第42話 魔道具窃盗事件(その2)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「よしよし。これだけの車両が集まれば、我がドルトイ伯爵領の開発は大いに進むぞ。貧民など、どこからでも湧いて出てくる雑草のようなもので、他に捨てるしかないと思っていたが、使い道はあるようだな」
「ええ、仕事を依頼した盗賊ギルド員が捕まらないよう、その囮役とする。捕まった時に、もし自分たちがどこの領民なのか喋ったとしても、こっちは知らぬ存ぜぬを貫き通せばいいのですから。役立たずでいらない子供など、領内にいくらでもいますし、次々と生まれてくるのですから」
「まだまだ車両は必要だ。どんどん盗ませろ」
「畏まりました、お館様」
このところ、古代魔法文明時代の発掘品や、魔族から手に入れた魔道具が世間に普及してきて、領地の開発が一気に進んでいるという。
人力の数十~数百倍のパワーとスピードで作業が進み、魔法使いでなくても扱えるので、目端が効く貴族たちの間で奪い合いになっていた。
遅ればせながらその競争に私も参加してみたが、これら便利な魔道具の存在に気がつくのが遅れたせいで、なかなか手に入らない状況が続いている。
たまに出物があっても、高くて購入できなかった。
私が領主を務めるドルトイ伯爵家は南部と西部の境にあり、この地方一の大貴族だが、残念ながら相場が高騰した魔道具を必要数買えるほどお金に余裕があるわけではない。
魔道具が駄目なら魔族を雇う手もあると聞いたが、そのような怪しい連中を領内に入れるわけにはいかない。
領民たちも不安に思うし、魔道具ならドルトイ伯爵家の資産として残るが、魔族に金を払っても領内の富が流失するだけだ。
魔道具は欲しいが、先に手に入れた貴族たちが手放す可能性は低く、たまに市場に流れてきても高すぎて買えない。
そして、先に魔道具を手に入れた貴族たちは、領地を効率よく開発していると聞く。
このままでは、ドルトイ伯爵家は他の貴族たちに大きく差をつけられてしまう。
危機感を覚えた私は、寄親であるホールミア辺境伯に陳情した。
元々ドルトイ伯爵家は、南部の雄ブライヒレーダー辺境伯家の寄子であった。
そこに、西部ホールミア辺境伯家が我が家の勢力拡大に協力してほしいというから寄親を変更したというのに、魔道具を融通してくれと頼んでもゼロ回答しか寄越さない。
なにが、魔族の騒動で金がない、だ!
自分たちはちゃっかりと魔道具を手に入れているくせに。
寄親を、ブライヒレーダー辺境伯家からホールミア辺境伯家に変更して三百年ほど。
ドルトイ伯爵家は西部諸侯のために、南部の貴族たちを牽制し続けたというのに……。
このままでは埒があかないので、私は独自に動くことにした。
普通の方法で魔道具が手に入らないのであれば、非常の手段を用いるべきだ。
非合法の盗賊ギルドからプロの盗賊を派遣してもらい、そいつに領内でいらない者扱いされている子供たちを率いさせる。
ドルトイ伯爵家が持つ汎用の魔法の袋も使えば、多くの魔道具を盗めるはずだ。
食い詰めた子供たちが魔道具窃盗でなんの役に立つのかといえば、これは盗賊ギルド側のアイデアだ。
もし魔道具を盗んでいる時に捕まりそうになった場合、子供たちを捕縛させ、その間に汎用の魔法の袋を預けたリーダーを逃がす。
捕まった子供たちは、家が貧しくて捨てられた子たちばかり。
もし盗みの罪で牢屋に入れられようが、 強制労働させられようが、最悪処刑されようが。
余計な食い扶持が減って大いに助かるというもの。
子供たちには、もし自分の出身地を喋ったら家族を殺すと脅してあるし、 喋ってしまったところで、ドルトイ伯爵領にそんな子供たちは存在しないと言い張れば済む話だ。
そして、盗みはとても上手くいった。
まさか、南西部一の貴族であるドルトイ伯爵家が魔道具を盗ませているとは思うまい。
貴族なのに、盗みなどしていいのかだと?
