第58話 ウィザードギャザースープ(前編)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「ほほう、やはりケントの魔法は狙撃と貫通力、隠密性に特化してるな。この長所を伸ばしつつ、他の使い勝手のいい魔法を覚えていこう」
「はい! 頑張ります!」
「ちちうえ~」
「みんなは、基礎訓練を続けようね」
バウルブルクにある冒険者予備校でも魔法を教えているけど、生徒たちを屋敷の中に入れることはなかった。
予備校生たちはあくまでも生徒であり、弟子はアグネスたち、桃色カバさん騒動で知り合った男の娘ケント。
そして、ダンテさんから預かった娘のアリスのみであった。
だが、アリスはすでに十五歳。
アグネスたちのような魔力の伸びは期待できず、俺はこれまでの経験に基づいた使用魔力効率の改善や、まだ使える可能性がある魔法の習得を、みっちり、徹底的に教えていた。
ダンテさんほどの魔法使いから預かったのだから、生半可なことはできない。
地味で辛い修行が続くが、それで彼女に嫌われてしまっても仕方がない。
変に好かれて求婚なんてされても困るので、それでも問題ないんだけど。
アリスを預かった以上、成果ゼロではダンテさんに申し開きができないという理由もあった。
そんなわけでバウマイスター辺境伯邸の庭では、フリードリヒたちがロウソクに魔法で火をつけ、さらにそれを水魔法で消し、風魔法で濡れた芯を乾かし、また火魔法で芯に火をつけるという修練を繰り返していた。
決められた時間で何サイクルできるか競争させており、みんな集中して訓練を続けている。
この訓練は、魔法を撃つ早さと、系統が違う魔法への切り替えを早める目的があった。
ケントはフリードリヒたちの様子を見つつ、得意な狙撃魔法の訓練をしている。
やはりこの子の、魔力探知されない狙撃は凄い。
警戒心が強いなんてレベルではない、桃色カバさんを狙撃できたのが納得できた。
下手な貴族が囲うと政敵の暗殺に使いかねないので、俺が預かるしかなかったというわけだ。
勿論陛下の許可は貰っている。
「バウマイスター辺境伯様、おかげさまで魔力効率が大分上がって、一度に撃てる魔法の数が増えました」
「それはよかった」
ダンテさんは優れた魔法使いなので、魔力効率を高める訓練をやらせていたと思っていたけど、思っていたほどアリスの魔力効率はよくなかった。
本人ができるのと、それを他の魔法使いができるように教えられるのかは別である証拠と言えよう。
一週間ほどの訓練で、アリスは魔法の威力も速度も撃てる数も1.3倍くらいになった。
彼女に魔法の才能がある証拠だ。
「私は魔法使いとしての才能がないので、まだ全然ですけど……」
「そんなことはないと思うけどなぁ……」
アリスは中級魔法使いだし、使える魔法の種類も多い。
隠密狙撃魔法に特化していて、他の魔法を覚えにくいケントよりも、実は魔法使いとしては潰しが利いた。
これまでずっと比較対象があの父親だったから、自分は大した魔法使いじゃないと思い込んでいるのだろう。
「(ダンテさんはそれに気がついていたから、アリスを俺のところに寄越したんだろうなぁ)」
もう一つ、アリスが自分の才能を疑っている原因は、自分が中級魔法使いだからだと思う。
中級でもそういるものじゃないけど、ダンテさんが上級だから、自分も上級魔法使いじゃないと劣っている、と感じてしまうのだろう。
「(魔法使いの才能は、基本的に遺伝しないんだけどなぁ……)」
それを、勢ぞろいで魔法の訓練をしているフリードリヒたちの前で言っても説得力はないんだけど……。
「アリス、今日はこの辺で終わりにしよう」
「私、まだできます!」
「やり過ぎても効率が落ちるだけだ。寝る前に、空の魔晶石に残った魔力を込めるのを忘れないように」
「……はい、わかりました」
うーーーん。
若い女の子ってわからない。
奥さんが沢山いても、わからないものはわからないんだ。
「(修行が終われば、あまり接点もなくなる。それでいいんだろうな)」
魔法の威力向上と、魔力消費効率を上げることはできたので、ダンテさんへの義理は果たしたと思うことにしよう。
「先生、夕食の時間ですよ」
「もうこんな時間か。お腹空いたなぁ」
夕食の時間だと、アグネスたちが庭まで教えにきてくれた。
魔法を教えるのって、思ってた以上に疲れるし、お腹も減るものだ。
急ぎ食堂に向かおうと思った俺だったが、アリスが神妙な表情でアグネスたちを見つめていることに気がついてしまった。
「(年が近いアグネスたちは上級だがら、『どうして自分だけが中級なんだ?』とか、思っているのか?)」
しかし、そんなことを考えても仕方がないというか……。
「アグネス様、一つお聞きしたいことがあります」
「はい、なんでしょうか?」
アリスがアグネスに質問をし、アグネスたちの表情にほんの少し緊張が走った。
もし『魔力量を増やすにはどうすればいいのか?』と聞かれたら、色々と面倒だと思ったのだろう。
俺の弟子にして妻であるアグネス、シンディ、ベッティは、魔力量だけでいえば上級でも上位者だ。
元々三人は上級魔法使いになれる才能があったのと、俺と夫婦になって夜の生活を送るようになったら、さらに魔力量が上がったというのもある。
アグネスたちからしたら、アリスにそこを知られる……そう簡単に知られないと思うが、なにか怪しいと思われるのが嫌なのだろう。
俺とシタ女性がその直後に魔法使いになったり、魔力量の上昇、使える魔法の種類が増えるなんてことが知れたら、それこそ世界中から俺と結婚したい、結婚できなくても性的な関係を持ちたいと、大勢の女性たちが押し掛けてしまうからだ。
「アグネス様たちは魔力量のキャパを完全に使いきれていますけど、どうやってそれを成し遂げたのですか?」
「魔力量のキャパですか? ええと、ちょっと意味がよくわからないんですけど……」
アリスからの質問に、困惑するアグネス。
アリスが言うところの、魔力量のキャパとはなんなのか?
