第百五十七話 人間も魔族も、抜け道を探る。
「バウマイスター辺境伯殿ですか。陞爵、おめでとうございます」
「あら、フィリーネ様ととてもお似合いですわね」
「そうですわね。なにしろ、フィリーネ様は南部の雄ブライヒレーダー辺境伯家のご令嬢ですから」
「お二人のお子がバウマイスター辺境伯家を継げば、両家の仲ももっと深まるでしょうに」
「……」
特に何か利益があったわけでもないのだが、辺境伯になったのでバウルブルクの屋敷でお祝いのパーティーが行われた。
多くの貴族とその家族、家臣が参加し、めかしこんだ俺とフィリーネに次々とお祝いを述べていく。
俺は忙しいのと、元からやる気もなかったので準備はローデリヒに任せたんだが、金がかかっているのに一部の参加者が碌な事を言わないから、空気がピリピリしている。
ブライヒレーダー辺境伯とどういう関係なのか知らないが、エリーゼも傍にいるのに『フィリーネが正妻だったら、もっと両家の関係も深まるのにね』と煽ってきた。
エリーゼは気にしていない風でニコニコしていたが、ちょっと離れた場所にいるホーエンハイム枢機卿の代理で来た司祭が能面のような顔をしていた。
「(何で高い金を払って、貴族同士の当てこすりを見聞きしなきゃならんのだ……)」
そういうのを見る趣味はないんだが……。
「あと十年もすれば、バウマイスター辺境伯家こそが王国一の大貴族となるでしょうな」
「いえ、我が家は立ち上がったばかり。歴史ある辺境伯家のご歴々に比べれば、まだまだですよ」
今度は、別の貴族が煽ってきた。
俺が若造なので調子に乗せ、ブライヒレーダー辺境伯や他の大貴族達と仲違いさせようとしているのであろう。
そんな事をして何になるのかと思わなくもないが、思えば前世で勤めていた商社でも偉い人達が足の引っ張り合いをしていたな。
生産性は皆無だったが止める事はできず、人間とはそういう生き物なのだと思うしかない。
大体うちは、辺境伯家にしてはまだ人口などが全然足りないからな。
俺の辺境伯としての地位は、ブライヒレーダー辺境伯達地方の取りまとめをおこなう三大辺境伯よりも少し下という位置づけにされた。
そうしないと、俺がブライヒレーダー辺境伯の寄子なのはおかしいという話になってしまう。
バウマイスター家はどうせ新興貴族なので、辺境伯の中で一番格下にした方が丸く収まるというわけだ。
昔のミズホ公爵のように『上級伯爵』とかそういう爵位を作ればいいと思うのだが、ヘルムート王国にはそういう前例は存在しないようだ。
中央の力が強いという事は官僚の力も強いので、いきなり新しい爵位は作れなかったのであろう。
役人という生き物は、前例がないと積極的に動かない人種なのだから。
バウマイスター辺境伯家としても、ブライヒレーダー辺境伯の手助けがないと厳しいので、そういう事になったというわけだ。
「バウマイスター辺境伯殿、貴殿は当代の英雄ですな」
「左様、陛下も覚えもめでたいそうで。羨ましい限りです」
「実は、我が娘が今度十五になりまして」
「うちの妹は十四です」
ローデリヒがすべて準備したパーティーは盛況だが、どいつもこいつも俺におべんちゃらを使って取り入ろうと必死であった。
アキツシマ島という新領土も得たので、何か分け前がほしいのであろう。
あと、あなた達の娘や妹はいりません。
「領地は得ましたけど、これからですね」
まだ分けられる利益など出ておらず、完全にこちらの持ち出しのみ。
もし蓄えがある俺でなければ、開発予算と経費でとっくに破産していたであろう。
それがわかっているから、王国も俺に押しつけたのだ。
王国はアキツシマ島以南の南方と、いまだ誰も探索をしていない東方への進出に執着している。
魔族の国から帰還したリンガイアは、もうすぐ今度は東方への探索に赴く予定であった。
「フィリーネはよくやっていますね。よかった」
うるさい貴族をかわすためというわけではなく、俺とフィリーネはパーティー会場中を挨拶してまわる。
出席者が多いので、エリーゼ達も数名ずつでそれぞれ挨拶に出向いていた。
俺の同行者がエリーゼでないのは、彼女が俺の正妻なのは今さらなので、今日はフィリーネの宣伝というわけだ。
妾腹とはいえ、ブライヒレーダー辺境伯が娘を俺と結婚させる。
両者の関係は深いと、貴族達にアピールするのが狙いというわけだ。
着飾ったフィリーネは、ブライヒレーダー辺境伯による親の目は余り目なのを差し引いても卒なく貴族達への挨拶をこなしていた。
未成年なのに、随分としっかりしているものだ。
度胸もあり、あの導師がお気に入りなのも理解できる。
ブライヒレーダー辺境伯は、娘の成長ぶりに一人感動していた。
隣で奥さんは呆れていたが。
「旦那様、フィリーネなら大丈夫ですよ」
「大丈夫でしょうが、心配なのは親心なのですよ」