私だってこんなことはやりたくなかったが、これも王国と一部の大貴族たちが魔道具を独占するからだ。
特にバウマイスター辺境伯家は罪深い。
元は貧乏騎士の八男のくせに、千年の歴史を持つドルトイ伯爵家よりも多くの魔道具、広い領地を持ち、爵位まで抜きやがって!
それに加えて、これまでドルトイ伯爵たる私に挨拶一つなく、礼儀がなっておらん!
せめて挨拶に来て、魔道具の一つでも贈り物として持参すればまだ可愛げがあったものを。
「ホールミア辺境伯家も、ブライヒレーダー辺境伯家も、バウマイスター辺境伯家もお話にならん!」
ならば、ドルトイ伯爵家は独自に動くしかない。
結局魔族とも戦争にならなかったこの世界において、自分の領地をいかに発展させるのかが、家と領地を栄えさせる鍵となるのだから。
だからそれに必要な魔道具を、他の貴族たちから盗んででも手に入れる。
それを領内の貧しい子供たちに手伝わせれば、もし失敗して捕まったり殺されても損はない。
貸し出している汎用の魔法の袋は、盗賊団のリーダーである盗賊ギルドメンバーだけに持たせているし、万が一の時は子供たちなど見捨てて逃げるよう言ってある。
汎用の魔法の袋は非常に高額で、先祖が苦労して手に入れたものだ。
役立たずの貧民の子供たち千人よりも貴重……我が領地の邪魔者でしかない者たちなど何人いても、魔法の袋の紐以下の価値しかないのだから。
今のところは盗みも上手くいっており、屋敷の隣の土地には、これまでの成果が多数置かれていた。
「(ふふふっ、やはりやったもの勝ちよ)」
これだけの魔道具があれば、大々的に領地を開発できる。
もし魔道具を盗まれた貴族たちがドルトイ伯爵家に疑いをかけたところで、本当に盗まれたものなのか、完全な証明は難しい。
それにここは、私の領地なのだ。
余所者など絶対に入れなければ、ドルトイ伯爵家が魔道具窃盗の黒幕だという証拠は掴めまい。
「(それにだ……)」
西部諸侯、それもホールミア辺境伯家及び、寄子たちからは魔道具を盗んでいない。
もし魔道具を盗まれた貴族の中にホールミア辺境伯家の関係者がいると、ホールミア辺境伯家も動かざるを得ないからだ。
他の地域の魔道具を盗まれた貴族たちがホールミア辺境伯家に苦情を入れたところで、私が濡れ衣だと騒げばなにもできまい。
もし私の悪事が露呈すれば、ホールミア辺境伯家にも被害が及ぶ。
ホールミア辺境伯家からしたら、魔道具窃盗はドルトイ伯爵家の仕業ではないことにした方が楽だからな。
それにたとえ王国でも、このドルトイ伯爵領を勝手に捜査などできないのだから。
「魔道具の車両はもっとあった方がいいな」
「ですがお館様、このところ多くの貴族たちがしっかりと盗難対策をしてきまして、盗みやすい車両が減っております」
「田舎貴族たちも、そこまでバカではないか……」
魔族との接触以降、彼らの国からやってくる魔道具の量が増え、これを購入する貴族は増えた。
一台あれば人間の数十人分の仕事をしてくれるのだから、多少高くても購入する貴族が多いのは当然だが、残念ながらその管理方法は甘かった。
特に田舎の領地では、外からやって来る人自体が少なく、余所者になにかを盗まれた経験がないところも多い。
せっかく手に入れた車両の保管が適当なので、とても盗みやすかった。
そんな防犯体制が甘い貴族たちの魔道具や車両を盗ませまくっていたら、さすがに警戒されるようになったか。
「魔道具や車両は、一つでも多くあった方がいいからな。盗めそうな貴族の領地をピックアップしてくれ」
「畏まりました、お館様」
リスクがあるので転売はできないが、領内で使う分には問題ない。
購入費用を開発資金に回せば、我がドルトイ伯爵家はこの地方でさらに大きな影響力を持つことができる。
南部と西部の境にあり、過去には南部から西部、西部から南部と、何度も寄親を入れ替えてきた。
ホールミア辺境伯家も、ブライヒレーダー辺境伯家も、力を増したドルトイ伯爵家を手駒に加えて優位に立とうとするはず。
その際、今回の魔道具盗難の件を不問にしてもらうことも可能だろう。
誰もが汚いやり方だと思うだろうが、もはや綺麗事など言ってられない。
我がドルトイ伯爵家繁栄のためなら、私はどんな悪事にだって手を染めてみせよう。
なぜならこの私は、ドルトイ伯爵家の当主なのだから。
「お館様! 情報が入りました。なんと、あのバウマイスター辺境伯家が……」
「それは素晴らしい情報だ」
これまでズルをし続けたバウマイスター辺境伯家から、多数の車両を奪う。
これほど痛快なことはない!
