第15話 冒険者村のステーキハウス(その3)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「客数に大幅な減少は見られないな。客単価は上がったから、まずは成功と見ていいだろう」
早速、新しい営業形態となったレストランがお昼のオープンを迎えたのだが、すぐに店内はいっぱいになった。
「値上げの件を店先の看板に書いたのですが、ほとんどお客さんの数が減っていませんね。少しは減ったようですが……」
「それは、八セントのランチ以外は絶対に食べないと決めている人たちがいなくなったからだと思う」
店内はすぐに満席となり、ムーランさんとブリジットちゃん……ウェイトレスの少女の名前だ……は、焼けたステーキのみを運ぶ。
その間に、ルールが書かれた看板を見たお客さんたちが自分のサイドメニューを取りに行く。
美容とダイエットのためか、ご飯やパンを遠慮し、サラダを山盛りにしている女性冒険者らしき人たち……世界は違えどあるあるだな。
ご飯やパン、スープを多めに取る男性冒険者たちも多かったが、概ね許容範囲内だ。
やはり、これから魔の森に入るのに、お腹がはち切れそうになるまで大量に食べる人はほとんどいなかった。
配膳の手間が省けた分、二人は昨日より余裕を持って仕事をしているように見える。
やはり、昨日以前が異常に忙しすぎたのだ。
「お得な八セントのランチが食べられないのであれば、屋台やテント経営で安い飲食店に向かったのだと思う」
駆け出しの冒険者からしたら、八セントの昼食というのもかなりの負担だ。
それでもこのお店を利用していたのは、割安でステーキが食べられるからであろう。
だから彼らは、この店でそれが食べられなくなったので、もっと安い食事を提供する屋台やテントに向かってしまったわけだ。
「彼らもそのうち、このお店に来れるようになるさ」
ムーランさんは申し訳なさそうだったが、八セントのランチは利益が出ない。
たまのランチで十五セントが出せるようになるまで、新入り冒険者たちは頑張ってほしいと思う。
「どうです? 人手は足りていますか?」
「元からもう二~三人人手が欲しかったのですが、お店の経営状態を考えると決断できませんでした。でも、今日の売上と利益を見たら大丈夫そうです」
「それはよかった」
お昼の営業後、ムーランさんは売り上げと利益率を計算し、八セントランチよりも、食べ放題ランチの方が利益率が高いことを確認して喜んでいた。
「不思議ですわね」
「そうか?」
「ええ、食べ放題だと沢山食べられてしまうというのに……」
だからこそ、現代日本には食べ放題の店が沢山存在する。
まあ、食べ放題も言うほど利益率が高いわけではないけど、コストギリギリのランチよりも利益率は高い。
それに、俺にはもう一つアイデアがあった。
「夜の部ですけど、これも一気に値段を上げてしまおう。そして、食べ放題の内容を変える」
お昼休みの時間を利用し、夜の営業もテコ入れすることにした。
夜の部の方が売り上げと利益率を上げやすいからだ。
むしろ、そちらの方が本番とも言える。
「この夜の部の食べ放題を成功させることができれば、従業員をもう二~三人増やしてもお店を余裕で回せるから」
「それは凄いですね」
調理場の旦那さんも喜んでいたが、基本的には昼の部とそんなにやることは変わらない。
なぜなら、夜の部もステーキを出すことに変わりはないからだ。
だが、魔物肉のステーキをメインに出す。
そして、これに食べ放題をつけるのだ。
「ウサギ肉のステーキも肉を大きくして二十五セント。魔物肉のステーキは四十セントから、一番高いもので八十セント。随分と値上げしましたが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫さ。食べ放題がついているから」
心配そうなムーランさんに対し、俺はまたも自信満々な表情で答える。
