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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
魔族来たりて

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第百四十五話 南方探索命令。

「といった事情でして、ご子息はヘルムート王国の貴重な資産であるリンガイアと、多くの乗組員達のため、自ら収監される道を選んだのです。プラッテ伯爵! 彼は貴族の鑑ですね」


「そうですか……」


「いやあ、このバウマイスター伯爵。ご子息の決断に心から感動いたしました。貴殿のご子息は貴族の鑑ですな」


「我が息子も、バウマイスター伯爵殿からそこまで評価されたと知れば大喜びでしょう」


「(ぷぷっ、怒ってる。怒ってる)」


 王城内で出会ったプラッテ伯爵に嘘の報告をしたら、彼は顔をひくつかせながら俺の話を聞いていた。

 勿論、そんな事実は真っ赤な大嘘であったが。






 リンガイアの解放が成って無事に出航したので、俺は一足先に『瞬間移動』で王城へと飛んで陛下に事情を説明した。

 どう繕っても、プラッテ伯爵のバカ息子が先に攻撃を仕かけた事実は覆せない。

 ここで国家のプライド云々を言って抵抗すると、ゾヌターク共和国政府が混乱している事もあり、リンガイアと乗組員達は長期間戻って来ないかもしれない。


 そこで、実行犯であるアナキンは即決裁判で執行猶予と罰金、罰金は俺が肩代わりして彼はそれを返すためにバウマイスター伯爵家に仕官する事に。

 主犯のプラッテ伯爵のバカ息子のみ魔族の国の刑務所にぶち込み、リンガイアと他の乗組員達は既に出航済みである事を報告した。


「これが私の限界です」


「リンガイアと貴重な乗組員達は戻ってきた。ベストとは言わぬが、ベターな結果と言えるの」


 勝手にリンガイアと乗組員達を拘束した魔族の国は謝罪し、双方を即刻解放すべし。

 賠償もせよ。


 こんな主張をしている貴族……プラッテ伯爵の事なのだが、そんな条件を魔族が呑むはずがない。

 しかも自分は矢面に立たないで裏から色々と言うので、あまり外交交渉が進んでいないユーバシャール外務卿が『じゃあ、お前が直接交渉しろ!』と激怒してしまったそうだ。

 俺も魔族側にそんな条件を呑ませるのは不可能なので、一番簡単なプラッテ伯爵のバカ息子にすべてを押しつける方法を選択したというわけだ。


 俺は思った。

 創作物みたいに、国家間の交渉で大の虫も小の虫も生かすのは難しい。

 俺は交渉が得意ってわけでもないし。


『アレは小の虫にも値しない』


『貴族の風上にも置けませんわ』


『あんなのを助けても、どうせ奴はヴェンデリンに感謝などせぬぞ。むしろ、救出が遅いと文句を言うような輩じゃ。見捨ててしまえ』


 当然といえばそれまでだが、ヴィルマ、カタリーナ、テレーゼの奴への評価は最低であった。

 エリーゼ達に対しても言うまでもない。


『感じの悪い人よね』


『アマーリエのその一言が、端的に奴を表現できているな』


 確かに、あいつは取り繕う事もできない本物のバカであった。

 多少知恵が回れば、牢屋に入っているのだから少しでも印象をよくしようと心がけるはず。 

 大貴族の跡取りなので、我慢するとか自分を律するのが苦手なのであろう。


 どうせ奴は主犯だ。

 冤罪なら可哀想と思えるが、自業自得なので助けてやろうという気持ちすら起きない。

 それでもただ魔族の国に生贄として差し出すと問題になりそうなので、奴が貴族であるという事実を利用させてもらった。


 リンガイアと他の乗組員達のため、彼だけが収監される道を選んだのだと。

 勿論奴はそんな殊勝な性格はしていないが、少なくとも貴族としての体面だけは保ってやった。

 プラッテ伯爵は俺を怒鳴りたい気持ちで一杯だろうが、まさかそれをするわけにはいかない。

 先ほどバカ息子の今後の予定を教えてあげたら、『我が息子は貴族の誉れだ!』と言いながら泣いて喜んでいた。


 世間にはそう言わざるを得ないのだが。


「バウマイスター伯爵も、悪辣な事をするの」


「私は、彼の名誉を守ってあげたのです」


 すぐに自分だけ逃げ戻ってきたら厳罰物だが、刑務所務めを終えてから王国に戻れば、空軍としても彼を評価せざるを得ないであろう。

 名誉と実入りはいいが、あまり責任のない役職につけてくれるはずだ。

 実務はあり得ない攻撃命令を出したので任せないと思うが、老人になるまでいい骨休めになるはず。

 本人がどう思うかはともかく、俺はとてもいい事をしている。


「ところで、その罪状だといかほど収監されるのだ?」


「二十五年から三十年ですね」


 国が運用している警備隊の船に攻撃を命令したのだ。

 終身刑や死刑ならないだけマシであろう。

 お上に危害を加えるという事は、平成日本人などが思う以上に重罪なのだ。

 もし王国で類似の罪を犯した場合、最悪死刑もあり得た。


 えっ? アナキン?

 あいつはあくまでも命令されてやっただけだし、司法取引は終わっているので例外です。


「実害がなかったのと、あとは刑務所内でどうすごすかですね。模範囚だと二十年くらいに縮まるそうです」


「なるほど。リンガイアと乗組員達が戻るのであれば問題ない。あの船が戻ったら、今度は東方にでも探索に出そうと思う」


 陛下も、バカな事をしたプラッテ伯爵の息子には内心激怒しているのであろう。

 彼の話はすぐにしなくなった。

 