すくに命令を出すとしよう。
「『バウマイスター辺境伯領内に新しく作った車両置き場はまだ警備体制が甘い』。こんな嘘、信じる奴いるのかな? ましてや、相手はプロだろうに……」
「お館様、そこは信じるように細工をしてあるんですよ」
「なるほど。で、本当に盗ませるわけだな」
「ここに置いてある車両には、ゾヌターク共和国製の新型魔導位置測定装置をつけてあるから、その行き先を簡単に追いかけられるからの」
「新型の魔導位置測定装置は、魔法の袋に入っていても反応があるから、追跡も楽だろうしな」
「汎用の魔法の袋は容量が定まっておりますし、次の盗みに使うには一旦中身を取り出す必要があります。盗まれたものが置かれた場所こそが、黒幕の領地というわけです。それさえ判明すれば、もう貴族として終わりですな」
「盗まれた魔道具が魔法の袋の中に仕舞われていても、常にこの魔導オロシスコープに反応が出る。あとは、反応が出た位置に領地を持つ貴族を強襲して、魔道具盗難の証拠を掴むだけよ」
「陛下、心踊りますな」
「おうよ、導師」
「あまりやりすぎないようにしてくださいね、陛下」
「ブランタークは異なことを申すの。向こうは、どうせ自分は貴族だから悪いことをしても罪に問えまいと、調子に乗って盗みを重ねている輩ではないか。そういう者たちに甘い処置を取るとますます図に乗るのでな。厳しく処罰するに限る」
「陛下の意見に賛成なのである!」
エリーに相談したところ、ゾヌターク共和国には盗難防止の小型GPSのようなものがあると教えてくれて、さらにアーネストが魔法の袋に仕舞われていても反応するように改良してくれた。
早速車両にセットし、ブライヒレーダー辺境伯やヴァルド殿下も盗難事件を問題視しているそうで、囮捜査のようなことをする羽目になってしまった。
盗賊団に盗ませる車両は俺が提供しているので、戻ってこないと大損だから、確実に黒幕を特定しないと。
俺、ローデリヒ、エリー、導師、ブランタークさん他。
少人数だが精鋭といっていい面子で、盗賊団が魔道具を盗みに来るのを待ち構えていた。
「(そんなわけで黒幕よ。自分は貴族だからもし窃盗がバレても、忖度してもらえると思うなよ!)」
俺は大貴族だけど、前世の癖で貧乏性だ。
ただ魔道具を盗まれて損をしたくないので、必ず窃盗犯も黒幕の貴族も捕まえてやる。
できたばかりの車両置き場という設定なので見張りはいないことになっているけど、実は俺たちが魔法で姿を隠しながら窃盗犯の登場を待っていた。
「ヴェンデリン、数日のうちに来るといいな」
「何日も見張るのは疲れそうだから、できれば今日来てほしいよ」
「余は結構楽しいぞ」
エリーは、盗賊団を捕まえるための張り込みという非日常を心から楽しんでいるようだ。
俺は、貴族の犯罪捜査と犯人の捕縛なんて完全なボランティアだから、一日でも早く犯人が見つかるに越したことはないと思っている。
「(ヴェル、来るよ)」
「(おおっ! さすが!)」
ルイーゼがかなり遠方にもかかわらず、こちらに接近してくる集団を察知した。
「(ありゃりゃ、先を超されちまったな。魔力のある武道家は、本当に鋭いよな)」
ブランタークさんも、ルイーゼの探知能力に驚いていた。