そして、誰よりも心配性であった。
ブライヒレーダー辺境伯からの、心配そうな視線が俺にも突き刺さる。
『ちゃんとフォローしろよ!』と言いたいのであろう。
俺から見たら、フィリーネにフォローの必要なんてないんだが。
「お父様、どうでしたか?」
「バウマイスター辺境伯はともかく、フィリーネは完璧でしたね」
挨拶回りを終えたフィリーネを、ブライヒレーダー辺境伯は褒めちぎった。
そこまで大げさに絶賛するほどかと思うのだが、この人は娘に異常に甘い。
そしてフィリーネの対応は褒め、俺はどうでもいいと思っているのであろう。
特に何も言われなかった。
別に、ブライヒレーダー辺境伯に褒められたいわけではないからどうでもいいけど。
「バウマイスター辺境伯様、せっかくの機会なのでフィリーネはそちらのお屋敷で成人まで……「駄目ですよ! フィリーネには成人までブライヒブルクに居てもらわないと!」」
そして再び、ブライヒレーダー辺境伯の奥さんがフィリーネをバウルブルクの屋敷に住まわせてはどうかと提案しようとしたが、すぐに察知したブライヒレーダー辺境伯によって阻止されてしまった。
フィリーネが嫁ぐのは仕方がないが、一秒でも長く娘と一緒に暮らしたいのであろう。
「旦那様、フィリーネはバウマイスター家の生活に一日でも早く慣れた方が……」
「駄目です! 成人するまでは! まだ手習いも残っています!」
相変わらず強く口調で、ブライヒレーダー辺境伯はフィリーネを手放さないと断言する。
「バウマイスター辺境伯は新領地の経営にも忙しく、余計な手間をかけさせてはいけません。フィリーネが定期的にバウルブルクに遊びに行けばいいのです」
それでも、ブライヒレーダー辺境伯は大貴族であった。
うちに他の貴族がちょっかいをかけないよう、フィリーネが定期的にバウルブルクを訪問する案を提示した。
「ブライヒブルク~バウルブルク間を航行する魔導飛行船の数も増えましたので、いつでも遊びに行けます。バウマイスター辺境伯が、『瞬間移動』で迎えに来てもいいですし」
婚約のみで、フィリーネはまだ未成人である。
ブライヒレーダー辺境伯の提案の方が、こちらとしても楽であった。
そうでなくてもルルと藤子がおり、涼子、雪、唯の件もある。
帝国内乱の時にも思ったが、異民族が住む土地を統治するのは大変なのだ。
下手に反乱になれば、王国から処罰を受けてしまう。
俺の嫁の数が増えるのは決定事項で、ローデリヒも婚姻でアキツシマ島が鎮まるのであればと安堵していた。
そのため、できればフィリーネのお相手はもう少しあとにしてほしかった。
他の貴族?
知らん!
俺にこれ以上娘を押しつけるな!
「実際問題、島の統治はどうなっているのですか?」
「今のところは順調ですかね」
実質ミズホ人なので……アキツシマ島の人間にミズホ人というと怒るのでアキツシマ人と呼ばないといけないが……戦闘民族的な理由で警戒したが、俺が魔法の力を見せたのがよかったらしい。
統一で犠牲もほとんど出ておらず、その犠牲は戦のルールを無視した同朋だったというのも大きい。
島の開発がバウマイスター辺境伯家主導で進み、人口が増えた時に外部への移民も可能になった。
血の気の多い連中は魔物の領域で稼がせており、あとは俺が死ぬまでに統治体制を安定化させるのみというわけだ。
「それはよかったです。何しろ、肝心の王国と魔族との交渉がイマイチなので」
帝国も加わり、三者には色々な考えを持つ有力者や勢力がある。
すぐに纏まらなくて当然とも言えた。
「最近、発掘品を開発に使用しているそうですね」
「盗難を防ぐ仕組みを作ったので」
「それは羨ましい限りです」
実はそれだけでは足りなくなり、魔王様の会社からそういう魔道具を格安で購入したからなのだが。
魔族の国では粗大ゴミ扱いの様々な魔道具が大量に流入し、アキツシマ島を筆頭にバウマイスター辺境伯領の開発に使われていた。
違法というか脱法行為なのだが、領地が広がりすぎて俺だけではもうどうにもならなくなってきた。
魔道具で機械化しないと開発が進まず、なら王国の魔道具ギルドが必要なものを販売してくれるのかというと、技術力の不足で車両、農業機械、海水ろ過装置に類する魔道具は存在しなかった。
他の物も生産量は不足しており、それもあって価格が異常に高い。
それでも入手できればいいが、実際には在庫不足で予約待ちの状態であった。
普通は輸入を検討するレベルだが、もし魔族の国から高性能で価格も手ごろな魔道具が輸入されると、魔道具ギルドの凋落は確実。
彼らは帝国の魔道具ギルドと組んで魔道具輸入の絶対阻止に動き、その途中で魔道具ギルドのトップが死んで余計に混乱している。
これで交渉が纏まったら、逆に騙されて不平等条約を結んだのかもしれないと疑うしかなくなってしまう。