 それよりも、リンガイアを利用した探索を続行したいようだ。

 このリンガイア大陸で繁栄した古代魔法文明の崩壊以来、周辺地域の探索はほとんど行われていない。

 王国としても、人口が飽和した際に移民可能な土地がほしいのであろう。

 今はリンガイア大陸の開発すら終わっていない状態だが、一国を支配する為政者としては長期的な視野でものを考えなければいけないのかもしれない。


 そういえば、バウマイスター伯爵領南方諸島群以南の探索もいつかしないといけないな。


「今は、魔族への対応で精一杯だがな」


 大半は、理性的な連中である。

 『人間の国に侵攻だぁーーー! 人間は皆殺しじゃぁーーー!』という種族でないのは救いだが、潜在的な力が大きすぎる。

 交渉は自然と慎重にならざるを得なかった。


「実は、帝国も交渉団を送り込んできての」


「ペーター……じゃなかった。向こうの陛下は交渉団を送るのが遅かったですね」


「様子見であろう。様子を見ていた帝国の方が案外有利かもしれぬぞ」


 魔族も王国も帝国も、それぞれに思惑がある。

 利害関係の調整から始めると、一体いつ交渉が終わるのかわからなくなってしまった。


「魔族の国には、外交を行う部署がなかったそうだの。急遽、作ったとか?」


「一万年以上も外国と交流していませんからね」


「政府が送ったという交渉団と交渉はしておるのだが、全員外交に疎いようで、なかなか話が進まないらしい」


 魔族の国は、政権交代もしているからな。

 実力のある実務者が送れなかったのであろう。

 その辺の情報は、既に王国も掴んでいるようだ。

 俺が利用した官僚達はリンガイア解放交渉では働いてくれたが、外交交渉の矢面に立てば政治家から出しゃばりだと文句を言われてしまう。

 彼らは補佐役に徹するしかないので、交渉は進まない可能性が高い。


「他にも問題がある。交易をするにしても、貨幣の交換比率とかがある」


「下手な交換レートにすると、一方的に富が流出しますからね」


 幕末の日本のように金と銀の交換レートに差があったなんて事があれば、王国の力は急速に衰えてしまう。

 焦った帝国がミスをしても同じだ。

 何しろ、王国と帝国ではほぼ同じ貨幣を使用しているのだから。


「魔族の国は、優れた魔道具を輸出したいようじゃ」


「陛下、それって……」


「もう嗅ぎつけたらしい。魔道具ギルドが大騒ぎしておる」


 どう贔屓目に見ても、王国と帝国の魔道具が魔族の国の魔道具に技術力で勝てるはずがない。

 俺の見立てでは、軽く数百年分は格差があるはずだ。

 魔族の国の魔道具は量産技術に優れており、価格もそこまで高くないはずだ。

 もし魔族の国から大量に魔道具が流れ込めば、魔道具ギルドは開店休業状態になるであろう。


「魔道具ギルドが騒いでいるのは、帝国も同じだ。ミズホ公爵領。あそこもな」


 ミズホ公爵領の魔道具は、王国と帝国のものより優れている。

 その優位が崩れるのだから、騒いで当然であろう。


「関税をかけるか、輸入量を制限するかですね」


「そんなところであろう」


 だが、関税をかけるにしても、輸入量に制限をかけるにしても、具体的な数字を探らないといけない。

 第一、向こうが自由貿易を主張して受け入れない可能性があるのだ。


「帝国の皇帝も困っておるようだな」


「でしょうね」


 内乱を機に、王国と帝国は直接会話が可能な魔導通信機を設置した。

 いわゆるホットラインというやつだ。

 二人とも、魔族の国への対応に悩んでいるのであろう。


 異文化コミュニケーションと軽く言うが、そんなに簡単に仲良くなれたら戦争なんて起きない。

