第52話 桃色カバさん再び(その1)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「ええと、急用を思い出しました。なにしろ俺はバウマイスター辺境伯ですからね。常に忙しいんですよ」
「俺も、お館様から仰せつかった仕事があるんだよなぁ」
「エルヴィンもか? いやあ偶然だなぁ。こう見えて俺も、ブライヒレーダー辺境伯家のお抱え筆頭魔法使いだからさ。結構忙しいんだよ」
「バウマイスター辺境伯たちには悪いのであるが、今回の桃色カバさんの保護は陛下からの命令である! 従って拒否はできないのである!
「「「そんなぁ……」」」
かなり前に、俺、エル、ブランタークさんは、『桃色カバさん』というヘルムート王国が保護している希少な魔物を保護する仕事を冒険者ギルドから押し付けられ……もとい仰せつかり、酷い目に遭ったことがある。
思い出されるのも憚られる、トラウマとなった導師との……もうこれ以上は口にしたくない!
とにかく、桃色カバさんに関わるのは二度とゴメンであった。
それなのにまた、導師が陛下の命令だと言って、桃色カバさん関連の仕事を俺たちに依頼するなんて……。
「俺は不幸の星の下に生まれたのかも」
「バウマイスター辺境伯は他人から見れば羨ましい人生を送っているのであるからして、たまにはこんな試練もあるのである!」
「それは導師にも当てはまるのですか?」
「某は、王国のため、陛下のため、みなのため。常に我慢しているのである!」
「「「嘘つけ!」」」
特に申し合わせたわけでもないのに、俺、エル、ブランタークさんのツッコミがユニゾンした。
誰が我慢しているって?
「(あんたほどフリーダムに生きている人はいないだろうが!)前から思ってたんですけど、桃色カバさんに保護なんていりますか?」
桃色カバさんは魔物だけど、ぶっちゃけそんなに強くないと思う。
カバなので巨体ではあるが、桃色カバさんよりも大きな魔物なんて他にも沢山いるのだから。
だが、桃色カバさんを倒すのはとても難しいはず。
なぜなら桃色カバさんは、自分に害をなそうとする敵を幻術で惑わすからだ。
その効果はすさまじく、過去にその保護を請け負った……請け負わされた俺たちも酷い目に遭った。
結局俺たちの仕事は失敗し、桃色カバさんは自分で勝手に新しい保護区に移動してしまい、こんなことなら、『最初から俺たちは必要なかったのでは?』と今でも思っているほどだ。
当然、二度と桃色カバさんとは関わり合いたくないと思っていたのに、またも導師が……。
「もしくは、俺たちがやる必要あります? 他にも凄腕の魔法使いはいるでしょうに」
「俺もヴェルの意見に賛成! そもそも俺は魔法使いでもないしな」
「桃色カバさんは強い! 保護なんていらねえ! ブライヒレーダー辺境伯家のお抱え筆頭魔法使いの俺が認める!」
とにかく俺たちは、桃色カバさんに一ミリも関わりたくない。
なので、桃色カバさんを倒せる密猟者なんていないから、護衛なんていらないでしょうと強く意見した。
「これまではそうだったのであるが、事情が変わったのである!」
「桃色カバさんを密猟した奴がいたのか?」
ブランタークさんが、驚きの表情を浮かべながら導師に尋ねた。
「北部の個体であるが、かなりの遠距離から桃色カバさんを魔法で狙撃。その死体を持ち去った密猟者が出たのである!」
遠距離から狙撃かぁ……。
確かにその方法なら、桃色カバさんの幻術に惑わされる心配はないか。
「あっでも、遠距離から魔法で狙撃できるのなら、以前から桃色カバさんの密猟被害は多そうですけどね」
さすがに遠距離には、あの幻術も届かないはずだ。
それなのに、これまで桃色カバさんの密猟が少ない原因ってなんだろう?