「とはいえ、何か状況が変わったわけでもないのです。王国は全体的に開発が進んでしますし、帝国も内乱のおかげで中央の力が増し、戦後復興も兼ねて大々的に開発が進んでいます」
だから、余計に交渉が進まないのかもしれない。
魔族が政権交代により、老練な政治家が交渉に出て来ないというのもあった。
「焦る必要はありませんね」
「俺もそう思います」
こうして無事にパーティーは終わり、俺は辺境伯となった。
ただ、変わったのは爵位と階位だけなのは言うまでもない。
「あれ? 魔王様、今日は学校では?」
「うむ、実は今日は学校の創立記念日でな」
俺は、魔族の学校にも創立記念日があるのかと思いつつ、あって当然かと納得もした。
「休みが多いですね」
「学校の期間が長いからな。カリキュラムは非常に緩い。ライラが『ゆとり教育の弊害』と言っておったぞ」
「そうなのですか……」
アキツシマ島では、多くの重機と、耕運機、車両が忙しく働いていた。
操作をしているのは、魔王様が会長を務める会社の若い社員達と、彼らから操作を学んだうちの家臣とアキツシマ人である。
やはり機械化の成果は大きく、地下遺跡の魔道具を全投入したバウマイスター辺境伯領本領よりも作業効率はよかった。
「それだけ長い期間教育して半分が無職だからな」
「うっ!」
「会長、今は働いていますよ!」
「俺達も結婚するのですから」
会長の言った『無職』という言葉に、重機の使い方をアキツシマ人の若者達に教えていたモール達が反応した。
気にしていないように見えて、実は長期間無職だったのを気にしていたようだ。
それにしてもこいつら、あっという間に重機の操作を覚えて人に教えるまでになっているのだから、優秀なのは確かなんだよな。
アーネストはああ見えてバカが嫌いなので、そうでなければゼミに入れなかったのであろう。
「うちの法人では、若い社員を大量に採っているぞ。ちょっと教育して魔道具のオペレーター、整備員、教育係などで使っている」
使用する魔道具も、すべてライラさんが仕入れた。
旧式のため捨て値で売られていたか、粗大ゴミを修理した物も多い。
普通に使えて安いので、こちらでは大好評であったが。
「色々と疑問が……」
「余で答えられる事なら答えよう」
「どうしてこんなに魔道具が余っているのですか?」
「過剰生産をしているからだ」
今動いている魔道具は、すべて旧式とされている。
それでも十分に使えるし、地下遺跡の品よりも性能が低い物もかなりあったが、それでも普通に使う分には問題ない。
ツルハシとモッコで作業するよりも早いのは確実だ。
それに、今のリンガイア大陸では絶対に作れない品物であった。
「魔道具はちゃんと手入れをすれば数百年、物によっては数千年も保つ。これはいいな」
「ええ」
『状態保存』の魔法があるし、コア部品を除けば現代日本の電化製品や工業製品よりも作りが簡単なので、少し教育を受ければメンテナンスと修理ができるからだ。
コア部品が壊れれば駄目だが、それですら魔族の国は品質管理と生産性の向上で簡単に手に入った。
「なかなか壊れぬ魔道具。次々と作られる新製品。毎年何となく新製品が出ておるが、前年の新製品と何が違うのか? 性能が上がっていないとは言わぬが、些細な差じゃ。魔道具を新規で購入する者が減り、政府も企業が倒産すれば失業者が増える。よって、このような古い魔道具は法律で使用禁止となった」
表向きは、耐用年数が終わったために危険だからという理由で。
実際には、魔道具の買い替えを法律で強制して企業の倒産や失業者の増加を防ごうとしているのだ。
「無理矢理魔道具を購入させても経済を保たせる。世知辛い話だな」
そのため毎年大量の魔道具が粗大ゴミとなり、これも環境保護の観点から処理に高額の費用がかるようになった。
「粗大ゴミの違法投棄は社会問題化しておる。余達が勝手に拾っても、ありがたがられる事はあっても嫌がられる事はない。我が社では、毎日ボランティアで粗大ゴミの片付けをしているぞ」
一見無料奉仕のゴミ拾いだが、それを修理してこちらに売って儲けているという寸法だ。
「あと、無料の廃品回収も始めたぞ」
これも、ライラさんのアイデアだそうだ。
一般家庭から、法律で耐用年数がすぎた魔道具を格安の処理費用で引き取る。
これも修理して、うちに流しているわけだ。
「ただ、ライラが言っておったが、最近ライバルが増えたそうだ」
「えっ! そうなんですか?」
こういう事をしているのは俺達だけじゃない。
当たり前の話であったが、俺は驚いてしまった。
多少目端の利く人物で実行力があれば、魔族でこういう商売を始める者がいても不思議ではないのだから。
「特に帝国がの。噂では、帝国政府がダミーの商会を作り、そこと我が国の廃品業者が取引をしていると」
あのペーターならあり得る事だ。