 双方がある程度納得する条件で交流を始めるまでに、とてつもない時間と労力が必要なのだ。


「暫くは、ユーバシャール外務卿に任せる」


「そうですね」


 今回の交渉は、あくまでも臨時の仕事であった。

 ここで俺が、ユーバシャール外務卿の職分に口を出すのはよくない。

 面倒なので出したくもないけど。

 とか言いながら、俺も短期間で二度も特使をしたな。


「それでは、私は領地に戻ります」


「バウマイスター伯爵、ご苦労であった。経費と褒美を受け取って戻るがいい」


 陛下の下を辞した俺は、『瞬間移動』でバウマイスター伯爵領へと飛んだ。

 屋敷に入ると、早速ローデリヒが出迎えてくれる。


「お館様、大変でしたな」


「まあ、仕方がないさ。それよりも、俺はプラッテ伯爵を完全に敵に回したぞ」


 プラッテ伯爵としても俺を罵倒するわけにはいかないが、息子を外国の官憲に売り渡した俺への憎しみで一杯であろう。

 

「仕方がありませんな。プラッテ伯爵と彼に親しい連中には気をつけます」


「やはり、少しくらいは注意されると思ったんだが」


 いくら、敵対している事がハッキリわかった方がいいと言われても、社交辞令でも仲良くしていた方がいいような気もしないでもないからだ。


「そういう八方美人的な対応をする貴族もいますが、お館様ほど大貴族になってしまいますと、仲が悪い貴族がいても仕方がありません。やはり、敵だとわかっている方がこちらも対応が楽なのです」


 敵だとわかれば、偽りの好意や善意に騙される心配もないか。

 その貴族と仲がいい貴族にも注意を向けられる。


「ニコニコしながら利き手同士で握手をしたと思ったら、実はそっちが利き腕でなく、本当の利き腕でナイフを握っている。比喩表現ですが、貴族とはそんなものなので」


「なるほど」


 上手い例えだな。

 貴族は油断できないってのがよくわかる。 


「それにしても、今回の動乱。ホールミア辺境伯は大損でしたな」


 交渉は続いているが、テラハレス諸島は魔族の軍勢に占拠されたままだ。

 軍事基地の建設も少しずつ進んでいる。

 交渉の場は帝国も混ぜ、その軍事基地の一角に場を移していたが、肝心の交渉はあまり進んでいない。

 二か国間でも交渉が纏まらないのに、三か国に増えれば余計に交渉が纏まらなくなって当然だ。

 しかも、今の帝国はミズホ公爵家にもそれなりに配慮が必要な状態なのだ。


「諸侯軍の動員解除は難しいか」


「完全には無理です」


 ホールミア辺境伯としては、今の状況ですべての諸侯軍の動員を解くわけにはいかないのだ。

 数は大分減らしたそうだが、それでも大きな負担である。

 軍隊は、何もしなくても費用を消費してしまうからだ。


「まあ、うちは唯一動員していたお館様達が戻られたので、これで安心して領内の開発に傾注できますよ」


 魔族関連の件はまったく解決していないように見えたが、俺は国王陛下でも外務卿でもないからな。

 自分の領地だけ心配しておけばいい。


 というわけで、俺達は元の生活に戻る。






「この小山は崩して平地にした方がいいかな?」


「そうですわね。ここが平地になれば宅地も作りやすいでしょう」


 バウマイスター伯爵領には未開地が多い。 

 というか、ほぼ未開地なので土木工事を進めていかないと人口が増えた時に困ってしまう。

 王国中から移住条件がいいと、土地を持てない農家の次男三男や、弟子入りして独立したものの客がいないで困っていた職人、居場所がない貴族や陪臣の子弟が集まっていたので、彼らは住めるよう宅地や農地の造成は急務であった。


