第45話 女子会って、色々と大変みたい
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「エリーゼ、王都に一人でお出かけなんて珍しいね」
「ヴェンデリン様から『瞬間移動』で送っていただきますけど、今日は女性だけの集まりなんです」
「女子だけねぇ……。楽しそうな感じだけど、なんか浮かない顔してるわね」
「今日のお茶会を主催されるのが、以前、短い間ですが一緒に教会でお手伝いをしたことがある方なんですが、そのぅ……」
「ああっ、面倒な人なんだ。エリーゼが断れないってことは、結構な身分の人なんでしょうね」
「アリシアさんはリーグット公爵家の一人娘でして、お婿さんを迎え入れたのです」
「つまり、リーグット公爵家を継ぐ予定のお婿さんは立場が弱くて、アリシアさんが威張り腐っていると?」
「ええと……」
「イーナちゃん、ストレートに言い過ぎだって。実質、リーグット公爵家を差配している気が強い人に呼ばれたけど、相手の身分的にエリーゼは断りにくいんだよね」
「そんなところです。なにか変わったお菓子を持って来るようにとか、お茶を持参して、お茶会の参加者に振舞ってほしいとか。なぜかストールをしてくるようにとか。昔からそうなんですが、とにかく注文が多い人なんです」
「なーーーんか。そのアリシアって人がなにをしたいのか、おぼろげながら想像できてしまったわ」
「ワガママお嬢さんなんだ。ボクとは大違いだね」
「エリーゼ、お茶会に持参するものは俺が用意しておくよ」
「すみません、ヴェンデリン様」
エリーゼがリーグット公爵令嬢からお茶会に招待されたそうで、俺が王都まで『瞬間移動』で送っていくことになった。
彼女から事情を聞いたイーナとルイーゼは、エリーゼに対し『ご苦労様』といった感じの表情を浮かべている。
その公爵令嬢の名はアリシアといい、年齢はエリーゼよりも一個上、一緒に教会で活動していたことで知り合った。
彼女はリーグット公爵家の一人娘であり、他に子供がいないため、バーケット伯爵家の三男を婿として迎え入れたそうだ。
だがいまだリーグット公爵は健在で、アリシアの婿は伯爵家の三男でしかない。
将来リーグット公爵家を継ぐ身とはいえ、間違いなく肩身が狭いはずだ。
義父にも妻にも頭が上がらない……マスオさんだな。
いくら伯爵家の生まれとはいえ三男では、公爵の一人娘であるエリーゼの知り合い……なんかエリーゼの表情から察するに、友達ではないんだろうなと、容易に想像できてしまう……が、夫を尻に敷いているのが容易に想像できた。
「エリーゼ、俺は行かなくてもいいの?」
「おやめになられた方がよろしいかと……。ヴェンデリン様はその……アリシアさんからは本物の貴族と思われていませんから……」
「ああ、納得いったぜ」
エル、俺もすぐに納得したぞ。
アリシアは王家の血を引く公爵家の娘だから、騎士爵の八男の生まれなんて農民と同程度くらいにしか思っていないんだろう。
エリーゼは、俺が顔を出せば不快な思いをするのがわかってるから、一人で行くと言っているのか。
元々お茶会ってのもあるんだろうけど。
「今回の集まりですけど、他にも一緒に教会で奉仕していた方々が参加するのです」
「……同窓会みたいなもの?」
「そんなところです。教会で奉仕していた方の中に、王都の有名な製菓店に嫁いだ方がおりまして、美味しいお菓子を持って来てくださるそうで」
「いいなぁ、王都の有名なお店のお菓子」
しかしながら、ルイーゼ。
俺が思うに、せっかくのお菓子の味すらよくわからないお茶会になると思うぞ。
ルイーゼは、そんなこと気にせずにバクバクお菓子を食べられるんだろうけど、真面目なエリーゼはそれどころじゃないだろう。
「(参加者の生まれによって、お茶会での振る舞いに気を使わなければならない。それも表向きはお茶やお菓子を楽しみながら、作り笑顔を崩さずか……)」
想像しただけで、お腹が痛くなってきた。
貴族女子のヒエラルキーが怖い。
「エリーゼ、苦労かけるなぁ」
エリーゼは優しいし性格がいいから、こんなお茶会に出るのは苦痛だろう。
でも断ると、夫である俺の評判にも繋がるから、必ず参加しないといけない……義務ってわけでもないけど、俺のためなのはよくわかった。
「(……カタリーナ?)」
当然というか、みんなも『絶対に参加したくねぇ……』という表情を浮かべていたが、一人だけ例外がいた。
誰であろう、貴族に異常なまでの拘りがあるカタリーナその人であった。
「カタリーナって変わってるなぁ……」
長年ボッチだった弊害だろうか?