表では魔道具ギルドと揉めてグダグダしているように見せつつ、裏では中古魔道具を購入して開発に使用する。
何なら他の貴族に貸してもいい。
そうする事で、帝国政府はさらに力を増すという寸法だ。
「魔道具ギルドはよく怒らないな」
「それは、バウマイスター辺境伯と同じであろう?」
始めは購入した魔道具をアキツシマ島内でしか使用していなかったが、もう不足気味なのでバウマイスター辺境伯領本領でも誤魔化して使っていた。
そのうち魔道具ギルドも気がつくであろうが、もし文句を言われてもうちは魔族からゴミを買っているだけだと言い逃れをする予定だ。
それと、王国の魔道具ギルドでは作れない品ばかり購入している。
『魔道具ギルドの縄張りは侵していませんよ。というか、じゃああんたらが売ってくれるの? 俺は金はあるんだよ。あれば買うよ』という論法で行く予定であり、ローデリヒも主導的な立場だ。
人手が足りず、バウマイスター辺境伯領本領の開発すら終わっていない状態でアキツシマ島を抱え込んだのだ。
ならば機械化は急務であり、魔道具ギルドが供給してくれない以上は輸入するしか道はなかった。
「王国政府も、一番遅かったが動いたらしい。代理で粗大ゴミ集めをしている業者がいるそうだ」
誰も『お前、勝手に魔族と取り引きしているよな?』とは聞かないが、みんな考える事は同じというわけだ。
魔道具ギルドの圧力で表の交渉が上手くいかない以上、裏で魔族の魔道具を手に入れるしかない。
「法の裏を突く行為だけどね」
ハッキリ言って、ヘルムート王国もアーカート神聖帝国も法が非常に緩い。
俺でも簡単に穴を見つけられてしまう。
今まで外国が一つしかなかったため、俺が勝手に帝国政府や貴族と貿易をしたら罰せられるが、想定していなかった魔族と取引をしても違法ではない。
魔道具の取引も、両国で力がある魔道具ギルドの圧力で交易交渉が進んでいないだけなのだ。
つまり、誰かが勝手に魔族から魔道具を購入しても違法ではない。
魔道具ギルドから文句を言われるかもしれないが、両国の法に触れているわけではないのだ。
ただ、俺は魔導具ギルドで購入可能な品はそこから購入していた。
魔族の国でしか生産していない品のみ購入し、魔道具ギルドからの抗議に備えている。
まだバレていないようで、彼らは何も言ってこないけど。
「我々はバウマイスター辺境伯としか取引しておらぬが、景気はいいな」
「うちも助かっている」
「互いに得をしているのだ。商売の理想だな。ライラがWINWINな関係だと言っていた」
閉塞感がある魔族の国において、あまり表立っては言えないが廃品業者の景気がいい。
国内で集め、修理した古い魔道具を、自ら交渉ルートを開いた国や貴族に売る。
あまりコストがかからず儲かり、代金も通貨レート交渉は暗礁に乗り上げていたが、貴金属や宝石などで取引すれば済む話なのだから。
「表の交渉は知らんが、これからこの裏技で人間と取引する魔族は増えるだろうな」
俺達は販売する品を魔法の袋に入れた魔王様やモール達を俺が『瞬間移動』で迎えに行くという方法を取っている。
他の業者はその方法が使えないが、魔族は全員が優秀な魔法使いだ。
魔法の袋に商品を入れ、リンガイア大陸まで飛んでもいい。
成り上がりたい魔族なら、そのくらいの事はすると魔王様は言う。
「余達はバウマイスター辺境伯と知り合えて得だったな。でなければ、モール達が魔法で飛行しなければならなかった」
「えっ? 俺達がですか?」
「せめて船を使わせてください!」
「遭難しそうだな」
さすがのモール達も、遭難覚悟で両国を船で移動するつもりはないようだ。
彼らとの最初の出会いも、手作りの筏で遭難しているところを救出したというものだったから懲りたのであろう。
結婚もするから、二度とそういう無茶はしたくないはず。
「古い魔導飛行船を購入している者もいると聞く。個人や零細企業が、リンガイア大陸との交易を目論んでいるのであろう」
政府間の交渉が暗礁に乗り上げたため、人間も魔族も勝手に動く者が増えた。
俺は先に動いていたし、帝国と王国、両国の目敏い貴族も動いている。
魔族にも人間との交易で一旗あげようという者が、懸命に粗大ゴミを集めているわけだ。
その粗大ゴミを、ちょっと修理して人間に売れば金になる。
閉塞した感もある魔族社会の若者からすれば、絶好の機会というわけだ。
「船も買えるのですか?」
「木製の船なら安いぞ」
現在魔族の国では、警備隊が使用しているような金属製の魔導飛行船が主流だそうだ。
古い木製の魔導飛行船は維持に手間とコストがかかり、例の魔道具の使用期限制限にも引っかかり、運行もできず野ざらしで放置されている船が多いと魔王様が言う。
「欲しいか? バウマイスター辺境伯」
「あるだけ欲しいな」
「ライラの事だからもう集めていると思うが、念のために伝えておこう」
