第百五十話 早巻き、アキツシマ統一作戦遂行中。
「ただいま帰ったのである!」
「あなた、お帰りなさい。先にお風呂にしますか? それともお食事にしますか?」
「夫君、遠征はいかがであった? 敵将の首はどれほど獲れたのだ?」
「フジコちゃん、そんな事を聞く奥さんはいないよ!」
「そうなのか? ルル。しかし、我らは貴族の妻となるのだ。時に、そういうやり取りもあるはず」
「いや、今のヘルムート王国は戦乱とは無縁である。隣の帝国で発生した内乱も終結しており、まずお主らが生きている間にそんな会話は必要ないと思うのである」
「アキツシマ島とは違うのか……。それで、反抗した領民を何人磔にしたのだ?」
「フジコちゃん! 旦那様に対する質問が怖いよ!」
「しかしだな、ルル。上に立つ者としてその土地を統治するのに、時に非情な決断を迫られる必要があるのだ。夫君役の導師殿、貴殿もそうであろう?」
「某は、法衣貴族である……」
「悪さをした家臣を鞭打ちにしたり、悪さがすぎれば首を刎ねる事もあるのでは?」
「そんな事はした事ないのである……」
「見た目に反して優しいのだな。素手で首を引き千切りそうに見えるのだが……」
「……」
「なあ、ホソカワ殿。あれは何をしているんだ?」
「おままごとです」
「雪が教えたそうです」
「教えたのは確かですが、どうも私の考えているおままごととは違う方向にいっているような……」
「大分脱線していないか? 俺はちょっと怖いんだが……」
「私も怖いですよ」
米沢城の中庭において、ルルと藤子が暇そうな導師を夫役にしておままごとをしていた。
ルルはともかく、藤子は物心つく頃から伊達家の次期当主として振る舞ってきたので、女の子としての常識に疎く、それを心配した雪が二人にアキツシマ島の伝統的な女の子の遊び『おままごと』を教えたのだ。
ところが実際にやらせてみると、どうも藤子の言動には問題があるような……。
同じく時間が空いたので、雪に淹れてもらった茶を飲んでいるブランタークさんは、藤子の言動に少し引いていた。
「この島って、領主が反抗する領民を磔にするのか?」
「私やお涼様はしていませんよ」
ブランタークさんの問いを、雪は全力で否定した。
「雪には必要ないものな」
「はい、お館様はわかってくださいますか」
そう言いながら、俺に対しにっこりと笑う雪。
雪は名門細川家最後の直系のため幼少の頃から英才教育を受けており、本人も才能があったので秋津洲領では善政を敷いていた。
雪も涼子も贅多な生活を望まなかったから税も高くなかったし、彼女は地質学の知識もあって豊富な地下水が湧き出る御所も発見している。
御所の地下水の存在は、次第に井戸や湧き水が枯渇するこの島において唯一の例外だったそうだ。
ここを見つけた彼女は、立場が危うい涼子を連れて島の最北部へと逃げ、零細領主としてようやく居場所を確保したわけだ。
「(ローデリヒに匹敵する才人だな……)他の領地では、反抗する領民が磔になったりするのか?」
「よほど残忍な領主でもなければ……。代を経るに従ってそういう領主が出ない保障もないので確実にないとは言えません。ですが、普通は追放で済ませますね。他の領地に住もうにも、どんな理由で前の領地を追い出されたのかは調べられますからまず受け入れてもらえませんし、誰も管理していない水源なんてまずありませんから、実質死罪と同じですけど」
追放の時点で生きていけないので、わざわざ殺す必要はないというわけか。
血みどろの戦乱とまではいえないが、水が確保できないと死んでしまう環境は厳しいな。
「ホソカワ殿、伊達家はどうなんだ?」
「あそこで領民の一揆なんて聞いた事がありませんね。伊達領も比較的裕福な領地なので」
「あのチビっ子は、随分と発言が物騒だな」
「あえてそう言う事で、『非情な発言をする俺、すげえ格好いい』と思っているのかも」
何しろ、五歳なのに厨二病だからな。
多分、人なんて殺した事もなさそうだし。
「そうよね、目に竜が封印されているとか言っていたし」
「そうそう。結局、黒い炎の竜だけで、紅蓮は関係なかったけど」
「単に語呂がよかっただけだと思う」
「そんなところだよなぁ……。もしかすると、あの黒い炎の竜が紅蓮の炎を吐く前に旦那に倒されてしまったかもしれないけど」
「魔法の炎でできた竜が炎は吐けないと思うわよ」
「それもそうか。ユキさん、あたいもお茶」
ひと仕事終えたイーナ、ルイーゼ、ヴィルマ、カチヤが休憩がてらお茶を飲みに来た。
エリーゼがバウマイスター伯爵家飴の政策である無料治療で忙しいため、みんな彼女と同じくらいお茶を淹れるのが上手な雪にお茶を貰いに来る事が多くなった。
雪は料理も上手で、その多才ぶりはエリーゼに匹敵するかもしれない。
「『おままごと』か。懐かしいの」
さらに、出稼ぎ兼夏休みを外国ですごすために来ている魔王様も、今日の分の宿題が終わったようで姿を見せた。
魔王様はお茶を飲みながら、ルルと藤子と導師がおこなっているおままごとを見ている。
「魔族の国にも、おままごとはあるのですか?」
「昔からあるな。ただ、ちょっと人間のとは違うぞ」
「違う?」
おままごとなんて、誰がやっても同じように思えるんだが……。
「少しやってみよう。導師殿」
「陛下が某の奥さん役であるか」
「然り、ただし……」
魔王様監修の元で魔族のおままごとが始まったのだが、確かに人間のそれとは大きな違いがあった。
「某が家で出迎えるのであるか?」
まず、妻が夫を出迎えるのではなく、夫が家に帰ってきた妻を出迎えた。
本当なら小道具である割烹着ぽい服装に着替えるのだが、導師が着ると破れるのでそのままの格好だ。
「そうだ。妻が家にいて男性を出迎えるという価値観自体が古いと女権論者から批判をされてな。あいつらはうるさいから、逆にした方が楽という結論に至ったわけじゃ」
「調子が狂うのである……おかえりなのである! 飯が食いたいのである!」
「ダウトだ! 導師!」
「どうしてであるか?」
家に帰ってきた妻役の魔王様に飯を要求した導師は、魔王様から駄目出しをされた。
「妻が食事の支度を一手に引き受けるなど、古い考え方だと女権論者がうるさいのでな」
「……食事はできているのである」
「似合わねえなぁ……」
導師が主夫役って……と、ブランタークさんも心底嫌そうな表情を浮かべていた。
俺も、毎日導師が作る飯を食わされたら発狂ものであろう。
「すまぬの。最近は残業が多くて……いや、労働基準法では残業ではないのか。政治家め、企業に媚びて何が裁量労働制度だ。サービス残業を隠しているだけではないか。かといって、文句を言えばクビだからな。はあ……生きていくのは辛いの」