リーグット公爵令嬢のマウンティング大会に自ら参加したいだなんて……。
「カタリーナって、マゾなの?」
「ルイーゼさん、貴族ならばこのような困難を乗り越えてこそですわ」
「ええーーーっ! ボクは嫌だなぁ。そういう面倒臭い人」
「エリーゼさん、ヴェンデリンさんではなくこの私を連れていけば、リーグット公爵令嬢の態度も緩和するはずですわ」
「ええと、あの……」
しっかしカタリーナは、本当に貴族に拘りがあるんだなぁ。
すでに地雷だとわかってる、公爵令嬢主催のお茶会に参加したいだなんて。
「呼ばれていない催しに、強引に参加しようとするのは、貴族としてどうかと思うがの」
「カタリーナ、諦めろって」
「残念ですわ」
テレーゼとカチヤにまでお茶会への参加を否定され、落ち込むカタリーナ。
本当に参加したいと思っていたのか?
もしかしたら、カタリーナの貴族に対する異常なまでの拘りが、リーグット公爵令嬢の凝り固まった選民思想を溶かす……わけないか。
エリーゼはご苦労様だが、俺も明日はせっかく王都に行くので、彼女へのご褒美に王都の美味しいお菓子でも購入しようかな?
「みなさま、本当にお久しぶりです。教会で共に奉仕した日々が、まるで昨日のようですわ」
「アリシア様もお変わりなく」
「今日は大したおもてなしもできませんが、ごゆるりとお過ごしください」
結婚前、教会で共に奉仕活動に勤しんだ方々をお呼びして、女性だけのお茶会を主催しました。
みなさん、貴族に嫁いだり、中には平民に嫁いだ可哀想な方々もいらっしゃいますが、それも人生。
なので今日くらいは、美味しいお菓子とお茶で寛いでもらうことが、リーグット公爵令嬢にして、次期リーグット公爵夫人たる私の務め。
高貴な家柄に生まれた私の義務なのです。
「お茶会ですので、お菓子しかないのは心苦しいのですが……」
とは言いつつ、王都で有名な製菓店のお菓子を用意しました。
普段は人気すぎて購入制限もあるお店ですが、今日は特別に予約して沢山お菓子を作っていただいたのです。
「(こんな特別なことができるのは、私がリーグット公爵家の人間だからですけど)遠慮なくお召しあがりくださいな。残ったら、お持ち帰りもできますよ」
「アリシア様、ありがとうございます」
「『バーカウント』のお菓子は、何日も前から予約しても少ししか買えませんのに、これだけの量を用意できるなんて」
「さすがはアリシア様」
みなさんの称賛の声を聞いていると、頑張ってお菓子を用意した甲斐がありますわ。
「私たちもお土産を持参したのですが、バーカウントのお菓子に比べると、見劣りしてしまいますね」
「あら、『リンケント』のお菓子ではありませんか。リンケントのお菓子もとても美味しいので、私もよく購入していますよ」
リンケントも代々続く美味しい製菓店であり、だから一緒に教会で奉仕活動をしていた貴族令嬢が嫁いでいたのでした。
平民になってしまったけど、ミーシャさんもお元気そうでなによりですわ。
まあ、私の用意したバーカウントのお菓子よりは格下ですけど。
他の参加者たちも、私が用意したお菓子よりはランクが落ちるものをお土産として用意していて、これで私の面子も……。
「エリーゼ様は、変わったものをお持ちですね」
「(はっ! そうだ! エリーゼがいたことを忘れていました!)」
子爵家の娘でしかないくせに、その美しさと、なにか魔法でも使ったのではないかと疑いたくなるような大きな胸!