 一緒に魔法で整地を行うカタリーナも、今では慣れたものだ。


「先生は、もう魔族の国と交渉しに行かないのですか?」


 俺に魔法を習いながら土木工事も手伝ってくれているアグネス達は、西部行きに同行しなかった。

 日本とは違って事件の詳細が知られるのに相当な時間がかかるため、気になって俺に魔族の国の事を聞いてきたのだ。


「あれ、纏まるのかね?」


「ええっーーー! いいんですか?」


「いいも悪いもねえ?」


「そうですわね」


 国同士が外交交渉を重ねたところで、必ず交渉が妥結する保証なんてない。

 日本だって、北方領土とかもう何十年も戻ってきていないのだから。

 

「魔族の大半は、大陸に侵略したいとは思っていない」


 自分達が住む島ですら人口減で放棄した場所が多いのに、大陸を占領しても維持が難しいからだ。

 ただ、大企業としては自分達の五十倍以上という市場に進出したい意図はあった。


 ところが、彼らが生産する産品が大陸に流れると我が王国の魔道具ギルドは確実に衰退する。

 食料生産はどうであろうか?

 魔族の国の食料生産量と技術は凄いが、多分値段が高すぎて一部富裕層しか購入できないであろう。

 むしろ、王国から安い食料が大量に魔族の国に流入しかねない。

 王国は食料が不足気味なのだが、商人からすれば儲かる方に食料を売って当然である。


 魔族の国は、自国の農業というか食料自給率を守るために関税をかけるなり、食料の輸入禁止をしようとするであろうから、そうなると王国側も輸入する魔道具に高額の関税をかけるか、輸入禁止という事もあり得るわけだ。


「先生、難しいお話ですね」


 三人の中で一番年少のシンディが、額に皺を寄せながら言う。


「そうだな。説明している俺が一番意味がわからない」


「正式に交流を結ぶにしても、お互いに事情があるのですね」


「そういう事だろうね」


 ベッティは柔らかく言っているが、要は既得権益を侵すので反抗勢力が強いのだ。

 王国側は魔道具ギルドの反発が強い。

 圧倒的に技術力に優れた魔族の国の魔道具が輸入されるようになれば、彼らの力は大きく落ちてしまうからだ。

 『最新技術を仮想敵国に独占されるのは危険』だと、少し本末転倒というか誤魔化しの言い訳で魔道具の輸入阻止を行っているらしい。

 魔道具ギルドは金もあるし、ギルド運営のために貴族の子弟を多く雇っている。


 もし魔道具ギルドの売り上げが落ちれば彼らから首を切られるわけで、多くの貴族がユーバシャール外務卿に圧力を加えていた。

 

 魔族の国側も農業、畜産、漁業関連の会社や関連団体からの圧力を受けていないはずがなく、これで交渉が上手く行くはずがないのだ。


「問題なのは、いまだに魔族の国側がテラハレス諸島を占領している事だな」


 『こちらの領地を勝手に占領した魔族は信用ならない!』と言う貴族も多く、そんな彼らが交渉を締結しても順守されないかもしれないと騒げば、一定の支持を受けてしまう事にも問題があった。