コンサルティングにおいて、顧客を不安にさせるのはよくないからな。
夜の部のサイドメニューの食べ放題は、昼の部よりも圧倒的に豪華にした。
多少食材費は上がったが、価格も上げているので利益は十分に確保できる。
なにより、昼間とほとんどオペレーションが変わっていないので、今お店にいる人員だけでも回すことが可能だった。
とはいえ、すぐに新しい人は入れた方がいいと思うけど。
「ご飯は、普通の白いご飯とガーリックライス。スープも、魔物の骨コンソメのみならず、オニオンスープ、野菜タップリのミネストローネ。 サラダも、色々な野菜を選べるようにした。パンには数種類のジャムもついている。これは、木苺や山ブドウ、魔の森産のフルーツと、バウマイスター辺境伯領産の砂糖で作ったもの。そして、ステーキにならない固いスジ肉を煮込んだ『スジ煮込み』も食べ放題だ。フライドオニオン、フライドポテトもあるぞ!」
どれもそこまで高くないサイドメニューなので、単価が上がれば多少大食いの人が沢山食べても利益は確保できる。
作るのがそれほど難しくないというのもポイントだ。
「他にも、ジュースやお酒をメニューに加えているから、その分も利益は取れる」
飲料やお酒は、飲食店において利益率の柱だ。
原価が安いからな。
「そうだ! グラスは沢山あるから、ジュースとお酒の飲み放題メニューを加えてもいいな」
「ジュースはともかく、お酒の飲み放題ですか? 大丈夫なのでしょうか?」
大酒飲みのリサが心配するが、当然価格は高めにする。
三杯飲めれば元が取れるくらいの価格設定とし、ステーキを中心とした食事をとりながらなので、リサレベルで沢山飲める人は少ないはず。
「大体の人は二~三杯がせいぜいだし、五杯くらい飲んでも利益はあるのさ。それに、お酒を多めに飲めば、今度はサイドメニューが食べられなくなる。あっ、そうそう。サイドメニューには、魔物のスジ肉を使ったカレーも出すから」
まさに、〇テーキ〇ストのパクリであった。
最近ではカレー粉も大分安くなったし、ステーキを切り分ける時に除去した固いスジ肉でカレーを作れば、コストは十分に抑えられる。
元々賄いや、廃棄していたものの再利用なので、コストをかけず利益率を上げられるわけだ。
「お客さんがカレーを気に入って沢山食べると、こっちとしては都合がいい」
その分、他のサイドメニューやお酒を飲む分も減る。
スジ肉は、スジ肉の煮込みと共にお客さんに出せないものの有効活用なので、原価が高い野菜や、他のお店から仕入れているパンの消費量を抑えてくれる便利なサイドメニューであった。
「そして、デザートもあります!」
動物や魔物のスジから採ったゼラチンがよく出回るようになったので、これを使ってフルーツゼリーを作ってもらった。
最近、魔の森に入る冒険者が多いので、魔の森産フルーツの価格も下がってきた。
お店なら一度に大量に作れるので、一括仕入れで材料費を抑えることができる。
なにより、散々飲み食いしたあとに食べる〆のデザートだ。
これも沢山食べる人は少ないので、原価率を圧迫する可能性は少ない。
「前菜にサラダを食べつつ、肉を食べながら、パンを食べ、スープも飲む。ご飯があるので、これでスジ煮込みや、スジ肉カレーを食べても美味しい。フライドポテトやフライドオニオンもありますよ。ジュースやお酒は、三杯以上飲む人は飲み放題メニューを付けた方がお得です。デザートは、魔の森の各種フルーツのゼリーとなっております。最後の〆には最適のデザートですよ」
初日なので、俺が呼び込みをする。
これまでとは大分メニューが変わり、高くなったせいでお店に入らないお客さんも多かったが、同じくらい店頭に掲げられた看板に書かれた『食べ放題、飲み放題』の文字に釣られて入ってくるお客さんも多かった。
今は夜なので、魔の森でひと稼ぎして懐が温かい冒険者が多い。