彼女は天才肌で鍛練なんてあまりしてません的に見せて、結婚しても、出産しても鍛練を休まない。
そりゃあ、天才が努力すれば強くなって当たり前というか。
「(魔法使いはいないけど、一人あきらかにプロっぽい人がいるね)」
「(よくわかるのである!)」
「(他の人も、この人に教わって足音と気配を消しているんだろうね。でもまだ全然未熟だから、すぐにわかっちゃう)」
「(全然わかりませんけど……)」
「(私もですわ)」
エリーゼとカタリーナは武道家タイプじゃないから、遠くにいる人たちの足音なんて聞こえないと思う。
俺にも聞こえないし。
「(ぬぉーーー! 某もまだまだ未熟である!)」
導師、あなたは魔法使いなんだから、無理にルイーゼの真似をする必要はないと思いますけど……。
「(みんな、静かに!)」
常識人のイーナに注意され、静かにこちらに接近してくる集団を待つ俺たち。
彼らは囮の車両置き場に到着すると、大量に置かれた車両に接近した。
「(辺境伯様、随分と囮が沢山置いてあるが、本当にいいのか?)」
「(このくらいやらないと、窃盗団がやって来ないかもしれないので)」
窃盗団と、その黒幕である貴族の捕縛なんてボランティアだから、時間すら惜しい。
なるべく早く捕らえるためにも、餌は多めの方がいい。
「(どうせ、あとで必ず取り返すので)」
「(それもそうだな。辺境伯様)」
「(やっぱり)」
黒ずくめの格好をした窃盗団は、汎用の魔法の袋を持っていた。
それに次々と、置かれている車両を収納していく。
「(ヴェンデリン、あの窃盗団じゃが、リーダーと思われる人物以外は子供ばかりに見えるの)」
「(本当だ)」
テレーゼの指摘どおり、リーダー以外は体が小さく子供にしか見えない。
しかしまぁ、この世界も世も末というか……。
大人が子供に盗みを手伝わせるなんて……。
と思っていたら、ここで予想外の行動を取る人物が現れた。
「ここで会ったが百年目なのである! 連続窃盗犯! 覚悟するのである!」
「だぁーーー! 導師ぃ! このまま泳がせて黒幕を探るって話だったじゃないか!」
「事情が変わったのである! 逃がさないのである!」
事前の計画では一旦車両や魔道具を盗ませ、彼らがアジトに戻ったところを一網打尽という計画だったのに、なぜか導師が飛び出してしまった。
当然全身黒ずくめの服装と、目出し帽姿の窃盗犯たちは動揺を隠せなかったが、リーダー格と思われる一番背が高い窃盗犯だけは即座に混乱から回復し、なにかを地面に叩きつけた。
「煙幕か!」
「姑息な! なのである!」
急に視界が白煙で覆われたため、導師の次に突入したエルと、導師も一瞬動きを止めてしまった。
だが……。
「俺には通じないぜ!」
「同じく! 姿なき敵の位置を探す! 魔闘流の得意分野だね!」
「甘いですわ! わずかな魔力の流れですが、お師匠様皆伝の『探知』にかかれば」
「カタリーナと同じく、妾も鍛錬を積んでおるのでな」
「このくらいできないようでは、上級魔法使い失格ですから。覚悟してください!」
ブランタークさん、ルイーゼ、カタリーナ、テレーゼ、リサは、白煙に包まれていても、窃盗団のリーダーの位置を見逃さなかった。
まさか窃盗団のリーダーも、これだけの魔法使いが待ち伏せていたとは思わなかったようだ。
