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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
85/151

4‐2‐5 Irregular

 「アシストプログラム起動」


 鏡の声にシステムが無機質な合成音声で答える。

 

 ――【Iron maiden(殺戮機械)】――

 

 プログラムの起動と同時に周回していたビットは、通常時の鎧のような陣形になり本体へと吸着する。

 防御を完全に鎧に任せて、長大な武装によって全力の攻撃を仕掛ける西洋の武術をそのまま体現したスタイルでウィザードが仕掛ける。

 素早い攻撃ではあったのだが、これまでの余地の如き完璧な回避をしていたはずの相手がわずかに遅れて防御する。体当たりのような大振りの斬撃をまともに受けて、じりじりと後方へと押しやられるアークエンジェル。

 次いで鎧状のビットが敵の目の前で散開し、反転してドーム状に天使を包み込む。敵を包囲した無数の刃が迫る光景は、拷問器具のアイアンメイデンを連想させる。振り下ろした大剣を切り上げる動作と共に宙返りしてその場を離脱するウィザード。

 

 (仕留め切れない。援護して、水月)

 

 口頭ではなく、思考だけで指示を伝える鏡には、背面から迫る攻撃が見えていた。しかし、自分で考えて行動することを放棄した彼女には防御する手立ては無い。そして、だからこその連携だった。

 天使は目の前で背を向けたウィザードに両手の剣を投げつけるが、側面からウィンディーネの水流がこれを妨害する。ガーディアンは両手を戻す動作で盾とメイスを引き出して、自身を包囲し迫る剣を打ち落とす。

 

 「流石に瞬殺とはいかないか。ただのNPCとは、思考ルーチンのレベルが違うね」


 「えっと、ARMの動きを内部に組み込んだのかな? 思考ではなく、システムによって作られる動きなら読み取ることができないから」


 システムによって動きを再現する、という命令部分を読み取ることはできても、その内容部分までは読み取ることはできない。つまり、内容部分はシステムに事前に書き込まれたものであり、プレイヤーの思考という余地が存在しないからだ。


 「ノーコメント、といいたいところだけど大体その通りだよ。本人の思考に係りなく特定の動作を勝手に再現するから防御はあまりあてにならないのが欠点かな」


 「弱点発見。やったね」


 「今は水月に完全に防御を任せているけど、一人でやることになったら適当に切り替えながらやるわよ」


 「それは残念」


 「さて、そろそろフィニッシュと行きますか」


 肉体と思考を完全に切り離し、殺戮機械と化した彼女は、再度攻撃を仕掛けるべく虚空を漂う無数の刃を引き寄せていく。先のやり取りで相手を仕留められなかったのは攻撃力の不足と判断した思考ルーチンは、より破壊に適した武器を形作っていく。

 大剣を先端に螺旋を描くようにソードビットが連なり巨大なランスを形成する。アビリティによって磁化した剣を軸に削岩機のように刃は回る。重い一撃でも、包囲攻撃でも仕留められないなら防御ごと破壊してしまえばいいという発想だった。


 「……ドリルだね、鏡」


 「……ドリルだね、水月」


 大型のランスを模したその武装は、刺し貫くというよりは、抉り砕くことを主眼に置き、巨大な刃は砂塵を巻き上げて回転数を上げていく。必殺の一撃であることは、おそらく間違いではなかったのだが。


 「グッジョブ、鏡」

 

 「あはは、少し思考ルーチンに遊びを入れすぎたかな」

 

 少々呆れながら言葉を交わしつつ、脳内で作戦を練る鏡とそれを読み取っていく水月。

 

 (というか、当たるのか? これ。水月、援護は任せた)

 

 (任されました、と)

 

 そんな、少し楽しげな彼女の意思とは無関係に、機械は自身の敵を滅ぼすべくその身を投げ出していく。今のウィザードは、プログラムによって支配された殺戮兵器でしかなく、後退するという選択はありえない。

 動き出したウィザードを援護するべく、追走するウィンディーネの周辺には巨大な水球が幾つも漂い円形闘技場を包囲していた。フィールドの水量によって戦闘力が増減する、という不安定さを持つ機体ではあったが、その分あたれば強力な力を発揮する。今も、空を漂う雲という巨大な貯水槽から無尽蔵に自身の武器が供給されていく。

 

 「もうこれで、終わりにしようかな」

 

 「私は、その不安定なところが好きになれないがね」

 

 「ふふ、鏡らしい。行くよ」


 ウィザードとの対面、ガーディアンを挟み込む位置に並ぶウィンディーネ。槍の石突を地面に突き刺す動作と同時に周囲の水球が弾ける。霧状となった水がフィールドを一気に包み込んでいくが、『神の眼』を持つ鏡にとっては視界の有無は問題とならない。

 ガーディアンも水を動かすまでは読んでいたが、一瞬で視界が消えることまで把握できていなかった。『転送』で水の包囲を突破することは可能だったが、読んでいることと理解することは異なり、対応者が判断する以上、全てについて完璧な対応は不可能である。


 「我が意に応え、集え水の仔達よ」


 水を介して相手の位置を把握しつつ、その場所へと水を誘導するウィンディーネ。敵であるガーディアンへまとわりつく水滴は、水流となってその身を捕縛する。抜け出せないほど強固な縛りではなかったが、事前に水が浸透してぬかるんだ地面に脚を取られ動きが鈍る。

 機先を制した水の巫女は、跳躍し頭上から槍を構える。頭上を取られ飛行による逃亡が不能になったアークエンジェルは、正面から迫るウィザードにメイスを振りかぶり、盾を構えて迎撃するべく腰を落とす。


 「貫けええええぇぇっ!」


 ビットを含めた全ての推進力で、身体ごとガーディアンへと突撃するウィザード。迎え撃つガーディアンによって振り下ろされた一撃は、槍の強烈な回転によって弾かれ防御以上の意味を持たない。

 手を離れ拷問車輪に巻き込まれた武器が抉れ、弾け飛ぶ。赤々とした派手な火花を散らし、ラウンドシールドが粉々に砕け散る。そして、身を守る物を全て失った本体に待つのは、ただ残酷で確実なその身の破滅という未来だけだった。


 「強き者よ、行くがよい。汝らの勝利だ」


 響いた声を最後に、その身は大地へと崩れ落ちる。

 

  ――【THE END】――

 

 戦闘終了の合図がフィールドに通知され、戦いは終わりを告げる。

 

 「ふう、回避成功」

 

アビリティで霧を晴らし、視界を確保した地面に着地するウィンディーネ。


 (プログラム解除)


 禍々しい武器は、空中へと散開し魔術師は本来の姿へとそのあり方を変えていく。そして、思考でアシストプログラムを解除した鏡には、全てのデータが統合されていた。

 

とりあえず、ドリルはロマンです。


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