祝杯をあげる人が多いので、夜の部は少しくらい価格を上げても大丈夫だ。
「エリーゼ、すまないね」
「久しぶりにメイド服を着たので楽しいですね」
思った以上にお客さんが入ってきたので、急遽エリーゼたちもウェイトレス姿になってお店を手伝うことになった。
とはいえ彼女たちの仕事は、食べ放題の料理やデザートがなくなったら補充することと、お客さんにお店の利用仕方を説明することであった。
「なんか、豪勢でいいな。ステーキ以外の料理は全部食べ放題か」
「お持ち帰りはできませんが、ステーキ以外の料理は、店内で召し上がるのでしたら食べ放題です。残されると罰金なので、少しずつ料理を取ることをお勧めします。また食べたくなったら、何度料理を取りに行っても問題ありませんので」
「ジュースやお酒の飲み放題もあるのね」
「三杯以上飲まれるのでしたら、そちらをお勧めします。お酒の飲み放題を選ばれますと、ジュースも飲み放題になりますよ」
「今日は思った以上に収入があって、みんなで祝杯をあげることにしたの。お酒の飲み放題もつけましょう」
思っていた以上に、冒険者の人たちは食べ放題のシステムをすぐに理解してくれたようだ。
やはり、料理の価格を上げたことが影響しているのであろう。
「バウマイスター辺境伯様、料理の値段と、お客様の質に関連性があるのですか?」
「あるよ。八セントランチをやっていた時、結構トラブルが多かったでしょう?」
「ええ、それも仕事を増やして大変でした」
悲しいかな。
商品やサービスの価格が低ければ低いほど、そういうお客さんがやってくる比率が上がってしまうのだ。
ムーランさんたちはお客さんを呼び込みたい意図もあったと思うが、駆け出しの冒険者たちが安い値段でお腹いっぱい食べられるよう、八セントのランチを始めたはず。
だが、それでは利益が取れずにお店が続かなくなる将来は確実で、なによりここは冒険者の村なので少しガラの悪い人が多い。
そして、そういう人はクレーマーになりやすいのだ。
安いランチメニューを出すことは、ステーキをメインとしたレストラン経営を志しているムーランさんたちには元々合わなかった。
労力ばかり使って最後にお店が潰れてしまったら、これ以上の不幸はない。
だからしっかりと価格設定をして、ターゲットとする客層を選ぶ必要があったのだ。
「安く料理を提供して利益率を稼ぐ方法もあるけど、まずは食べ放題ステーキレストランの経営を安定させて、従業員の数をもっと増やしてからにしよう。何事も順番どおりに進めることが大切なんだから」
「確かに、最初は食べ放題のステーキレストランなんてどうかと思いましたが、料理の値段を上げても高いという人はほとんどいませんし、ざっと計算してみましたが、ちゃんと利益が出ているのが驚きでした。まさに、目からウロコとはこのことですね。さすがは、竜殺しの英雄でいらっしゃるバウマイスター辺境伯様です。お店の経営にまで詳しいなんて……」
若妻であるムーランさんが、俺に尊敬の眼差しを向けた。
その目は少し潤んでおり……なんてことはない。
忙しいので、今日はこのまま閉店まで頑張るとしよう。
「ひゃぁーーー、忙しい、忙しい。確かに一人分ずつ料理を配膳するお店よりは人手が少なくて済むかもしれないけど、新しい人はすぐに手配した方がいいよ」
「お客さんが途切れないものね」
ルイーゼとイーナも、メイド服姿で働いていた。
どうやら想定以上に客が増えて、思った以上に作業量が増えてしまったようだな。
確かに値段は高いが、食べ放題だからお得感があってそういう風には感じない。
多くの日本人が陥りやすい感覚から、まだ食べ放題システムに慣れていないこの世界の人たちが逃れられるはずがなかった。
昼の部も大繁盛だったが、夜の部も大繁盛となったムーランさんのステーキレストランは、そのあと真似をし始めた同業者たちとの競争に勝利し、魔の森近くの冒険者村で一番有名な飲食店として、アーカート神聖帝国にまでその名が知れ渡ることになるのであった。
