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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
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4‐3‐5 Enlighten

 同フィールド内、武装を解除した四人は構造物の一部である石造りの階段に並び座る。


 「どうやら君達を巻き込んでしまったようだ。すまないね」


 「マクト、君の本当の狙いはこれか。相変わらず、性格の悪いことで」


 鏡だけが合点がいったという様子で皮肉る。


 「偶然だよ、偶然。もっとも、必然に近いものではあったがね」


 「これで我々はお尋ね者に名を連ねた訳だ。どう責任を取るつもりだい?」


 「こちらの不徳の致すところさ。必要とされるのならば、支援は惜しまないよ」


 「えっと、つまりこれはどうなっているの?」


 「俺や水月にもわかるように、簡単に説明してもらえるとありがたいのだが」


 明と水月の二人が不安げな声で尋ねる。さりげなく両手に花状態で、困惑したような明の表情にマクトは笑みを浮かべる。


 「簡潔に言うと、犯罪ギルドの拠点で合流、その現場を有名な無所属の傭兵であるゲイルに目撃され、取り逃がしてしまったのが現在だ。つまり、我々はこれ以降『黒の旅団』の首領と関係がある人物であると常に認識される」


 見せ場が来たのが嬉しいのか、得意げに話す鏡。


 「一躍、有名人になるってことかな」


 とは、水月。


 「もはや、事実関係はなんの釈明にもならないということか。どんなことをしていようとも俺達は、マクト・ロートシルトの息の掛かった人間であるという疑いを持たれると」


 「そして、そこから私と彼の話に繋がるわけ」


 「そういうことです。会話を前倒しして、すいませんでした」


 「理解した。解決策があるなら、提示してもらえると助かる」


 「まずは、現状を整理しましょう。現時点のデメリットは、『白の教団』への入団拒否をされる可能性があること、また、彼らの狂信派から狙われる可能性があることでしょうか。あとは、間接的に僕とのパイプ役を要求されることでしょうか」


 明確にスパイの疑惑がある人間、それも敵対している組織と関係している人間を引き入れたいとは思わないだろう。二重スパイとして逆用することも不可能ではないが、彼らの思想とは相容れないやり方でもある。

 仮にも、『白の教団』は秩序の構築、正義を標榜しているのだから。


 「デメリットだけでは無いのでしょう。いいことは何もないの?」

 

 「メリットについては、自分で言うのもおかしな話ですが、僕の協力が優先的に得られることでしょうか。仮想に存在する勢力に関する情報や戦闘に関する知識、必要ならば人材の斡旋や資金の提供などもできますよ」


 「強敵に命を狙われる代償としては、損得を計りかねるわね」


 「考え方を変えてみてください。適度な強さの敵が、機会をみて現れて成長する手助けをしてくれる。さらに、倒すとさらに強い敵が現れると考えれば非常に効率的です。しかも、必要に応じて助力を得られる」


 「物はいいようね。核武装による戦力の均衡並みに方便だわ」


 報復を恐れて、互いに対等な立場での外交が可能となると言われてはいるが、反撃をする間も無く全滅してしまえばそんなものは机上の空論でしかない。小国であれば、国ごと消滅するような攻撃をされてしまえば、反撃するという機会などは存在しない。

 そして、最初から自身を越える強敵に遭遇すれば、その時点で彼らの助力が間に合う保障などどこにも無いのだ。

 

 「ですから、こちらから協力は惜しまない。そちらに関連する情報が手に入ったときは、適宜そちらに提供しましょう。正直、あなた方は、こんなところであっさりと退場して欲しくない人材ですから」

 

 誘うような導くようなささやき。そう、彼が描いた未来図は、たとえどこにどう分岐したとしても最後に微笑むのは、悪魔なのだろう。彼らを生かしておけば利用できる、仮に敵対したとしても戦うことができる、死んだとしても何も失わないのだから。


 「仕方ない、で済ませたくないけど。今の事態は、弁解や資金提供でどうにかできるものではないし、協力には期待させてもらうわよ」


 「嘘はつかないつもりさ。それでは、レクチャーといきましょう」


 司祭は教典を手に、迷える子羊たちへと手を差し伸べる。


 「まず、先ほどの戦闘を見てある程度は理解しているものと思いますが、『信仰』とはすなわちゲームのシステムについてどれだけ理解しているかということに繋がる。基本的には、動と静の二つの要素からなり、動きが高度であればあるだけ高い効果が期待できます」


 「溜めや連続攻撃をするとシステムによる補正が掛かるということか?」


 「そういうことです。概念としては、芸術点と言えなくもないかな。高速移動中に射撃武器で同じ場所を連続攻撃すれば貫通力が上がるとか、リスクを背負うことや再現することが困難なアクションは総じてより以上に強化されていく」


 「近接攻撃の溜めの動作は、あえてリスクを背負うことで逆に攻勢に転じることができるわけだな。隙の動作と溜めを組み合わせれば、逆に相手をつぶすことができるように設定されているという訳か」


 「速度の逆転現象ですね。まあ、命の危険が常につきまとう極限の状況で、相手に先に仕掛けさせてから、その上で逆に仕留めるのは普通の人間のできる発想ではありませんが。そして、ここまで聞いていればもうわかっているでしょう、明君」


 「つまり、俺は既にシステムの一部を使いこなしていたと」


 速射に磨きを掛けた動作を登録した【double strike】などは、特定の場所に高速で連続攻撃をしているので、攻撃力が強化されている。


 「何も知らずにやっていたのだから、本当に大したものです。そして、先に芸術点といいましたが、機能美とでも言いましょうか、総じて補正が掛かる動作は美しく、演舞のような性質も同時に併せ持っています」


 直前に行われていた戦いの中で、ゲイルが見せたステップからの高速攻撃も威力、速度ともに補正が掛かり強烈なものとなっていたが、同じく補正を掛けた攻撃に相殺され、最後は武器そのものの性能で押し負けた。

 しかし、彼はそれを見越した上で敵の攻撃を封じ、経験が悪寒を感じ取ったのか危機を回避して離脱した。離脱不能の設定は、自身の撤退も不可能になるリスクを負うものなのでマクトが設定しないのもおかしなことではなかった。


 「えっと、つまり、こんな場所でもイケメンが勝つようにできていると言うことかな」


 「ははは、多分それであっていますよ。天宮さんは、面白い人ですね」


 「水月にかかると、美しさと強さの両立がイケメンの一言で片付けてしまうな」


 「く、私には無いセンスだ」


 敗北感を感じているのか、鏡


 「鏡も、そこで悔しがるのかよ!」


 相も変わらずどこかずれた感性の二人だった。


 「とまあ、こんなところ終わりです。早く正確に動くことと同時にあえて動かないことの両立は困難ですが、あなた方なら使いこなせますよ。ここでいう威力は、防御の際にも発揮されるものですので活用してください」


 「もやもやしていたものは払拭できた、礼を言うよ」


 「いえいえ。それから、ここは自由に通行してくれて構いません。パスコードは、転送しておきましたから」


 「フリーパスで通れない、ということは、つまり」


 「ええ、新世界へようこそ」

 

 「hello worldとでも?」

 

 「そんなところです。それでは、では失礼します」


 言うが早いか、最後の言葉が紡がれると同時にマクトは消えた。

 

「忙しない奴だよ、ほんとに」


 消えていくマクトを鏡は笑って見送るのだった。

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