結局、リーグット公爵家の娘である私の胸は全然成長しなかったというのに、どうして子爵の娘でしかないエリーゼばかりが、あんなに大きな胸を……。
それに加えて治癒魔法の腕前も超一流で、『聖女』などとあだ名され、エリーゼに治療された男性の多くが彼女に見惚れ、求婚する者も多数だったのを思い出しましたわ。
「(リーグット公爵令嬢である、このアリシアよりも多くの男性の注目を浴びるなんて、決して許されることではありません!)」
真の貴族たる私が、その辺の馬の骨に言い寄られたところでなびくわけがありませんが、私は常に多くの男性、女性を問わず称賛され続けなければいけないのですから。
「(そういえば、エリーゼはなにを持って来たのかしら?)」
エリーゼは料理も上手だから、もしや手作りのお菓子とか?
「(それなら、バーカウントのお菓子を用意した私の勝ちですわ)」
私はそう思っていたのですが、エリーゼはこれまで見たことがない、不思議な形のお菓子をテーブルの上にのせました。
「エリーゼ様、これは?」
「ミズホのお菓子『ヨウカン』です」
「ヨウカンでしたら、私も食べたことがありますわ」
「油分が少ないので 太りにくいという謳い文句で、王都でも販売しているのを見たことがあります」
エリーゼの夫であるバウマイスター辺境伯は、大のミズホ文化好きとして有名。
元々田舎騎士の八男ですから、すぐ舶来物に飛びついてしまう下品な方なのでしょうけど。
なるほど、普通のお菓子では私に勝てないので、そういう手できましたか。
エリーゼらしい、小賢しい手ですわ。
「ですがエリーゼ様。どうして このヨウカンは丸くて小さいんですか?」
「これは『タマヨウカン』というものでして、新たに私の旦那様が考案されたのです。これならお菓子を食べ過ぎることもなく、保存や携帯にも非常に便利で、 バウルブルクの冒険者にも人気なんですよ」
「ヨウカンは、なにかに包まれているのですね」
「これは、ゴムでできた風船です」
ゴムでできた風船ですって!
このところ、バウマイスター辺境伯家の特産品として有名な、伸びる不思議な素材の名前が『ゴム』だったはず。
使い道は多いとされ、防水性も高いので、防水布や靴の底にも使われているとか。
お菓子を包めば、一人前ずつ清潔に持ち運べるというわけですか。
「(成り上がり者のくせに、随分と頭を使われたようですね。エリーゼの夫は)」
「エリーゼ様、このままですと、ゴム風船に包まれていて食べられませんよ」
ですが、このままではヨウカンを食べられません。
所詮は農民と大差のない方の浅はかな知恵ですわね。
「これはですね。付属のツマヨウジでゴム風船を突くとこのように……」
「面白いですね、これ」
「楽しいです」
「ツルンと、ゴム風船が剥けるのが面白くて癖になりそうです」
「私もやりたいです」
「私も!」
「ヨウカンも、小さくて食べやすいですね」
「これでしたら、簡単に外に持って行くこともできて便利でしょうね」
「今度、ピクニックに持って行きたいです」
丸い玉みたいなミズホのお菓子を持参したエリーゼが、バーカウントのお菓子を大量に用意した私よりもみなさんの注目を集めているなんて、どうしてこんなことが?
あきらかに奇をてらった、下品なお菓子でしかないのに……。
「(貴族令嬢がそのような玉を突いて、中身を取り出して食べるなんて下品ですわ!)」
私は栄誉ある公爵家の娘ですから、玉を尖った木の棒で突くなんて下品な真似は……。
「アリシア様もやってみませんか? とても面白いですよ」
「ヨウカンも、甘さ控えめで上品なお味ですよ」
「……みなさんがそこまでおっしゃるのなら」
私がこのお茶会の主催者ですし、エリーゼが持って来たお土産にまったく手をつけないのはマナー的にどうかと思うので、『仕方なしに!』タマヨウカンなるお菓子を食べることにしましょう。
「この細い木の棒で、玉を突き刺せばいいのですね……剥けた!」
面白いほどツルンと剥けるので、ついもう一個……。
ちょっと癖になってしまいそう……じゃないですわ!
貴族令嬢たる者が、このような下品なお菓子を喜ぶなんてどうかと思うのです。
「王都でも販売してほしいですね」
「今度、フジバヤシ製菓店でも発売する予定ですよ」
「でしたら絶対に買いに行きませんと」
「ただ美味しいだけではなくて、ツルンと剥くのが楽しいですね。アリシア様もそう思われませんか?」
「ええ……」
エリーゼの下品な夫、貧乏騎士の八男バウマイスター辺境伯が考えたにしては、よくできている……お菓子自体の甘さもとても上品で、リーグット公爵家でも辛うじて食して問題ないレベルだと思います。
『本当に辛うじて』ですけど!