「やっぱり、すぐに人を入れたのか」
「はい。さすがに今日は、バウマイスター辺境伯様や奥方様たちを手伝わせるわけにはいきませんので。本日はお客様として存分にお楽しみください」
翌日の夜。
様子を見がてら、みんなでムーランさんのステーキレストランに予約を入れ、早速食べ放題メニューを経験してみることにした。
俺には前世の〇テーキ〇ストに入った記憶があるし、実は食べ放題のお店自体は、徐々に王都や大都市でも登場し始めていた。
まあ、俺がアドバイスをして始めさせたのだけど。
今のところはどのお店も成功しており、ムーランさんのステーキレストランは先行者利益を存分に得られているようだ。
だが、飲食店の経営とは生き馬の目を抜くような世界だ。
ムーランさんがこの成功に胡坐をかいて努力を怠れば、新進気鋭の後発組が彼女のお店を潰してしまうだろう。
俺は昨晩の営業終了後、ムーランさんと旦那さんに対し、『営業努力を怠らないように!』と忠告しておいた。
すぐに新しい従業員を集め、店内の清掃や、料理の質に問題はないようなので、しばらくは大丈夫だろう。
一生安定と言えないのが、飲食店経営の難しいところなのだけど。
「ただ、ヴィルマの分は多めに払わないと駄目だよなぁ」
多少大食いの人は来ても問題がないようにはしてあるが、さすがにヴィルマクラスの人が自由に飲み食いしたら利益は出ないだろう。
彼女の分は、五人分……十人分くらいは払わないと。
せっかく俺が助言したステーキレストランの経営が上手くいきそうなのに、ヴィルマの大食いのせいで潰れたら、罪悪感が半端じゃないからだ。
「ヴェル、導師がいなくてよかったな」
「たまに利用するくらいなら、導師レベルならそれほど問題じゃないさ」
確かに導師もよく食べるが、それは現在日本にもいた大食いファイターの上位ランカーレベルだ。
だが、そんな強豪たちをも遥かに上回るのが、ヴィルマという存在なのだから。
実際今も、猪バラ肉、ウサギ丸々、鹿ヒレ肉の相盛りステーキ五キロを食べながら、スジ肉カレーをご飯大盛りでかき込み、サラダ、スープ、ジャムをタップリと塗ったパン、フライドポテト、フライドオニオンも流し込むように食べ続けていた。
おかわりのために度々席を立つので、ヴィルマはとても忙しそうだ。
でも嬉しそうでもある。
「ヴィルマ、美味しいか?」
「美味しい。昨晩手伝ったあとに賄いを食べさせてもらったから、味については信用している」
ヴィルマは大食いだけど、味には結構うるさい方だ。
ムーランさんも旦那さんも、俺に言われたとおりに美味しく料理を作れる腕前がある。
だから俺も、お店の立て直しにも協力した。
いくら助言しても、それが実行できない人に手を貸しても意味がないからだ。
「ヴェル、 コース料理だとみんな同じ料理を同じ量食べないといけないけど、好きな料理を好きな量取ってこれる食べ放題は、自分の好きにできるからいいな」
「エル、サラダは?」
「……今日はステーキだからよくないか?」
「旦那様、お野菜は毎日食べないと駄目ですよ」
自分で料理を取ってくる食べ放題なのをいいことに、あまり好きではないサラダを取ってこなかったエルを、妻であるハルカが注意した。
「まるで子供ですわね」
「別に、野菜を食べないと一言も言ってないのになぁ」
呆れるカタリーナに対して言い訳めいた返答をしながら、エルはごく少量のサラダを持ってきた。
まさしく子供である。
「このジュース、とても美味しいわね」
「そうですね、イーナさん」
「デザートのゼリーも楽しみ。ヴェルもボクと同じく甘いものが好きだから、お酒よりも楽しみでしょ?」
「普段は俺も、お酒を飲まないからなぁ」
俺と妻たちのみなので、誰もお酒を頼む人がいなかった……リサも、普段は全然飲まないからなぁ……。
お酒が好きってわけでもないみたいなので。