「……某、魔族でなくてよかったのである」
どっちも経験している身としては、何とも言えなかった。
どっちの世界にも、一長一短があるからなぁ……。
「魔族も俺達と同じで大変だな」
「ぶぅーーー、つまんない」
藤子は魔族の生活に同情し、ルルはこの一見変わったおままごとに文句を言う。
ヘルムート王国、アキツシマ島、魔族。
異文化コミュニケーションの難しさを、俺達は目の当たりにするのであった。
「北部の開発は順調だな」
「あたり前じゃ。大して広くもない島の一部地域にこれだけの魔法使いが集まっているのじゃから」
アキツシマ島北部の中心都市米沢にある米沢城の執務室において、俺は報告書を読んでいた。
バウマイスター伯爵領本領の開発もあるが、多数の魔法使いがいるのでローテーションで回して計画は予定よりも大分早く進んでいる。
俺は、開発予定場所に必要な数の魔法使いを『瞬間移動』で送り迎えするのがメインの仕事になっていた。
この『瞬間移動』の魔法は、とにかく使える者が少ない。
なぜか魔法では圧倒的に優位なはずの魔族には、一人も使える者がいなかった。
昔の魔族には使えた者がいたので、今の魔族の間では幻の魔法扱いだそうだ。
もっとも、今の魔族の技術ならば移動手段には事欠かないのでそこまで困っていないようだが。
「さすがに、魔王様とモール達はこの島限定だけど」
「あいつらの持参した種子は優れておるの」
農業法人を経営している魔王様は、北部の農業開発に大きく貢献している。
新しい土地を開墾し、土壌も魔法で劇的に改良している。
数日おきにモール達以外の魔族も来ており、彼らは農民達に栽培方法のマニュアルを配り、現地で直接指導した。
彼らは、魔王様が会長になる前から自給自足で農業を行っており、農業のプロなのだそうだ。
穀物や野菜の種子、果物の苗木なども売ってくれた。
最初テレーゼは、それは国家機密なのではないかと心配していたが、彼らは何も心配していなかった。
「これは長年による品種改良によって改良が進んだ種子ですが、我々の国ではもうほとんど普及していませんから」
「味もよく収穫量も多いのであろう?」
「大手企業が提供する一代種には負けます。こんな古い品種の種子を持ち出しても、彼らは何も言いませんよ。家庭農園で楽しむ人が、ホームセンターで安く買う種ですから」
一代種というのは、地球でいうところのF1種であろう。
味がよく、大量に収穫でき、病気や環境の変化にも強くて育てやすく、儲かりやすい品種の事だ。
だが、その効果は一代のみ。
収穫した種子で栽培しても、次世代以降はその効果が薄くなってしまう。
それにしても、魔族の国にも穀物メジャーのような連中が存在するのか。
日本の農業がいまいちな原因の一つに、欧米の穀物メジャーにF1種の市場を握られているという理由もあると聞いていたからな。
ただ、リンガイア大陸での普及は難しいはずだ。
普通の農民が、種子、化学肥料、農薬、除草剤などを常に購入できるとは思わない。
「この地で普及させるのは、比較的栽培が楽な古い品種の方がいいでしょう。うちも、企業が経営する合成肥料、合成忌避剤使用の農業に苦言を呈し、原種に近い品種を、有機肥料、天然由来の忌避剤を少量だけ使用する作物というコンセプトで販売していますので。大規模にはできませんが、一定のファンがいるのでよく売れていますよ」
本当、魔族の国は日本によく似ているな。
効率第一の大手経営の農場に対し、昔の栽培方法で対抗する小規模農業か。
「なるほど。無理にそちらの最新技術を導入しても失敗しそうだな」
購入するものが多くてコストがかかるので、それを提供する企業ばかり儲かる。
結果大規模に耕作する必要があるが、もし豊作すぎて価格が下がれば大赤字。
大規模にすれば必ず農業が儲かるなんて幻想だ。
むしろ、種、苗、肥料、薬草、農機具を製造販売している企業の方が儲かるかもしれない。
「第一、交渉が纏まってもいないのに、種子や合成肥料は購入できないからな」
国同士の交渉がすぐに纏まるなんて幻想なのだ。
帝国も交渉に加わった結果、それぞれ様々な勢力に足を引っ張られ、なかなか交渉が進まない。
そして彼らは気がついた。
別にすぐに交渉が纏まらなくても、それで普段の生活に変化がない事をだ。
下手に焦って不平等条約を結べば、叩かれて今の地位を失ってしまう。
結果、交渉は長期化していた。
「私にも影響はないですね」
農業指導に来ている若い魔族も、政府の交渉にあまり興味がなさそうだ。
所属している会社としては商売繁盛だし、自分も遠隔地手当てが貰えるから個人的には嬉しいはずだが。
「よくよく考えてみたら、交渉が纏まってからでもここに来れますからね」
魔族の国ではとっくに陳腐化した農業技術の普及なので、外国に持って行っても誰かに咎められるはずもないわけだ。
これが最新技術なら、持ち出しに大きな制限がかかるのであろうが。
「では、私はまだ指導がありますので」
若い魔族は、報告を終えると現場に戻っていく。
それにしても、優秀な魔族だな。
少し前まで無職だったのが信じられない。
「魔族とは淡々としておるの」
「世界征服を目論むよりはいいじゃない」
「それもそうよな」
「「お館様!」ヴェンデリン様!」
テレーゼと話をしていたら、いつもは勉学や魔法の修練をやらせている藤子とルルが入ってきた。
「バウマイスター伯爵、差し入れだぞ」
二人と一緒にケーキらしき箱を持った魔王様も一緒だ。
確かあの箱は、『瞬間移動』で連れてきた時にも持っていたな。
「差し入れ?」
「そうだ。我が会社も経営が軌道に乗り、余のお小遣いも増えたのだ」
魔王様は農業法人の会長であるが、普段は学業優先なのであまり仕事はない。
成人するまでお飾りなので、報酬はお小遣い制だとライラさんから聞いていた。
「王が小遣い制とな?」
「ヘルムート王国の陛下は小遣い制だぞ」
小遣い制というか、個人的に使える歳費が決まっているだけだが。
「帝国の皇帝も、使える歳費の額には制限があるぞ。無駄遣いをすると、議会で追及される事もある」
帝国の貴族議会、意外と仕事をしていたようだ。
内乱は防げなかったけど。
「テレーゼ殿、法人は余の臣下なれど、王たる余が無駄遣いをして傾けては意味がない。時に節制をするのも王である余の重要な仕事なのだ。とは申せ、余の小遣いは月に三万エーンにまで増えた。普段はなるべく貯蓄しておるが、たまにはみなに振る舞いも必要なのだ」
小学生が月にお小遣い日本円にして三万円は多いが、魔王様はちゃんと貯金しているそうだ。