モール達と派遣した若い指導員達の様子を見た魔王様は、『瞬間移動』で農村に戻った。
そして一週間後、バウマイスター辺境伯領本領にある広大な平地に、数百隻にも及ぶ中小型の魔導飛行船が並んでいた。
「凄い数ですね……」
「これでもまだ一部です。我が社は、この十倍の数を確保しております」
「ライラは優秀だからな」
「そうなんですか……」
今日はトップセールスなので、ライラさんも顔を見せていた。
「ただ一つ残念なのは、かなりの数の大型船を他の業者に取られてしまった事ですね。それでも、ある程度は確保しましたが……」
「大型船は買わないよ。取引先の紹介はできるけど」
「大型船はいかんのか?」
魔王様が、俺に『なぜ?』という表情を浮かべた。
「ええ、大型船は王国政府しか持てないのです。多分、大型船を押さえたのは……」
「両国の政府が作ったダミー商会ですね……」
ローデリヒが、俺の代わりに答えてくれた。
彼が情報を集めた結果、帝国はペーターが、王国も目立たない特性を利用して王太子殿下が魔族から特殊な魔道具などを購入していた。
ダミー商会を作ったのは、いまだ正式な交易交渉が継続中だからなのと、魔道具ギルド対策であると思われる。
もっとも既に公然の秘密と化しており、魔道具ギルドが文句を言っているかもしれない。
会長の死で魔道具ギルドは揉めているから、それどころではないかもしれないけど。
「貴族の大型船所有禁止は、れっきとした王国の法だから破るわけにはいかない。中小型の船は買う。だけど、かなりヤバイ船が多いような……」
多分、粗大ゴミ扱いで野ざらしにされていた船が多いのであろう。
このまま飛ばすと分解しそうな船も半分くらいあった。
「その分格安ですから」
「まあいいや。安いから」
魔族の国の旧式船は、木造でリンガイア大陸の魔導船とデザインもよく似ている。
旧式扱いでゴミにされたのであろうが、船体の修理なら人間の職人でも十分に可能だ。
船の待機場と修理工房を領内にいくつか作り、修理と船員の教育を終えた船から順番に運用していこう。
アキツシマ島を含む南方航路は、海竜の完全駆逐が難しいと判断され、魔導飛行船の数を増やす必要があったからだ。
広大な領内の移動と輸送、ブライヒブルクを始めとする他の貴族領との交通と交易にも使える。
船はいくらあっても困らない。
「大型船を買ってくれる人に連絡してみます」
俺は携帯魔導通信機で、王太子殿下に連絡を取った。
『おおっ! 我が友ヴェンデリンか!』
「そこでなぜ友なのを強調するのだ?」
魔王様、それは言わないであげて。
『それで何か遊びの誘いか? いつでも、私はスケジュールを変更して対応するぞ!』
「必死だな」
魔王様、それ以上は……。
可哀想すぎて俺も泣けてくるから。
例え、王太子殿下には聞こえなくても。
「実は、ちょっと商談が……」
俺は、大型魔導飛行船の在庫があるという話を王太子殿下に振る。
すると、彼は途端に真面目な口調に変化した。
『私が頼んでいる者達が、かなりの部分を押さえられてしまったと報告していたが、ペーター殿の他にヴェンデリンも動いていたとはね』
王国からすれば、俺が密かに魔族と取引している事などとっくに承知であった。
武器やヤバイ薬などを仕入れれば処罰されるが、自国にない魔道具ならばお互い様なのだ。
俺が一番早く動いたのは事実だが、もうとっくに両国政府と他の貴族も密かに魔族と取引はしていた。
そこを突っ込む意味はない。
「うちで頼んでいた業者が、貴族は大型船を持てないという法を知らなかったのです。そこで、王太子殿下にご紹介をと思いまして」
バウマイスター辺境伯は、禁止されている大型魔導飛行船を所持する意図はありません。
これは、王太子殿下にはっきりと言っておかなければいけない。
『全部買おう。状態は問わない。この件では、ペーター殿が先行していてね。私は父に怒られてしまったんだ』
普段は移動と輸送にも使えるとあって、両国は大型の魔導飛行船の所持に執着していた。
昔の地球で、各国が戦艦の数を競うみたいなものだ。
つい最近までは王国が圧倒的に有利だったのだが、帝国が魔族の国から古い船を購入してその差を埋めてしまった。
どうやらペーターの方が多くの大型船を購入しており、先を越された王太子殿下は陛下に怒られたうだ。
さすがは、あの内乱で勝ち残っただけの事はある。
決断の速さはさすがだ。
それにしても、交渉がグダグダで困っているように見えて、裏ではちゃんと動いているとは。
陛下も王太子殿下も油断ならない。
「仲介料等は必要ありませんので」
『それはありがたいね』
一番早く魔族と取引を始めた件で責められるのも嫌なので、ここで王太子殿下に恩を売っておこう。
などと考えるようになってしまった俺は、進歩したのか?