「アリシア様のお屋敷では、いつも美味しいマテ茶が出ますね。でも、森林マテ茶ではないんですね」
「ええ、これは普通のマテ茶ですけど、リーグット公爵家が持つ専用の茶畑で特別に作らせたものですから」
成り上がりの貴族たちが、高級茶の代名詞とされる『森林マテ茶』を入手して悦に入っている話をよく聞きますが、まさしく成り上がり者といった感じです。
森林マテ茶は高価ですが、お金を出せば誰にでも購入できます。
一方我が家のマテ茶は、リーグット公爵家が自ら茶畑を購入し、雇い入れた農民たちに丹精込めて栽培させたもの。
肥料の種類から、撒く頻度と量、水の撒き方、日の光のあて方や時間など。
栽培方法を長年試行錯誤して、ようやくここまで美味しく栽培することに成功したものなのですから。
「そこまで栽培方法に拘ったマテ茶なのですね」
勿論茶葉への加工にも、完成した茶葉の保存方法にも、淹れ方にも拘っていますから。
「そこまで拘って、初めて森林マテ茶を上回るマテ茶となるのです」
「さすがはアリシア様」
「このマテ茶を飲むと、もう普通のマテ茶に戻れないかも」
みなさんに、このお茶の美味しさを理解してもらえてよかったですわ。
そういえば、エリーゼにもお茶を持って来るように言っておいたのを忘れていましたが、さすがにリーグット公爵家特製のマテ茶には勝てないはず。
いくらエリーゼがお茶を淹れる名人でも、我が家にもお茶を淹れるのが上手な使用人はいるのですから。
「(おーーーほっほ! いくらエリーゼがお茶を上手に淹れたとしても、茶葉自体の美味しさは圧倒的にこちらが上。我が家のお茶よりも美味しくないお茶をみなさんに飲ませ、恥をかけばよろしいのですわ)」
教会時代からですが、相変わらずエリーゼはお茶を淹れるのが上手ですね。
ですが、茶葉の美味しさの差は覆せない……あれ? あの茶葉は……。
「エリーゼ様、この茶葉は?」
「アリシアさんのお茶ほどではありませんが、これはこれでとても美味しいお茶ですよ。実は旦那様が魔法の修練の途中で見つけたものを、家族で職人たちに教わりながら茶葉に加工したんです」
「まあご家族でですか」
「とても楽しそうですね」
自分で茶葉を加工?
さすがは貧乏騎士の八男なだけはありますわ。
貴族たる者、平民たちの仕事を奪うようなことは決してやってはいけないのですから。
「……美味しい!」
「お茶自体の味がとても濃厚なのに、 後味がとてもスッキリしています」
「森林マテ茶とも違います」
「エリーゼ様、このお茶は?」
「『凍頂マテ茶』です。旦那様が『飛翔』魔法の修練でダイト山の山頂に辿り着いた時、運よくマテ茶の木があったそうで」
「これが凍頂マテ茶ですか。噂に違わぬ味です」
「滅多に手に入らないので、相場すらないに等しいと言われていますが、 こんなに美味しいものだったなんて」
「……(美味しい……)」
急ぎエリーゼが淹れた凍頂マテ茶を飲んでみると、その美味しさはあきらかにリーグット公爵家特製のマテ茶よりも上でした。
まさかそんな手でくるなんて……。
「エリーゼ様に凍頂マテ茶を持ち帰るなんて、エリーゼ様の旦那様であるバウマイスター辺境伯様って、とてもお優しいんですね」
「しかも、それをエリーゼ様にお土産で持たせるなんて。エリーゼ様って、バウマイスター辺境伯様から愛されているなって気がします」
「いいなぁ、優しい旦那様で」
タマヨウカンに凍頂マテ茶と、エリーゼが今日のお茶会の参加者たちにウケるものばかりお土産として持参するから、主催者である私がまったく目立たないではありませんか!
