法の修練ですか? 料理の材料集めが?」
「詳細な事情は、実際に材料を集めながら説明しよう。では出かけようか」
「はい」
俺は一応師匠なので、アリスは俺の命令に従ってくれた。
早速俺とアリスは、『瞬間移動』でミズホ公爵領へと飛んだ。
そしていつものように、馴染のお店を回って欲しい品を次々と購入していく。
「この硬い板はなんですか?」
「乾燥させた昆布だよ。実にいい出汁が取れるんだ」
「この木の塊は?」
「木じゃなくて鰹節さ。魚を加工したもので、これもいい出汁が取れるんだ」
「初めて見る食材ですね」
今となっては、バウルブルクや王都にあるアキラのお店で買えるものばかりだけど、たまにミズホ公爵領で買い物をすると心が落ち着くな。
あとアリスは、魔法の鍛錬ばかりしているせいか、魔法に関係ないものに疎いと感じた。
それだけ必死に魔法の鍛錬を続けている証拠なのだろうけど。
「これも必要なんだよ。あとは……」
他にも、干しキノコ、ミズホ酒、干しエビ、干し貝柱、スルメ、乾燥させた魚の浮き袋などを購入していく。
そして……。
「ええっ! この不気味な黒いカチカチが、五百セント換算もするんですか? この小さな丸い乾燥物も?」
「干し黒ナマコは高級品だからね。 特にこれは大きいから。そっちは干しアワビさ」
「このカチカチの線が入った板は……千セント換算!」
「フカヒレだよ。これだけ大きくて繊維が太いと、そのぐらいして当然さ。次の場所に行こう」
続いて、『瞬間移動』で帝国北部フィリップ公爵領内にある市場へと移動する。
冬の市場には多くの魚介類が水揚げされ、それを仕入れる多くの人たちで賑わっていた。
以前はミズホ人の比率が多かったけど、最近では帝国人商人の姿も多い。
内乱が終結して経済が発展し続けているので、高価な魚介類を食べる人が増えていたからだ。
河川の魚介類は昔から食べられていたけど、やはり高級品となると海の魚介類らしい。
「生のエビ、イカ、タラの白子、新鮮な魚も買っていくか」
今日買う予定はなかったけど、いざ新鮮な魚介類を目の前にすると、色々と衝動買いしてしまうものだ。
魔法の袋に入れておけば鮮度が落ちないから、あとで調理して食べれば問題ないけど。
「随分といっぱい買われるのですね」
「ある料理を作るのだけど、色々な種類の食材が必要なんだよ」
「どのような料理なのでしょうか?」
「それは完成してからのお楽しみということで。次は……」
「他にも食材が必要なのですか?」
「今は、常にお金を出せば買うことができる食材ばかりを集めていたからね。ここからが本番だ」
またも『瞬間移動』を使い、俺たちはヘルムート王国北部にある森へと飛んだ。
「バウマイスター辺境伯様? この森に食材があるのですか?」
「そうだよ。見つけるのが大変なんだけど」
「私たちは魔法使いなので、『探知』で探れば比較的簡単に見つかると思いますが……」
「それが、『マジックマッシュルーム』に限ってはそうじゃないからね」
「『マジックマッシュルーム』ですか? 初めて聞くキノコの名前です」
「実はこれ、俺が見つけたんだよ」
マジックマッシュルームという名前自体、俺が命名した。
自然薯を掘っている時にたまたま見つけ、魔法で毒がないことを確認してから試食してみたらとても美味しく、それなのにどこにも売っていなかった。
誰に聞いてもそんなキノコを知らないと言うし、だから俺が勝手に命名したのだ。
現代日本だったらちょっと危ない名前だけど、そういう効果があるからマジックマッシュルームと命名したわけではない。
マジックマッシュルームはトリュフと同じく、ずっと地中に生息している。
決して地表に顔を出すことはなく、見つけるのが非常に困難であった。
最初はトリュフのように犬や豚を使って探してみたのだけど、マジックマッシュルームは香りが薄いうえに地下数メートルの地中に埋まっており、よくよく考えてみたら俺は犬や豚の扱いに長けているわけではない。
