第40話 地方巡検使バウマイスター辺境伯(後編)
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「よう、ルックナー侯爵殿じゃねえか。このところ、地方の連枝が数名バウマイスター辺境伯に叩き潰されてご機嫌斜めかな?」
「……エドガー侯爵、人のことが言えるのか?」
「俺か? 俺はなんとも思ってないぜ」
「奇遇だな。ワシもなんとも思っていないぞ」
王城のサロンに顔を出したら、エドガー侯爵から先制口撃を食らったが、なんとなくそんな予感がしていた。
このサロンは、大臣かそれに近しい役職に任じられる家の当主ばかりが集まるサロンであり、今注目の話題は、地方巡検使に任じられたバウマイスター辺境伯が嵐を起こしている件であろう。
地方巡検使に任じられると、必ず駄目な貴族が目についてしまう。
地方巡検使本来の役割としては、その駄目な貴族を告発しなければいけないのだが、彼らの背後には親戚や寄親の影があり、下手に告発すると彼らが出てくるケースが多い。
地方巡検使もトラブルなく仕事を終えたいので、駄目な地方領主が放置されることが大半だった。
自分が楽をするために目を瞑るわけだ。
駄目な貴族を庇う貴族たちを悪政の共犯だと批判する者たちもいるが、もしその貴族がそれで連枝を失って落とすと、かえって王国全体の統治が混乱する可能性もあると考えられており、なかなか地方の駄目貴族の排除が進んでいなかった。
そんな状況のなか、陛下がバウマイスター辺境伯を地方巡検使に任じた。
その真意はわからないが、連絡役になっているヴァルド殿下は自分の右腕だと思っている……バウマイスター辺境伯は自分が彼の右腕だという自覚はないだろうなというのが、我々全員の一致した意見だが……彼の存在と顔を、王国中の貴族たちに覚えさせるためだろう。
だが地方巡検使に任じられたバウマイスター辺境伯は、これまでの忖度など無視して悪徳貴族を容赦なく告発し、それに激昂して襲いかかった彼らを叩きのめし、その罪も告発した。
彼は一人で巡検をしているから、密かに消せば自分は告発されずに安心だと思っての行動だろう。
世間知らずな地方領主らしいバカな行動だ。
正直なところ、頭が悪いとしか言いようがないが、長年自分の領地に籠ってそこの王様みたいな存在だったのだ。
外部の人間であるバウマイスター辺境伯がいくら優れた魔法使いでも、所詮は一人だと思って、おかしな真似をしてしまった心情もわからなくはない。
要するに、外の世界など知らない子供が、自分の思い通りに行かなくて暴れたのと同じだ。
問題なのは、いい年をした貴族が、教育中の子供と同じような態度を取っている点だろう。
子供とは違って、そんな痛々しい大人を教育し直そうとする者はいないのだから。
「バウマイスター辺境伯だが、随分と遠慮なく潰したな」
「ああ、おかげでかなりの数の領地が領主交代になったり、悪質だと判断されて改易された者もいる。新しい代官と新領主の人選で、内務卿は仕事が増えて大変だな。勿論、予算を執行する財務卿もだ」
「そうだな。もうワシではないから任せるしかないが」
「貴族なんて、滅多なことで改易にはならないんだが……ここ最近はそうでもないか。バウマイスター辺境伯が世に出て来てから、かなりの数の貴族が領地と爵位を失っている」
「エドガー侯爵、これも時代かね?」
「だろうな。だが、これまでの懸案事項だった駄目貴族がかなりの数消えたんだ。王国の風通しはよくなった。ルックナー侯爵は、バウマイスター辺境伯に文句を言いに行かないのか? 潰された元貴族や彼らに同情した寄子たちから、処分を撤回させろと陳情されているんじゃないのか?」
「エドガー侯爵も同じだろう?」
「まあそのうち、バウマイスター辺境伯のところに顔くらいは出すさ」
「それで、やりすぎだと文句を言うのかね?」
「そんなことはしねえよ。ちょっといい酒が手に入ったからな。まあ、バウマイスター辺境伯もヴィルマも酒は飲まんから、他の奥方たちか贈答品に回ると思うがね」
「ワシもなにか持って挨拶にでも行くかな」
ワシらの話に聞き耳を立てている他の貴族たちも、バウマイスター辺境伯に文句を言いに行く者はいない。
それはそうだ。
これまで、貴族は極力潰さないもの。
どんなに駄目貴族でも、親戚だったり寄子なら、処罰されないように庇わないといけないものとされていたが、実は駄目貴族なんて庇ってもいいことなんて一つもないのだから。
「ぶっちゃけ、地方にいる、顔もほとんど見たことがない地方領主なんて庇っても、利益なんてないからな。逆に、そのバカの悪評の巻き添えを食らうんだから」
「とはいえ、大切な連枝、派閥の一員であろう?」
「数を頼りにするのなら、そいつが貴族として残るのも大切だが、そんな奴庇っても、いざという時に役に立たん! 少なくとも戦ではな。どうせずっと地方の領地に籠っていて、こっちの要請なんて聞きゃあしないんだから」
「確かにな」
それならバウマイスター辺境伯が大ナタを振るう前に、駄目な貴族を潰せばいいという話になるだろうが、下手にそんなことをすると、他の大貴族たちに攻撃されるかもしれない。
