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第百五十八話 やはり、俺の嫁は増える運命にあるらしい。

「今日は、ご招待に預かり感謝するぞ。それにしても、バウマイスター辺境伯は凄いな」


「何が凄いのですか?」


「プライベートビーチを持つ者など、魔族にはそういないからな」


 バウマイスター辺境伯家と魔王様が会長を務める会社との取引が増えていき、今日は魔王様、ライラさん、モール達を招待していつものプライベートビーチに来ていた。


 エリーゼ達もいて、みんなで海で泳いだり、バーベキューをしたり、ビーチバレーをして遊んだりしている。


 魔王様はピンク色のワンピースタイプの水着を着ており、とても可愛らしく見えた。

 少なくとも、魔王様というイメージはない。

 それでも彼女は、俺が今までに出会ったどの魔法使いの中よりも大量の魔力を持つ人物であった。


 ただ、彼女が魔法を使っているところは見た事がない。

 もしかすると、魔法が使えないとか?

 それはないと思うが、魔族の国では使う機会がないのかもしれない。


「どうかしたのか? バウマイスター辺境伯」


「陛下は、魔法を使わないのですか?」


「使わなくもないが、普段は魔道具で事足りてしまうからな。王家に代々伝わる魔法というものもあり、これはたまにライラと練習しておるぞ」


「いかに権力をなくした陛下とはいえ、伝統の王族魔法の修練は必須ですので」


 紫色のビキニを着たスタイル抜群のライラさんが、魔王様に続けて事情を説明した。


「その魔法って、本か何かで伝わっているのですか?」


 魔法の事なので興味を持ったカタリーナが、ライラさんに質問した。


「はい、数少ない王家に残された家宝ですね」


「貴重なものなのですね」


「いえ、写本は本屋で売られております。本物を所持していますが、文化的な価値はともかく資産的な価値はさほどでも……ちょっとした古文書扱いですね」


 せっかく王家に残った秘蔵の魔法書ですら、魔族の国ではさほどの価値もないのか。

 何か切なくなってきた。


「とはいえ、王家の魔法は習得できる者が少ないので、本は残っていても積極的に覚えようとする者はいません。今の魔族の社会では役に立ちませんし。無職の暇人くらいでしょうか?」


「「「ギクッ!」」」


 ライラさんの指摘に、モール達が反応した。

 もしかして、無職時代に王家の魔法を覚えたのであろうか?