見事に失敗してしまい、前世の知識が役に立たなかった例の一つだ。
そんなキノコに価値があるのかと思われるだろうが、マジックマッシュルームは加熱すると極上の香りが立ち、心地よい歯ごたえも生まれるという特徴がある。
現在では俺以外の人も探すようになり、今となってはとんでもない値段で取引されていた。
俺が自然薯掘りの時に見つけたのは本当に運が良かったようで、 普通は地面を数メートル掘らなければ見つけられなかった。
今のところ手当たり次第地面を数メートルも掘り、そこにマジックマッシュルームがあることを祈るしかないので、価格の大半は穴掘りの人件費と言われているけど。
「バウマイスター辺境伯様が見つけたキノコなのですね」
「実は以前から、稀に見つかっていたらしいんだけど……」
色が茶色で、形も野生動物のウンコのような形をしているので、見つけた人もあえて食べなかったというのが真相だろう。
もしくはなかなか手に入らないので、たまたまこのキノコの存在と、その美味しさを知った人だけが消費して、市場に流れなかったのかも。
この世界は現代日本のように情報拡散力が高いわけではないから、マジックマッシュルームの存在がなかなか知られなかった、というのが正解かもしれない。
「さらにマジックマッシュルームはまばらに生息しているので、適当に地面を掘って探すなんてやり方をすると、ほぼ徒労に終わってしまう」
どうすれば、マジックマッシュルームを見つけることができるのか。
俺が色々試した結果、『探知』で探すのが一番効率がいいことがわかってきた。
「『探知』で探すんですか?」
「そうだ。ただし、もの凄く難しい」
それは、マジックマッシュルームの魔力反応が微細すぎるからだ。
同時に地中には同じく微細な魔力反応を持つものが多く、それは草の根だったり、虫だったり、モグラなどの小動物だったりする。
それらと間違えないようにマジックマッシュルームを見つけて掘り出さなければならず、だからマジックマッシュルームは非常に高価なのだ。
「つまりこれは、魔法の特訓なんだ!」
「そうだったんですね!」
アリスは真面目なので、ただ食材採集を手伝えと言っても、『私に遊んでる時間はありません!』と言われてしまう。
だから作業を手伝うことで魔法の鍛練になる、という理由づけが必要になる。
半ば屁理屈だが、彼女に気分転換をさせるにはそう思わせるしかないのだ。
ちなみに、俺の知ってる魔法使いで一番マジックマッシュルームを探すのが上手なのはブランタークさんだ。
遠距離にいる魔法使いを探知できる彼からしたら、動かないマジックマッシュルーム探しは簡単なのだろう。
「当面の目標は十個だな」
「たった十個ですか? 簡単に終わってしまいそうです」
「それはどうかな?」
早速俺とアリスは、地中を『探知』してマジックマッシュルームを探し始めた。
だが、なかなかマジックマッシュルームを見つけられないようだ。
何度も同じ場所を『探知』し続け、マジックマッシュルームの微細な反応を探っていた。
「これかな?」
「マジックマッシュルームを見つけたと思ったら、そこを掘って確認してくれ」
「わかりました」
アリスは反応があった場所を魔法で掘り進め、自分が『探知』したものを探り当てた。
だが……。
「虫ぃーーー!」
「なっ? 難しいだろう?」
マジックマシュルームの反応は微細なので、他のものと間違えてしまうケースが大半なのだ。
さらに自分の判断が正しいか間違っているかは、実際に地面を掘ってみないとわからない。
優れた魔法使いでもなかなかマジックマッシュルームを見つけられず、それなら他のことをした方がお金になるので、マジックマッシュルームの価格はなかなか下がらなかった。
魔法使いでない者に人海戦術で掘らせると、とてつもなく手間がかかるからだ。
「ようし、見つけたぞ」
俺はマジックマッシュルーム探しに慣れていたので、次々と『探知』で発見、魔法で地面を数メートル掘って採取する。