「意外と知られてはいないのであるが、桃色カバさんは勘がいいのである! これまでは、遠距離からの狙撃だと簡単に回避されてしまうのである!」
「意外だな」
ただ導師によると、やはり桃色カバさんの動きはかなり遅いそうだ。
「まるで予知能力があるかのように、狙撃を回避してしまうのである!」
「でも、その密猟者の狙撃は予知できないと?」
「どうしてその密猟者の狙撃を桃色カバさんが回避できないのか? いまだ判明しておらぬが、その密猟者はすでに四頭の桃色カバさんを狙撃しているのである! このままでは、生息数が少ない桃色カバさんが絶滅してしまうゆえ、緊急で陛下が某たちに桃色カバさんの保護と密猟者の捕縛を命じたのである!」
エルの問いに、導師がそう答えた。
「主な仕事は、密猟者の捕縛か。ヴェル、それなら大丈夫じゃないか?」
「桃色カバさんに近づかなければ、あの幻術にかかる心配もないか」
「どのみち陛下の命令だ。断れないよな」
「そこなんだよなぁ」
エルの言い分は正しく、それに今回は桃色カバさんを密猟しようとする密猟者の捕縛が主な仕事だ。
不用意に桃色カバさんに近づかなければ、あの幻術にかかる心配もない。
エルや導師やブランタークさんと……ああっ! あの時のことは二度と思い出したくない!
「密猟者が捕まれば仕事も終わる。早く終わらせましょう」
「では、桃色カバさんの保護区へと向かうのである!」
俺たちは導師と共に、王都郊外にある桃色カバさんの保護区へと向かうのであった。
「ところで導師、どうして俺たちは王都郊外の桃色カバさんの生息地を見張っているんです? 桃色カバさんの保護区は他にもあって、そっちが密猟者に狙われるかもしれないじゃないですか」
「実は他の保護区にも、凄腕の冒険者と魔法使いが配置されているのである! 某たちがこの保護区を見張るのは、ここが密猟者の次の標的になる確率が高いからである!」
王都郊外にある桃色カバさんの保護区に到着し、少し離れた場所で見張りながら導師に俺たちがこの保護区の担当になった理由を訪ねる。
すると導師が一枚の地図を広げた。
その地図にはヘルムート王国内にある桃色カバさんの保護区がすべて印されており、すでに密猟されてしまった保護区にはバッテンがされていた。
「密猟された四ヵ所に一番近いのが、ここの保護区である! そんなに難しい理屈ではないのである!」
「順番に来るとしたら、ここが一番の本命っぽいですね、確かに」
俺は地図を見ながら、次に密猟者に狙われる保護区がここであることをほぼ確信していた。
「その裏をかくってことはないのかな?」
「エルヴィン、それなら他の保護区にも凄腕の冒険者と魔法使いが配置されてるゆえ、彼らに任せればいいのである!」
「理解できました」
俺たちは見張りを続けるが、密猟者は姿を見せない。
これは長丁場になるかもしれないな。
「それにしても、随分と特別待遇だよな。桃色カバさんって」
「王族や大貴族に精力剤の材料を授けてくれる、ありがたい存在だからな」
エルの疑問に、ブランタークさんが答えた。
この世界において、子供が生まれない以上の不幸はない。
これまで幾度も、王族や貴族を救ってきた桃色カバさんの扱いがいいのは当たり前というわけか。
産んだ卵の殻が子孫繁栄に必要な精力剤の材料ってところが、手放しで桃色カバさんの功績を認められない理由になっているのだけど。
「精力剤なんて、ヴェルには必要ないけどな」
「エルも同じだろう」
俺もエルにも子供が沢山いるから、いまいち桃色カバさんのありがたさがわからなかった。
前世の会社の酒の席でオジさんが精力減退を嘆き、〇イアグラに手を出そうかなんて話しているのを聞いたことがあったので、理解できなくはないのだけど。
陛下が俺たちまで動員した以上、これ以上桃色カバさんになにかあったら大変なのはわかる。
「責任重大なのに、やる気はまったく出ない」
「辺境伯様、俺も同じことを考えてたぜ」
「本当に密猟者はここにやってくるのかな?」
「みな、気合いを入れるのである!」