「バウマイスター辺境伯、俺達の魔力量じゃあ王家の魔法は無理だったよ!」


 モール達の魔力は、中級レベルしかない。

 特殊な王族魔法は使えなかったそうだ。


「どんな魔法なんだ?」


「魔王様が使う魔法だから、敵軍を大爆発で吹き飛ばすとかだね」


「王族魔法って名がついているけど、要するにただの広域殲滅魔法だから」


 ラムルとサイラスの説明を聞くと、確かに今の魔族の国では需要がないかもしれない。

 そんな魔法を、人がいる場所で使われたら迷惑なのは確実だ。

 迷惑扱いくらいならいいが、最悪テロリスト扱いで捕まるかもしれない。


「王族魔法とは、ここぞという時に使うもの。普段より鍛錬は欠かさず、万が一必要な時には躊躇わず使うものだ」


「陛下、御立派な覚悟です」


 魔王様は、そのあまりない胸を張りながら魔王としての決意を述べ、ライラさんが一人感動していた。

 みね麗しい君臣の図というやつだが、魔族では時代錯誤な考えなんだろうなと思う。


「とはいえ、今の世では必要ないがな。余もその子供も覚えるだけで終わるであろう」


「町中でぶっ放せば、捕まりますからね」


 もし町中で使ったら、器物破損と殺人で間違いなく刑務所入りであろう。

 それは俺にもわかる。


「バウマイスター辺境伯は覚える必要ないと思うな」


「高威力の魔法なら、もう使えるからですか?」


「そうだ。ただ桁外れに威力があるだけで、基礎はバウマイスター辺境伯達上級魔法使いが使う大規模魔法と大差ないぞ」


「なるほど。して、陛下はもう魔力の成長が止まったのであるな?」


 同じく海水浴に参加しているアーネストが、魔王様の魔力量について問い質す。

 彼は、シマシマ図柄で膝と肘まで布地に覆われた水着を着ていた。


「いや、まだ余は幼いからな。ただ、余は歴代の魔王の中では魔力が多い方らしい。今の時点で、既に過去の魔王を抜いておるぞ」


「それは凄いのであるな」


「アーネストとやら、そなたもなかなかの魔力量だな」


「研究にはあまり役に立たなかったのであるな。この大陸に渡る時くらいであるな。魔力の多さをありがたいと思ったのは、であるな」


 いや、お前。

 ニュルンベルク公爵に協力していたじゃないか。

 あの魔法を阻害する装置を動かして。

 こう見えて、魔族の国でも三本の指に入る魔力量を持つ人物だが、本人は本気で魔法なんてあまり役に立たないと思っているから凄い。


「でも、ヴェルよりも魔力がある人って凄いね」


「凄いのである!」


 ルイーゼと導師は、アーネストと魔王様の魔力量に驚いていた。

 導師の魔力量は、俺よりも少し少ないくらいだ。

 ただ、四十を超えた今も成長しているため、彼はかなり特殊な部類に入ると思う。


「ふと思ったのですが、バウマイスター辺境伯様は器合わせはいしないのですか?」


「アーネストは嫌」


 なぜ嫌なのかと問われたら、これは精神的な理由からだろう。

 俺なら、もう数年でアーネストの魔力は超えられるだろうし。


「某も嫌である!」


 あの導師ですら、アーネストとの器合わせを嫌がっているからな。

 これは理屈じゃなく、感情の問題であろう。


「なら、余とするか?」


「それもどうかと思いますよ」


「なぜじゃ? 古の魔族は、魔力こそが富と権力と源であった。自分よりも魔力が多い魔族がいれば、時に頭を下げても器合わせを頼んだと古文書に書いてあるぞ」


 それ、もし敵対している魔族でも頼んだのであろうか?