それにしても、随分と微笑ましい魔王様である。
「その箱はケーキですね」
「バウマイスター伯爵は甘い物が好きだからな。これは、我が国でも有名なケーキ屋のケーキなのだ。みなも食べるがいい」
「わーーーい」
「ヴェンデリン、お主は心から嬉しそうじゃな」
ちょうどオヤツの時間なので、みんなでケーキを食べる事にした。
「やはりいい味じゃの。皇室御用達の店よりも美味しい」
テレーゼは前にも食べた魔族の国のケーキを食べ、再びその味のよさに驚いていた。
王都と帝都にある超一流店のケーキも美味しいが、やはり最高級品の料理とお菓子の味は魔族の方が上だ。
長年素材まで品種改良して研究を重ねているので、美味しくなって当然なのだ。
魔族の国では安価な量産品でも、王国と帝国では最上級品レベルの味なんて品は沢山ある。
生活レベルが高い魔族は口が肥えており、人口減で競争も激しそうだから余計に切磋琢磨しているのであろう。
「このような綺麗なお菓子が存在するとは……」
実質的な代官として執務室に詰めている雪は、初めて見るケーキという食べ物に感動していた。
「美味しい……至福の時ですね。あとで涼子様にもお届けしていいですか?」
「構わぬぞ」
雪はうっとりとした表情を浮かべながらケーキを口に入れているが、涼子の分を確保するのも忘れなかった。
能力だけじゃなく、こういう気遣いができるので雪は凄いと思う。
「この島のお菓子事情ってどうなの?」
「甘味は、北部では贅沢品ですね」
「どうしてかな?」
この島はどの地域でも同じ亜熱帯であり、その気になればどこでもサトウキビが栽培できるからだ。
島でも標高が高い部分があり、そこは朝晩に冷えたりするそうだが。
「水不足で、なくても生きていけるサトウキビは後回しなのです。中央と南部では盛んに栽培されています。どちらの地域も水に余裕があるので」
中央は琵琶湖が、南部では湧き水が出る場所が多い。
両地域は農業生産が盛んで、特に南部は砂糖の有名な産地だそうだ。
ただ少し高いので、生産された砂糖の多くは経済的に恵まれている中央で消費されてしまう。
実は、北部地域は貧しい地域でもあったのだ。
「今は水に余裕ができので、サトウキビ栽培は計画しております」
やはり、雪も女性なので甘い物はほしいようだ。
それにしても、対応が早いな。
「甘い物はいい。心が落ち着くな」
「魔族の国とは豊かなのだな。俺も月に数度、饅頭や砂糖菓子が食べられるくらいだったぞ」
名門伊達家の姫君である藤子ですらそのような状態なので、やはりこの地域は貧しいようだ。
早く開発を進めて、生活を豊かにしないといけない。
そして、それが上手く行けばバウマイスター伯爵家と秋津洲家は領民達に支持されるというわけだ。
「ヴェンデリン様、美味しいですね」
雪や藤子と違い、魔法の才能はあっても年相応なルルは、鼻の頭に生クリームつけながら懸命にケーキを食べていた。
彼女がいた島ではサトウキビ栽培が盛んであったが、ケーキのような手間のかかったお菓子は存在しなかった。
彼女からすれば、オヤツの時間は最大の楽しみなのだ。
俺からしても、年相応で可愛らしいルルを見ていると心が癒される。
「ルル、鼻にクリームがついているぞ」
俺は、ルルの鼻についた生クリームを取ってあげる。
「ヴェンデリン様、ありがとうございます」
「うーーーん」
「魔王様、何か?」
「まるで本当の親子みたいだな」
「そこまで年は離れていませんけど」
「そうですよ、魔王様。ルルは、ヴェンデリン様のお嫁さんなんです」
「ちなみに、俺もそうだぞ」
なぜか俺の嫁になる事に積極的な幼女二人、俺はそういう問題は彼女達が成人してからだとスルーするのであった。
俺達が、アキツシマ島に上陸してから二か月ほど。
魔族の国と王国、帝国の交渉は笑えるほど停滞していたが、その間に領地の整備は進めていた。
バウマイスター伯爵領本領と、南方諸島、海竜の巣がある海域にある島々、そしてバウマイスター伯爵領南端にあるアキツシマ島北部領域。
人が住めそうな島への調査と移住も始まり、それら島々との間に中、小型魔導飛行船の定期航路が開かれた。
港は俺達が魔法で何とかしたので、早くに運行が開始されたのだ。
船員に関しては、とにかく人手不足なので退役した元空軍軍人達を期間限定で雇用した。
彼らに若い未経験者をつけ、教育しながら船を動かす。
泥縄感があったが、何とかなっている状態だ。
彼ら退役した軍人達は、みんなヴァイツ侯爵や他の空軍閥貴族の紹介で働いている。
当然、息子の件で俺と揉めているプラッテ伯爵と繋がりがある連中は排除しているので、王宮で彼は盛大にブチ切れたそうだ。
俺の排除を目論んでいるらしく、ヴァイツ侯爵から注意するようにと連絡が入った。
ローデリヒにも通達が行っており、プラッテ伯爵と縁がある人間はバウマイスター伯爵家に仕官できなくなったり、商人でも商売から排除されたりした。
貴族をやっていると、こういう完全に敵対する人物が出てくるわけで、貴族なら誰にでもある事なので気にしないでいいと、ローデリヒには言われた。
いくら人手不足でも、敵対勢力と縁がある人間を雇って足を引っ張られたら意味がないそうだ。
そんなわけで、今日もプラッテ伯爵は機嫌が悪いみたいだ。
忙しい俺は王宮に行かないので、直接彼の顔を見たわけじゃないけど。
空軍も協力してくれたので、広大なバウマイスター伯爵領内の移動は魔導飛行船で行えるようになった。
最近、王国と帝国との間でも貿易量が劇的に増大しているので、空軍の軍人は忙しい。
プラッテ伯爵と縁が深い連中も、対帝国貿易ではハブられているわけではないので、プラッテ伯爵の悪巧みに手を貸す者は少ないそうだ。
それで余計イライラしているらしいが。
そんなわけで、バウマイスター伯爵領の開発は順調だ。
魔法使いが多いのも有利な原因であろう。
アキツシマ島北部については、中央で権勢を誇る三好家は何も言ってこない。
地味に商人の活動を阻害されているが、交易はバウマイスター伯爵領とできるので、北部の領民達に不満はなかった。
俺が公共工事や開発を積極的に行って彼らに金をばら撒き、それは王国発行のセント硬貨で、それを得た彼らは北から来た魔導飛行船で運ばれてきた産品を購入する。
特に人気なのは、バウマイスター伯爵領で生産量が増大している米、魔の森で採れる果物類、海産物、塩、砂糖などであった。
他にも、装飾品、衣服、工芸品、芸術品なども売れた。
『北部の領民達はそこまで裕福だったかな?』と疑問に思ったのだが、実はこれらの品は転売するために購入しているようだ。