それとも、完全にミイラ取りがミイラになってしまったのか?
判断が難しいところだ。
『では、詳しい話はあとで』
「わかりました」
携帯魔導通信機を切ってから、俺はライラさんに大型船は王太子殿下と取引してほしいと伝える。
「ありがとうございます」
いえいえ、これで恩を感じてくれたらいいのです。
王太子殿下という新しい取引先を紹介してくれたと。
「政府間の正式な交易条約が存在しない以上、これは私貿易、密貿易の類になります。違法ではありませんが、トラブルに関してはお上が保証してくれません。これから参入する人間も増えるでしょうが、間違いなく騙される者も出てくるでしょう」
もう騙されている人がいるかもしれない。
人間が一方的に騙されるだけでなく、魔族でも騙される者が出てくるであろう。
武器や違法薬物、人身売買などを始めたら、さすがに両国政府も黙っていない。
自由だからこそ、己を律する必要があるのだ。
「その点、バウマイスター辺境伯殿はいいお得意様です。王太子殿下もそうであると信じたいですね」
と言いながら、クールな微笑みを向けるライラさん。
もし魔族の国で王政が続いていたら、彼女は宰相だったかもしれない人だ。
その優秀さは、会社の経営で如何なく発揮されている。
ただ、なかなかいい男性と知り合えないのが大きな悩みだそうだ。
最初はモール達がちょっかいをかけていたそうだが、脈がないと見るとすぐ同じ会社の若い女性魔族に標的を変えてしまった。
それですぐに婚約できるのだから、モール達も実はコミュ力があるのかもしれない。
「ライラ」
「はい、陛下。何か御懸念でも?」
「中古魔道具の取引だけでは、我々の会社も先細りでは?」
確かにそれはそうだ。
今ある粗大ゴミと古い魔道具がすべてなくなれば、今度は一年ごとに魔族の国で使えなくなる魔道具を集めて売るしかなくなる。
こうも参入業者が増えると、ライラさんでも買い負ける可能性があるのだ。
「そこで、こちらもバウマイスター辺境伯領から購入したい物があります」
「うちから購入して、魔族の国で金になる物なんてあるの?」
鉱物、食料くらいしか思いつかない。
これを取引するには、正式な交易条約締結を待った方がいいであろう。
「勿論、ありますよ」
それは、魔物の素材だそうだ。
「我が国の魔物の領域は、何しろ一つの島の中なので生息する魔物の種類が少ないのです。それを狩っても、作れる物が少ないわけです」
例えば魔族の衣服は、大半が大規模農場と牧場で生産される繊維や毛を加工した物であった。
一部狩猟で得た魔物の素材を原料とした服もあるが、これは高額で生産量も少なかった。
「我々の国は人間の国よりも人件費が高く、わざわざ狩猟をして得た材料で服を作ると高くつきます。高級品なうえに嗜好品なので、購入できる者は少ないのです」
「それは、こちらで獲れる魔物の素材でも同じでは?」
「いえ、魔族の国にいない魔物が非常に多く、これを用いて作られた衣服と装飾品は富裕層向けに一定の需要があるはずです」
「加工技術については?」
「魔族の国は、ある程度の品質の服を大量生産する技術には長けておりますが、プロの職人による裁縫、縫製技術ではそれほど差はないと思いますよ。人件費が割安なので、値段を少し下げ、中間層よりも少し上の人達に購入してもらう手もあります」
「となると……。あの人か……」
「バウマイスター辺境伯様は、知己が多いのですね」
俺はライラさんと始める新しい事業を任せられそうな人物を思いつき、すぐにその人物と連絡を取る。
「はぁーーーい、みなさん、お元気?」
「……」
「あれ? ロンちゃんもいるの? ロンちゃん、あまりお洋服に興味ないじゃない。新人冒険者の時あまりにファッションセンスが酷かったから、私が何着か買ってあげたわね。懐かしいわ」
「あの時は、とてもお世話になったのである……」
相変わらず、王国、帝国、魔族との交渉が纏まる気配がない。
そのため、水面下で箍が外れたかのように私貿易が始まっていた。
帝国はペーターが、王国も王太子殿下がダミー商会を使って交易をおこなっている。
正式な条約締結を待っていたら、双方相手に出し抜かるところだったので仕方がない。
それに、貴族は所属している国に先駆けて動く者もいた。
その先頭が俺であり、中古魔道具と中古魔導飛行船では大いに得をしたわけだ。
魔王様とライラさんの会社も相応の謝礼を受け取り、会社の人員と規模を拡大している。
魔族の国では、表向き有機無農薬作物の栽培と販売、廃品回収業となっていたが。
ライラさんと同じ事を始めた魔族も多く、彼らと交易を始めた貴族も増えていた。
出遅れた分、残っている中古魔道具と中古魔導飛行船が少ないため、商売の規模はさほどではない。
領内に中古魔道具と中古魔導飛行船が出回り、それを用いた開発が加速度的に進むバウマイスター辺境伯家では、魔物の皮や毛皮、リンガイア大陸にしかない植物などを用いた繊維、布、衣服を輸出する事になった。
半分は素材で輸出して、魔族の国のファッションデザイナーや職人に販売する。