 人間よりは、気楽に器合わせをしていたような言い方だ。


「人間の世界には風習がありまして……」


 俺は、男女の関係にあるか親族でもなければ、異性間で器合わせはしないのだと魔王様に説明した。


「お互い、文化や慣習は尊重すべきだな。なら、アーネストと器合わせは……」


「嫌です!」


「嫌なのである!」


 俺と導師は、アーネストとの器合わせを断固拒否した。


「そなた、不人気だな」


「我が輩、真の研究の道を歩んできただけであるな」


 勿論それだけのわけがなく、内乱の最後では色々と大変な目に遭ったという理由もある。

 とにかく、アーネストと器合わせをするのが嫌だったのだ。


「嫌なら仕方があるまい。余はビーチバレーをして遊ぶぞ。フジコ、ルル、フィリーネ!」


「おう!」


「はーーーい」


「チーム分けをしましょう」


 今回の海水浴には、藤子、ルル、フィリーネなども招待していた。

 子供組である三人は、魔王様と一緒にビーチバレーで遊んでいる。


「ヴェンデリン様、新しい水着をありがとうございます」


「でも、ブライヒレーダー辺境伯には見せないでね」


「はい」


 フィリーネにもライトグリーンのワンピースタイプの水着をプレゼントしたが、これでもまだこの世界基準では布地が少ない過激な水着扱いであった。

 ブライヒレーダー辺境伯に見せると怒られるかもしれないので、このプライベートビーチだけで着てくれとお願いした。


「よーーーし、いくぞ。必殺魔王サーブ!」


 魔王様と藤子、ルルとフィリーネのチームに別れ、ビーチバレーは始まった。

 魔王様が、最初のサーブを打つ。

 技名は怖いが魔力が籠っていない普通のサーブで、ルルが簡単にレシーブし、フリィーネがアタックを放った。

 そして、それを再びレシーブする藤子。


 四人とも、見かけによらず運動神経はよかった。


「砂浜は動きにくいな。ルルはそうでもないか」


「ずっと砂浜の上で生活していたから。でも、バレーボールというスポーツは初めてです」


 ルルが住んでいた村は砂浜の上にあったため、彼女は砂浜での移動を苦にしていなかった。

 海竜が出現すると急ぎ迎撃に駆けつけなければいけなかったので、自然と足腰が鍛えられたのであろう。

 さすがは南国娘である。

 彼女の今日の水着はフリフリのついた水色のワンピース型で、これはキャンディーさんの作品であった。


「そうなのか。我らの国では、様々なスポーツがあるからな」


「戦はせぬのか?」


「フジコ、お前は修羅の国の住民か?」


「魔族と聞いたから、常に戦っているものだと思ったのだ」


 藤子が実家で読んだ事がある書物では、魔族とは常に誰が王となるか、戦う事で決めていたという風に書かれていたそうだ。


「フジコ、そんな魔族は何万年の昔の魔族だけだぞ」


 一体いつの時代の話だと魔王様が呆れたその隙に、彼女の死角にポトンとボールが落下した。


「隙あり! フェイントトスです」


「ぬぁーーー! ずるいぞ! フィリーネ! 伊達家秘伝のサーブ!」


「えいっ!」


「やるな! ルルも!」


 子供組四人は、話をしながら楽しそうにビーチバレーに興じていた。


「先生、お肉が焼き上がりましたよ」


「お魚もですよ」


「エビや貝も美味しそうですね」


 子供組以外は、それぞれライラさんは日頃の疲れを癒すべくチェアーに寝転がってトロピカルジュースを飲み、アーネストはこんな時でも探索した地下遺跡のレポート執筆を、モール達はバーベキューの火の番をしていた。


 キャンディーさん制作の水着を着たアグネス、シンディ、ベッティの三人は、俺に対し積極的に焼き上がった肉などを勧めた。

 このプライベートビーチに招待され、バウマイスター辺境伯家独自の水着をプレゼントされたという事はそういう事だ。


 三人は領地の開発に貢献大という事でローデリヒにせっ突かれ、正式にバウマイスター辺境伯家に嫁ぐ事となった。

 アグネス以外は成人してからだが、もう決定という事でバウルブルクにはメガネ屋と花屋、料理屋の支店ができている。

 領内にもう数店舗、アキツシマ島にも支店ができる予定で、これら支店網の責任者が三人であった。

 勿論直接お店の経営に関わっている時間がないので、ルイーゼやイーナ同じくお飾りの責任者というわけだ。


 早速彼女達の親族や、長年働いているベテラン従業員が実務を取り仕切っていた。


「先生、魔の森で活動する冒険者にサングラスがよく売れているそうです。ここは日差しが強いですから。漁師で購入する人もいますし、アキツシマ島では眼鏡自体が珍しいそうで」


「そう言われると、アキツシマ島の人間で眼鏡をかけた人はいないか」


 戦国時代風の島だったので、眼鏡は珍しいのかもしれない。


「お花もよく売れているそうです。あの島の人達は、ミズホ人達と同じく『生け花』というものをするそうなので。


 シンディがオーナーである花屋も好調だそうだ。

 ミズホ人もそうだが、生け花に使える外の珍しい花を購入してくれるそうだ。

 逆に、ミズホ公爵領とアキツシマ島の珍しい花も王国ではよく売れている。

 外国向けに、種や苗を栽培する農家が増えたそうだ。


 貴族の女性にはガーデニングが趣味の人が多いので、ミズホ、アキツシマ産の花の種や苗もよく売れていた。


「うちも支店を増やしていますよ。お兄さんが関わると失敗するから、全部ローザさんがやっています」


「それなら安心だな」


 元々飲食店は、経費がかからない商売だ。

 日本人に似ているミズホ人とアキツシマ人……同じ民族だけど、どうも関係があまりよくないようで、分けて呼ばないと機嫌が悪くなる……は、外国の料理に興味があるようで、ベッティの義姉ローザさんが、ミズホとアキツシマ島に飲食店を何店舗か開いていた。