次々と窃盗犯たちを捕らえていくが、俺はどうしてリーダーが煙幕を張ったのかが理解できた。
相手は盗賊ギルドに所属するプロのはずなのにえらく簡単に捕まってしまうと思ったら……。
「あれ? リーダーじゃない。小ささから子供の方か!」
「ルイーゼよりも小さい……。リーダーはどこだ??」
「エル! この際ボクの身長はどうでもいいじゃない! 煙幕を張った理由がわかったよ。しかも、こうも現場が騒がしいとリーダーの判別ができないよ」
「しまった! 俺もリーダーの判別ができねえ! さらにリーダー格と思われる男の姿がいつの間にか消えていやがる。これは、やられたかもしれないな」
窃盗団のリーダーが煙幕を張ったのは、自分だけ逃げるつもりだったからか。
いきなり煙幕を張れば、連れていた子供たちは混乱して暴れるから、みんなそちらばかり捕まえてしまい、その間にリーダーだけが現場から逃げ去っていた。
さすがは、非合法な盗賊ギルドの一員。
実に卑怯で姑息な手を使う。
リーダー以外は捨て駒ってわけか。
「窃盗犯に善性を求めるのは難しいけど、手下を犠牲にして逃げるなんて卑怯だよな」
エルの言うとおり確かに卑怯だけど、同時に間違いなくリーダーはプロの窃盗犯で、盗賊ギルドのメンバーだろう。
「盗賊ギルドの正会員ともなると、正会員ではない食い詰め者たちを用いて集団で盗みを働くとか。もしくは、正会員を目指す新人たちに経験を積ませるため、現場に連れて行くこともあるそうだが……こいつらは違うな」
そう説明しながら、ブランタークさんが捕まえた窃盗犯の目出し帽を取ると、やはり全員が子供だったのか……。
「逃げたリーダー以外は子供ばかりか……」
みんながそれぞれに捕まえた窃盗犯の目出し帽を取ると、全員が子供だった。
「よくある手だけどな」
「自分が逃げるための囮ってことですか……」
「そんなところさ。盗賊ギルドの正会員は、凄腕のプロの窃盗犯ばかりだ。彼らが滅多に捕まらないのは、時にこういう手を使うからさ 」
ありそうなお話ではあるけど、実際この目にするとなんか気分がよくないな。
同時に、まんまと逃げおおせた窃盗団のリーダーと、彼が所属している盗賊ギルドにもいい印象を持てなかった。
元々盗賊ギルドにいいイメージを抱けるわけもないか。
「イメージがよくないのは当然だ。盗賊ギルドは言うまでもなく非公式なギルドで、全員漏れなく泥棒なんだからな。それでも、こいつらと繋がっている貴族や商人は一定数いるんだよ」
「盗品売買で役に立つから?」
「それもあるし、世の中にはどんなことをしてでも手に入れたい物なんてのがあると、盗賊ギルドに仕事を頼む貴族や商人が一定数いるのさ」
「その欲しいものに所有者がいた場合、盗賊ギルドに盗んできてもらうんだね」
「そういうこと」
「嫌なお話だねぇ。ボクは全然感心できないな」
ブランタークさんの説明を聞き、ルイーゼはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
「車両の連続窃盗犯は、どうしても欲しかったから、盗賊ギルドに盗ませているんですね」
しかしながら時と場合によっては、大貴族たる俺も盗賊ギルドとお付き合いする必要があるのかな?