中央は商人が北部に行くのを禁止したが、個人レベルの行商までは制限していない。
よって北部からも、個人なら商品を持って中央に行けるのだ。
中央は富裕層が多い地域なので、彼らに舶来物を高く売って儲ける。
最近北部では、羽振りのいい領民がボチボチと現れ始めた。
一人で行商に行くので、途中荷を奪われるケースもあるそうだが、一回の失敗は一回の成功で補填可能なので、個人で中央に行商に行く者が多い。
それに加えて、関所がある場所で集団移動するようになって行商の成功率が上がったようだ。
彼らは代金として金や銀の塊を受け取り、それをセント硬貨に両替した。
徐々に東部、西部、南部の富裕層もバウマイスター伯爵領産の品を欲しがり、それに北部の領民達が対応して儲けと、次第に北部に富が流出していったが、それを気にしても仕方がないであろう。
向こうが対処する問題だからだ。
それに、アキツシマ島の焼き物、織物、工芸品、美術品なども王国領で売れるようになった。
中央に出かけた行商人が仕入れ、それをバウマイスター伯爵家で買い取り、さらにそれをバウマイスター伯爵家が領内や王国領で販売して利益を稼いだのだ。
ミズホ公爵領の特産品と共に、リンガイア大陸では珍しいデザインの品という事で好事家の金持ちが高く買ってくれた。
彼らに言わせると、ミズホ公爵領の品とはまた少し違って面白いのだそうだ。
そんなわけで、特にトラブルもなく静かな生活に戻ったが、米沢城で恒例となったオヤツの時間になると、エルが逃げ出そうとするようになった。
「何か、居心地悪いなぁ……。俺、ちょっと仕事が……」
「こんにゃろ、俺を置いて抜け出すな」
バウマイスター伯爵領内で工事をしている女性陣を除き、ほぼ全員が集まってお茶を淹れ、購入しておいたお菓子を楽しむ時間になったからだ。
そこには、ルル、雪、涼子、藤子も加わり、大半が女性で男は俺、導師、ブランタークさん、エルしかいない。
最初は導師に訓練を受けていた七条兼仲も参加していたが、『女性ばかりで疲れる』と逃げるようになった。
ブランタークさんは、あまり気にしていないようだ。
マテ茶に愛飲しているブランデーを垂らし、カタリーナに毎日窘められている。
「お師匠様、飲酒は夜になってからですわ」
「飲酒じゃねえぞ。お菓子の材料に香りづけで酒を入れる事は多いだろう? これも、お茶の香りづけなんだよ」
「その割にはお酒の量が多いようですわね」
「お前さん、俺の妻みたいな事を言うな」
「ヴェンデリンさんは深酒をしませんから、注意する必要がありませんので。お師匠様の奥さんの代わりに注意しているのです。ご心配でしょうから」
「へいへい。わかりましたよ」
カタリーナの注意をブランタークさんは軽くかわしたつもりでいたが、いつの間にか彼が作ったマテ茶五割ブランデー五割の飲み物をリサが飲み干していた。
「こらぁ! 一気飲みすんな! 超高級ブランデーなんだぞ!」
「確かに、酒精は濃かったですね」
「かぁーーーっ、これから酒の味がわからん奴は」
リサは酒に強いし、味の利き分けにも長けている。
ただ、世間で高価だと言われているお酒を無条件にありたがる事はなかった。
ブランタークさんお気に入りの超高級ブランデーも、古くて酒精が濃い酒程度の認識なようだ。
「バウマイスター伯爵、今日のお菓子は?」
導師は美味しい物が食べられれば問題ないので、周囲に沢山女性がいても気にしなかった。
「ところで、お館様」
「どうかしたのか? 雪」
「実は、三好長慶が死んだという噂が流れてきました」
重病で伏せっているとは聞いたが、そういう噂が流れたという事は事実なのであろうか?
「それ、何かの策で実は生きていたとかないのかな?」
「エルヴィン殿、中央の三好家からすれば、長慶は生きていた方が都合いいわけでして、死んだなんて噂を流す必要はないわけです」
「うちが調子に乗って中央を攻めたら、健在な長慶がいて俺らは大混乱とか。そんな策じゃないの?」
エルの奴、『死せる孔明、生ける仲達を走らす』みたいな事を言うな。
「その可能性も否定できませんが、やはり三好家は長慶の死を隠そうとする可能性が高いです。何しろ、三好家は後継者争いがありますので」
後継者を決めずに当主が死んでは混乱してしまうか。
「三好家は、後継者を決めていないのか?」
「決めていないというか、決められなかったというか……」
日本の戦国時代に似ているようで当然世界は違うため、同姓同名の武将でも色々と差異があった。
「長慶の子には、庶兄義興と次男義継がおります」
「よくある後継者争いである!」
「そうですね」
雪は簡潔に、現在の三好家が置かれた状況を説明してくれた。
ブロワ辺境伯家と同じか。
「一族や有力家臣がバラバラに義興と義継支持して、家が割れているわけだ」
「お館様の想像どおりです」
義興には、長慶の弟三好実休、安宅冬康、十河一存と、重臣松永久秀か。
義継には、一族の三好長逸、三好政康と、家臣の岩成友通、内藤長頼が。
完全に真っ二つに割れていると雪は説明する。
「それって、ミヨシナガヨシってのが死んだら大変だな。あっ、もう死んだんだっけ?」
ブランタークさんの予想どおり、中央で天下人を名乗った三好家は当主長慶の死で完全に真っ二つになった。
だが、その後の行動は斜め上であった。
「えっ? 意味がわからない」
「ですから、三好軍が攻めてきました。義継と彼に組した方の軍勢です」
雪が放っている密偵が、三好軍の大軍五千がこの米沢城を目指して進軍中であると王国した。
「だから、どうして揉めている義興の軍勢と戦うんじゃないのか? 先にうちなんだよ?」
「わかりません。とにかく、対応をしませんと」
「バウマイスター伯爵、籠城であるか?」
「いいえ、迎え撃ちます!」
この島のバウマイスター伯爵家諸侯軍の動員を解かずに訓練と開発に使っていてよかった。
すぐに三千の軍勢で南下を開始、米沢城の南二十キロほどの時点で両軍が睨み合う。
「侵略者に告ぐ! この三好家当主である義継に、秋津洲高臣を寄越すのだ!」
俺達は最初、どうして義継達がライバルを無視してまで攻めて来たのか不明であったが、彼が涼子を差し出せと言った時点で、攻めてきた理由が判明した。
義継はこの島で一番の名族の出である涼子を妻にして、義興に対し後継者争いで優位に立とうとしているのだ。
「嫌です!」
涼子は、すぐさま義継の要請を断った。
「私はバウマイスター伯爵様の妻になる身です! あなたの元には参れません!」
「……」
断ってくれたまではいいのだが、その理由はどうなのであろうか?
