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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
94/151

4‐4‐4 Laplace

 赤々と燃え上がる太陽を背に黒き竜が舞い降りる。

 あたかも竜を従えるように映るビショップの姿は、司祭というよりも、むしろ魔王という形容がふさわしい。威嚇するように竜は猛り、獰猛な牙を天使へと向ける。サタン対ミカエルという幾度となく繰り返されてきた構図ではある。

 

 「その姿は、ソロモン王が如くだな」

 

 悪魔を従え、その頂点として君臨した覇王。史実と虚構がない交ぜにされた伝承は、彼の実体をより曖昧なものへと変えていく。あるいは、実体のない神の方が畏敬を集め、信奉される対象としてはふさわしいのかもしれないが。

 

 「個別に戦闘する手間を省いてやっただけさ。こちらは、君を倒したい。君はニクムを倒したい、そして、今のニクムではまだ現在の君には勝てない」

 

 部下として絶対の信頼を置きながらもその評価に一切の感情を持ち込まない彼は、正しく支配者であり、王としての資質を兼ね備えていた。

 

 「『支配者』であいつそのものを武器として使うつもりか」

 

 「そういうことさ。どうせ、千の兵士や万の軍勢、億の剣を以ってしても君を倒すことなど出来はしないのだから」

 

 数の暴力や軍勢の威力を認めつつも、その力だけでは目の前の敵を倒すことはできないという事実。圧倒的強者は、この世界の理に従えば、文字通り勇者となり一騎当千以上の働きをすることができる。

 それは、知識を知る者と知らざる者の力の差であり、同時にそれを正しく理解し運用できる者とそうではない者を隔てる大きな壁だった。強者の名前を騙る偽物が跋扈しない理由の一つに威嚇力以上に敵対者が増え、結果としてすぐに殺されてしまう現実があった。

 

 「勝てば全てが手に入る、負ければ全てを失う。この世界の唯一にして絶対の制約」

 

 別段、ここに集まっている人間たちが決闘主義者達の集まりという訳ではない。しかし、軍団の戦いの最中、三者の周囲は自然と広がり、さながらリングの様相を呈していく。

 それは、自らが闘技者であるにも関わらず観戦者として甘んじるしかできないと理解しての保身であり、この戦いを汚したくないという憧憬でもあった。

 

 「戒律に従う限り、君は革命者ではなく王でしか有り得ない。仮に『神』を殺したとしても偉大な王として名が残るだけで、『神』そのものにはなりえない」

 

 「僕や僕以外の誰かが神になる事を我々は望んでいない。そして、ただ敵として存在するために我々は生きてこうして戦っている。大勢を崩壊させ、世界そのものを本来のあるべき姿に変えていくことが我々の望みだ」

 

 マントを翻すように竜は羽ばたき、その身を司祭へと捧げる。

 

 「いずれにせよ、ここは神が我らを試す戦い。結論は、剣で出すとしよう」

 

 掲げた剣を静かに構え、両者の間に静寂が落ちる。

 

 「かつての友として君の戦いをここで終わらせてあげよう。願わくは、冥府で彼女と再会することを祈っているよ」

 

 竜の羽を纏い、黒き天使を思わせる姿でマクトは宣言する。

 

 「ならば、聖戦を始めよう」

 

 戦争とも言える巨大な潮流の中で、最強と称される二人の戦いが始まった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「一介の武人としては見物ではありますが、どうしたものでしょうか? 情報屋としては、あの方に連絡をしておくべきなのでしょうかね」

 

 同時刻、戦場の一端に黒いソルジャーと対峙するAAの姿があった。

 

 「互いの不可侵を約束するのならば、観戦をするのも悪くはない。軍団クラスの戦闘など見慣れたものだが、極め人同士の戦など早々見られるものではないからな」

 

 黒いウィザードの傭兵、ゲイルは答える。

 

 「その割には、戦いたさそうですが」

 

 命のために避難するというよりは、見やすい場所に移動したという気楽さで二人は語る。

 

 「俺もまた武人。それに、あの片割れとはつい先日交戦したばかりだ。少々疼くのは致し方あるまい」

 

 武人としての覚悟を一笑に付されたと言えなくもない内容だったが、彼はそれを気にしていなかった。少なくとも彼にとっては、生きている限りは敗北ではなく、生存し続けていることそのものが強さだと思っているからだ。

 

 「止しましょう。我々は金をもらって戦うただの『傭兵』でしかないのですから」

 

 情報屋以外にも、政治の暗部を担う役割の彼らが、自ら進んで交戦する必要性はなかった。そして、依頼主の心情を推測したとしても戦争に紛れた内部の腐敗の粛清など最優先事項とは程遠いのは互いに理解していた。

 

 「それに、目の前に手頃な相手もいる。いやが応にも昂ぶるわ」

 

 情報屋以前に、新城大地の手駒として動いて来たヘイフォンの名前は、古参のプレイヤーにとっては周知のものだった。表面上は、敵対する組織に身を置いているが、その本心はどこにあるのか誰も知らない。

 

 「戦闘狂ですか。救えないですね」

 

 クスリと笑いつつヘイフォンは答える。

 

 「何にせよ戦闘データの回収は互いに果たすべき任務だ。対象の生死を問わず」

 

 仕事と私情は別だと理解しても、なお、戦いには麻薬じみた魔性があった。あるいは、それは戦いに魅せられた者達しかこの場所において生存を許されない過酷な環境がそうさせているのかもしれないが。

 

 「いいでしょう。こちらとしても残念ではありますが不可侵を承諾します」

 

 ビジネスはビジネス。不必要なリスクは、互いになんの意味もなくましてや最優先事項が別にあるのならばなおさらと言えるだろう。

 

 「ならば、見守るとしようではないか、この良き宴を」

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