第56話 サンデン子爵と爆縮のダンテ(前編)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「あの……。サンデン子爵は、バウマイスター辺境伯家の遠戚だとおっしゃるのですか?」
「はい! 私の母の従兄弟の娘が、王都バウマイスター準男爵夫人の従姉妹なのですよ! これからは親戚同士、仲良くいたしましょう」
「……それはもはや他人じゃねえ?」
「(エルっ! しっ!)そう言われると、そんな気がしなくもないような……。あはっ、あははっ……」
「親戚の誼で、なにとぞよろしくお願いします」
「……(断ればいいじゃん)」
「(そうはいかないんだよ。アームストロング侯爵の紹介なんだから)」
冒険者としての俺は、基本的に貴族から仕事の依頼はあまり受けない。
なぜなら、それを利用して俺から利益を得ようとしたり、嫁を押し付けようとするからだ。
だが、知己の大物貴族からの紹介案件は別だ。
一代で、それも短期で成り上がった俺がなんとか平穏無事で過ごせているのは、彼らの助けがあってのこと。
たまに面倒事に巻き込まれるが、メリットの方が大きいので、定期的に彼ら大物貴族からの依頼を受けて恩を返す必要があった。
お互い様じゃないと、もしもの時に助けてもらえないからだ。
で、アームストロング伯爵……つまり導師のお兄さんからの紹介で、サンデン子爵家からの依頼を受けることになった。
サンデン子爵家は王都郊外に領地を持つ在地貴族で、アームストロング伯爵家の寄子だそうだ。
その割にサンデン子爵はあまり体育会系に見えないけど、アームストロング伯爵の寄子が全員あんな感じだと、貴族なのか反社会勢力かわからなくなるし、必ずそうでなきゃいけないって法もないので問題ない。
元々軍系法衣貴族であったサンデン子爵家が領地を持っているのは、過去に大きな功績をあげて領地を賜ったからだと聞いた。
その寄親であるアームストロング伯爵家も、いざという時、近場に領地持ちの寄子がいると、兵士を整えて駆けつけてくれるのでありがたい存在らしい。
法衣貴族はかなりの大物でも、集められる兵士の数に限界がある。
軍人として指揮できる兵力は多くても、貴族として他の貴族と揉めた時に王国軍の兵士たちを使うわけにいかず。兵士たちも王国軍からの正式な命令でなければ、いくら相手が大物貴族でも私的な命令なんて聞かない。
いざという時に人数を出せる。
昨今、王都の大物法衣貴族同士が兵士を出して争うこともなくなっているが、いざという時に備える必要はあると思われており、アームストロング伯爵家としても、サンデン子爵に配慮する必要があった。
有力な兵士供給源だからだ。
簡単に言うと、ヤクザ同士が揉めた時にすぐに兵隊を用意してくれる舎弟を大切にしたいわけだ。
そんなサンデン子爵家は王国から領地を与えられたわけだが、考えてもみてほしい。
基本的にケチな王国が、そう簡単にサンデン子爵家に領地を与えるものなのかと。
たとえ領地を賜ったにしても、その領地にはなにか問題があるのではないかと。
俺の予想は正しく、なんとサンデン子爵領の大半が魔物の領域だった。
じゃあ、冒険者に狩りと採集をさせれば左団扇じゃないかって?
そう上手い話はなく、魔の森だってバウマイスター辺境伯領として開発を始めなければ、冒険者など近寄りもしなかったのだ。
サンデン子爵領は王都郊外にあるものの、他の魔物の領域に比べると狩れる魔物の種類や採集物の価値が低く、全然人気がなかった。
王都郊外なのに街道の整備も進んでいないそうで、冒険者が訪れにくいという事情もある。
このまま魔物の領域にしておいてもほとんどお金にならず、領民たちに必要な土地が足りないままとなっていた。
それなら、領内の魔物の領域を解放してはどうか?
