第50話 開発ローン秘話(後編)
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「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「バウマイスター辺境伯殿? 突然のご来訪、いかがなされたのですか? 事前にお知らせいただけたら、歓待の準備をいたしましたのに……」
「レンブルク男爵、そのような配慮は無用です。リムルさんから事情は聞いています。色々と事情があり、リムルさんを妻として受け入れることはできませんが、領内の問題解決に力を貸しましょう。まずは、領内の視察です」
「はあ……」
「急ぎましょう」
これ以上妻の数を増やさないため、俺はエルと家臣たちを引き連れ、レンブルク男爵領に『瞬間移動』で飛んだ。
突然の俺たちの来訪にレンブルク男爵が驚いていたが、気にせず早速視察を始める。
「この川は大雨になると、すぐに流れが変わりそうですね」
「ええ。そのせいで、せっかく作った橋がすぐに流されてしまうのです」
「となると……どうだ?」
俺は、ついてきた家臣たちに訪ねる。
彼らは王都にいる特別な技術を家業として持つ法衣貴族の子弟だが、跡取りではないし、王都では職がないとかで、バウマイスター辺境伯家で雇い入れた。
新興貴族であるバウマイスター辺境伯家には一番不足している人材であり、ありがたくうちで引き取ったわけだ。
彼らは土木工事に精通しており、どうすればレンブルク男爵領内の水害を減らせるか。
その処置をするのに、どれだけの人手とコストがかかるのか。
大まかに計算して、俺に教えてくれた。
「この河川の上流には支流が多すぎるので、工事で統合する必要があります。さらに下流が蛇行し続けていて、これを真っ直ぐにする必要があるでしょう。同時に、川底を掘削して堤防を築き、増水時の氾濫を防ぎます」
「こちらが、必要な資材の量と人手。かかる費用の合計です」
「ありがとう」
さすがだな。
実家が代々、建設や土木工事で飯を食ってきただけのことがある。
「レンブルク男爵、いかがですか?」
「むむむっ……。高いが、思っていたほどでもないな」
こちらは、魔法使いや魔族が工事に使えるので、他のよりも大分安く工事できるはずだ。
「しかし、我が家の財政では……」
「そこで、バウマイスター辺境伯家からお金を借りるのです。そうすれば、娘さんを俺の妻に差し出す必要なんてありません。さらに支払いは、三十年分割にしましょう。それなら支払えるのでは?」
「三十年分割ですか……」
「治水の成果をすぐに得られれば、領内の収穫や産業の成果は安定しますし、今後、洪水の被害も減らせるので復興費用も節約できます。農地の新規開墾もできるはずです。勿論利子も取りますが、利息を支払うのであれば、バウマイスター辺境伯家に借りがあると思う必要もなくなります。寄親も納得するでしょう」
「確かに……」
レンブルク男爵家の寄親は別にいて、当然借金の相談はしていたが、余裕がなくて断られていた。
そこにバウマイスター辺境伯家がお金を貸せば、寄親の機嫌を損ねる可能性だってあるのだが、商売として利子を取れば、寄親から文句は出ないはずだ。
寄親が寄子にお金を貸す時、担保も利子も取らず、ある時返済が常識だ。
だからこそ、それを利用して借金を返さないクズ貴族もいるので、寄親でもない俺が金を貸す時は利子を取ることにした。
「利息は、年利一パーセントです」
「安いですね!」
レンブルク男爵は安いと喜んでいるが、毎年元金の1パーセントの利息なので、三十年で元金の三十パーセントの利息がかかるけど、毎年一年分の利息を返済額に上乗せしてるので気がつかれなかった。
「(悪いけど、ここまでしても貸し倒れリスクがあるからなぁ)」
俺はこの金貸し……じゃなかった。
この開発ローンで儲ける気はなく、専門家が必要な工事や工事費の見積りを出し、貴族たちがそれに納得しても、お金を返さない貴族が一定の割合で出ると予測していたからだ。
「そんな感じでどうでしょうか?」
「是非お願いしたい!」
レンブルク男爵はまともな人だった。
たとえ三十年ローンを抱えても、数十年、数百年先を見越して領内の大規模治水工事に金を出すと言ったのだから。
「では、早速始めるとします」
無事に契約となったので、俺はレンブルク男爵領に魔族や妻たち、土木技術がある家臣たちを派遣した。
今は農閑期なので、作業員たちは領内から集めるそうだ。
俺もたまに見に行くが、工事は順調に進んでいる。