導師も桃色カバさんの卵の殻から作られる精力剤なんて必要ないだろうけど、陛下からの命令だから妙に気合いが入っていた。
俺たち三人とは違って。
「そもそも、桃色カバさんを密猟してどうするんだ? 狙撃で殺してしまっているということは、 飼育して卵の殻を持続的に得るのが目的ではなく、食うのか?」
「桃色カバさんの肉や内臓には、卵の殻以上の精力増強効果があるとされ、昔は高値で取引されていたとか」
導師によると、昔は保護されていなかった桃色カバさんを魔法使いが金目当てに狩ってしまい、一時は絶滅寸前まで追い込まれたという。
桃色カバさんを倒すのは難しいのに絶滅寸前まで狩ってしまうなんて、よほどお金になったんだろうなと思う。
「なかなか子供が生まれない貴族や王族が、密かに大金を積んだと聞いたことがあるのである! であるが、いくら精力増強にいいとはいえ、狩り尽くして絶滅させたら意味がないのである!」
そこで王国が桃色カバさんの保護に乗り出し、卵の殻にも同じ効果があることを突き止め、桃色カバさんを狩ることが禁止されたという。
そして保護をするようになり、子供が孵った卵の殻を回収するようになったと。
「過去の文献によれば、桃色カバさんの肉や内蔵の精力増強効果は卵の殻以上である! 大金を積んでも手に入れたい者たちがおり、彼らに売るために桃色カバさんの肉と内蔵を密猟しようとする者が定期的に現れるのである!」
「一攫千金を目指しての密猟ですか。しかし、変な話ですね」
「なにが変なのであるか? バウマイスター辺境伯」
「桃色カバさんの幻術を食らわずに、遠距離から魔法で狙撃できる魔法使いが、密猟なんてしなくても、いくらでも儲けることができるはずなんだけどなぁ……」
いくら桃色カバさんの肉や内臓が高額で取引されるとはいえ、優秀な魔法使いが罪を犯してまですることではない。
それほどの腕前があるのなら、竜を狙撃した方がリスクも少なく稼げることができるのだから。
「密猟をしている魔法使いの事情は分からないけど、 ただ見張り続けるのは疲れるよな」
「本当ですよ」
「ここに来ても来なくてもいいから、 早く密猟者が捕まらないものかね。 俺だって暇じゃないんだから」
結局俺たちはその日夜営をすることになってしまったが、密猟者は気配すら見せない。
他の保護地も同じだと魔導携帯通信機で連絡が入り、今回動員された魔法使いと冒険者は密猟者が見つかるまで警戒を続けることになった。
非効率甚だしいが、これも陛下の命令なので仕方がない。
「その分領内の開発が遅れるから、ローデリヒは涙目だろうな」
「陛下の命令だから、さすがのローデリヒさんも文句は言えないだろう」
「辺境伯様のところは魔法使いが多いからいいけど、ブライヒレーダー辺境伯家は俺に頼るところが多いからな。お館様は、一日でも早く密猟者が捕まることを祈っているんじゃないか?」
夕食を終えた俺たちは火を囲みながら、それぞれマテ茶、コーヒー、ミズホ茶を飲みながら時間を潰す。
俺とブランタークさんで『探知』を働かせながらだが、密猟者は一向に現れなかった。
「他の保護区も異常なしだと」
他の保護地からの定期連絡を受ける役割に就任したエルが、魔導携帯通信機を片手に報告してくるが、こんな状態が何日も続くのか。
それだけ、桃色カバさんの卵の殻から作り出す精力剤が重要な証拠なのだろうけど。
「なあ辺境伯様」
「なんです? ブランタークさん」
「密猟者の素性なんだが、辺境伯様はどう思う?」
「もしかしたら子供なのかもしれませんね」
大人で凄腕の魔法使いなら、桃色カバさんの密猟なんてリスクが高いことはしないはずだ。
俺やブランタークさんでもできない遠距離からの魔法狙撃で、勘のいい桃色カバさんを四頭も仕留めているのだから、天才魔法使いなのはわかるけど。
「子供だから、保護者の命令でやらされている、とかでしょうか?」
「辺境伯様の予想、あながち外れていないかもしれないな。 一秒でも早く、 密猟者の顔を拝んでみたいものだが」
その後も交代で就寝しながら見張りを続けたが、夜が明けても密猟者の気配を感じることはできなかったのであった。




