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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
92/151

4‐4‐2 Laplace

 戦闘が終了し、二人はアヴァターへと変化する。そして、システムによって非戦闘地域と認識されたフィールドが本来の姿へと書き換えられていく。

 

 「やっぱり、なかなか難しいですね」

 

 「いやいや、そちらも強かったぞ。こちらも負けを覚悟した」

 

 「私の初めて、奪われてしまいました」

 

 軽く頬を赤らめ黒木愛がしなを作って笑う。

 

「確かに君にとっては、初対戦、初の敗北ではあるのかもしれないが、紛らわしい言い方はしないで欲しいんだが」


 誰に誤解される訳でもないが、とりあえず訂正を要求する明。


 「そんな殺生な。むしろ、そのために対戦をしたといっても過言ではないのに」


 「今明かされた、衝撃の事実」


 呆れるように明は苦笑する。


 「まあ、私の暇つぶしですから」


 「ぶっちゃけたな、おい」


 「あと、対戦相手のデータに関しては個人情報なので公開できませんので悪しからず」


 「しかし、そういうことを言うのなら、この対戦そのものがシステムとしては公正さに欠くのではないか?」


 「私という、個人のパーソナリティが他人のデータを参照に、個人に対して戦闘を吹っ掛けただけですからグレーゾーンで済む話ですね。ある程度、プログラムに遊びを入れて処理をしないと何もできなくなってしまいますので」


 特定の誰かのデータと対戦する目的で明は戦闘した訳ではないし、むしろ戦闘を仕掛けられた被害者とも取れるがこれもグレーとして処理。また、その戦闘の経験によって間接的に明が成長したとしても、それは特定の個人を優遇して他人のデータを提供し利益や不利益を与えるモノと認識されない。

 戦闘そのものが嫌であるならば、極論、仮想に入らなければよく、また、開戦と同時に離脱すれば済む話でもある。そして、死にもせず殺しもしないという設定で戦闘が行われるために利害関係の発生が起きていないと処理される。


 「つまり、ルールを把握することが仮想、ひいてはこのゲームにおいては大きな意味を持つってことなのか」


 「それは、どんなゲームにも共通して言えることだと思いますよ。ルールについて熟知していないものが勝ち続けることなんて出来はしませんから」


 「はは、おっしゃる通りで」


 「ここで笑われると、私がまともじゃない人みたいなのですが」


 明は顔に薄らと笑みを浮かべ、沈黙で答えた。


 「……軽くへこみます」


 「気にするな。お前にだっていいところがたくさんあるさ」


 「……具体的には?」


 「ああ、ええと、意外と、意外と、その、意外とだよ?」


 「……泣いていいですか? というか、ここは私怒っていいところですよね」


 彼女のいいところを言おうとして、自分自身が彼女について全く知らないと気付き、呆けた顔で思案する明。そして、呆けた顔は、戸惑いに変わり、焦りへと、そして、窮地に陥った明の思考は一つの答えを導き出した。

 そう、謝ろうと。


 「ごめんなさい。私が悪かったです、本当に勘弁して下さい」


 黒木愛に割と本気で泣かれそうになったので、即座に土下座する明。修羅場になった経験が豊富なのか、その動作は妙にスムーズだった。


 「うわ、手慣れ過ぎていて逆に引きますよ」


 「誠意を込めて謝ったのにこの仕打ちですか」


 「や、反射的に突っ込んでしまいました」


 「普段、ぼける連中しかいないから自分が突っ込まれる可能性を忘れていたわ」


 「……それは、どういたしまして」


 「はは、ほんとにいい奴だよお前は」


 「私たちは、友達ですから」


 「自分でいい事言ったな、みたいな顔をしなければいい場面だったな」

 すました顔をしている黒木愛を明はからかう。


 「ふんだ。営業スマイルですよう」


 「すねるなよ。また、遊んでやるから」


 「約束、ですからね」


 赤子のようにころころと表情を変える黒木愛の姿は、プログラムとして規定された存在というよりは、むしろ人間そのものだった。おかしな話かもしれないが、明には彼女が人間以上に人間らしく映った。


 「約束は守るさ。どんなものであってもな」


 「その言葉、永久保存しましたよ。それでは、ごきげんよう」


 「またな。しばしの別れだ」


 「世界が私であり、私が世界である限り、仮想に別れはありませんよ」


 彼女の意識体が消えて、情報の海の中へと溶け込んでいく。

 

 「意味深なことを言って消えたな。ん、メールか」

 

 そういって、メールを開いてみると差出人は黒木愛だった。

 

(……うっかり陰口も言えないな。というか、アドレス帳に勝手に登録されて友人リストの中に含まれている)


 恐るべし、黒木愛。

 明は、そう思うのだった。

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