どうしてそんなことをアリスが知っているのか?
皆目見当がつかなかったからだ。
「アリス、魔力量のキャパってなんだ?」
俺もよくわからないので、アリスに同じ質問をした。
「魔法使いの頭上にはみんなコップが浮かんでいて、そのコップに液体が入っているんです」
「アリスにはそう見えるのか?」
「はい」
アリスの説明は続く。
彼女は、魔法使いの頭上に水の入ったコップが浮かんでいるように見えるそうだ。
「コップの見た目と大きさは、どの魔法使いでも同じです。不思議なのは、コップが見えてわずかに液体が入っているのに、魔法を使えない人がとても多いことです。あとは、初級なのにコップが満タンの人と、逆に上級なのにコップが満タンになっていない魔法使いもいます」
「……」
アリスは、魔法使いの魔力量限界が見えてしまう特別な体質であるようだ。
コップが見える人は魔法使いとしての才能があるが、魔法が使えない人がとても多いと言った。
多分、そういう人と俺が性的な関係になると、魔力量が増えて魔法が使えるようになる……イーナやヴィルマがその口か。
コップの中に入っている液体の量は、現在どの程度の才能を使いきれているのかを示しているのだと思う。
コップの水が満タンなら、あとはなにをしても魔力量は増えないということだ。
「(アグネスたちは俺の妻になってからさらに魔力量が増大したけど、そこで才能の限界を迎えたから、コップの中の液体が満タンになったんだろうな)」
「あなた、夕食ですよ」
「あっ、そうだった」
エリーゼまで呼びにきたので、俺は夕食の席でアリスに詳しい話を聞くことにする。
「アリスは、自分のコップが見えるのか? 頭上にあるけど」
「見えます。私のコップはまだいっぱいになっていないんです。ですが、なかなか魔力量が増えなくて……」
アリスの頭上にあるコップの液体は、半分ほどまでしか満たされていないそうだ。
それなら上級魔法使いになれそうだが、限界魔力量と実際の魔力量に大きな差が出てしまう人は多く、彼女はそれを解決する方法を探していたのか。
「コップの液体が満たされていない人は、圧倒的に女性が多いです。それなのに、バウマイスター辺境伯様の奥様たちは全員が、コップの中が液体で満たされています。つまりバウマイスター辺境伯家の周辺には、なんらかの魔力量を限界まで増やす方法なり条件があるはずです!」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
俺たちは、全員沈黙してしまった。
遺伝子的には魔法使いだが、魔法が使えない。
自力では初級魔法使いになるのが限界だけど、本当は中級、上級魔法使いの才能がある。
そんな人たち……主に女性の才能を限界まで引き出す方法は、俺と性的な関係になることであり、それは極秘情報だったからだ。
「(アリスは魔法使いの魔力成長限界量がわかるから、俺の妻たち全員の魔力が、魔力限界量に達していることに不自然さを感じた。なんという特殊な能力なんだ!)」
ただの器用な中級魔法使いだと思ったら……。
俺と性的な関係を持てば、アリスも魔力限界量まで魔力が増え、父親と同じく上級魔法使いになれるはず。
だが俺は、これ以上奥さんを増やしたくない。
性的な関係だけを持てば……ってのも、俺の倫理観的にナシだ。
だから俺の奥さんの数が多い理由……ちゃんと責任は取ってるのよ……でもあるのだから。
いくら世の中に魔法使いとしての才能を秘めた、主に女性が沢山いても、全員とそういう関係になるなんて嫌だし、陛下もそれがわかっているからこそ、この秘密を守っている……その代価として、俺の子供たちは政略結婚の駒にされたけどな!
「俺の奥さんたちは、真面目に修練をしているからかな?」
「私も、真面目に魔法の訓練をしていますけど……」
それでも中級魔法使いのままで、『爆縮』も使えないアリスからしたら、俺の『真面目に訓練したから』、は禁句だった。
彼女に睨まれ、俺は思わずその身を引いてしまった。
「アリスはバウマイスター辺境伯領に来てまだ日が短い。このまま別環境で魔法の訓練を続ければ、魔力量が増えるかもしれない」
「だといいのですが……」
俺は、アリスがこれ以上魔法の訓練をしても魔力量が上がらないことを知っている。
だがそれを証明するには、俺の特殊な体質……この表現でいいのか?
とにかく俺と性行為をすると、潜在化していた魔法使いの才能が具現化することは絶対に秘密にしなければ。
アリスが可哀想な気もするけど、そうやって同情し続けると、俺の嫁は増える一方になってしまうのだから。
「私は頑張って、バウマイスター辺境伯家の女性が限界まで魔力量を成長させることができた理由を掴みます! そして私も上級魔法使いになって、父のように『爆縮』を使えるようになりたいんです!」
「……頑張ってくれ。俺も手伝うから」
俺は、誤魔化すように彼女にエールを送った。
ついに希望を見つけたと、夕食のテーブルで目を輝かせながら語るアリスと、困ったような表情をしながら静かに食事を続けるエリーゼたち。
もしかすると、ダンテさんは俺の奥さんたちがどこかおかしいと思ってアリスを送り出したのか?
だとしたら、ブランタークさん並に油断ならない人だと思う。
俺の秘密はなにがなんでも隠し通すけど。