しかし、魔物の領域の解放には手間がかかる。
大軍か、大勢の冒険者たちか、優れた魔法使いが複数人必要であり、お金だってかかる。
魔物の領域の解放はサンデン子爵家の宿願となっていたが、アームストロング伯爵家が取り仕切り、いよいよサンデン子爵領の魔物の領域解放作戦が始まるわけだ。
俺たちは冒険者として参加しているものの、いまいちその辺の区別に詳しくないサンデン子爵に仲良くしましょうと挨拶され、俺は社交辞令的に了承するしかなかったという。
あとで、アームストロング伯爵が釘を刺すからいいんだけど。
「気合いを入れるのだ!」
「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」
助っ人として、アームストロング伯爵家の家臣たちと魔物を倒すことで訓練をしたい軍人有志。
サンデン子爵家から感状を貰って、仕官に繋げたい陣借りの人たち。
ここは稼ぎ時だと、冒険者ギルドの応募で集まった冒険者たちも多数いて、さすがはアームストロング伯爵家というべきか。
魔法使いも多く集まっており、その中には『爆縮のダンテ』もいた。
俺は魔法使いとして高名な彼を知っていたし、魔法を圧縮してその威力を上げるというのは、科学的に正しいのだろうか? 魔法だからありなのかな?
そんな『爆縮』に興味を持って独自に習得を試み、本家ほどではないけど、俺は魔法の威力を上げることに成功したほどだ。
「始めまして、魔法使いのヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターです」
「よう、有名人。俺が爆縮のダンテだ」
「あなたも有名人でしょう」
「俺もそれなりに有名ではあるか」
貴族からの余計な陳情が増えないよう、今日の俺は魔法使いにして冒険者のヴェンデリンを名乗っているが……意味があるのか不明だが、貴族とは建前を気にする生き物だからだ……まあこれは茶番だろう。
ベテランで常識人っぽい爆縮のダンテは、あえて『あんたは、バウマイスター辺境伯だから有名だしな』 と口に出すほど野暮じゃなかった。
「ヴェンデリン殿……なんか面倒だな。悪いが、バウマイスター辺境伯と呼ばせてもらう。俺の『爆縮』を独学で覚えたって本当か?」
「本家には及びませんが、見よう見真似である程度はできるようになりました」
俺は、爆縮のダンテの質問に答える。
「おとう……師匠の『爆縮』を、一度も見ていないのに真似した? いくらなんでも、それは嘘です!」
俺の発言に反応したかのように、爆縮のダンテの後ろから一人の少女が前に出てきて、それはあり得ないと俺に強く反論した。
「ええと……彼女は?」
「俺の娘で、弟子でもあるアリスだ。成人したから連れて来たんだ。アリス、そう頭ごなしに否定するのはどうかと思うぞ」
爆縮のダンテの娘も魔法使いなのか。
俺が言うのもなんだが、珍しいな。
「私がいまだ覚えられない『爆縮』を、一度も見ていないバウマイスター辺境伯様が覚えただなんて、私は信じられません!」
「バウマイスター辺境伯が嘘をつくわけがないだろう。できない魔法をできると言って、あとで使えないことがバレたら恥なんてもんじゃないんだから。すまない、この子はちょっと堅物なんだよ」
「私は正論を言ったまでです!」
「アリス、バウマイスター辺境伯に失礼だぞ!」
「ダンテさん、アリスさん。少し落ち着いてください」
自分は父親の魔法を覚えられないのに、父親に一度も会ったことがない俺が『爆縮』を覚えたなんて言ったら、疑って当然だろう。
「……」
「(そんなに睨まなくても……。まあ、父親が優れた魔法使いだからプレッシャーがあるんだろうけどさ)普通に考えたら、そういう結論に至るでしょうね。 それなら解放作戦は明日からで時間もあるので、実際に俺の『爆縮』を見てもらいましょう。そんな大した威力じゃないですし、ダンテさんにコツを教えてもらえたら最高かなって」
「是非見せてほしい。俺も『爆縮』を教えるコツが掴めるかもしれないからな」
ダンテさんも、娘のアリスさんに上手く『爆縮』を教えられないことで悩んでいるのか。
魔法使いの子供の大半は魔法を使えないので、ダンテさんとアリスの親子は凄いんだけど、父親の『爆縮』を覚えられないアリスを批判する無責任な声とかあるんだろう。