だとしたら、かなり嫌なんだけど……。
「辺境伯様、いくら貴族が清濁併せ呑む必要があるといっても、マフィアはともかく盗賊ギルドとなんて付き合う必要はないんだぜ」
「そうなんですか?」
「グレーゾーンのマフィアとは違って、盗賊ギルドは非合法で非公式だ。ごく希に、王族だの貴族が盗賊ギルドの助けを借りなければいけないことがあるにしても、自分が盗賊ギルドと仲良くする必要なんてない。他人を介して接触できるし、貴族本人が彼らと接触する必要はない。そのための家臣だからな」
ローデリヒも、盗賊ギルドとのツテがあるのかね?
俺は知らなくていいんだろうけど。
「彼らは捕まると、死ぬまで鉱山で働かされるか、最悪処刑されてしまう。だから、捕まっても構わない人員を複数用意しておく」
「それがこの子たちかぁ……」
捕まえた窃盗犯の目出し帽を取ると、全員が子供だった。
しかもみんな痩せてて、あきらかに栄養状態もよくなさそうだ。
呆気なく捕まってしまったせいか、子供たちは目には涙を溜め、口を食いしばっていた。
「体が小さくて違和感があったんだけど、どうせいざという時に捕まるのが仕事だから、食い詰めた貧しい土地の子供で十分ってことか……。黒幕ってのは、ろくでもない貴族なんだな」
エルも決して豊かな土地で育ったわけではないので、盗賊ギルドと、車両窃盗団の黒幕である貴族に嫌悪感を覚えたのだろう。
あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべている。
「作戦は失敗かな」
俺たちは子供たちなんて目もくれず、リーダーを捕らえる必要があった。
だが俺たちは盗賊の捕縛には慣れていなかったので、つい煙幕のせいでリーダーを見失ってしまい、立往生していた子供たちを捕らえてしまった。
リーダーが煙幕を張ったのは、自分と子供たちの区別がつきにくくするためでもあったのだ。
「きっとリーダーが魔法の袋を持っているんだろう。完全にしてやられた」
新型魔導位置測定装置もあるし、本来の作戦ではリーダーは泳がせる予定だったので失敗ではない。
でもなんか、煙幕のせいで盗賊団のリーダーにしてやられた感がある。
「辺境伯様、それなら大丈夫だぜ」
「大丈夫?」
「導師が、リーダーを追跡しているからな」
「あっ! そういえば!」
いつものように白煙の中に平気で突撃してからずっと導師がいないことに、今、ブランタークさん以外の全員が気がついた。
「ああ見えて導師は、あの手の輩を捕縛するのに慣れてるんだよ。辺境伯様たちが囮を懸命に捕らえている間、ずっとリーダーを追っていたのさ」
「そうだったんだ……」
導師が突然作戦を変更して飛び出したのは、窃盗団のリーダーを確実に捕らえるためだったのか。
「この子供たちは大分疲弊しているようだな。導師は、黒幕のいる場所までこの子たちを歩かせるのが可哀想だったんだろう」
「そこまでは考えてませんでした」
普段はハチャメチャだけど、導師は子供に優しいからな。
それと、もしこの子供たちが無事に盗みの仕事を終えたところで、 黒幕の領地に戻ってしまうと、最悪口封じで殺されてしまうかもしれない。
それに気がついた導師が、急遽作戦を変更したのか。
「導師様、よくすぐに窃盗犯たちが子供だって気がつきましたわね」
「経験があるからさ。カタリーナの嬢ちゃんたちもじきに気がつくようになるさ。あとは導師に任せて、ひとまず撤収だな」
俺たちは、捕まえた子供たちを連れて屋敷へと戻った。
「とりあえずこの子供たちは、お風呂に入れて、着替えさせて、 ご飯でも食べさせておいてくれ」
「わかりました」
痩せて汚れた子供たちの世話を、ドミニクたちに任せることにする。
この子たちは窃盗犯だが、盗賊ギルドのリーダーに無理やりやらされていたようだし、黒幕の貴族に逆らうのも難しかったはずだ。
子供を牢屋に入れるのもどうかと思うし、どこの領地の出身なのか聞き出さないとな。
厳しくするよりも、お風呂と食事で懐柔する。
まさに太陽と北風だな。
「……」
「ゴクリ……」
「お腹が空いてないってことはないよな? 食べないのかな?」
「ボクたちに捕まっちゃったから、処刑でもされるんじゃないかと思って心配してるのかな?」
「処刑って……」
捕まえた子供たちをお風呂に入れ、着替えさせてから食事を出したが、なぜか緊張した表情を崩さず、食事にもまったく手をつけなかった。
痩せているので、お腹が空いていないってことはないと思うけど……。
「遠慮なく食べていいんだよ」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
俺は遠慮する子供たちに食事をとるように勧めるが、小さいのに家族から離され、盗みを手伝わされていたのだ。
しかも俺たちに捕まってしまい、このあと自分たちがどうなるのか、不安で堪らないのだろう。
「(こういう時って、どう言えばいいのかな?) すぐにお家に戻してあげるから、ちゃんと食事をとらないと動けなくなってしまうぞ」
「あのぅ……」
子供たちを代表して、 最年長と思われる少女が俺に話しかけてきた。
年齢は、七~八歳というところか?