もう半分は、俺の知り合いの職人……まあ、服に詳しくない俺にはキャンディーさんしかいないが……に頼む事になった。
今日はたまたま導師が来ており、彼は唯一苦手なキャンディーさんがいる事を知って冷や汗を流した。
「最初は少量生産で、好評なら人を増やしましょう。私、ツテがあるの」
キャンディーさんはこう見えて顔も広いので、それもあって衣服の生産を依頼したのだ。
「ねえ、魔族ってどういうデザインが好きなのかしら?」
「これが、我が国で一番売れているファッション雑誌です」
「そんなものがあるなんて、魔族の国って便利ね」
キャンディーさんは、興味深そうにファッション雑誌のページをめくる。
「でも、あまり人間と変わらないのね。機能的なお洋服が多いみたいだけど」
魔族の国のフッションは、現代日本とよく似ていると思う。
毎年流行色が決まり、季節ごとにも細かな流行がある。
ただ、ファッションに手間をかけない人も意外と多く、カジュアルな服装や、新聞記者であるルミのようにツナギモドキの服を着ている者もいる。
あれは仕事をする人の共通した作業着の扱いで、面倒な人は私服にまで流用していた。
勿論ホワイトカラー職の人はスーツ姿であったが、これもお休みの時にはノーネクタイにして使いまわす人も多かった。
「事務の仕事でも薄給の人は多いですからね。私も前は事務職でアルバイトをしていましたが、給料は低かったですよ」
ライラさんは、魔族の国のファッション事情を説明した。
「そのため、大半の人は格安の服を購入します。大手企業が量産している服です。富裕層と、一部ファッションが趣味でお金をかける人向けに高級ブランドがあるわけです」
「だから私達が品質を落とさず、魔族の国にはない素材で服を作り、高級ブランドよりも少し安く売る。こちらは品質が劣っているわけじゃないし、手縫いのよさもあるわね。今まで最高級品を一着で済ませていた人がそのお金で二~三着買ってくれるかもしれないから」
「中古ですが、ミシンも安く提供できますよ」
「うーーーん。魔道具ギルドがうるさいから今は遠慮しておくわ」
実は、リンガイア大陸にもミシンはある。
性能は低いが、手で縫うよりは圧倒的に早い。
キャンディーさんも数台所持しており、もっと欲しいと魔道具ギルドに問い合わせたが、生産が間に合わないと断られてしまったそうだ。
「売ってくれないのに、魔族の国から輸入を阻止しようとしているのよ。本当、嫌な連中」
キャンディーさんは、魔道具ギルドの連中が嫌いなようだ。
「魔族の国から定期的に魔道具が入ってきたら、あいつら全員失業ですから」
「それもそうね」
値段、性能、故障率。
他にも、リンガイア大陸の魔道具で魔族の国の魔道具に勝てる部分は少ない。
今の時点だと、魔道具ギルドの政治力が侮れないだけだ。
「今、あそこはにっちもさっちも行っていないけどね。力のある会長が死んじゃったから」
「前に葬儀に出ましたけど、まだ後継者争いをしているのですか?」
「そうよ。バカみたい」
次の会長の座を巡って、魔道具ギルド内では激しい後継者争いが起こっていた。
これで交渉なんてできるはずがないが、彼らもバカじゃないから王国政府が魔族の国から魔道具を輸入しないように政治的な圧力はかけ続けている。
後継者争いの余波で生産力も落ちており、魔道具ギルドの閉鎖性が王都でも問題になりつつあった。
「うちは粗大ゴミを輸入しているけど」
「王都でも、『魔導四輪』っていう馬がなくても動く車両が軍で採用されたみたい。あれ、魔族の国からの輸入品なのね」
うちばかりか、他の貴族も、両国政府も、実は魔道具を輸入している。
だが、言い訳が利くように魔道具ギルドでは作れない品ばかりであった。
そのため、重機と車両はリンガイア大陸中に徐々に姿を見せ始めていた。
全部魔族の国では、廃車の修理品か、廃棄する予定の中古品ばかりだが。
「バウマイスター辺境伯様は、古代魔法文明時代の発掘品を相当数魔道具ギルドに販売したって聞いたわよ」
「耳がいいですね。キャンディーさんは」
「元冒険者だからね」
その中に当然、重機や車両も入っている。
自分達で作れるように研究素材として購入したわけだが、いまだに試作費成功したという話はない。
多分、まったく見通しが立っていないのであろう。
「だからさ。『魔導具ギルドで生産の目途が立っているのなら見せろ』と言われると困るから、彼らが作れない魔道具の輸入は黙認しているわけだ」
作れませんなんて、魔道具ギルドの今までの地位を考えると口が裂けても言えないのであろう。
成果がないのは、帝国の魔道具ギルドも同じ。
内乱でニュルンベルク公爵が発掘した品を大量に手に入れているはずだが、まだ何の成果もあがっていないはず。
共に、魔族の国から魔道具を輸入する件に断固反対しているわけだ。
「プライドでご飯は食べられないのにね」
「キャンディーさんの意見に賛同します」
ライラさん、オカマなキャンディーさんにあまり抵抗がないらしい。
魔族の国では、特に珍しくもないのか?