「じゃあ、早速」
俺たちは、魔物の領域に隣接する、無人の未開地へと移動した。
「では、いきます!」
俺の『爆縮』だが、頑張って練習してみたけど、今のところ同じ魔力量を使った普通の魔法の2倍くらいの威力が限界だった。
他にも、とにかく集中する必要があるので、咄嗟に出すのが難しいなどの弱点があり、使えるけどそこまで便利でないといった感じかな。
俺は早速、『爆縮』した『ファイヤーボール』を披露した。
途中で爆発しないように……『爆縮』で一番失敗するパターンは、魔法の圧縮に失敗して爆発してしまうことだ……『爆縮』した『ファイヤーボール』を標的である岩に向けて放ち、着弾した瞬間に解放する。
人間ほどの大きさの岩は、バラバラに砕け溶けてしまった。
「ふう……。『爆縮』は疲れますね」
「話に聞いただけの魔法を忠実に再現するなんて、評判に違わぬ実力だな。『ファイヤーボール』自体も、収束と魔力効率が並のベテラン以上じゃないか。あのアルフレッド・レインフォードとブランターク・リングスタットの弟子なだけはある」
「……」
ダンテさんは俺の魔法を褒めてくれたけど、アリスはますます沈黙してしまった。
俺が本当に、『爆縮』を使えたことがショックだったのだろう。
「とはいえ、そう連続で放てるものじゃないですね」
「それは、とにかく『爆縮』を放って慣れるしかないな。慣れれば、こういうこともできる」
ダンテさんは威力が低い、『爆縮』した『ファイヤーボール』を数十個も同時に作り、これをコントロールして高さが数十メートルもある巨岩を囲ませ、同時に解放した。
すると、巨岩は瞬時に粉々に砕け散ってしまう。
「凄い……」
たったあれだけの魔力量で、巨岩を粉々にしてしまうなんて……。
爆縮のダンテは、ブランタークさんに劣らないレベルの魔力効率を極めた魔法使いであり、さらに同時に数十個もの爆縮魔法を作り出し、同時にコントロールできる技量の持ち主であった。
「『爆縮』の威力も、俺とは桁違いだ。軽く五倍以上は差があるのか……」
「よくわかるな。さすがだ」
巨岩を破壊するのに、一点に威力のある魔法をぶつけるのではなく、多数の小さな『爆縮ファイヤーボール』で巨岩を囲み込み、同時に解放して破壊した。
ただ優れた魔法を使うだけでなく、緻密な計算もできる頭のいい人なんだと思う。
「『爆縮』した魔法を、同時にあれだけの数操るなんて……。ブランタークさんでもできるかどうか……」
「俺の『爆縮』は、同じ魔法しか同時に出せないのさ。ブランターク殿は、違う魔法を同時に五つも六つも操るからな。そっちの方が遥かに難しい。俺はそれができないから、『爆縮』を極めたに過ぎない」
「それにしても凄いですよ」
「俺がバウマイスター辺境伯の年齢の頃は、全然大したことなかったさ。今は無理だが、そのうち『爆縮』のコツを教えてやるよ」
「いいんですか? そういうのって秘伝だったりするのでは?」
「はははっ、『爆縮』は俺が独自に編み出したものだから、秘伝でもなんでもないさ。それになぁ……」
「それになんです?」
「これまでに、『爆縮』は多くの魔法使いに教えているんだよ。ただ、誰も完璧に習得できなくてなぁ……」
「難しい魔法ですからね」
ダンテさんによると、『爆縮』ができるようになった魔法使いは一定数いるが、実戦で使えるようになった者はほとんどいないらしい。
「バウマイスター辺境伯の師匠であるブランターク殿も習得したが、実戦で使うと想像以上に疲れるそうで、覚えたきりだって言ってたな」
ブランタークさんは器用だから、『爆縮』を覚えられたのか。
ただ、覚えるのと実戦で使えるようになるのは別ってわけだ。
「俺もそう連発できませんしね」
「それでも大したものだよ。今度時間が空いている時に、必ず『爆縮』のコツを教えるから。俺に教わる前に『爆縮』を覚えるなんて、将来が楽しみだ」
「それはありがたいです」
師匠の教えで、魔法については新しいことはすべて挑戦するように。
自分にどんな才能があるのかわからないのだから、と言われていたので、『爆縮』の直接指導はありがたかった。
「しかし、その魔力量は羨ましいな。俺はとっくに、魔力の成長が止まってしまったからな」
その後も、お互いの魔法などについて意見を交換し、有意義な時間を過ごすことができた。