何か、みんなの視線が痛いんですけど……。
「そもそも、そちらが中央に住めないようにしておいて、今さらその要求はおかしい! 第一、今の三好家の当主は誰なのです? 秋津洲家から嫁を迎え入れるのですから、最低でも三好家の当主でないと。もう一度聞きますが、あなたは三好家の正式な当主なのですか?」
「そうだ! この三好義継こそが、三好家の当主なのだ!」
「では、義興殿はどうなのです? 三好家が泥沼の後継者争いをしている事など百も承知! あなたは、義興殿を納得させて当主の地位についたのですね?」
「それは……」
この義継という若者、雪に理論整然と質問されたら途端にタジタジとなってしまった。
間違いなく、義興とは後継者争いを続けたままなのであろう。
「なあ、坊ちゃんよ。お留守にしておうちは大丈夫か?」
「無礼な! 三好家嫡男であらせられる義継様に向かって!」
ブランタークさんは、最初から強気であった。
どうせ余所者だ。
向こうは天下人を自称している連中で、下手に下出に出ると家臣扱いされかねない。
敵には武将や領主一族に数十名魔法使いがいるが全然大した事もないし、俺達は魔族という不安要素を抱えている。
よって、力でわからせて早くこの島を平定しないといけないのだ。
「魔法を使うんだろう? かかってきな。でなければ、ションベンを漏らす前に帰りな」
「ジジイがぁ!」
ブランタークさんのわかりやすい挑発で、若い義継は激高した。
「我ら三好一族と家臣団を舐めるなよ! 余所者の魔法使いの実力、見せてもらおうではないか!」
総大将である義継の命令で、三好軍の軍勢の中から次々と魔法使いが前に出てきた。
彼らは三好家の一族、家臣、服属領主で、この島の魔法使いは偉い人が大半という法則はわかりやすくある。
「数は多いのである! しかし、雑魚ばかりなのである!」
「そりゃあ、導師と比べたらみんな雑魚でしょうけどね……」
「三好長慶が天下人を名乗るほど栄達できた理由に、一族や家臣に魔法使いが多いというのがあります」
確かに、雪の説明どおり魔法使いは多いな。
ただしみんな初級ばかりだけど。
義継は……辛うじて中級の下くらいか?
どちらにしても、よほど油断しなければ負ける事はない。
「バウマイスター伯爵、やるのである!」
「えっ? 俺ですか?」
「導師様、俺にやらせてくれよ」
「藤子は駄目!」
急な出陣であったため、勝手について来てしまった藤子にはやらせないにしても、わざわざ俺が相手にする必要もないような……。
ルイーゼとかヴィルマが、とても戦いたそうにしているし。
「バウマイスター伯爵、連中は犬と同じである!」
一万年以上もこの島の中で過ごしてきたので彼らはとても排他的……かと思ったが、そこまで酷いわけでもない。
北部の領民達も、バウマイスター伯爵家の支配に従順だ。
まあ、悪政は行っていないし、井戸を沢山掘ったからなぁ……。
「この島では、魔力イコール権威、権力なのである!」
「ああっ! 逆だったのか!」
俺は勘違いしていた。
この島の領民達は、お殿様の血筋がいいから従っているのではなく、お殿様が魔法使いだから従っていたのだ。
水がある中央を除くと、この島では硬い黒硬石の岩盤を破って井戸が掘れる者が尊敬され、従うようになる。
近年、秋津洲家の力が衰え島内が群雄割拠状態なのは、新しい井戸を掘れる領主様が現れなかったから。
一応魔力があるので領主には従うが、そこまでの求心力はなかったという事のようだ。
「三好家は、経済力がある中央を政治力と一族家臣の魔法使いの多さで押さえました」
とはいえ、長慶自体が取り立てて優秀な魔法使いというわけでもない。
彼の組織力で纏め上げていた三好家は、彼の死で分裂したわけだ。
「それを再び纏めるため、バウマイスター伯爵は力を見せなければいけないのである!」
「師匠の仰るとおりです! お館様の偉大な魔法を見せれば、義継のガキなど!」
ここに、七条兼仲というわかりやすい例えがいるからな。
彼は俺が魔法で倒したら、忠実な家臣になったのだから。
「では、俺が相手をしよう」
「ふんっ! ガキがあとで吠え面かくなよ!」
「悲しいですね」
「つうか、この島の連中は相手の魔力量を計れる奴が少なすぎる!」
ブランタークさんは、この島の魔法使いのレベルの低さを嘆いた。
でも、逆に高いと苦労するから、俺はこれでいいと思うんだ。
「我ら鉄壁の組織力を誇る! 三好家魔法軍団!」
「へえ、大層な名前だな」
「ジジイ! そこで茶々を入れるな!」
義継君は若いのであろう。
自慢気に自分が率いている魔法使い達の紹介を始め、それに呆れたブランタークさんが茶々を入れていた。
戦場を前に自己紹介もどうかと思うが、この島の戦争とはこんなものらしい。
兵力は脅しで、大半は総大将や武将が魔法で勝負をつけるようだ。
血みどろの戦闘をしないで済む分、悪い話ではないか。
それにしても、三好長逸、三好政康、岩成友通、内藤長頼か。
どこかで聞いたような……。
俺は歴史マニアじゃないから、そこまで詳しくないんだよなぁ……。
「火炎魔法を巧みに操る『火奏者』の三好長逸!」
「風魔法の名手『風武者』の三好政康!」
「土魔法の名人『岩弾』の岩成友通!」
「水魔法『水刃』の内藤長頼とは俺の事だ!」
見ていると痛々しいくらいに張り切って自己紹介をしているが、残念ながらみんな初級レベルの魔法使いだ。
宣伝目的と、魔法使いは珍しいから使える時点で天狗になる人がいるので、ヘルムート王国ではさほど珍しい光景でもなかった。
この島でも、戦となれば将である魔法使い同士が魔法勝負をする事が多い。
派手な自己紹介は、半ばお家芸なのであろう。
中央の三好家ともばれば、余計に目立つ必要があるのであろう。
「導師、恥ずかしいな」
「まあ、某には無理なのである」
ブランタークさんと導師は、彼らの派手な自己紹介を居た堪れない表情で見ていた。
確かに、地方プロレスのレスラー紹介みたいだ。
「じゃあ、そろそろ始める?」
「ふん! 貴様のその余裕もそこまでだ!」
「吠え面かくなよ!」
「我ら三好家の力を思い知るがいい!」
「地べたに這いつくばらせてやるわ!」
それから数秒後、彼らは全員痺れてその場で動けなくなり、率いていた軍勢は全員降伏した。
「畏まりました! お館様の仰せのとおりにいたします!」
三好義継以下、三好家の半分が降伏した。
この島に来てから四連勝、敵味方共に犠牲者がいないのが救いか。
最初は粋がっていた義継も、今ではすぐに焼きそばパンとコーラを買ってきそうなくらい従順だ。
他の一族や重臣も同じで、今のところはあとで裏切ってやるという風な態度は取っていない。
「導師って、意外と物の本質をちゃんと見ているんだな」
「そうだな」
防衛に出たバウマイスター伯爵家諸侯軍と降伏した三好軍は、そのまま中央へと進軍を開始した。
雪の助言で、このどさくさで中央を押さえた方がいいと言われたからだ。
この島を統治するのであれば、やはり島の中心地である中央の掌握は必要だ。
琵琶湖という水利に、政治経済の中心地なので国力も高い。
他の領主に獲られるわけにはいかないというわけだ。
北部は病状がよくなってきた伊達政宗に任せ、俺達は軍を進めている。
「俺も中央は初めてだな。『大津』の都は賑やかだと聞くぞ」
政宗が留守居役なので、自然と人質代わりで藤子もついてきた。
『藤子は、お館様の傍にいた方がよろしいでしょう。降って間もない私に北部をお任せになられるのですから、ケジメとして人質は必要でしょうし』
『父上の言うとおりだな。俺は人質だぞ』
そう政宗は言っていたが、どう見ても俺と藤子を常に一緒にいさせて既成事実を積み重ねようとしているだけだ。
三好軍に面と向かって俺の妻になると宣言した秋津洲家の涼子、俺の補佐でよく一緒にいる細川家の雪にライバル心を抱いたらしい。
ルルも藤子に対抗してついてきており、アグネス達も俺の傍を離れない。
「お館様、実は私には同腹の妹が……」
「「「「「「「……」」」」」」」」
「何でもありません……」
義継が自分と同腹の妹を俺に差し出そうとしたが、涼子、雪、藤子、ルル、アグネス、シンディ、ベッティと女性陣に睨まれ、すぐに発言を引っ込めてしまった。
「ヨシツグ殿、貴殿は秋津洲殿を妻に迎える方が先では?」
「滅相もない! 私には過分なお話ですよ!」
導師からの問いを、義継は全力で否定した。
彼は若く、粋がっていてもバカではない。
これからこの島の支配体制が、バウマイスター伯爵家支配になる事を理解している。
そして、俺の代官としてこの島一番の名族である秋津洲家が代々就任する事を。
つまり、秋津洲本家当主涼子は俺の妻になり、彼女が次の秋津洲家当主を産むと理解したのだ。
今のところ具体的な計画はないのだが、彼はそういうものだと思い、自分は涼子を諦め……元々そこまで未練があるようにも見えなかったが……自分の妹が俺の愛妾にでもなれればいいと思ったらしい。
残念ながら、雪達のひと睨みで退散してしまったが。
「俺も伊達本家唯一の子だからな。秋津洲家に適当な男子がいない以上、お館様の子を伊達家の跡取りにして北部領域を安定化させなければいけないのだ」
わずか五歳にして、政略結婚の必要性と意味を理解しているとは……。
伊達藤子、伊達に早い厨二病をわずらっていないようだ。
「政略結婚とはいえ、俺はいい妻になるように努力するぞ。エリーゼ殿みたいに女の嗜みもちゃんと覚えないとな」
「ルルも頑張ります」
「私は十分にできますよ」
「私もです」
「……」
涼子と雪、ここで五歳児に張り合ってどうする?