もはや間違えることはほぼなかった。
「バウマイスター辺境伯様、どうすればマジックマッシュルームだとわかるのですか?」
「小さな虫やモグラなんかも反応は小さいけど、わずかに差があるんだ。だけどその差は実際に、マジックマッシュルームを『探知』し続けないと覚えられないから……。ここの数メートル真下にある反応がわかるか?」
俺は、自分が見つけた地中のマジックマッシュルームをアリスにも『探知』させた。
マジックマッシュルームを『探知』した時の反応がどういうものか、その身で覚えてもらうためだ。
「どうだ?」
「微細な反応はありますけど、虫や木の根っことどう違うのかわかりません」
「そのマジックマッシュルームは掘り起こさずに残しておくから、何度も他の埋蔵物と比較して『探知』すれば、徐々に見分けられるようになるさ。じゃあ、俺はマジックマッシュルームをもう少し手に入れたいから」
俺はアリスから離れて、マジックマッシュルームを掘り出し始めた。
「順調順調」
俺はマジックマッシュルームをほぼ完璧に見分けられるので、すぐに籠一杯分の成果を手にすることに成功する。
アリスの様子を見に行くと、数個のマジックマッシュルームを『探知』し、掘り出すことに成功していた。
「上出来だな。 さらに精進すれば、もっと多くのマジックマッシュルームを手に入れることができるはずだ。地中に埋まっている他の虫や根っ子とのわずかな差を見極める。これも重要な魔法の特訓さ」
別に嘘ついているわけではない。
マジックマッシュルーム掘りには、精密な探知精度が必要なのは確かなのだから。
「とても勉強になりました」
アリスは真面目なので、マジックマッシュルーム掘りも魔法の特訓だと言えば信じてくれるのでよかった。
実際、 魔法の特訓になるというのもあるのか。
これなら、 他の食材採集も手伝ってもらえるな。
「次は、他のものを採集しに行こう」
「はい」
俺たちが次に向かった先は……。
「このリストに書いてある野草、木の実、そして……」
猪、鹿、ウサギ、アナグマ、ホロホロ鳥、熊の肝、ポンカメ、様々な魔物の肉、内臓、筋など。
沢山集めなければいけないので、二人で分担することにした。
「じゃあ、どちらが先に全種類集めてくるか競争だ。 これも魔法の特訓だよ」
俺は同じ内容が書いてあるリストを彼女にも渡す。
種類が多いので、覚えきれないからだ。
「これも魔法の特訓……。私も狩猟や採集の経験は豊富なので、絶対に負けません」
「俺も負けないように頑張るさ。 それよりも、食材の品質に気をつけてくれ。たとえリストの食材をすべて集められても、料理に使えなかったら無効だから」
「状態がいいものでないと売れない。冒険者の常識ですから」
「わかっているのならいいさ」
早く目的の食材を集めるためには、『飛翔』、『探知』、食材を傷つけない採集、狩猟技術が必要だ。
派手な魔法で獲物を倒しても、痛みすぎて食材にならなければ意味がない。
だがアリスも、その辺は心得ていたようだ。
中級魔法使いともなれば、それなりに経験豊富なのだろう。
「それでは勝負開始だ」
共に『飛翔』と『探知』を駆使して、リストの食材を集め始める。
そして数時間後……。
「ふう……。随分と 種類が多かったですけど、 かなり早く集めることができました。 これならバウマイスター辺境伯様に勝てたはず……えっ!」
「やあ、遅かったね」
「そっ、そんな……」
狩猟、採集勝負は、俺の勝ちだった。
先に待っていた俺を確認したアリスは、信じられないといった感じの表情を浮かべている。
普通の冒険者に比べたら、圧倒的に早く食材を集めてきたので自信があったのだろう。
それに俺は、普段貴族としての仕事や領内の開発で忙しいから、狩猟、採集勝負で自分が負けるとは思っていなかったのだと思う。
勝敗を分けたのは、やはり『探知』の精度と、精密な魔法のコントロールだ。