 なお、ベッティの兄は料理の開発と本店の現場のみを任されている。

 彼が経営に加わると、碌な結果にならないと思われているからだ。

 実は俺もそう思っているけど。


「先生ももうすぐ結婚式で大変ですね」


「向こうの流儀に従うからな」


 魔法使い三人娘に加えて、バウマイスター辺境伯領になったアキツシマ島統治安定のため、俺は涼子、雪、唯の三名と結婚する事になった。

 島一番の名族秋津洲家の令嬢にして当主である涼子との間に子供を作り、その子を次の秋津洲家当主にする。


 統治の実務を取り仕切る細川家の当主雪と、有力な重臣となった松永家の一人娘唯ともだ。

 今、ルルと共にうちで預かっている伊達家の藤子も成人すればと、ローデリヒが言っていた。

 『もうちょっと減らせないか?』とローデリヒに言ったら、『むしろ減らしています』と言われてしまった。


『アキツシマ島の元領主家のほぼすべてが、お館様に妻を差し出すと言っていたのです。拙者がなんとかここまで減らしたのですよ。その代わり、フリードリヒ様以降は彼らの要求をある程度受け入れないといけませんが……』


 アキツシマ島の統治が安定しなければ、将来バウマイスター辺境伯家が潰れてしまうかもしれない。

 そのための婚姻なら致し方なしというわけだ。


 もっとも、ローデリヒの事だ。

 島の統治に貢献した家に優先的に婚姻を斡旋し、バウマイスター辺境伯家の優位を決定づけようとしているのであろうが。


 ローデリヒも、最近は一国の宰相かと思うほど老練になってきたな。


『とにかく、今あげた三名は外せません。下手をすると反乱ですので』

 

 次世代以降の島のトップには、上位統治者であるバウマイスター辺境伯の血が入った者を当てるというわけだ。

 完全な政略結婚なわけだが、これは大貴族の義務だとローデリヒは言っていた。


「お主も大変よな」


「テレーゼは逆でよかったな」


「そうよな。だから言ったであろう? ヴェンデリンよ。王族や大貴族という地位は義務でしかないのだと。例え能力があっても、その義務のせいでおかしくなる者がいる。マックスのようにな。ヴェンデリンは潰れてくれるなよ」


「安心しろ。そこまでやる気はないから」


 ニュルンベルク公爵みたいに、なら自分の思う通りにやってやると反乱まで起こすのはどうかと思う。

 俺は神輿だけのバカ領主でもいいと思っているのだから。

 

「幸いにして、ヴェンデリンにはローデリヒがおるからの。あの男は、帝国でも宰相の器であろうな。お主は暴君になる資質もないから、鷹揚に構えておればいい」


「そうしないと、俺には手に負えないよ。もうバウマイスター辺境伯領は小国みたいなものだからな」


 将来的には、ブライヒレーダー辺境伯領、ブロワ辺境伯領、ホールミア辺境伯領を抜く大貴族となるはず。

 王国との関係も重要であるし、ここに帝国とミズホ公爵領なども加わってくる。


 うん、外交とか俺にはよくわからん。

 ローデリヒに丸投げしておくか。


「して、結婚式にはあまり人を呼ばぬと聞くが」


「だって、教会で式を挙げないもの」


 近年没落気味だったとはいえ、秋津洲家自体が神官の家系なのだから。

 神道に似た宗教のため、教会式の結婚式など挙げたら島内で大きな反発が起こるのは必至だ。

 そこで、完全にアキツシマ形式で結婚式を挙げてしまう予定だ。

 今、松永久秀が懸命に準備をしている。

 結婚式も島内でおこない、招待客も限られた者だけになるであろう。


「そういう事情ですので、お爺様も出席しません」


「そうなのか。ホーエンハイム枢機卿が異教徒の結婚式に出るわけにいかぬか」


「それもありますが、出席してしまえば改宗を迫らねばいけない立場にありますので」


 アキツシマ島の住民達からの反発は必至であろう。

 それがわかるから、教会関係者の出席はゼロであった。


「あくまでも、バウマイスター辺境伯家内の事だという口実です」


「それが一番賢いかの」


 テレーゼとエリーゼによる話は続く。


「王太子殿下はいらっしゃいますが」


「……あの殿下、本当にヴェンデリンが好きなのじゃな」


 あれほど嫌われる要素が皆無なのに、友人がないという人も珍しいと思う。

 俺もバウマイスター辺境伯として陛下と王太子殿下にアキツシマ島統治の安定化のためだと、今回の婚姻について事前に説明している。

 王家としてはまったく異論なし。

 なぜなら、アキツシマ島から南に三百キロほど。

 王国空軍が送り出した先遣偵察隊が、無人の大陸を発見したからだ。

 東で探索をしていたリンガイアも、多くの島や陸地を見つけている。

 大陸には魔物の領域も多く、いまだその全容もわからないが、王国の方針は決まった。

 

