第49話 開発ローン秘話(前編)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「また大雨で橋が流されてしまったか……」
「お館様、やはり本格的な治水工事を行いませんと、洪水時に橋が流されてしまいます。もしくは、もっとお金をかけて頑丈な橋を架ける必要が」
「そんな人手は集められないし、予算もないぞ」
「人手は領民たちを多数動員すれば。ただし作業量を計算しますと、数年間、領内の収穫は大幅に落ちるでしょう」
「それは厳しい。レンブルク男爵領を流れるこの暴れ川をどうにかしなければならないが予算もなく、領民たちを動員すれば収穫量が落ちてしまう。あちらが立てば、こちらが立たずだ」
「噂の魔族に仕事を依頼するにしても、やはり予算がありませんからねぇ……」
「どうにか領内の水害を減らさなければならないが……これが、地方の田舎貴族の現実というやつだな」
また領内の橋が流されてしまった。
架け直すのにお金がかかるが、やらなければ領外に収穫物を売りに行けないから、一日でも早く橋を架けなければ。
この橋がかかっている川は暴れ川として有名で、これまでに何度橋を流してきたか。
この問題を解決するには、橋の上流で分かれている川の支流の統合、川底の掘り下げ、川の流れを変えるなどの本格的な治水工事が必要だが、そんな予算が地方の貧乏男爵家にあるわけがない。
となると、領民たちに賦役を課すしかないのだが、それをすると農業が主な産業であるレンブルク男爵領の収穫量が減って税収も落ちてしまう。
ここで増税をすれば、領民たちは困窮して他の領地に逃げてしまうだろう。
最近、魔族にこの手の仕事を頼む貴族が増えているが、お金がかかるので頼めない貴族も……うちのことなんだが。
「結局、次の洪水でまた落ちることが決まっている、安い橋をかけるしかないのか……」
「次は何年保つでしょうか?」
最低限の橋を架け直す予算ならなんとかなるが、問題はどんなに長く保っても数年……洪水になれば簡単に落ちてしまうことだ。
「本格的な治水工事をしてから橋をかけるのが、長い目で見れば一番得なのはわかってる。だが、そんなお金は我が家にない。この負の繰り返しを絶てれば……」
レンブルク男爵家代々の悲願が達成されるのだが、私は父、祖父、代々のご先祖様たちよりも優秀な当主というわけではない。
結局今回も流された橋の跡で悩んでから、すぐに落ちる安い橋を架けるだけだ。
本格的な治水工事ののち、立派な橋をかけた方が長い目で見てお金がかからないのはわかるが、先立つ物がないから応急処置でお茶を濁すしかないのだから。
「なにかいい案が……。そんなものはないか……」
「お館様、こうなったら最後の手段です」
「最後の手段……、やはりその手しかないか……」
「ええ。幸いなことに、レンブルク男爵家にはリムル様がいらっしゃいますから。年齢も十五歳なのできっとあの方と釣り合うはずです。リムル様のお気持ちは無視せざるを得ませんが……」
「リムルはレンブルク男爵家の娘だ。自身の幸せよりも、家のため、領民たちのために動くのが当たり前だ。文句など言わせないさ」
「リムル様は大喜びするのではないでしょうか? 」
「あの方は大貴族の中の大貴族だからな。リムルの暮らしもよくなるはずだから、嫌がることはないと思う」
「では早速、リムル様をバウルブルクに送り出しましょう」
「準備を頼むぞ。ブルドンもリムルに同行して、上手くバウマイスター辺境伯殿に取り入るのだ。競合者は多そうだからな」
「畏まりました。リムル様の美しさなら、バウマイスター辺境伯もきっと」
「頼むぞ、リムル。我がレンブルク男爵家の未来のために!」
長年レンブルク男爵領の者たちを悩ませてきた暴れ川をどうにかするため、リムルには頑張ってもらわなければ。
バウマイスター辺境伯に気に入られてその妻となり、治水費用を援助してもらう。
もはやそれしか、我らに残された方法はないのだから。