とはいえ、それを口にすれば恥をかくのはリーグット公爵家の人間である私。
ここは我慢しつつ、エリーゼの鼻をあかせるものを用意しませんと。
「エリーゼさん、貴重な凍頂マテ茶を持参していただいて感謝の言葉もありませんわ。それにしても、さすがは南方の雄にして陛下の信任も厚いバウマイスター辺境伯様ですわね」
本当は元貧乏貴族の八男なんて褒めたくありませんが、ここでバウマイスター辺境伯を成り上がり者だとバカにすれば、評判が落ちてしまうのはこの私の方。
ここは断腸の思いで、バウマイスター辺境伯を褒めておきませんと。
「(若葉の時期に、死ぬ思いで登山をして茶葉を採集するような労力は、リーグット公爵家には相応しくありませんから)」
多くの農民たちに美味しいマテ茶葉を作らせ、彼らの生活を守る。
リーグット公爵家の方が真の貴族と言えましょう。
「アリシア様、今日お召しのストールが素敵ですね。もしかして、飛竜の幼竜の産毛を使ったものですか?」
「シルビアさんはお詳しいですね。たまたま手に入れまして」
シルビアさんは親戚に洋裁関係の仕事をされている方が多いので、さすがに気がついたようですね。
このストールは貴重な飛竜の産毛を集めて編んだものですから、なかなか手に入らない貴重な逸品ですから。
「(こういう時に成金貴族は、豪華なドレスやアクセサリーを自慢したがるものですが、リーグット公爵家レベルの大貴族ともなりますと、このようにさり気ない小物で、他の貴族と差をつけるものなのです)」
「これが、飛竜の幼竜の産毛で編んだストールですか。私、初めて見ます」
「滅多にお店に置いていませんからね。なんでも、飛竜の幼竜を探すのはとても難しいのだとか」
「肌触りが最高ですね。私も欲しいけど、お値段的に難しいでしょうねぇ」
みなさんが、私のストールに夢中になっています。
タマヨウカン、凍頂マテ茶と、エリーゼばかりが注目されるという想定外の事態が発生しましたが、ようやくこのお茶会の主催者である私に注目が集まって安心というもの。
「(私は、次のリーグット公爵夫人。すべての貴族の妻たちの中で一番目立たなければいけないのですから)」
そしてこの私こそが、すべての貴族夫人のお手本とならなければいけないのです。
そういえば、エリーゼにもストールを持ってくるように言っておいたのですが、彼女やその旦那が用意できるストールの素材など容易に想像できます。
私のストールには決して勝てないでしょう。
「エリーゼ様のストールですが、これも材料は飛竜の幼竜の産毛……いえ、それ以上の素材に見えますが……」
「ええ……旦那様が知り合いからいただいた、属性竜の幼竜の産毛を編んだものだそうです。普段あまり使う機会もありませんが……」
「染めているようには見えないので、属性竜の幼竜の産毛は桃色なのですね」
「火竜の幼竜の産毛は、桃色になることが多いそうです」
「きめ細やかで、肌触りは飛竜の幼竜の産毛以上ですね」
「このストールは、貴重なんてものじゃありませんよ」
「エリーゼ様って、本当に旦那様に愛されているんですね」
「私も旦那様から、こういうプレゼントが貰えたらいいなぁ」
みなさんが、私のストールのことなど忘れて、エリーゼばかり褒めていて……どうしてこんなことに?
「……(エリィーーーゼェーーー! またも、リーグット公爵家の人間である私よりも素晴らしいものを持ってきて、みんなの注目ぉーーー!)」
確かに、事前にエリーゼにはストールを持参するように言っておいたけど、そこは空気を読んで、私よりも質の悪いものを持って来なさいな!
このお茶会の主催者である私に恥をかかせるなんて、本当にとんでもない女ね!