 面倒くさい異民族はバウマイスター辺境伯家に任せ、王国は新しい未開地の占領と開発をした方がいいと判断したわけだ。


「本来であれば、王太子殿下が涼子達と婚姻をして島を統治しなければならない。それをヴェンデリンが代わってくれたような結果になったからの。感謝して当然であろう」


 王国としては、バウマイスター辺境伯家が安定させたアキツシマ島から利益のみ受け取れるというわけだ。 

 王太子殿下が式に参加して当たり前か。


「あとは、ブライヒレーダー辺境伯様とブロワ辺境伯様ですね」


 共に、これからも緊密な関係強化が必要な相手だ。 

 ホールミア辺境伯家は、今魔族関連の事で忙しく、特に親しいわけでもないので招待しなかった。


「変わった形式の結婚式らしいから、余も将来に備えて見学しておこう」


 実は、魔王様達も出席する予定であり、ライラさんと王太子殿下、ブライヒレーダー辺境伯、ブロワ辺境伯の顔合わせをする席でもあった。

 新しい大陸が見つかった以上、王国の膨張は暫く進む。

 いまだ交易交渉は進んでいないが、既にリンガイア大陸の魔道具職人が作れない魔道具の私貿易は公然の秘密となっていた。


 それでも、力のある魔道具ギルドに配慮して、輸入している魔道具の種類は限定されている。

 彼らの市場を奪わない配慮であったが、これもいつまで保つかわからない。

 王国政府は現在水面下で魔道具ギルドを説得していたが、魔道具ギルドは影響力があった会長の死により余計に態度が頑なになってしまった。


 これでは交渉が進むはずがなく、王国としても私貿易の管理をしなければいけなくなったのだ。

 王国は、魔族にとっては旧式でも中古魔導飛行船が欲しいし、将来的には魔銃、魔砲なども手に入れて研究したかったからだ。

 もっとも、これらの品はライラさんには入手できなかった。

 魔族の国では、非常に管理が厳重なものだからだ。

 ライラさんも、逮捕される危険を冒してまで武器は密輸しないであろう。

 そんな事をしなくても、廃棄、中古車両と船、修理した粗大ゴミの売却で十分に儲かるのだから。


「三人の大物は、車両と船が目的ですか」


「作れないからね」


 俺も、地下倉庫から出た車両を魔道具ギルド販売したりしたんだが、どうも研究がうまくいっていないらしい。

 技術の進歩はそう簡単に進むはずがないから仕方がないであろう。

 現物があるので、ちょっとは何か成果を出してほしいとは思うのだが。


「結婚式が楽しみですね」


 ライラさんの目が喜びに満ち溢れている。

 きっと、いい儲け話だと思っているのであろう。

 そして、海水浴の接待から一か月後。

 アキツシマ島において、俺と涼子、雪、唯の結婚式がおこなわれた。


 大津で拡張、改修された社において神前の式がおこなわれる。

 式は日本の神前式にとても類似しており、涼子、雪、唯は白無垢、角隠し姿であった。

 