ブランタークさんと導師がいたら、必ずお酒の飲み放題を頼んだはず。
その代わりジュース飲み放題を頼み、新鮮な魔の森産フルーツのジュースを楽しんでいる。
デザートのゼリーもあるので、普段あまりお酒を飲まない俺からしたら、こちらの方がありがたいのは事実だった。
「先生、そういえば、駆け出しの冒険者たちに安く料理を提供する方法があると言っていましたが……」
「ああ、そんなに難しい方法じゃないよ。もうムーランさんにその方法を教えているし、ちゃんと不足している従業員を集めてきたから、明日からお昼の部でやるんじゃないのかな?」
「えっ、十五セントの食べ放題以外にもやるんですか? それって手間がかかるんじゃあ……」
「いや、お昼の部と夜の部の食べ放題をちゃんと回せる状態になったら、それほどの手間でもないよ。明日、実際に見てみればわかるさ」
さらに翌日。
俺とベッティは、昼食時のステーキハウスにやって来た。
するとお店入り口の横で、ウェイトレスのブリジットちゃんが、携帯魔導コンロの上に置いた大鍋をかき混ぜている。
彼女が大きなお玉で大鍋をかき混ぜる度に、周囲にカレーのいい匂いが広がっていく。
そしてその匂いにつられて、多くの冒険者たちが集まってきた。
「いい匂いで美味そうだが、このお店はメニューを値上げしてしまったからなぁ……」
「お昼のカレーなら、一杯五セント。大盛りで六セントですよ」
「その値段なら俺でも食べられるな。一杯くれ。大盛りで」
「ありがとうございます。大盛り一つですね」
ブリジットちゃんは空のお皿にカレーライスを盛り付け、カレーの匂いで集まってきた冒険者たちに販売し始めた。
お店の前には立ち食いながらテーブルが置かれており、テーブルの上には大量の空の木のコップとお水が入ったポットが置かれている。
「お水は無料となっておりますが、セルフサービスとなっています。食べ終わった食器は隣のバケツにお願いします」
スジ肉のカレーは、夜の食べ放題で大量に使うので沢山作る。
それを、安いランチメニューに転用しただけだ。
スジ肉はステーキに使えない部分をカットしたものなので無料だし、この手の料理は沢山作れば作るほど、美味しくなるしコストも下がる。
「安いのでそれほど儲からないけど、大盛りにすればかなりの量だから、体力仕事の冒険者も満足するんじゃないかな」
駆け出しの冒険者たちが、テントや屋台のお店と同じく気軽に安く食事がとれる。
それほど儲からないが八セントランチよりは儲かるし、儲けのメインは昼の十五セント食べ放題と、夜の部なので問題ない。
なにより、すでに完成しているスジ肉カレーとご飯をよそうだけなので、一人でも対応できた。
お水はセルフサービスにしたし、もし新しいお皿が足りなくなったら、他の従業員を呼べば新しいものを持ってくることになっている。
使い終わったお皿やスプーンを洗うのは、足りなくならなければお昼休みにやれば全然問題なかった。
「かなりのガッツリメニューですが、よく見たら昨晩の食べ放題に出てきたスジ肉カレーなので効率的ですね。一種類だけしかないし、夜の部で使う分と一緒に作るから、コストも手間も節約できるとか凄いです! なにか特別なことをしているわけではないのに、 売上も利益も以前とは比べものにならないほど増えて、さすがは先生! お兄さんとは全然違いますね!」
「ははは……まあ、お兄さんは……」
「お兄さんは、ローザさんがいないと本当に駄目なんですよ」
兄と義姉が飲食店を経営しているベッティから尊敬の眼差しで見つめられてしまうが、まさか現代日本のステーキレストランのパクリですと教えてあげるわけにもいかない。
俺は誤魔化すような笑顔を浮かべながら、これにてステーキレストランの立て直しは無事に終了したと判断し、エリーゼたちのいる宿へと戻るのであった。
さあて、今日もどこか新しいお店の味を試してから、魔の森へと狩りに出かけるとしよう。