「こちらは、レンブルク男爵家の令嬢であるリムル様です。バウマイスター辺境伯様の奥方様に相応しいと思いますよ」
「なにを言うか! ワシの孫娘である、グレータの方が、バウマイスター辺境伯殿の奥方に相応しいに決まっておろう!」
「こちらは、グリブナー子爵様からの紹介状です。バウマイスター辺境伯様に、領内に街道を作る資金を貸していただきたく。その担保と利息として、ダンケルク男爵家のご令嬢であられるミーシャ様が、バウマイスター辺境伯様のお世話を……」
「……なあ、ローデリヒ。俺は人買いかなにかなのか?」
「この手の陳情は減りませんねぇ……」
「『減りませんねぇ……』って、そんな他人事みたいに……」
「他人事ですから、とまでは言いませんけど、地方貴族のお金のなさは相変わらずですね」
バウマイスター辺境伯である俺には、毎日大勢の人たちが陳情にやってくる。
領民や商人の陳情は大半をローデリヒが捌いて、重要な案件だけを俺が決めるってケースが多かったけど、このところ貴族からの陳情が増えていた。
相手は貴族なので俺が直接対応するのだが、大半は金がないから貸してくれ、領内の開発に手を貸してくれだった。
そして彼らの多くが、そのお礼に娘を差し出そうとする。
それが、現代日本人の感覚を持つ俺にはとにかく苦痛なのだ。
実家の領地の発展のため、自分が身を差し出せばいい。
そんな事情を抱えた娘なんて、心が痛くなるから傍に置きたくないし……。
「そもそも大半が、バウマイスター辺境伯家の寄子じゃない件」
娘を連れた貴族及びその代理人は紹介状も持っているのだけど、誰だかよくわからない。
ローデリヒに聞いても、バウマイスター辺境伯家とは全然関係ないケースが大半だった。
「確かに現在のヘルムート王国は好景気ですけど、貴族によってかなりの差があるのです。地方の貧しい貴族たちはその恩恵をあまり受けておらず、なかなか領内の開発も進みません。父親、祖父の代からの課題を解決できず、発展した他の貴族の領地に領民たちが逃げてしまう事例もあります」
貴族もただ威張っていられないってことか。
生活がよくならなければ、納税者である領民に逃げられてしまうと。
「だから一日も早く領内の課題を解決し、さらなる領地の発展を目指すも、残念なことに先立つ物がない。だからお金があるバウマイスター辺境伯家に借りに来たと?」
「そんなところです」
「お金を借りたいのはわかるけど、どうして娘つきなんだろうねぇ……」
「お館様、説明が必要ですか?」
「いらない」
たとえ貴族でなくても、これまで縁も所縁もなかった。それに加えて返済能力も不明な他人に金を貸す奴なんていない。
だから娘は担保というわけだ。
現代日本だと担保は領地なんだけど、王国の法で貴族の領地を担保にするのは禁止なので、青い血の娘というわけだ。
家宝や財宝……があったら、俺のところに娘を送る必要がないものな。
それを担保にして商人から借りるか、売って必要な工事費を工面すればいいのだから。
もし俺が娘を気に入れば、借金が免除になるかもしれないというものある。
さらにお金が必要になった時、娘が俺の妻になっていれば、バウマイスター辺境伯家から援助してもらえる可能性が高い。
そう思うからこそみんな娘を連れて来るのだけど、これ以上俺の奥さんを増やさないでくれと思ってしまう。
「領地の未来のため、領民たちの生活のためって大義名分があるにしても、娘をなんだと思ってるんだろう?」
「お館様の妻になれれば、生活に困ることはありませんからね。一応、その貴族なりの親心ではあるのです」
「とにかく、これ以上奥さんを増やしたくない」
「どうしますか?」
「うーーーん」
ただ断って追い返す……のは悪手だ。
いくら困窮していても、相手は貴族。
彼らの頼みを断った結果、逆恨みされると嫌だし、徒党を組んで攻撃されたらもっと面倒だ。
「こうなったら……」
「お館様、なにかいい手でも?」