細い複数の、曲がりくねった川をまっすぐに、さらに大雨時の増水に備えて川底を深く掘っていく。
下流部分は川幅を広げ、やはり川底も魔法で掘削していった。
掘った土砂などで、堤防や土手を作るのは賦役に駆り出された領民たちだ。
「アグネスも、シンディも、ベッティも、すっかり熟練者だな。テレーゼも上手になった」
俺の代理で領内の土木工事を担当しているからだろう。
四人は雇った魔族たちと協力して、わずか一週間ほどで、バウマイスター辺境伯家の技術系家臣たちが設計したとおり、河川の改修工事を終えた。
残りの細かな作業は残っているが、領民たちだけでできるはずだ。
任せられるところは、地元の人たちに任せる。
だからこそ、工事費も抑えられるのだから。
「おおっ! レンブルク男爵家の代々の悲願であった、レンブルク川の改修工事がこんなに早く終わるなんて! これで大雨に怯えることなく畑を広げられます!」
「定期的に、川底の土砂を浚うのを忘れないでください。それを怠ると、増水しやすくなるので」
「わかりました」
「治水とは、水を治めると書く。これができる者こそが、その土地を治める権利があるのだと思います!」
為政者がそれを怠った結果、国が滅んでしまうなんて話は珍しくもない。
好きでなったわけじゃないけど、俺もバウマイスター辺境伯領の治水には特に気をつけていた。
「さすがはバウマイスター辺境伯殿です。まだお若いのに、見事な見識と責任感。私はまだまだですね。そして、治水は終わることなく続いていくのですね」
「そうです」
「本当に見事なものだ。私はあなたに娘を貰って欲しいと思いましたよ。リムルも、バウマイスター辺境伯殿を気に入るはずです」
「……ですから、俺はこれ以上妻を増やすのは……」
「そんなことを気にする必要ないと思いますよ。優れた貴族にして、魔法使いでもあるあなたに数百人の妻がいようとも、問題ないと思います」
「あのですね……」
せっかく妻が増えるのを回避したと思ったのに……。
こうなったら仕方がない。
俺は、ブライヒレーダー辺境伯と妻の数で著しい差があるのは問題なので、これ以上妻の数を増やせないという事情をレンブルク男爵に説明した。
「バウマイスター辺境伯家は、ブライヒレーダー辺境伯家のおかげで今日の地位があるのです。不義理を犯すわけにはいきません」
「確かに、貴族が不義理を犯すわけにいきませんな」
なんだ。
この言い訳が一番角が立たないじゃないか。
貴族だからこそ、南部で双璧と称されるバウマイスター辺境伯家とブライヒレーダー辺境伯家とのバランスを崩すわけはいかないと言えば、それで納得してくれるのだから。
「わかりました。リムルをバウマイスター辺境伯殿に嫁がせるお話はナシにします」
「(よかったぁ)」
その後も俺は、家臣たちが作った開発計画を貴族たちに見せ、その金額によって費用をローンで払ってもらうプランを提示。
了承した貴族たちの領地で工事するようになった。
そして、娘を俺に嫁がせたいという貴族には、ブライヒレーダー辺境伯家とのバランスの話を出す。
すると、みんな諦めてくれるので、ようやく俺に安寧の日々が……と思ったら魔導携帯通信機が鳴る。
通信してきたのは、ブライヒレーダー辺境伯だった。
「バウマイスター辺境伯、酷いですよ!」
「えっ? 俺、なにかやりましたか?」
まったく身に覚えがないのだけど……。
「バウマイスター辺境伯に娘を嫁がせたい貴族たちに、ブライヒレーダー辺境伯家との釣り合いがあるからって断ってるでしょう?」
「 そうでも言わないとなかなか納得してくれないんですけど、駄目ですか?」
「駄目ですよ! だって、それならブライヒレーダー辺境伯の妻の数が増えればいいんだって、このところ私の妻にどうぞと、多くの貴族たちが……」
「そうきたか!」
確かに、ブライヒレーダー辺境伯の奥さんの数が増えれば、バランスを取って俺も奥さんの数を増やさなければならない。
まさかその手でくると思わなかった。
「そこで私も、バウマイスター辺境伯家との均衡が崩れるからといって断りました。バウマイスター辺境伯、恨まないでくださいね」
「……」
「お館様、また貴族からお見合いの申し込みが殺到しています。どうしましょうか?」
「短い安寧の時だった……」
まさか、ブライヒレーダー辺境伯も同じことをするなんて……。
というか、これ以上奥さんの数が増えたら俺は干からびて死ぬ!
どうにかして、角が立たない断り方を見つけないと。
……そういう家臣を雇おうかな?
仕事ができるなら、高給を出してもいいんだが。




