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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
97/151

4‐5‐2 Devil

 「大将を打ち倒したからと言って終わる戦闘ではあるまい。我を畏れぬならば、来るがよい」

 

 粛々と言葉を放つのは、勝者。

 地に堕ちていくのは、敗者。

 勝ったのは、白の天使。

 否、負けることが運命として織り込まれているのならば、正しく敗者として、その役目を果たした彼らはむしろ真の勝者なのかもしれない。なぜなら、悪という敵対者を失った正義はその意味を失うことになるのだから。

 

 「甘いね、君は」

 

 完全な破壊状態ではない瀕死の状況で投げ出された司祭は、最後の足掻きとばかりに破滅の呪詛を紡いでいく。紡がれた言葉は、先程放たれた技を再現する。

 

 「目的は達した。それ以外は好きにしろ」

 

 「ありがとう、そして、さようなら」

 

 【Reverse cross(背教者)】


 大きく横なぎに放たれた攻撃に白の教団の何割かが音を立てて砕け散る。上を向くアティドと前のめりに崩れるマクト。背中合わせの二人は、奇妙な友情で繋がっていた。

 互いのことを認め合いながらも、決しての肯定はしない。

 道は違えた、ならば後は進むだけだった。

 

「地獄があるなら、そこで再会しよう」

 

 返答の代わりに、響いたのは金属の塊が大地に崩れ落ちた音だった。そして、大将機であるビショップ戦闘不能になっても戦闘は継続する。早々に敗走を始めるもの、感情が昂ぶり返り討ちに合うものと内訳は様々だが、間違いなく転機ではあった。

 敗走を始める者を嬉々として刈り取る粛清者の存在がここにきて現れ始める。

 

 「後ろから攻撃すれば、案外もろいものですね」

 

 背後から斬り掛かり一瞬の内にAAを細切れにする黒いソルジャー。あえて正面から戦いを挑み勢力を問わず戦いを重ねるウィザード。

 

 「最強勢力とはいえ、はぐれもの達はこんなものか」

 

 大剣についた鉄くずを振り払い軽くうつむくゲイル。戦闘狂の彼としては、期待を裏切られたという感は拭えない。

 

 「雇用主の敗北を含めての依頼ですからね。割り切ってください」

 

 会話をしながらも破壊の手を休めぬ二人。敵対勢力と認識され攻撃対象となるようなことをしている彼らだが、透過迷彩を持つ彼らにとって乱戦という状態は狩場でしかない。攻めてくる相手がいれば適宜移動しつつ姿を消せば補足することは困難を極める。

 ましてや、相手は離脱することが目的である以上深追いなどしてくるはずもない。

 

 「茶番だな」

 

 教皇が戦場から離脱したのを見送りつぶやくゲイル。

 

 「少なくとも、踊らされる人間にとっては現実ですよ」

 

 背中合わせに会話を続ける。別段、敵に包囲されている訳でもないが、幾分注意を払わずに済むからだ。

 

 「仕方がないこととはいえ、惜しい人物を失った」

 

 「あなたの場合、惜しい相手を亡くしたという程度の意味でしょうに。勝てぬとわかっていながら、それでも嘆きますか」

 

 「今勝てぬのならば、いずれ超えればいい。ただそれだけの話だ。しかし」

 

 「それができない人間も居るということです。彼には時間がなかった、そして、彼は自分自身の死という事象さえも最大限に利用しようとした」

 

 「思えば、『神』というのは奇跡の存在なくしては語れない。史実における偉人は、死という不可避的な事象を超えることによって神格化されてきた。それを思えば、彼の判断は理性的なものであったといえるな」

 

 先の戦闘を見て思うところでもあったのか、ゲイルは饒舌だった。

 

 「それは、彼の再生を期待しているのですか? 現実における死は、絶対的であり不可逆的なものであると知りながら」

 

 そんな様子に、ビジネス以上の興味を持って、あえて追及をするヘイフォン。

 

 「感情的にはそうだ。叶わぬ願いであると理解してもいる」

 

 「そうでもありませんよ。仮想の深層を目指す限り、彼との再戦はむしろ避けられぬものだと思いますよ、少なくとも彼の意思を継ぐ者たちを私は何人となく知っている」

 

 「どこまで知っている? 情報屋」

 

 残党を排除するべく互いに正面に加速する。

 

 「言葉の真意を測りかねますが、私は情報屋ですので対価を頂ければどこまででもお教えしますよとだけは言っておきます」

 

 後ろをちらりとも見ずに援護射撃をするヘイフォン。それは、警告とも挑発とも取れるような行動だった。

 

 「喰えない奴だ。お前との戦いはこの先に取っておいてやる」

 

 助けられた、というよりは、釘を刺されたゲイルは吐き捨てるように言う。

 

 「対価を頂ければ、引き受けますよ。必要ならば手加減までも含めて」

 

 「どうやら、俺とお前は友人には向いていないようだな。さて、そろそろ切り上げるか」

 

 呆れるように両手を広げリターンプロセスを開始する。

 

 「末永く、よき隣人であることを願っていますよ。再見」

 

 戦闘の大勢が決まったのを見守って、二人はフィールドから帰還したのだった。

 

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