アリスは一旦『飛翔』で森の上空まで高速で飛びあがり、そこで『探知』を使って食材を探していた。
動物はその方法を用いると早く狩ることができるのだけど、問題は植物系の採集物と、ポンカメ、カエルなどの水生生物だ。
これは、上空から『探知』するのが難しい。
アリスは必ず地表に降りなければいけなかったが、森の中は木々が密集しており、『飛翔』に慣れていない魔法使いは衝突を恐れ、『飛翔』で移動することができないか、そのスピードが遅くなってしまう。
俺は導師に鍛えられたので、かなりの速度で『飛翔』しながら森の中を飛び回り、見つけにくい食材を先に手に入れた。
上空に飛びあがって動物系の獲物を探すのは最後で、見つけたホロホロ鳥や他の獲物を狩って終了という流れだ。
「俺は、木が密集した森の中を『飛翔』で移動することができる。だから移動スピードは圧倒的に上だし、『探知』の精度も勝ってる。アリスよりも先にすべての食材を集められて当然さ」
全体的にアリスの魔法は、俺よりも精度が低く、効率が悪い。
これは魔法を使い続けて練習するしかないけど、俺との年齢差と魔力量の差がモロに出てしまっている形だ。
魔力量が少ないと、どうしても練習できる回数は減ってしまうからだ。
「魔法に近道はなく、焦らずに練習するしかない。先は長い。だからずっと根を詰めすぎると、かえって成果が出ないものだ。わかったかな?」
「……はい」
俺はこれを言いたかったんだ。
クソ真面目に魔法の練習だけするのは良くないよと。
ただ一つ問題が残っていて、今後アリスがいくら魔法の精度や効率を上げても、もうこれ以上彼女の魔力量が上がらないことだ。
バウマイスター辺境伯領にいる間に魔法の精度と使用効率を上げ、前よりも威力のある魔法を多く撃てるようになり、たとえ魔力量が上がらなくても、納得して帰ってくれないかなと思ってしまう。
というか、俺はその線で動いている。
「さて、今度はもっと難易度の高い食材を集めることにしよう」
『瞬間移動』でアキツシマ島近辺の海へと移動し、そこで海竜を発見した。
こいつの肉も必要な食材だからだ。
「アリスは、海竜を倒したことは?」
「あります」
「じゃあ任せるね」
アリスは、『ウィンドカッター』で海竜の首を切り落とした。
海竜は図体は大きいが、ワイバーンや飛竜に比べると弱い。
アリスなら余裕で倒せるはずだと思っていた。
「あとは、肉が悪くならないようにっと……」
『念力』で海竜の切り落とした首の部分を下にして、血を抜いていく。
『血抜き』の魔法も駆使して、肉が臭くならないようにしないと。
海竜の血は、飛竜とは違って使い道がないというのもあった。
「こんなに重たいものを『念力』で……。バウマイスター辺境伯様の魔法はすさまじいですね」
「そうかな? 『念力』も効率を上げれば、そんなに魔力を使わなくても重たいものを動かせるようになるよ」
『念力』は地味な魔法だけど、魔力効率を極めると、少ない魔力でとてつもない重さのものを動かせるようになる。
極めると面白い魔法であった。
「精進します」
「次は……」
まだまだ欲しい食材がある。
次の場所に移動しよう。
「一日に何度も、『瞬間移動』でリンガイア大陸中を……。凄い」
またも『瞬間移動』で、リーグ大山脈へと飛んだ。
その目的は、飛竜の肉であった。
アリスは俺の連続『瞬間移動』に感心しているが、いつもやっていることだしなぁ。
なんてったって、俺をタクシー代わりにしたい人が多いから。
今となってはエリーゼたちも全然驚かなくなり、俺も感覚が麻痺して大したことだとは思わなくなっていた。
アリスの驚きようが少し新鮮だ。
「飛竜は……。そろそろ夕方になるから、 屋敷に戻って料理の準備をしないと。急ぐので……」
「えっ? 一瞬で飛竜を……」
俺は飛竜を急ぎ一匹魔法で狩り、魔法の袋に入れてバウルブルクの屋敷へと戻った。
これだけの食材を使えば、美味しい料理が作れるはずだ。