ただ一つだけ気になったことがあり、それはダンテさんの娘にして、彼の弟子であるアリスの表情が優れなかったことだ。
ただサンデン子爵領内にある魔物の領域解放まで時間がなく、元々非リア充である俺には、自分に好意的でない女性に声をかけるなんてハードルが高く、彼女のフォローはまったくできなかった。
多分、自分は『爆縮』を一向に覚えられないのに、直接教わったわけでもない俺が、『爆縮』を使ってしまったからなのだろう。
今の俺にできることは、アリスの機嫌が明日直ってることを願うのみであった。
「辺境伯様は、自分を凡人だってよく言うけどな。辺境伯様が凡人なら、世間の大半の人間は凡人以下だろうぜ」
「魔法に関しては、アルフレッドやブランターク殿も一目置いているのである! 凡人のはずがないのである!」
やはりというか、夜になったら導師とブランタークさんも合流した。
導師がお兄さんの助っ人をしないわけがなく、ブランタークさんは……。
「どうして参加しているのです?」
「うちのお館様が言うには、アームストロング伯爵に借りがあるんだと。人数が送れない以上、俺が参加するしかないからな」
「大貴族というのは、貸し借りの清算が大変ですね」
「辺境伯様ほどじゃないさ。話を戻すが、ダンテの娘のアリスは、俺の情報によると十五歳で中級レベルだから十分大したものだが、親父と比べるから劣等感を感じるんだろうな」
「そこに、天才バウマイスター辺境伯がやって来て、自分の父親から教わってもいない『爆縮』を使ってしまったのがトドメだったのである!」
「やっぱり俺が悪いんですか?」
ダンテさんに弟子がいるなんて聞いてないし、しかもその弟子が彼の実娘だったなんて情報はさらに知りようがなかった。
そしてその実娘が、いくら父親から『爆縮』を習っても使えなかったなんて。
「そこで空気を読んで、『爆縮』なんて使えません! って言っておけばよかったのかな?」
「それもどうかと思うのである! その嘘がバレたら、アリス嬢はもっと傷ついたであろう」
「じゃあ、どうすればよかったんですか?」
俺は導師に、最適な解決策を尋ねた。
「どうもこうも、アリス嬢にはこれからも色々な試練がやってくるからして、自分でどうにかするしかないのである! 若人は、時に悩むことも必要である!」
「適当な締め方ですね……」
とはいえ、翌朝から魔物の領域の解放が始まるので、アリス嬢に構っている時間がないのも確かであった。
それに、実の父親が近くにいるからフォローしてくれているはず。
「ダンテさんは常識的な人でよかったです」
「あいつは人格者で知られているからな。ただ……ああっ、やっぱり!」
ブランタークさんが、魔物の領域解放に参加する人のリストを見てあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
「ブランタークさん、どうかしましたか?」
「当然辺境伯様も聞いていたんだろう? 『爆炎のキンブリー』も参加してるんだよ」
「当然知ってましたけど……」
以前、俺たちは彼のせいで酷い目に遭ったからなぁ。
だけど……。
「今回はこれだけの戦力ですからね。キンブリーさんが命の危険を感じることはないのでは?」
「だと思うが、実はもう一つ懸念があって、キンブリーとダンテは相性が最悪なんだよ」
「それって、二人の仲が悪いってことですか?」
キンブリーさんは命の危険がなければ人当たりも悪くないし、ダンテさんは常識人なのに……。
「ダンテは、キンブリーが苦手なんだよ。その原因は、数年前のパルケニア草原解放作戦の時にあったことが原因なんだが……」
「キンブリーさんとダンテさんも、あの作戦に参加してたんですね」
「当然俺たちとは別行動だったけどな。少数精鋭の魔法使いと冒険者たちでパルケニア草原の北方から侵入して、魔物を多数なぎ払ったと聞くが、その時になんかあったらしいんだが、詳細を誰も教えてくれなくてな」
「なにがあったんだ?」
「ブランターク殿、そのリストによれば、二人は大分離されているゆえ、大丈夫なのでは?」
「俺もそう思うが、なんか嫌な予感がするんだよなぁ……」
とはいえ、そんな理由でキャンセルできる依頼ではなかったので、俺たちは翌朝から始まる魔物の領域解放作戦に備えて早めに就寝したのであった。