「もう先生ったらしょうがないですね。あまり増やさないでくださいね」
おい、アグネス。
俺は別に好きで増やしているわけじゃないというか、まだ誰も正式に嫁に貰うなんて言っていないんだが……。
「わかっています。先生は優しいですし、お立場もありますから」
「奥さんが沢山いても仕方がないですよね」
ベッティとシンディ。
お前ら、その妙に物わかりのいい奥様的な言動はどうなんだ?
「でも、安心してくださいね。これ以上は増えないように頑張りますから」
「何か、妹を先生に押しつけようとした人がいますけど……」
シンディに悪巧みを指摘された義継は、そっと視線をそらして口笛を吹き始めた。
こいつも結構偉い奴なんだが、魔法使いとしての力量ではシンディに逆立ちしても勝てないからな。
どうやらこの島の魔力至上主義は、導師が思っていた以上のもののようだ。
「少し疑問なのですが、いきなりこのまま中央に進軍して大丈夫なのですか?」
「ヨシツグ殿のお兄さんの軍勢が待ち構えているとかないの?」
カタリーナとイーナは、大した準備もせずに中央へと進撃する事が心配なようだ。
義継のライバルであると聞く、三好義興とその支援者達の妨害を予想したのであろう。
「それなら大丈夫です」
義継の代わりに、彼の重臣である内藤長頼が即答した。
「実は、義興派は西部に兵を出しております」
「そうなのか?」
「ええ、味方を増やそうというお話でして……」
長頼によると、長慶が亡くなる前から三好一族と家臣団によって激しい後継者争いが発生した。
両派が味方を増やしていくが、段々と中央の勢力分布は均衡してしまった。
双方がほぼ同数の勢力のため、もし本気で衝突すれば犠牲が大きい。
「元々、中央で戦はご法度です。そこで味方を増やして敵を脅かし、服属領主や家臣の離反を誘うわけです」
「数でビビらせて、敵勢力についた連中の離反を誘うわけか」
間違いなく島の経済が崩壊するので大規模な戦をするわけにもいかず、ならばもっと味方を増やして相手を圧倒すればいい。
これが、この島でよく行われる戦なのだそうだ。
そこで、義興派はあまり有力な諸侯もいない西部に兵を出し、義継派はバウマイスター伯爵家の侵攻で名族がことごとく降り、政治的に混乱している北部に兵を出した。
北部には、この島一番の名族の娘である涼子がいる。
自分の嫁にすれば、権威も得られると義継は兵を出したわけだ。
「己ら、ちゃんと偵察はしたのか?」
「テレーゼ殿にそう言われても反論できません……」
混乱していると思われた北部は、俺達の井戸掘りと、公共工事の連発、外国との交易で好景気に見舞われていた。
テレーゼに言わせると、そんな事にも気がつかない天下人の親族はどうかと思ったのであろう。
確かにニュルンベルク公爵はアレな部分もあったが、優秀な軍人で手強い敵だったかからな。
「そこは、我ら三好一族と家臣団、服属領主連合がバウマイスター伯爵家に素直に降るという事で御勘弁を」
「それはいいが、中央は抵抗するのではないのか? 義興派であろうか? 留守部隊くらいいるのであろう?」
「それはいますが、問題ありません」
「随分とキッパリ言い切るの」
「実は、私の兄が大津の守備をしておりまして……私は他家に養子に行ったので姓は違いますが、松永久秀といいます」
「えっ? 松永久秀?」
「はい、それが何か?」
思わず大声を出して驚いてしまったので、長頼に不振がられてしまった。
松永久秀、俺が子供の頃にやった戦国シミュレーションゲームでは有能ながらも、すぐに裏切るキャラとして有名だ。
将軍を殺し、大仏を焼き、仲が悪い主君の弟を毒殺し、何度も裏切って最後にはお気に入りの茶器と共に自爆した。
ゲームならいいが、ちょっとお近づきになりたくない人物だ。
一緒の席でお茶とか出されても飲む気がしない。
同姓同名なだけで必ずしもそういう人物とは限らないので、先入観を持つのはよくないのだが……。
「兄は、三好家でも一番の魔力の持ち主です。お館様には遠く及びませんが……」
それでも、兼仲、涼子、藤子と同じく中級レベルの魔力の持ち主だそうだ。
「連絡を取りましたところ、お館様の力量に感服し、ならば降ると」
「テレーゼはどう思う?」
これが罠かどうか、新米成り上がり貴族の俺にはさっぱりわからん。
こういう判断は、元公爵であるテレーゼに聞いた方がいい。
「ヴェンデリン、何を躊躇う。これを機に、この島の政治と経済の中心地である『オオツ』とやらを押さえればいいのだ。そのマツナガなる者が手引きしてくれるのであろう?」
「はい」
「ならば、あとは行くのみ。マツナガとやらが心からヴェンデリンに従うのであれば問題ない。もし何か企むのであれば……」
「企むのであれば?」
「この軍勢に上級魔法使いが何人いると思っている? 即座に撃破して、マツナガとやらが一人目の戦死者になるだけであろう? ここまで犠牲ゼロというのが奇跡なのじゃ。奇跡とはなかなか続かぬもの。ヴェンデリンは気にするでない」
「……いいえ、兄は心からバウマイスター伯爵様のお力に心腹しておりますので!」
テレーゼの脅しを篭めた警告に、三好家中でも猛将と呼ばれた長頼の顔は真っ青であった。
「お初に御目にかかります。松永久秀と申します。……これは、お噂通りですな」
降伏した三好軍と合わせて八千の軍勢は、そのままの勢いで琵琶湖沿いにある島の中心都市『大津』へと到着した。
大津はこの島の中央部のさらに中心にあり、琵琶湖の岸沿いに広がっている。
琵琶湖の水運の中継地でもあり、水利を生かした大稲作地帯から大量に米が集まり、他の地域にも輸出されていた。
ここを握った三好家が天下を取れて当たり前の立地なのだ。
大津の町は人口が五万人ほど、中央の人口の半分はここに住んでいる。
中央地域だけで島の人口の三分の一が住んでいる事になり、中央の力が強い事の証明でもあった。