「旦那様、末永くお願いします」


「こちらこそ。でも、いいのか?」


「はい。あの兼仲と軍勢を率いて争っていた時。私は不安で一杯でした。それを突然旦那様が空から降りて救ってくれたのです。私は旦那様の妻になれて幸せです」


 涼子は、きっと形ばかりの当主でも不安で一杯だったのであろう。

 それを救った俺の妻になる事に不満はないようだ。


「私も、あの時内心で安堵しました。何しろ、私は魔法が使えませんから」


 代々秋津洲家の補佐をおこなう細川家は、知識と教養が売りの家で、魔法を使える者が滅多に現れない珍しい家系であった。

 武力に優れた兼仲に対抗しつつも、果たして撃退できるのかと不安を感じている時に、俺が助けに入ったというわけか。


「元々役割が役割なので、私を女性扱いしてくれたのはお館様だけなのです」


 お飾りなので寛容さが求められる涼子と、時には心を鬼にしないといけない雪。

 今まで他の家臣や領民達からも、尊敬はされていたが同時に畏れられてもいた。

 男女の話は出てこなかったわけだ。


「ですので、私は嬉しいです」


「そうか。俺もそうだよ」


 俺からすると、雪は話しやすいからな。

 よく俺を補佐してくれるし。


「私は、涼子様と雪さんのオマケですから」


 そして、いつの間にか第三の女として浮上していた唯。

 領主や魔法使いとしてだけでなく、元は中央で権謀策術の世界に生きていた松永久秀の娘なだけはあるのか。


「父は、これでアキツシマ島が安定、発展するのなら満足なのです。私の夫に関してですが、私が産む子が次の松永家当主となるので、今まで高望みが激しくて……」


 ああ見えて、久秀は唯をとても可愛がっていた。

 一人娘なので余計であったようだ。

 そんな可愛い一人娘の婿に対するハードルは非常に高かったようだ。


「三好義継様の妻にと望まれた事もありましたが、父は断りましたからね」


 元主君の子供との婚姻を断るとは、どれだけハードルが高いのであろうか。


「そんな中でお館様がいてくれて助かりました。そう頻繁にアキツシマ島へ来れらないかもしれない事情は理解しております。その時には、三人で精一杯歓待させていただきます」


 雪もそうだが、アキツシマにはしっかりとした女性が多いのであろうか?


「バウマイスター伯爵じゃなくて辺境伯か。まあいい。いつかお前を打倒して俺がこの島の主となるのだ!」


「ふんっ!」


「師匠……痛いですよ」


「冠婚葬祭の席である! 大人しくするのである!」


「わかりました……」


 その代わり、男にはバカが多いのか?

 宋義智のアホが、無礼だと導師に拳骨を落とされながら顔を出した。

 その後ろには、元織田信長、元武田信玄、元上杉謙信のDQN三人娘もいる。


「とはいえ、今の時点では最初の難関である師匠に勝てん!」


「当たり前だ!」


 今のところ、人類でそんな奴はいない。

 導師が健在なうちは、力こそすべてだと思っている義智もDQN三人娘もアホな事は考えないか。


「今は島を預けているから、お祝いは奮発しておいたぞ」


 決して誇張ではなく、義智とDQN三人娘は大量のお祝いを持参した。


「お前、どうしてそんなに裕福なんだ?」


「インコ特需だ!」


 平和になったアキツシマ島では、武力しか取り得がない領主階級の人間の居場所がなくなった。

 文官としての才能は未知数だが、義智やDQN三人娘のようにやらかしてルルが住んでいた魔物の島に飛ばされた者も多い。

 そのあり余る力を利用して、魔物を狩らせたのだ。

 今ではルルがいた村の跡地に新しい村ができあがりつつあり、そこで義智達は修行と討伐の日々を送っている。

 ここに住む無駄に大きく数が多いインコの羽毛が、寝具や高級衣料品の原料として人気となり、今ではライラさんも購入しているほどであった。


「そんなに儲かるのか?」


「いくら獲っても足りないし、あいつらいくら倒してもいなくならないんだ!」

 

 あの魔物の領域は、インコの楽園だからな。

 下手な冒険者だと返り討ちであり、大量に討伐可能な義智達は重宝されているのであろう。


「じゃあ、暫くはあの島か」


「昔の村の家屋だと辛くてな。金はあるから家を建てている」


 いきなり家を建てるとか、本当に景気がいいんだな。


「まあ、住む人数が増えるからな」


「ふふふっ、我らはあの島で財を築き、いつか島を取り戻すのだ」


「沢山の子を成し、いつかアキツシマ島へ!」


「今のうちに安寧の時をすごすがいい!」

 

