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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
91/151

4‐4‐1 Laplace

 「暇です、遊んでください」

 

 「毎度のことながら、唐突だな。一応、『神』なんだろ自分で何とかできないのか?」

 

 武装を確認、変更をしているとどこからともなく黒木愛が現れる。偏在する神として、仮想空間上においては、全てが彼女の領域であり彼女そのものでもあった。ちなみに今日は、本人の趣味なのか気分の問題なのか、ふわふわとした白いワンピースを着ている。

 

 「そろそろ積みゲー消化するもの映像作品みるのも飽きました。ナンバーワンヒットとか史上最高とかついていても、結局ワンパターンで結末が先読みできますし。古典作品なんかは、技術的、文化的にどんなに優れていたとしても娯楽足り得ないものが多いですしね」

 

 「いや、俺にそれ以上の面白さを要求されても実現不能なんだが」

 

 一気にまくしたてられ、嫌な汗をかくような感覚に襲われる明だった。彼の経験上、女性から何かを要求された時は大体ろくなことになっていなかった。

 

 「もうまんたいです。ワタシハ、アナタニ、ゲームノ、アイテヲシテホシイノデス」

 

 相変わらず人と話すのが苦手なのか、詰まりながら妙な発音で愛は話す。

 

 「何故に片言。というか、世界最高峰のコンピュータに搭載された人工頭脳にゲームで勝てるわけがないんだが」

 

 ぼこられろ、とでもいうことなのだろうか。

 そういうことは、三島平治を相手にやって欲しいと思ってしまうのは、明が彼のことをいじり過ぎているからなのだろうか。

 

 「まあ、何とかなるかと。明さんの一番得意なもののはずですから」

 

 「まさか、『GENESIS』なのか?」

 

 「ご明察。安心して下さい、死にもしないし殺しもしませんから」

 

 「全く、都合がいい演算装置様で」

 

 「ということで勝負です。なう」

 

 「いきなりだな、おい」

 

 視線の先に瞬間移動した彼女が、虚空を指で弾き音を鳴らす。

 即座に強制的に記号変換が開始され、肉体はその性質を変えていく。肉体は破壊を訴える強靭な機械の体へと、精神は戦いを求める戦士へと。光を纏う蒼き機械の妖精は、赤き羽根をはためかせ空へと羽ばたく。

 そして、開戦の合図が鳴らされる。

 

 ――【OPEN COMBAT】――

 

 視線の先には、黒き堕天使ルシファーのAAの姿が見える。おそらくは、黒木愛のパーソナルデータをベースに再構築された機体なのだろう。そして、大地を強く蹴り、天使は妖精と正面から対峙する。

 

 「適当に強そうな人のデータをベースに動きますから、本気でどうぞ」

 

 「ったく、そういうのを世間一般ではチートというのだが。まあいい、ハンデみたいなものだと割り切ることにしよう」

 

 というより、彼女はそれで楽しめるのだろうか、という疑問を感じる明だった。もっとも、今の彼女にとっては、いい試合をすることよりも、誰かに相手をしてもらうことの方が重要なのかもしれないが。

 

 「手加減は不要です。多分この人、すごく強いです」

 

 「元々、そんな器用なことはできないさ。では、開戦といくとしようか」

 

 「そうですね、明さん」

 

 笑うような声とは裏腹に、十二枚の翼となった剣をはためかせ天使は突撃を開始する。左右に体をぶらしながら、あたかも『教皇』のような超機動でフェアリーへの距離を瞬間的に間合いの内側へと引き寄せる。

 

 「なるほど、本気どころか限界を超えなければならない相手のようだな」

 

 呆れるような声とは逆に、明の闘志は昂ぶる。これから先の新世界で待つのは、こういったレベルの敵なのだと再認識する。残像を揺らめかせる相手に、自身も同様の機動を保ちつつ後方へと加速する。

 エメラルドグリーンの燐光を輝かせ、ルシファーが自身の武装をフルに展開する。光の鎧を纏った悪魔の盟主は目の前の敵を殲滅するべく機械の咆哮を上げる。空間跳躍が如く速度で更に距離を詰め、鉤爪のようになった光の剣を振り下ろす。

 明は、敢えてそれを仕掛けさせ、触れる刹那で両の剣を抜き放つ。

 静止状態からの追加加速が発生し、空を割く剣は両手のカギ爪をすり抜けてルシファーの腹部へ迫るが、脚部と一体化した剣に阻まれる。刃そのものの膝を交差した剣が強く押し返し、両者の距離は再び広がる。

 

 「これも防ぐのか。だが、仕切り直しだ」

 

 「ふっふっふ。今の私、すごく輝いています」

 

 獲物に襲い掛かる獣のように前傾し、空中に制止するルシファーのAA。以前にヘイフォンが『擬態』のアビリティで変化した時とどこか似た動き。それは、単に共通するセオリーのような動きなのか、人物として関連したものなのか判別はつかなかった。

 

 「まあ、文字通り輝いてはいるな」

 

 「人をイルミネーションみたいに言わないでくださいよ。失礼です」

 

 「すまないな。さて、戦いを続けよう」

 

 「そうですね。ド派手に決めさせてもらいますよ」

 

 交差させた腕を開き、複数の光剣を投げ飛ばして突進するルシファー。多弾攻撃を正面から受ければ、防御の隙を全身の武器が切り刻むだろう。予知などできぬ明にも、これから起こることが自身の決定的な敗北だと理解できた。

 

 (負けたくない)

 

 限界を超えた加速で迫る相手に、意識と反応が僅かにずれる。

 

 (だがどうやって切り抜ける)

 

 意識だけが相手を捉え、肉体は静止したままだった。

 

 (負けたくない)

 

 数十の剣、しかし、攻撃にエネルギーを使い本体の防御はむしろ手薄になっている。

 

 (射線の予測など意味を成さない。どうすればいい)

 

 切り離された意識が俯瞰する情景は、同時に全体を把握させ、そして、肉体は経験から適切な進路を導き出していく。全ての情報が与えられた瞬間に未来は確定し、現実となって動きだしたのだった。

 

 (委ねろ、そこに答えがあるはずだ)

 

 光の羽根をはためかせ、機械の妖精が剣の雨の中を目指し加速する。

 偶然が生み出した静止状態からの挙動、経験による反射に身を任せた動きは、なるべくして成った奇跡として、舞のような美しい軌道を描きだす。

 今までの明では、選ばなかった新しい道がそこにはあった。 


 「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

 

 前のめりに加速しつつ、回転する弾丸のように身を反らし、剣で道を切り開く。

 そして、剣の雨を抜けた瞬間に現れた二つのショットアンカーを、二本のサブアームによる零距離射撃で撃ち落とす。

 しかし、ルシファーに引き寄せる動作からの次なる行動を許すことになり、斬撃によってリニアライフルの武装が手の中で砕ける。

 

 「まだだあぁっ!」

 

 ルシファーの手からスライドして現れた二本の黒い剣を、こちらも二本のミスリルソードでたたき落とすように打ちつける。加速された両者は、衝撃を受け流すべくその場で上下に回転し歯車が噛み合うように宙を舞う。

 ルシファーは視界の先に見えた剣の先端から相手の動作を割り出し、決着をつけるべく両の手に光の剣を集約させる。

 否、させてしまっていた。自身の取るべき行動を決定させてしまったが故に、それが落下する剣であると理解したときには既に手遅れだった。そして、次に彼女が認識したのは、『倉庫』から取り出した炎の剣によって、両断される自身の敗北する姿だった。

 

 ――【THE END】――

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