現代地球みたいに、そういう人の権利も認められているのかもしれない。
「嗜好品なら少量ずつ生産した方がいいわね。大量生産しても意味がないし」
「ご理解いただけてよかった」
ライラさんは、キャンディーさんをいい商売相手だと思ったようだ。
「王都のお店は私の知り合いの娘に任せて、バウルブルクに洋裁工房を作りましょう」
俺とキャンディーさんは半分ずつ資金を出資し、オーダーメイド服の工房を作った。
他にも、工芸品、芸術品、アクセサリーなど。
魔族の国で売れそうな品を作れそうな職人も集めて作業場を併設している。
規模や生産量は少ないが、元々大量生産品と張り合う種類のものじゃない。
この程度で十分であろう。
「魔族の国での販売は、我々の領分ですから。珍しい希少なものなら売れる可能性が高いので、これからも商品を模索していきます」
今、魔王様とライラ様の会社に小規模貿易という業務も加わった。
規模を大きくしないのは、お上に警戒心を抱かせないためだ。
「古い魔道具も集めています。放棄地域には、運ぶのが面倒だと捨てられた魔道具も多いので、これを修理、掃除して売れば……うふふ……」
「よっぽど儲かるのね」
不気味にほほ笑むライラさんを見ても、キャンディーさんは冷静なままであった。
「陛下を頂点とする会社の規模が大きくなっていき、お金も貯まってきました。将来への展望が持てるのはいい事です」
若干方法が胡乱だが、俺も利用しているし、極論すれば粗大ゴミを転売しているだけだからな。
それに、今ライラさんと同じような事を考えている魔族は多く、取引を望む人間も多い。
お上の交渉締結を待っていたら旨味がなくなるので、バウマイスター辺境伯としては素早く動く必要があるのだ。
ライラさんも、魔王様に人材と財力を揃えるいい機会だと思っているのであろう。
「商品ができあがったら、買い取りに参ります」
「作っておくわね。もっと知り合いに声をかけようかしら?」
こうしてキャンディーさんは、バウルブルクに魔族向けの服を作る洋裁工房と、その他の品を生産する工房もいくつか併設した設備の責任者となった。
これから、魔族との関係がどうなっていくのか?
まだわからない部分も多いが、上が停滞していても下は対策を立てて抜け道を通るものなのだ。
「ロンちゃん、たまには違う服を着なさいよ。ロンちゃんも、もう四十を超えたでしょう? こういう落ち着いた服もいいと思うの。きっと奥さん達も惚れ直すわよ」
「ありがたいのである……」
「あらぁ、いい感じね」
商談終了後、キャンディーさんは同行した導師に大人の男性が着るような落ち着いた服を勧め、強引に試着させていた。
普段の導師なら絶対に試着になんて応じないのであろうが、彼にとってキャンディーさんは天敵に近い存在なのかもしれない。
借りてきた猫のように、大人しく試着させられていた。
「ロンちゃんが十八の時、こういう洒落た服装でデートに行けば、踊り子のサーシャさんにフラれないで済んだのにね」
「その話は、みなの前では……」
「あとぉ、南町のカフェの看板娘だった子。この前会ったら、もう四人の子供のお母さんだって。月日が経つのは早いわねぇ。ロンちゃん、遠い店なのに毎日通ってね」
「勘弁してほしいのである……」
導師は、キャンディーさんに色々とネタを知られているようであった。
今度、何か教えてもらおうと思う。