第25話 高級カキ氷withアキツシマ島組(その6)
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「今日は王都で買い物をして、なにか美味しいものを食べてから屋敷に帰ろう」
そして四日目。
期間限定の高級カキ氷のお店は閉店し、俺たちはアキツシマ島からあまり外の世界に出たことがない涼子たちと王都を観光し、買い物をする。
「普段使いができるリンガイア大陸風のドレスを数着と、リョウコちゃんたちはこれからバウマイスター辺境伯領内で開催されるパーティーにも出ないといけないから、アクセサリー類や、小物、絹の手袋なんかも必要だから見繕ってあげるわ」
「「「あ……ありがとうございます」」」
「バウマイスター辺境伯様は、綺麗な奥さんが沢山いていいわね。私も、運命の人に巡り会えないかしらぁ」
キャンディーさんは相変わらずで、彼女に慣れていない涼子たちは若干引いていた。
だがすぐに仲良くなって、涼子たちが着るドレスやアクセサリー、小物などをテキパキと見繕い、サイズなども測っていく。
彼女……ファッションのセンスのよさには、雪や唯も感嘆していた。
キャンディーさんは、結婚相手が見つからないことがただ一つの欠点というか、悩みである万能超人だからな。
「お館様、高価なものを色々とありがとうございます」
「リンガイア大陸風のドレスもいいですね。アキツシマ島の女性で欲しがる人も多いのです。おかげさまで、アキツシマ島の領民たちの生活もよくなっていますから」
「普段と違って華やかでいいです。私の分まですみません」
「エリーゼたちの分も購入しているから、気にすることはないよ。涼子たちは俺の妻なんだから」
俺も大概金持ちだけど、普段まったく無駄遣いをしないから、こういう時にはちゃんとお金を出すさ。
「バウマイスター辺境伯様、いつもご利用ありがとうございます。おかげさまで、王都とその周辺で支店もいくつか出せたのよぉ」
「へえ、それは凄いですね」
こう見えて、キャンディーさんってやり手の商売人だからなぁ。
これで冒険者としても超一流だったのだから、もの凄い才能の持ち主なんだけど、はたして彼女に運命の人は見つかるのだろうか?
「今すぐ着れるドレスがあるから、これでドレスコードのあるお店に行けるわよ」
「ありがとう、キャンディーさん」
涼子たちはキャンディーさんにコーディネートしてもらい、俺も服を着替えて、いわゆる高級レストランに移動して昼食をとった。
ここは以前俺がアドバイスをしたので、新鮮な生の魚を使った料理や、新しい味付け、調理方法を取り入れてとても美味しくなっており、店内は満席に近かった。
コース料理のみで一人前七百セントからなんだけど、世の中にはお金がある人が結構いるのに驚いた。
前世では、このランクのお店は絶対に利用できなかっただろうけど。
「どの料理も美味しいですね」
「内陸部にある王都のお店なのに、新鮮な生のお魚が食べられるのが意外でした」
「アキツシマの料理の手法も取り入れられているんですね」
唯、本当はミズホの調理手法なんだけど、まあ同じようなものか。
ただ伝統の料理に固執するだけでなく、常に新しい食材、調味料、調理方法を取り入れているからこそ、このお店は人気であった。
「今回も美味しかったな」
俺の料理のアドバンテージは、あくまでも前世の記憶からきているもの。
調理技術は大したことがないので、やはりプロの調理人がちゃんと作ると美味しい料理ができあがるな。
「次はと……。このお店は、定期的に限定商品のケーキが変わるんだ。他のケーキも美味しいから、アフタヌーンティースタンドにのったものを注文しよう」
昼食後は、やはり俺お薦めの喫茶店に入り、そこでティータイムを楽しむ。
この世界にはアフタヌーンティースタンドが存在しなかったので、俺が職人に作らせると、 客単価が高い喫茶店で大流行した。
アフタヌーンティースタンドに多彩なケーキがのっているのを見て、涼子たちは歓声をあげた。
やはり、女子にはスイーツだな。
「このアフタヌーンティースタンドは、アキツシマ島のお菓子でもできそうですね」
「木製にして漆塗りにするとかすれば、こっちでも珍しいから売れるかもしれないね」
この三日間、高級カキ氷を作り続けていたので、自分でケーキを食べてお茶を飲むと心が落ち着く。
アフタヌーンティースタンドにケーキをのせたセットはお高いけど、高級カキ氷で予想以上の収入があったし、このくらいのお金は貴族なので出せるさ。
これからエリーゼたちにお土産を購入して、全額使いきってしまおう。
「お館様、このケーキはフワフワしていて不思議ですね。味はマンゴーですけど」
「マンゴーを材料にしたムースケーキか。口当たりが軽いから沢山食べられてしまう」
涼子はマンゴーのムースケーキが気に入ったようだ。
俺が今回、高級カキ氷のみを提供したのは、ケーキなどの既存のデザートでは、プロのパティシエたちに歯が立たないからだ。
これまでにない高級カキ氷だからこそ、調理技術が一般人に近い俺でも十分勝負になったのだから。
「さすがはお館様、商売のことにもお詳しいのですね」
「詳しいのかな? すでに存在する商売で勝負をすると勝ち残るのが難しいから、これまでにないものを作って提供したほうが勝率が高いと考えただけさ」
「これまでにないものを作り出すのは大変難しいので、さすがはお館様です」