大津には琵琶湖と政庁に隣接した場所に大きな城があり、ここが三好家の居城であった。
今は、留守をしていた松永久秀が降伏してバウマイスター伯爵家のものになっている。
「義興派の抵抗とかはなかったのか?」
「それは、お館様の魔法を見たら静かになりました」
実は、この城に入る前に長頼から頼まれて、大津城の上空で巨大な『火球』魔法を打ちあげた。
見た目だけ派手でお飾りの魔法であったが、中級魔法使いには到底不可能な魔法。
大津の住民達はこの『火球』に度肝を抜かれ、久秀は城や政庁にいたすべての三好家家臣や一族に『長慶様をも上回る天下人の登場だ!』と触れ回ったらしい。
長年三好家の支配が及んでいたはずなのに、みんな随分とあっさり降ったものだ。
「この島の名族、領主階級は危機感を抱いておりました」
段々と魔力量の多い魔法使いの数が減り、今では中級でも天才扱いされてしまう。
三好家の子供ですら中級に届かず、長慶は死の床で将来を悲観していた。
そのため、どちらを跡取りにするか判断する前に意識を失ってしまい、後継者争いの混乱が広がってしまったようだ。
「バウマイスター伯爵様がこの島の主となり、我々が臣としてその統治を支える。それでいいではありませんか」
「お主もそうだが、この島の領主はみんな素直じゃな。『土地は黄金』と、我が祖父などはとても拘っておったが……」
「この島は、私の見立てではあと数十年で詰んでおりましたからな」
久秀は、自分なりにこの島の未来に危機感を抱いていたらしい。
土地はまだもう少し余裕があるが、水は既に限界であった。
中央は琵琶湖があるからいいが、地方は次第に枯れる井戸が増えて領主同士が水を争う
事が多くなった。
海に出ようにも、海竜の巣が多すぎてどうにもならない。
魔導飛行船などは、先祖がこの島に持ち込まなかった。
大昔に失った技術開発もなかなか進まず、このままでは人減らしのために戦が行われるかもしれなかったのだと。
「幸いにして、この島の住民は強大な魔力を持つ者に敬意を払い、従う者が多いのです」
この島の魔法使いは、みんな名族や領主の一族のみだ。
いわばお上なので、自然と素直に従う習慣があるのであろう。
「とにかく、今が一番不安定な時だ。中央に混乱を起こさず統治しなければいけない」
そこからは忙しかった。
三好家の統治をバウマイスター伯爵家の統治にするため、俺値は奔走する事となる。
ある程度の防衛、治安維持用の兵力を残しつつ、多くの兵士を町や農村に戻した。
人口約十万の中央で、義興派と義継派がそれぞれ約五千ずつ徴兵してしまったのだ。
こんな兵数を維持し続けたら、この島の経済が破綻してしまう。
三好一族と家臣、服属領主は代官に任じて戻し、大津城や政庁に仕える文官の給料も保障した。
まあ、そちらは雪、義継、久秀などが主に行っていたが。
涼子とエリーゼは、新領主のイメージアップ作戦の一環で魔法による無料診断と治療を行い、俺達は今、琵琶湖の畔にいる。
「バウマイスター伯爵、これは水田なのか? みんな、首まで泥に埋まっておるぞ」
農業指導を行う魔族を率いた魔王様は、琵琶湖沿岸の名物である『深泥田』を見て驚いていた。
俺達が思うような水田ではなく、農民が泥に首まで浸かって農作業をしていたからだ。
「これでは、作業が大変ではないのか?」
そのおかげで、本当は気候が温かいので三期作も可能なのに、条件の悪い深泥田では年に一度しか米が採れないそうだ。
まずは、琵琶湖を徹底的に治水、沿岸の深泥田を通常の田んぼに改良、琵琶湖から流れる支流の掘削と、洪水対策用の治水、用水路の掘削、中央にも琵琶湖の恩恵がない地域があるので井戸も掘らないといけない。
みんな、魔法使いは分散して作業にあたる事になった。
「あたいも、出来る限りは手伝うよ。放出系とか、こういう工事の魔法は苦手だけど」
今日は、カチヤが俺の護衛として傍にいた。
「兄貴がさ。オーケーしてくれたんだ」
「それはよかった」
農業指導では、カチヤの兄ファイトさんも手伝ってくれる事になった。
この島には山もあり、その斜面は朝晩涼しくなる。
マロイモも栽培が可能であり、その技術指導をしてくれる事になったのだ。
「カチヤの兄君には、うちも指導してほしいな。勿論報酬は弾むぞ」
農業技術では魔族の方が進んでいたが、中には例外もある。
魔王様によると、魔族の国でもマロイモほど甘くて美味しい芋は存在しないようだ。
これを独自に栽培し、利益になる商品作物を確保したいようだ。
「村の傍にある山の斜面を利用して栽培したいのだ。ありきたりな作物を栽培しても売れぬのでな。栽培に手間がかかる? 好都合じゃ。高値で売れて利益を稼ぎやすい」
「あの兄貴が、魔族の国に行くかな?」
「そこを何とか説得してくれ。我らも、この島の農業指導で貢献しているのだから」
魔王様は、お飾りだという割には積極駅に仕事をしているように見えた。
「海外旅行だと思ってとか」
「兄貴、領外に出た事が少ないからなぁ……」
あのトンネル騒動で領地が移動したが、そこでもほとんど領外に出ない生活をしているそうだ。
毎日、マロイモの畑で作業をしているらしい。
しかも、マロイモの栽培が三度の飯よりも好きだから、それが全然苦じゃないんだよな。
「頼んでみるけど。それよりも、大丈夫なのかな? 旦那」
「何がだ?」
「いや、ほら。ミヨシの連中は二つに割れているんだろう?」
後継者争いで割れた三好義興派は、味方を増やすために西部に兵を出した。
まさか、北部に兵を出したライバル義継が呆気なく降伏し、俺達と一緒に電光石火で中央を押さえたのは予想外であろう。
挙句に、義興派の実力者であった松永久秀が俺に降伏してしまった。
彼は西部で孤立しているので、いつ中央の奪還を目指して兵を送るのか?
