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二、次男一二歳、フリージアと嘔吐。

 ぼくは、お母さんが好きだ。

 とか言ったらなんかマザコンみたいだけど、そんなんじゃないって言うかまずお母さんって言っても別に母親でも何でもないし。母親役、みたいな。じゃあ単純に女の人としてのお母さんに対して恋してるの? とか聞かれたらぼくは全力で首を横向きにふると思う。首ちぎれて頭飛ぶくらい思いっ切り。まだたった十二才のぼくがそんな大人っぽいと言うかアダルトなと言うか、そんな感情抱けるわけないし。単純に母親として好きなだけだし。あれ、でもそれって結局マザコンなのかな? まあどうでもいいや。

 で、今そのお母さんが猫をひっつかんで帰って来た。バタンって音がしてふり向いたら、猫の首の皮をつかんで立ってるお母さんに「何見てんの」ってすっごい怖い声で言われたから「ごめんなさい」ってあやまると、今度はすんげー不ゆ快そうな目で見られた。お母さんはぼくがあやまるのがあまり好きじゃないっぽい。よく分かんないけど。

 お母さんはぼくを無視して部屋の奥の方に歩いて行って、んで右手に持っていた猫をいきなりかべに叩きつけた。ばっこーん! って。絶対となりの部屋に住んでる人びっくりしてると思う。けどこんな真っ昼間から働きもせずに部屋ん中いるような人はどうせまともじゃないからまあいいや。そう言うの何て言うんだったっけ? あ、そうだ、トニーだ。

 って言うか、本当にびっくりしてるのは隣人じゃなくて多分猫だろうし。普通に生きてたらいきなり捕まえられて、んで首の皮べろーんってされたかと思ったら今度はいきなりばっこーん! とか、かわいそう。あ、でも気絶してるから多分びっくりとか出来てないよね。

 お母さんはピクリとも動かない猫をほったらかしにしてキッチンの方へと歩いて行く。何するのかと思ったら包丁を取った。あ、これ猫死んだなぁ、とか思いながら今までお母さんが殺した猫の数とか数えてみた。多分数十匹は殺してる、それもぼくが見てる時だけで。ぼくが見てないところでも多分殺してるから、百匹とかよゆうかも知んない。とか思ってたら耳をつんざくような悲鳴がいきなり耳に突き刺さって来て、ぼくは超びっくりした。内臓出るかと思った、主におしりの穴から。

 悲鳴を上げたのはもちろんお母さんじゃなくて、何か出かける準備をしてたお姉ちゃんでもなくて、今まで一回も部屋のすみっこから動いてるのを見たことがない妹でもなくて、当たり前だけどぼくでもない。つまり猫。かわいそうな猫。真っ白できれいな猫だったのに、刺されて真っ赤っか。あ、でもこれはこれで何だかきれい。って言うのは言ってみたかっただけで、本当はグロいの苦手だから吐きそう。

 って言うか吐いた。吐いてたら誰か帰って来た。おえぇ。玄関で何かお姉ちゃんとしゃべってる、おえぇ、声からしてお兄ちゃんかな、おえぇ。あ、ヤバい、止まんない。うめきながら色々ぶちまけてたらお母さんがいつの間にか目の前に立ってた。おえぇ。

「ちょっと、汚いじゃん、死ねよ。」

 ちょ、その声、ヤバい、超怖い。なんか、殺されそう、おえぇ。

「ごめ、ん、なさい」

 ぼくは、無茶苦茶、ビビりながら、何とか、あやまった、おえぇ。声に、ならない、声で、おえぇ。けど、お母さんの顔は、もっと怖くなる。やっと吐き気が治まってきた。けどお母さんのみけんのしわがヤバくて今度は目から色々出ちゃいそう、涙とか、目ん玉とか。

「ごめんなさい」

「その謝るのやめて。ウザい。」

「ごめんなさい」

 あ、またあやまっちゃった。お母さんの顔が一気にはんにゃのお面よりイカれた感じになる。横で見てるお兄ちゃんもちょっとビビってる。って言うかお兄ちゃん耳から血がだらだら落ちてるけど大丈夫なのかな。とか心配してたらぼくは吹っ飛んだ。

「謝んなって言ってんのよこのクズ!」

 ぼくをけっ飛ばしたお母さんはそれだけじゃ満足できないみたいで、ぼくのことを思いっ切りふんづける。あれ、痛くない。死ぬほどみぞおちとかキックされてるのに痛くない。あと何か急に部屋が煙たくなった。ん、これ煙じゃなくて霧? いや霧でもないや、単純にぼくの目がおかしいだけ。

 え、もしかして、これ目だけじゃなくてカラダ全部がヤバい? 何か息できないのに、全然苦しくないし、やっぱり、死んじゃう、感じ? 意識とか、だんだん、とぎれて、来てる、気もする、し。何か、視界の、はしっこの、方に、白い、花とか、見えるし、何これ、フリージア? いや違うこれ、ただの、白猫の死体だ。どうでもいいけど、お母さん、いっつも、猫を殺してる、のに、黒猫だけは、殺さないんだ。

 って言うか、お母さん、やっぱり、色々、狂ってるよなぁ。けど、ぼくは、やっぱり、そんな、お母さんが、好きだ、とか、思うのだった。そして、ぼくは、死んだ。


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