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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
88/151

4‐3‐3 Enlighten

 後日。

 仮想空間内、『黒の旅団』拠点にて。


 「時は満ちた」


 白い光が照らす祭壇から民衆を見下ろしてマクトは演説を開始する。


 「我々は、時に欲望のままに力を振るい他者をしてきた。しかし、それは現実であろうがここであろうが同じことだ。そして、法の適用の外であるこの場所に、外部のルールを持ち込む方がむしろ異端なのだ」


 ゆっくりと光が落とされ、白い風景は少しずつ黒く染まっていく。そして、彼の立つ祭壇の周辺部には赤々と燃える炎が宿る。黒き闇をぼんやりと照らし出し、あたかも彼の姿は神秘のヴェールに包まれたかのようにさえ映る。


 「多くの異端とされた者はここに集い、今日という日を待ちわびていただろう。今宵より、白は黒に染まり、黒は覇者へとなるだろう。我らが行くのは覇道、その道はこれまでになく険しく、その先にある真実に辿り着けるのは、あるいは、一人となるだろう」


 白が示すのは『白の教団』、そして、異端とされ排斥されてきたのは自分達『黒の旅団』であると彼は言う。


 「だが、それでも我々は行かねばならない。偽りに満ちたこの世界を真実の姿へと開放するためにも、これまでに失われた幾多の仲間の死に報いるためにも、その魂を鎮魂し天界へと回帰させるためにも」


 儀式場はにわかに活気付き、賛同者の声が散発的に響く。凪ぎのような静けさはさざなみのような木霊と共に熱気を帯びていく。


 「敵を殺すことをためらうな、何かを失うことを恐れるな。一歩を踏み出せるものだけが、生き残り勝利することができる」


 拳を突き上げマクトの演説にも熱が入る。


 「刃向かう者を殺せ、持ち得るものは全てを奪え、それこそがこの世界の本質だ。我々こそが正統、我らが覇道を阻むものは聖人すら邪神でしかないのだ」


 狂気ともいえる言葉に、会場はますますヒートアップしていく。黒と赤に染まった空間は、どこか異様な熱を孕み、赤々と燃え立つ炎は人の血を連想させる。そして、場内の熱気は加速していく。

 奪え、奪えと、

 殺せ、殺せと叫び声が響き木霊していく。

 人間の黒い欲望だけが濃縮され、満潮のように全てを埋め尽くしていく。


 「我らは覇者となり、歴史を変える」


 天を仰ぎ両手を広げる司祭の声は、あたかも天啓のように響き渡る。


 「今がそのときだ。皆が望むのであれば、私はこの手で世界の創造主すら殺してみせよう。そして、悪辣な戒律を破戒して真なる理をこの手で築くのだ」


 マクトは、『米帝』のアルゴリズムにも、そして、アハリ・カフリの掌の上でも、いつまでも踊らされるつもりは無かった。

 意図的に構成された対立という図式、開発チームのメンバーが主導する『白の教団』と『黒の旅団』による争いは運営側による仮想の支配だった。

 先行する者が後発の者を導くという原則は、彼らを最大勢力へと押し上げ、あらゆるものを巻き込む形でシナリオの本筋が構成されていく。泡沫のような組織が散発的に出来上がったとしても、それが大局に影響を及ぼすことなどほとんどありえない。

 知識の違い、資金力の違い、勢力の違い。何もかもが違いすぎて相手になどなりもしない。それは、教皇がたった一人で四葉の用意した軍団を蹴散らしたことからも伺えるだろう。だが、個人が軍団とも匹敵する強さを持ってなお先に進むのは困難を極めていた。


 「勝利を我が手に、未来をこの手で切り開くのだ」


 彼は決して聖人ではありえないだろう。

 だが、その言葉に共感し導かれた多くの仲間がいる。単に快楽殺人をしているものや、金品の強奪をしている者もかなりの数が存在している組織であるが、基幹となるメンバーの志は高く実力も桁違いだった。

 共に笑い、共に戦場を駆け抜けた者達は、指導者を求めていた。その者が正しいとか、正しくないとかはどうでも良かった。あるいは、彼らは悟っているのだろう。いわばこれは死に場所を王によって決めてもらいたかっただけだ。


 「そのためにはあらゆる犠牲も肯定する。終末の日は、我らの敵のためにこそあるのだ。偽りも不実も欺瞞も全て飲み込んで、我々こそが真実となる。たとえその身が鮮血に染まったとしても、前に進まねばならないのだ」


 戦士達は答える、自身の狂気に染まった叫びによって。


 「我々は負けない、何人にも、運命だろうと、神であろうと。運命によって決め付けられた、確定的な死など断じて認めない。滅びるのは我らではない、奴らだ」

 決められたシナリオが存在し、大枠ではその通りに推移している現状だろうと、変えようとあがく行為こそが正しく美しいのだ。抗おうとしない者には、破滅しかなく、勝者には栄光が約束されているのだから。


 「勝利を、この手に」


 そうして、割れんばかりの歓声と共に狂気は黒く渦巻いていくのだった。

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