 DQN三人娘の発言ですべてわかった。

 と同時に、嬉しさもこみあげてくる。


 まさか、DQN三人娘を引き取ってくれるなんて。

 義智はバカだが、意外といい奴かもしれない。

 

「ヴェル、いいの?」


「いいんじゃないか?」


 ルイーゼが心配するが、ああやって言いたい事を言っている間は大丈夫だ。

 本当に謀反を起こすつもりなら、いちいち口にはしないのだから。


「殿下達はライラさんと商談かな?」


「みたいだね」


 招待した三名の大物は、早速ライラさんと何か真剣に話し合っていた。

 現在両国では、独自のルートで魔族と私貿易をするのが流行しつつあり、今の時点で手を出していない大物貴族はボンクラ扱いという評価だ。

 いくら上が交渉で揉めていても、貴族領はそれぞれ独立した国のようなもの。

 独自に魔族とパイプを繋げない者は無能扱いされても仕方がなかった。


 ただ、貴族は王国、帝国に所属している。

 いくら独自に私貿易をおこなっても、最低限守らなければいけないルールがある。

 明確に文章化されているわけではないが、武器を輸入したら王国への反逆と取られても文句は言えないなどがあった。

 実際にいくつかの貴族家で魔族に依頼をしたケースもあり、早速王国は調査に乗り出したそうだ。

 もし購入でもしていたら、確実に改易されるであろう。

 いまだ統治が安定してしない帝国では、先日魔族から武器を輸入しようとして改易された貴族家があったそうだ。

 もっともその貴族は、魔族に騙されて金だけ奪われたそうだが。

 最近、人間との私貿易は金になると、怪しげな連中も参加するようになったとライラさんが言っていた。

 騙されずに利益を上げる事も、貴族や王族としての力量の内というわけだ。


「ヴェル、そろそろ時間よ」


「わかった」


 いよいよ、アキツシマ式の結婚式がおこなわれる。

 花嫁と花婿四人が姿を見せると、社の境内では数十名の巫女が神に奉納する舞を舞っていた。


「涼子は花嫁だから躍らないのか」


「あとで所望でしたら舞を披露しますね。彼女達はただ仕事というわけではないのです」


 秋津洲家を神官長として、今までは分裂していた社が大津を本拠地に再編成された。

 巫女が島の各地から集まって今日の奉納舞を舞っているのだが、彼女達の大半は領主一族や富裕な商人や庄屋、豪農の子女であった。


「今日は社の前でお祭りもおこなわれており、島が統一されたので多くの人達が集まっています。巫女達を男性が見染めるというわけです」


 社は未婚の女性を巫女として受け入れ、花嫁修業も兼ねて色々な事を教える。

 祭りで舞を舞わせ、それを見て気に入った男性がお見合いを社に申し込み、女性が了承したらお見合い、互いにオーケーなら結婚という流れだそうだ。


「正妻は政略結婚で決めても、側室はこういう場で見染める事も多いのです」


 大領主様の側室になれるチャンスというわけか。

 巫女には綺麗な人が多く、みんな華麗に舞を舞っていた。


「旦那様、興味ある娘はいらっしゃいますか?」


「ははは。舞を見て綺麗だなって思っただけ」

 

 本当、これ以上の嫁は勘弁してください。

 

 奉納舞が終わると、神官らしき人物が御祈りを捧げてから俺達に三々九度をさせた。

 この辺は、エルとハルカの式によく似ている。

 同じ民族だから当然か。


「今、神の前で四人は夫婦となりました」


 アキツシマ島においておこなわれた結婚式は、同時に開催された社の祭りと共に大成功を収めた。

 島の住民は平和を喜び、新しい支配者も好意的に受け入れたと思う。

 もう暫くは色々とあるかもしれないが、これでバウマイスター辺境伯領はすべて定まった。

 俺は、なるべく早く穏便に隠居できるよう、もう暫くは頑張ろうと決意するのであった。

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[気になる点] >みね麗しい君臣の図というやつだが、魔族では時代錯誤な考えなんだろうなと思う。 「見目麗しい」の間違い? 別話では「小遣い」を「こずかい」と誤記もしていた箇所がありましたし。 […
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