俺に言わせると、普段ローデリヒのようにアキツシマ島の統治に関わっている雪と唯の方がよほど凄いと思うけど。
「最後にお土産を見てからバウルブルクの屋敷に戻って、夕食はエリーゼたちととろう」
「エリーゼさんたちにお話することが沢山ありますからね」
「ローデリヒさんは大丈夫なのでしょうか?」
「雪、それは聞かないのが約束さ」
「雪さん、すでに終わったことを振り返っても仕方がないではないですか」
「唯の言うとおりだ。お土産はなにがいいかな?」
そのあとは、四人で大量のお土産を購入してからバウルブルクに帰還し、夕食のあとに俺が作った様々な高級カキ氷をデザートとして出したら大変好評だった。
王都に向かう前にも出したけど、この三日間でレパートリーも品質も大幅に向上したのだから。
「もの凄く美味しいけど、これが一杯三十セントとか五十セントするってのが凄いね」
「実は、もっと安価に食べられるように、量を減らしたり、トッピングを少なくしたバージョンも用意していて、一杯五~十セントくらいなら十分に利益が出るはずだ」
あくまでも、新型のカキ氷機が完成してからだけど。
「ヴェルやブランタークさんが、高級カキ氷屋に転職するわけにいかないものね」
「ルイーゼ様のおっしゃる通りです。明日からは、また領内開発のお仕事が山ほどありますから」
「それは、計画通り(ほどほど)にやるよ」
夕食にはローデリヒも招待していたが、彼も高級カキ氷がとても気に入ったようだ。
アキツシマ風抹茶金時カキ氷を食べているのは、やはりいい年をした男性がフルーツやアイス、 生クリームがトッピングされた高級カキ氷を食べるのは気が引けるからか?
昭和のオジさんみたいに考え方が古いのは、この世界はまだそうだから仕方がないとしか言いようがない。
「でもさぁ、氷の削り方でこんなにも売上が変わってしまうなんて不思議な話だね」
「たかが氷の削り方、されど氷の削り方だ」
こうして俺は普段の生活に戻ったわけだが、それから半月後。
魔族の技術者のおかげもあって、無事に新型のカキ氷機が完成し、バウルブルクに高級カキ氷のお店がオープンして大盛況になった。
来週には、ブライヒブルクにも支店がオープンする予定だ。
同時に、表通りなどでは五~十セント前後で安価なものも発売されるようになり、従来のカチ割り氷や削りの荒いカキ氷屋は、潰れないように新型のカキ氷機を購入するしかなくなった。
「うぐぐ……。よもや、魔道具で削った氷に負けるとは……」
「我々魔法使いは、氷を作る方に集中できていいではないか」
魔道具である新型カキ氷機のおかげで魔法使いが作る氷の製造量が増え、暑いバウマイスター辺境伯領では、カキ氷が名物となっていく。
そのおかげで、平民でも定期的にカキ氷を食べられるようになったので、それはいいことではないかと思う。
そして、新型カキ氷機は王都にも販売され……。
「バウマイスター辺境伯様、あのお店を無事に再開させることができました。新進気鋭のパティシエが、次々と新しい高級カキ氷を作り出しているので、多くのお客さんが詰めかけていますよ」
「本当だ」
半月前、俺と涼子たちが三日間だけオープンさせた高級カキ氷のお店は、以前と同じままオープンしていた。
隣の倉庫も本格的に改修して席数を増やしているそうだが、お店の入り口には看板がなく、外観が目立たないのは以前と同じだ。
「結局、店名はないのか」
「バウマイスター辺境伯様が店名、看板ナシでやって大繁盛しましたからね。それに、世の中の飲食店には店名と看板があるのが常識です。店名と看板がないというのは、かえって目新しいような気がしたのですよ。このお店を貸しているオーナーも、店名がないのはかえって格好いいと気に入ったようでして」
「そう言われると、看板がないって凄いですね」
「『あの高級カキ氷のお店』、で通用するようになったらもう老舗よね」
「旦那、あたいたちもあのお店で食べてみたいぜ」
「ヴェル様、私大盛り」
「…… 氷だから、お腹壊さないかな?」
「あーーー、ヴェンデリン君とエリーゼちゃんだ」
「お母様! どうしてここに?」
試しにみんなで再オープンした高級カキ氷のお店に入ろうとしたら、意外な人物に声をかけられた。
エリーゼのお母さんであるニーナ様だ。
「この前、このお店がとても美味しいってサロンで評判になっていたから、次の日に行こうと思っていたら閉店しちゃったのよ。ところが、再オープンしたって聞いたから、今度こそは絶対に行こうと思って。ヴェンデリン君、行きましょう」
そういいながら、俺と腕を組んでくるニーナ様。
エリーゼ譲りの胸の感触が……さすがは親子。
俺は、遺伝子の仕事ぶりに感心するしかなかった。
「……ヴェンデリン君ですか……」
「普段はそう呼ばれているんだな、これが」
「リョウコちゃんだっけ? だって私たちって仲良し親子だから」
その後ろで、このお店に行くのに付き合わされたエリーゼのお父さんが申し訳なさそうな顔をしているのはいつものことで、俺たちは揃ってお店に入る。
でもエリーゼのお父さんも、スイーツ界のオジサンの味方、アキツシマ風抹茶金時カキ氷を大いに気に入り、以後も同僚の神官たちと定期的に通うようになったとか。
それにしても、なんとなく思いついた高級カキ氷がちゃんと商売として成立するとは。
まだまだこの世界には娯楽が足りないのかもしれない。