あいつは親戚と寄子も庇わない、血も涙もない貴族だと。
庇われなかった貴族がどんなに酷い奴でも、そのことを知る者は意外と少ない。
なぜなら、その貴族は普段領地に籠っているのだから。
『同じ貴族を潰す、血も涙もない貴族』だと思われてしまうので、駄目貴族でも放置する方が自分は損をしないという結論になってしまうのだ。
「それに、駄目貴族を庇う貴族も微妙な奴らだからな。俺がバウマイスター辺境伯の屋敷に季節の挨拶に行けば、勝手に苦情を言いに行ったと思い込むだろう。どうせバカだから詳細なんて調べねえんだから」
ワシも苦情など言いに行かぬが、外部からそういう風に見えたら好都合だ。
どうせ彼らとて、改易された貴族の沙汰が取り消しになるなんて微塵も思っていないはず。
ようは改易された貴族に恨まれたくないのと、貴族同士は庇い合うものという伝統を守りたいだけだ。
自分の親戚なり寄親は、ちゃんとバウマイスター辺境伯に苦言を呈しに行ったというアリバイが欲しいだけなのだから。
ワシらもそれを期待して、全然違う用事とはいえバウマイスター辺境伯の屋敷に行く予定だ。
「今回は、北部でかなりの数の問題貴族たちを薙ぎ払ってくれたので、次は東部や西部の駄目貴族も潰してほしいな」
「それは、ヴァルド殿下がまたバウマイスター辺境伯を地方巡検使に任じるかによるな」
ヴァルド殿下とて、潰された貴族の親戚やら、なにかしら繋がりがある王族から、今回の件で苦情を言われているはずだからだ。
とはいえ、貴族同士の繋がりなんて実に曖昧なものだ。
普段つき合いがないのに、いきなり繋がりの強さをアピールされたりする。
そんな事情もあり、いざとなると『一応行ってきた』感を出すことに注力する者が大半だ。
特に大物貴族は自分の影響力を維持するため、そんなに縁がなくても出張るケースが多い。
王族は大した力もないので、自分を大きく見せようと安請け合いしたり、顔も見たことがない地方領主とはいえ、『頼られる』のが嬉しくて陳情に励む者もいる。
たとえそれが、五代前に婚姻していて血の繋がりがある、程度の縁だとしてもだ。
ただその陳情を受ける我々のような貴族からしたら、時間ばかりかかって疲れるだけだし、一応王族なので無視もできず、トラブルがあって延びたが、財務卿の任期が終わってホっとしているのが事実だ。
「俺のところは、バカが消えてくれてスッキリだぜ。バウマイスター辺境伯、もっと駄目貴族を潰してくれないかな」
バカにバカと言えなかったり、クソ野郎でも簡単に潰せないのが貴族社会の辛いところだが、バウマイスター辺境伯ならそれを乗り越えられる力と今の立ち位置がある。
彼は貧乏騎士の息子で初代で成り上ったから、多少のヤンチャも仕方がないと貴族社会では思われるからだ。
ゆえにこれからも、定期的に地方巡検使になって駄目な貴族を潰してほしいものだ。
派閥維持のためとはいえ、バカを身内に抱えるのは疲れるのだから。
「ワシも、王都で有名なお菓子でも買って挨拶に行くかな。バウマイスター辺境伯は、酒よりもこっちの方が嬉しかろう」
エドガー軍務卿とそんな話をしていたら、周囲の貴族たちが納得したような表情を浮かべたり、急ぎサロンから出て行く者たちもいた。
きっと、多くの貴族を潰したバウマイスター辺境伯に一言文句を言ってやる体で季節の挨拶に行くつもりなんだろう。
貴族ってのは、外の目を気にしないといけないから大変だ。
さて、バウマイスター辺境伯に持って行くお菓子はどこのお店のにするか。
こういうのは妻に聞いた方がいいだろうな。
「バウマイスター辺境伯、私のために自ら嫌われ役を買って出てくれるなんて……」
彼はこれまでどの地方巡検使も手を出さなかった、地方の駄目貴族たちを容赦なく告発してくれたので、有能な者を新しい領主に据えることができた。
そんなことをすれば、多くの貴族たちや王族にまで嫌われてしまうので、地方巡検使が形骸化した最大の理由なんだが、それをバウマイスター辺境伯が正してくれるなんて……。
「ヴェンデリン、やはり君は私の右腕に相応しい人物だ。私が王位に就いた暁には、必ず王宮筆頭魔導師となってもらおう!」
さすれば、この国はもっとよくなるはずなのだから。
「なるほど。やり過ぎることで二度と地方巡検使に任じられないようにする……。残念だが、バウマイスター辺境伯の思惑は思いっきり外れておるようだの。余としては彼を地方巡検使に任じた甲斐があったというもの。クリムトの時もとても効果的だったが、あの時は貴族と王族の反発が強すぎて、二度とクリムトを地方巡検使に任じられなんだ。バウマイスター辺境伯、次も期待しておるぞ」
勘違いをしたヴァルドは、今後も定期的にバウマイスター辺境伯を地方巡検使に任じ続けるだろう。
たとえ本人がそれを望まないとしてもだ。
余の思惑どおりなのでバウマイスター辺境伯を地方巡検使に任じることは決してやめぬが、その功績には十分報いるので諦めてくれ。
一代で成り上った英雄というのは使い勝手がいいのでな。