「(まったく忌々しい……)」
「みなさん、本日はようこそいらっしゃいました」
予想外のことが頻発したとはいえ、私はリーグット公爵家の者。
この程度のことでは動揺いたしません。
最後の切り札として、事前の打ち合わせどおり私の夫に挨拶をさせます。
私が吟味しただけあって、私の夫は貴族社会でも美男子で有名。
彼の姿を見れば、きっとみんなが羨ましがるはずですから。
「アリシア様の旦那様って、評判どおりの美男子ですね」
「格好いい……」
「アリシア様、いいなぁ」
みんな、私の夫の美男子ぶりにウットリしているようですね。
あまり頭はよくないですし、武芸に長けているわけでもありませんが、リーグット公爵家の差配は今は父が、将来は私が引き継ぐので問題ありません。
夫は、見栄えのいい飾りでしかないのですから。
「(最後の最後で、お茶会の主役を私に戻すことに成功しましたわ。しかしながら、これからはエリーゼが危険なものを持ち込まないよう、お茶会に持参するお土産の後にも制限をかけませんと……)」
「みなさん、こんにちわ」
「えっ?」
夫に続き、お茶会をしているお屋敷の庭に姿を現した若い男性。
その人物は不細工ではありませんが、特に美男子というわけではなく。ですが魔法使いの格好をした、私が決して貴族とは認めたくない人物。
エリーゼの夫である、バウマイスター辺境伯だったのですから。
「ヴェンデリン様はどうしてこちらに?」
「事前に聞いていたお茶会が終了する時刻を過ぎているから、どうなったのかなと思って 屋敷の人に尋ねてみたら、中に入れてくれたんだよ。みなさん、妻のエリーゼがお世話になっています」
「もうこんな時間だったんですね。すみません」
「こういうお茶会って、つい話が長引いてしまうものだからね。まだ時間がかかりそうだったら、俺はもう少し外で時間を潰してくるよ」
それなら最初からここに来なければよかったのに……。
これだから下品な貧乏騎士の八男は……と、内心臍を噛んでいたら……。
「本物のバウマイスター辺境伯様ですわ」
「一度お会いしてみたかったんです」
「竜殺しの英雄、帝国内乱鎮圧の大功労者」
「強大な魔族に一歩も引かない英雄」
「「「「「「「「「「是非、お話を聞かせてください!」」」」」」」」」」
「お話? ええと……いいのかな?」
バウマイスター辺境伯ぅーーー!
せっかく私の夫がみなさんの注目を集めていたというのに、余計なことをしてくれてぇーーー!
「(こうなったら、夫にもっと頑張ってもらいませんと!)」
どうせ夫なんて、そういうことぐらいでしか役に立たないのですから。
いくらバウマイスター辺境伯が有名人でも、女性は美男子が好き。
ちょっと応対させれば、みなさんの注目を集めるはずです。
「( 結局女性は、見た目のいい男性に靡くもの。私の夫の美男子ぶりにウットリしてくださいな)」
決して浮気はさせませんけど、みなさんは私の夫の美男子ぶりを見て、私を羨ましいと思わなければいけないのですから。
「初めまして、アリシアの夫のルーデフトです。僕もバウマイスター辺境伯殿の竜退治のお話や、帝国内乱での活躍、魔族との戦いの話なんかを聞いてみたいな。そうだ! 夕食もご用意いたしますので、このまま寛いで行ってください」
あなたぁーーー!
普段は私にすべて任せきりのくせに、どれだけバウマイスター辺境伯の話が聞きたいのですか!
子供か!
「そうですね。今夜は特に予定もありませんし、 お屋敷には魔法ですぐに帰れるので、 ちょっとお邪魔して行こうかな」
「ありがとうございます。噂の『瞬間移動』ってやつですね。便利で羨ましいですよ」
その後、私の夫と、お茶会の参加者たちは、バウマイスター辺境伯のお話を楽しそうに聞き、夫が用意させた夕食を食べてから、それぞれ楽しそうな表情で帰宅の途に就きました。
またも想定外のことが発生して、私は唖然とするばかりで完全に空気となってしまい、私が主催したお茶会なのに、 私のことが完全に忘れ去られているという。
こんな酷い話がありますか!
「いったい、どうしてこんなことになってしまったのです?」
これ以上の屈辱など、そうあることではないのですから。
「覚えていらっしゃい! 必ず次のお茶会では、私がエリーゼよりも上であることを証明してみせましょう」
そして私は、すべての貴族女性たちの頂点に君臨するのですから。
「アリシアさんだっけ? 聞いていたよりも大人しくなかった?」
「そう言われると今日は。ヴェンデリン様が用意したお土産のおかげかもしれません」
「みんな気に入ってくれたようだし、玉羊羹はいい宣伝になったよ。王都にあるアキラのお店でも売れば、きっと売れるはずだ。エリーゼのおかげだから、王都で見つけた新しい製菓店のお菓子を買って来たよ。ここは新店なんだけど、試食してみたら美味しくてさ。屋敷でみんなと一緒に食べようか?」
「はい」
アリシアさんのお誘いは苦手だったんですけど、ヴェンデリン様のおかげでこれからもどうにか乗り越えられそうで安心しました。
優しいヴェンデリン様と結婚できて、私は本当に幸せ者です。