「ちょっと王都まで行ってくる。プレーデル財務卿の屋敷まで」
「地方貴族の開発要請と借金と、プレーデル財務卿に関係でもあるんですか?」
「あるさ。これが成功したら、借金のカタや開発要請の報酬で娘を差し出そうとする貴族は減るはずだから。テレーゼ、付き合ってくれ」
「ヴェンデリンがやろうとしていることが理解できたような気がするの。妾が役に立つかわからぬが、そのあとで王都でのデートに付き合ってくれるのなら同行しよう」
「頼むよ、テレーゼ。話はすぐに終わるから、王都のどこに行こうかな?」
俺はテレーゼを連れて、『瞬間移動』で王都へと向かったのであった。
「開発資金の貸し出し制度だと! そんなものは無理に決まっておろうが!」
「いきなり怒られた」
「当たり前だと思うがの。ヘルムート王国も、アーカート神聖帝国も、これまで数多の貴族にお金を貸し、回収不能となっておるのだから」
「ご隠居のおっしゃる通りだ。いい加減にお金を借りて、返済しない貴族の多さといったら……」
「お金を返さない貴族は、いざとなると開き直って面倒じゃからの。苦労して担保に設定した領地を取り上げても、取り上げた国側の方が大損をするケースが大半での。それを向こうもわかっておるから、『借金は返せないから、領地を取り上げてくれて結構』と言い放つのじゃ」
そういえば現代日本でも、お金を貸した側より借りた側の方が法的に強くて、サラ金やヤミ金が存在するのはそのせいだって聞いたことがあったな。
まともな金貸しが貸してくれないから、グレーゾーンなものに需要が生まれると。
「バウマイスター辺境伯、地方貴族が開発に使う金を貸せと言ってきたのであろう?」
「ええ」
「彼らの言い分を鵜呑みにして貸すと、ろくなことにならんぞ。言い方は悪いが、地方貴族の多くが、自分の領地の開墾や治水、鉱山開発の話なのに、まともな見積りすら出せないのだから」
「勉強をしておらぬし、経験がないからの」
多くの地方貴族は、自分の領地の問題解決に必要なこと、方法、かかるお金の計算が怪しく、中央でそのノウハウを持つ貴族たちからしたら、そんな借金や陳情を受けたくないというわけだ。
「そんなわけで、王国政府は金を出せん!」
さすがは財務卿。
前任者と同じくケチなのは職業病かもしれない。
「いえ、お金はバウマイスター辺境伯家が貸しますよ。ただ、『バウマイスター辺境伯家が、勝手にあちこちの貴族たちにお金を貸して影響力を強めようとしている』なんて思われたら堪らないので、事前に許可を取っておきたいんです」
「事前に根回しをする。若いのに大したものだと思うが、寄子でもない貧乏地方貴族を数十人抱え込んでも、なんの助けにもならないどころか、破産の危機だと思うが……」
「自分なりにやってみますよ。これ以上貴族の娘に押し掛けられるのは嫌なので……。そもそも、これ以上妻が増えると、ブライヒレーダー辺境伯家にも負担がありますから」
ブライヒレーダー辺境伯家とバウマイスター辺境伯家は、世間ではほぼ同等の扱いだ。
だから俺の奥さんの数が増えると、ブライヒレーダー辺境伯家はそれと張り合わなければならない。
すでにそんなことは不可能なんだが、ブライヒレーダー辺境伯はよく家臣たちから突き上げを食らうそうだ。
『お館様は、バウマイスター辺境伯よりも妻の数を増やすべきです! 確かに両家の力は同等という評価ですが、ブライヒレーダー辺境伯家はバウマイスター辺境伯家の寄親だったこともあり、千二百年の歴史が……』
などと、面倒なことを言われているらしい。
「そんなわけで、押し掛け貴族娘たちを領地に戻す算段が必要なんです」
「色々と大変なのだな。しかし、どれだけ貸したお金を回収できるか……」
「そこは腕の見せ所ですよ」
「お手並み拝見といこうかな。陛下には伝えておこう」
無事、プレーデル財務卿と王国政府の許可を貰ったので、俺は動くことにした。
これ以上、妻の数が増えないようにするために。