 魔族の国側としては、テラハレス諸島は無謀な攻撃を仕掛けてきたヘルムート王国から賠償で貰うべき島、という認識が一部ではあるがあるのもまずかった。

 あの諸島はホールミア辺境伯領であるから、王国が勝手に外交交渉で譲渡するわけにもいかない。


 その事件で王国は謝罪しているし、実行犯達は処罰された。

 これで終わっているはずなのに、勝手に領地を奪われては堪らない。

 誰も使っていない諸島であるが、貴族と国家のプライドもあって、そうホイホイと他国に譲れるわけがなかった。


「つまり……」


「交渉は物凄く長引くから、ヴェルは自分の領地の事だけ考えればいいのさ」


「手の出しようがないですけど……」


 今日の工事現場には、エーリッヒ兄さんも同行していた。

 彼は陛下から直々に、バウマイスター伯爵領の開発が順調に進むよう、その補佐と連絡役に任じられている。

 今日は視察のためにここに来ていたのだ。


「ヴェルは臨時特使として魔族の国に行ったし、交渉でも成果を出した。これ以上は無用だね。それよりも、領地の開発の方が重要さ」


 外交交渉の間、王国は統治と内政を行わないわけにもいかない。

 むしろ魔族の国に対し、我が国は常に発展し続けているのだとアピールしなければいけなかった。


「ヴェルが、アーネスト殿からの情報と合わせてゾヌターク共和国の報告を挙げたでしょう? 向こうは人口が減り続ける社会だそうだから、うちは発展し続けている事をアピールしてプレッシャーを与えるわけだね」


 技術力や魔法使いの数では相手にならないので、勝てる要素で魔族の国にプレッシャーを与えるわけだ。

 これも一種の戦争であろう。


「帝国もいるからね。あの国は内乱で大きなダメージを受けたけど、中央の力が強くなった。長期的に見れば大きく成長するだろう」


 今まで顔色を窺わなければいけなかった選帝侯家の多くが没落し、新皇帝であるペーターは若くて有能だ。

 内乱で荒廃した帝国の復興という名目で大規模開発も次々と進んでおり、油断していると王国は帝国に国力で抜かされる危険もあった。


「暫くは帝国との関係も悪くないと思うから、その間に王国も力を蓄えないといけない。魔族の国との交渉は帝国も加わって余計に複雑化したんだ。時間は稼げるだろうね」


 交渉の停滞、時間がかかるのは、むしろ王国にとって有利というわけか。


「帝国の交渉団も、魔族の国の言い分に首を傾げているらしいけど」


 『野生動物が可哀想だから狩猟はやめろ』と言われては、帝国も混乱して当たり前か。


「そんなわけで、うちはうち、他所は他所という結論に至るわけだね。私は財務閥の法衣貴族だから、ヴェルの領地が栄えて間接的に王国の税収が上がれば評価される。王国政府とバウマイスター伯爵家の関係が良好ならもっと評価されるわけさ」


 エーリッヒ兄さんは財務閥の貴族だから、端的に言うとお金が最優先だからな。

 金がないと首がないのと一緒なのは、どの世界でも同じだ。

 お互い、金のない実家で苦労もしている。


「それで、開発を促進するのですか?」


「それもあるけど、実は王国から依頼を受けていてね」


「依頼ですか?」


「そう、バウマイスター伯爵家が領有している南方諸島群があるよね?」


「ええ……」


 南の海岸からそう離れておらず、俺が見つけた島なので、王国からバウマイスター伯爵領と認知されていた。

 野生のサトウキビが大量に生えている島が多く、現在数百人がサトウキビの栽培と製糖業を営んでいる。

 漁業も盛んで港も整備されており、徐々に人口が増えていた。


「その南に何があるのかというお話さ」


「ですが、探索には大型の船が必要なのでは?」


 西方探索では、リンガイアを出航させたくらいだ。

 うちで運用している魔導飛行船では、そう遠くまで探索もできない。


「そこまでの大探索なら、王国が大型の船を出すよ。今回の探査は、精々数百キロ。バウマイスター伯爵家で所持している魔導飛行船の行動範囲内の探索だね。バウマイスター伯爵領全体の把握を行う必要があるわけだ」


 大型船で探らなければいけない新領地は、王国が船を出して領有権は別というわけか。


「新領地探索ですか……」


「西方探索で魔族が見つかってしまったからね。北方は帝国が探索隊を出す予定だと聞いている。東方も同じでね。王国は計画を立てているよ」


 先に帝国に見つけられてしまうと領有権を確保できないから、とにかく早く探索隊を出すというわけか。

 南方は、バウマイスター伯爵領の確定作業というわけだ。


「わかりました。ローデリヒに言って船を準備させましょう」


「私も同行するよ」


 魔族との交渉はまったく進んでいなかったが、バウマイスター伯爵領の開発は進めないといけない。

 そのための領地確定作業を行うため、俺は南方探索隊の編成をローデリヒに命じるのであった。

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