いや、この子供たちは全体的に栄養が足りていないようで、 体が小さくて痩せているから、実はもっと年上かもしれない。
「ええと、君の名前は?」
「レナータといいます」
「レナータか。いい名前だね。レナータはいくつなのかな?」
「十歳です。私たちは悪いことしたから、処刑前の最後の晩餐なのでしょうか?」
「……」
盗みで死刑なんて、普通に考えたらあり得ないと思うんだが……。
それに、出している食事も最後の晩餐というほど豪華なものではない…… しっかりと栄養が取れるものは用意してあるけど。
「いや、死刑はないから!」
「私たち、故郷を出る時にお館様がおっしゃったんです。決して捕まるなよ。もし他所の土地で盗みがバレたら、容赦なく首を刎ねられるぞって。それともし故郷のことを話したら、家族を一人残らず処刑するって。だから私たちは……ひっく……」
「酷い貴族もいたものだな」
「何様なのかしらね。その貴族は」
「本当だよね。イーナちゃん」
家族から引き離して盗みを手伝わせて挙句、 捕まって自分の故郷のことを話したら家族を処刑すると子供を脅すのだから。
エルのみならず、みんなが黒幕である貴族の批判を口にした。
「その手の貴族は一定数存在しておってな。特に普段あまり他の貴族と交流がなく、領地に籠っているような者が多い。領地の中で自分に逆らうものなどおらぬから、徐々に常識の尺度がおかしくなっていくのじゃ」
「自分は貴族だから、領地を発展させるためには盗みを働く決断もするし、盗みを領内の貧しい子供たちにも手伝わせ、もし捕まったら故郷や家族のことは口にするな。喋ったら家族を殺すと脅かす。非道な行為だが、これも領地発展のために必要な犠牲だって本人は思っているんだろうな」
「本人はな。そのような極端なことをせずとも、 その前に打てる手はいくらでもあるのじゃが、 残念ながら貴族としてのプライドばかりで、能力が伴っておらぬようじゃの」
「レナータ、無理に故郷のことは話さなくてもいいから。しばらくこのお屋敷で生活していればいいのさ。そうだ! 文字の読み書きはできるかな?」
「いえ、できません……」
レナータたちは、首を横に振った。
普通、領民にはカタカナの読み書きと簡単な計算くらいは教えるはずなんだが、いったい黒幕の貴族の領地はどうなっているんだ?
盗賊ギルドと組めるのだからそれなりの大物のはずなのに、領民たちに最低限の教育も施さない。
そんなことをしているからなかなか領地は発展せず、極端に走って他の貴族から魔道具を盗むなんて羽目……。
どう考えてもおかしいけど。
「黒幕が誰なのかは、導師が盗賊団のリーダーを追いかけているから、子供たちに聞かなくても問題ないさ」
無理に聞こうとするのも可哀想だから、あとは導師からの報告待ちだな。
子供たちは…… もう少し落ち着いてから身の振り方を考えるとしよう。




