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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
95/151

4‐4‐5 Laplace

 椅子に座りながら、ぼんやりと紅茶を飲んでいた明に通信が届く。

 

 「映像通信? 差出人はヘイフォンからか」

 

 同時刻、新城明宅のリビングにて明達三人はくつろいでいた。

 

 「情報屋か。見返りなしにいきなり情報提供とは珍しい」

 

 リビングのソファに座っているのは神代鏡。エスニック調の服装にストール、前回の教訓を活かし香水を石鹸の香りに変更したにも関わらず、暑くないのか? の一言で片付けられた腹いせにもう何個目になるかわからないティラミスを食べつつ口を挟む。

 実際には、通気性も良く日差しが直接当たらない分、涼しく快適で冷房の風に当たりすぎることもないので重宝している彼女だったが、そんなことを一々反論する気力は根こそぎ持っていかれてしまっていた。

 

 「後々いくらか請求されるかもしれんな。手口だけ見れば詐欺師も同然だが、あいつの情報にはそれだけの価値がある、は、ず。なんだこれは」

 

 動揺から紡がれた声は、偽りのない驚き。PITから転送される画像の解像度を調整しつつ、データのバックアップを開始する明。

 

 「私だけ仲間はずれは嫌だよ、明」

 

 ARを介して視界を共有しつつ後ろから覗き込むように現れる水月。ジャージのままおぶさるように抱きつくが、それすら意にも介さないほど明は映像に引き込まれていた。

 

 「すぐに私達にも転送しろ、リーダー様」

 

 素直に見たいとは言えない微妙な心境を隠すかのように敢えて大きな声で鏡が言う。

 

 「全く、お前の思考には管理者権限で独占されるという発想はないのか?」

 

 その声に、ふと我に返り明は冷静さを取り戻す。

 

 「君は、そんなケチくさい男ではないのだろう?」

 

 返ってくる答えなどわかりきっていても、それでも言葉を重ねる鏡。試すような言葉の裏にある感情は、信頼だった。

 

 「それに、後で確認するよりこっちの方が手っ取り早いもんね」

 

 「教団と旅団の抗争、どうやらリアルタイムで起きているものらしい。散発的な小競り合いかとも思ったが、これは規模が大き過ぎる。そして、映像の中央で見えるのはおそらく、だが、マクトのビショップと『教皇』のミカエルの機体だろう」

 

 驚きの感情が一切乗せられていない静かな声で明がつぶやく。そして、彼がその両者を見間違える訳もなかった。なぜなら、彼らは今の彼にとって辿り着く目標であり、達成する目的であり、殺すべき対象そのものなのだから。

 

 「世紀の一戦というところか。しかし、なぜこのタイミングで」

 

 「冷戦状態が長く続いていたんだ、何かしら均衡を崩すきっかけがあったんだろ。もしかしたら、間接的には俺達が手引きしてしまった可能性もある」

 

 全面戦争が回避されてきた理由として、勢力間の力が均衡を保っていたことが挙げられる。仮に、『白の教団』内に保守派と改革派があるとしたら、改革派にはいい口実を与える事項であることは間違いない。

 これがただの新人が三人、『黒の旅団』に入るだけならばなんの問題にもならなかったのだろうが、元開発チーム新城大地が組織した『電研』の三人、それも本人の息子が『黒の旅団』の首領に直接謁見したことが問題だった。

 見方によっては、『神国』、あるいは『黒の旅団』の指揮下にそのいずれかが入るという構図に見える状況だからだ。そして、そこから予見されるのは、現状のパワーバランスを崩壊させる程の影響が与えられることだった。

 

 「というより、間違いなく崩壊の引き金だな。動きたくてたまらない連中には最高の口実を与えてしまったな」

 

 「それでも、参加することそのものは任意だよね。これは、どこまで行ってもゲームの延長でしかないし、降りるか降りないのかは個人の自由のはずだから」

 

 武器が用意されていても使うのか使わないのかの判断は、人間に委ねられている。そこがこのゲームのいやらしい部分でもあり最大の魔性でもある。どこまでいっても、機械は機械でしかなく使うのは人間、そして、その点がただのゲームに殺しの実感を与え、与えられる恩恵の大きさがその行為を加速させていく。

 

 「つきまとう副産物が多過ぎて本質を見失ってしまうのは、むしろ人間の方か。水月らしい考え方だな」

 

 「なんだかんだで水月は、合理的だよ」

 

 「これは、喜んでいいところなのかな?」

 

 「水月は、適度に場を和ませてくれる素晴らしい存在だよ。本当に」

 

 唐突に送られてきた衝撃的な映像、そして、鏡との推論の中で緊張し張り詰めていた空気は、不思議と穏やかなものに変わっていく。しかし、彼らはまだ意識していなかった。自分自身もまた、この運命の当事者であるという事実を。

 

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