カチヤは、それが心配なのであろう。
「それが、軍勢が崩壊してしまったみたい」
久秀の報告である。
中央がバウマイスター伯爵という強大な魔力を持つ支配者のものとなり、義継も降伏してしまった。
大津に残っていた義興派も同様であり、その情報が次第に西部遠征軍に伝わると、まずは中央に領地がある服属領主が軍勢ごと離脱してしまった。
彼らは元々、すぐに強い方に靡く習性がある。
若い義興では、彼らを留め置く事ができなかったようだ。
帰還した彼らは、久秀の仲介ですぐに降ってしまった。
服属領主が抜けると、今度は俺に降伏した義継を頼って降る一族や家臣が増えていく。
こうして櫛の歯が欠けるように、義興の軍勢は減っていく。
今では、五百人も残っていないそうだ。
「それは可哀想だな」
「『最後の意地を見せてやる!』って突っ込んでこないかな?」
「それはないと思います」
「それは久秀と同じ意見か?」
「はい」
実は、俺の世話役という名目で久秀の娘唯姫が俺につけられた。
魔法は使えないそうだが、彼女はなかなかに優秀だ。
雪と連絡を取りながら、俺の傍で様々な仕事を行っているのだから。
年齢は俺の一個上だそうだ。
一見怜悧なイメージを感じさせる女性だが、話をしてみると話題も豊富で面白い。
俺とも話が合い、エルの下らない冗談でも笑ってくれて、笑顔もとても魅力的であった。
女性なので警戒していたが、俺を誘惑するような事もなかったので安心して傍における。
「これからどうなるかな?」
「父は、もうそろそろ困って降伏するのではないかと」
「そうなのか?」
弟と後継者争いをしていたら、いきなり余所者に領地を奪われてしまった。
理不尽さを感じて戦を仕掛けてきそうな気がする。
「それをしようとすると、残っている家臣にも愛想を尽かされますので」
「久秀がそう言うのであれば……」
ところが、珍しく久秀の予想が大きく外れた。
何と彼は、追い詰められたがゆえに火事場のバカ力を発揮、西部の諸侯を説得して五千ほどの軍勢で中央に攻め寄せてきた。
これには、さすがの久秀も驚きを隠せなかった。
「三好義興って優秀なんじゃ?」
「妾腹という事で侮る家臣もおりまして、反骨心も強いお方です」
「何にせよ、迎撃しないとな」
まだ開発は終わっていないのだが、敵軍を放置するわけにもいかない。
動員を解いていない五千ほどの軍勢で、西から攻めのぼってくる義興軍と対峙した。
「ふんっ、無駄な抵抗を」
「降った男が偉そうに!」
「バウマイスター伯爵様こそが、父長慶の跡を継ぎ天下人となるお方なのだ!」
「外国の貴族に呆気なく降りおって! お前みたいな臆病者が、三好家の当主など務まるか!」
「務まっているわ! お前こそ、時世も読めずに西部の軍勢を集めおって! 中央を荒らす気か!」
俺に降った義継は、兄である義興と口喧嘩していた。
「ストップ」
「お館様」
「俺が出ればいいのであろう? 三好義興殿。魔法で勝負しないか? 貴殿が勝てば北部も含めてすべて貴殿のもの。俺が勝てば逆だ」
「受けよう!」
俺からの魔法勝負の呼びかけに、義興はすぐに了承した。
「愚かなる弟め! 俺は妾腹のため、常にお前に与する家臣達に蔑ろにされておった! 魔力もお前より少ないとな。だが、それはこういう時のためにわざと魔力を隠していたのだ! 本当の俺は中級魔法使いなのだ!」
なるほど、その隠していた魔力を見せつけて西部諸侯を従えたわけだ。
本妻の弟よりも魔力が多いのを隠していたのは、後継者争いの余波で暗殺される危険性を考慮したのかもしれない。
「見よ! この父長慶譲りの『竜巻』を!」
「「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」」
今まで有力者がいなかった西部の領主達は、元天下人三好長慶の息子義興が作り出す魔法の竜巻の大きさに大きな歓声をあげた。
「まあ、五十二点ですわね」
「そんなにあるか?」
「中級魔法使いながら、『竜巻』の密度や形状、出現させるまでの時間などに努力の形跡が見られます」
「それを入れると妥当なところかな?」
ブランタークさんとカタリーナは、二人で義興の『竜巻』魔法の評価を始める。
俺もよく見てみると、デカイ口を叩くだけはあるのだなとは思う。
今までのこの島の魔法使いの基準でいうと、十分に天才という評価は下せるのだから。
「若殿、敵はあまり驚いていませんが……」
「俺様の魔法に驚いて何も言えぬと見えるわ!」
「そうなのですか」
「さすがは、義興様ですな」
数少ない義興の家臣と西部諸侯達は、俺達が義興の魔法でビビっているのだと思い、これはもう勝ちだと大笑いしていた。
「ヴェンデリンさん、勘違いも甚だしいですわね」
「『井の中の蛙、大海を知らず』ってね」
「その言葉は初めて聞きますわね」
「バウマイスター伯爵様は、この島のことわざまでご存じなのですか」
久秀は、俺がこの島のことわざを知っていたのでえらく感心していた。
本当は、日本のことわざと同じだったからだが。
「基本、風系統の魔法は普通にしか使えないんだが、何とかなるか」
「ヴェンデリンさんの魔力でしたら、問題ないと思いますわ」
まずは、義興の自信の源であるあの『竜巻』を消してしまう事にする。
この場合、普通は相反する系統をぶつけて消すのが正しいのだが、火系統の魔法は周囲に火災などの被害が出やすいので避けたいところだ。
そこで、竜巻の習性を利用する事にした。
義興の『竜巻』とは逆に回転する『竜巻』を作り、それをぶつけて消してしまおうとしたのだ。
「威力が小さくて逆に難しいな……まあいいや」
一旦義興の『竜巻』を打ち消し、それからもっと威力のある『竜巻』を作って脅そうとしたのだが、二度手間になるのでいきなり巨大な『竜巻』を作ってしまう。
「ふんっ、大きさだけは立派だな!」
義興は一瞬俺が作った『竜巻』にビビったようだが、すぐに大きさだけだと判断して再び余裕の笑顔を浮かべた。
というか、この島の魔法使いは相手の魔力量をちゃんと察知できるようになった方がいいと思う。
「若殿、きっと大きさだけでスカスカなのでしょうな」
「大方そんなところであろう」
彼らが笑っていられたのは、ほんのわずかな時間だけであった。
義興自慢の『竜巻』は、俺が作った『竜巻』と衝突すると呆気なく消滅してしまったからだ。
「なっ!」
「若殿?」
「何かの間違いだ! もう一度!」
義興は急ぎもう一つ『竜巻』を作って俺の『竜巻』にぶつけたが、結果は同じであった。
彼の『竜巻』はすぐに消えてしまう。
「もっと大きくできるぞ」
俺は、自分で作った『竜巻』をさらに大きくした。
さらに義興の前に移動させ、彼に降伏を迫る。
「みんなで『竜巻』に巻かれて空まで行くか? 落ちる時は自由落下だが」
「……」
「義興様?」
「すいませんでしたぁーーー!」
ようやく俺に勝てないと悟った義興は、その場で土下座をして降伏した。
これに彼の家臣と西部諸侯も続き、俺はアキツシマ島西部もその勢力圏に収める事になるのであった。




