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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
83/151

4‐2‐3 Irregular

「やはり、君には才能がある。いずれは、この僕を倒し得るほどに」

 

 挑発でもするかのように、明の眼前に斧を振り下ろすビショップ。

 轟と音を立てて風を切らすが、わずか程にも殺気の込められていない攻撃に微動だにせずに応じる明。あえて、音が鳴るように繰り出されたそれは戯れでしかないと理解できていたからだ。

 

 「今のところ、敵対するつもりはない。だから、そんな未来はありえないとだけ言っておく」

 

 言外に現状のままでは勝てないと言われた気がして、皮肉を込めて明は言う。たとえそれが客観的な事実認識であったとしても勝つことを諦めるつもりはなかった。だからこそ、悔しいと思うし、負けたくないと強く思う。

 

 「未来というものはわからないものですよ。例えば、今この場で僕が君に襲い掛かったら、君は自分を守るために僕を倒すしかない」

 

 「そういうことをする奴は、わざわざ言わずに問答無用で襲い掛かってくるものだぜ」

 

 全滅から次のポップアップまでの間隙に軽口を交し合う。初対面ではあったが、互いに共感する部分でもあったのか交される言葉は妙にかみ合う。そして、常に命懸けの戦いの中に身を置く者同士であるがゆえに戦いたいという欲求は不可分なものだった。

 好き好んで殺し合いをしたいものが多数者で無いように、戦いを望まない者はそもそもこんな場所で好き好んで戦闘行為にその身を投じる事などありえない話だ。生き残るためには強くあらねばならず、強くなればその力を試してみたくなるのは必然だった。


 「くくく、なかなか面白い人のようですね。いいでしょう、ニクムにはあなたを殺さないように言っておきますよ。君みたいな人間が僕のり知らぬところで死んでしまうのは面白くないことですからね」


 「あんたも相当面白い人間のようだな」


 互いに重ねる言葉以上に、重なった二人の背中が信頼の証だった。二人の周囲の空間がぼやけるように歪み、包囲する敵の出現の初動を感知する。


 「さて、しばらくはこいつらを狩り続けるとしようか」


 「だが、逆に俺があんたに襲い掛かるとは思わないのかい?」


 互いに目だけで相手を見て、鏡写しのようにシンクロしたタイミングで相手の背中を押して一歩を踏み出す。


 「それは、ずいぶんと魅力的な提案だね」


 「はは、あんたには負けるよ」


 地に堕ちた司祭と妖精は踊り狂い、その身に宿した信仰と使途のを神へのとなす。夢ともともつかぬへと新たに生み出され続ける神の使途と共に、決して神には届かぬと知りつつも祈らずにはいられない。

 たとえ終末までに願いが叶えられないとしても。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「どうやら本体は、塔の上で待機中。こちらは素通ししてくれるみたいね」


 「単なる防衛プログラムの行動とは違って、自分の意思があるみたいな行動だね。AIの思考ルーチンに従って機械的に動いているただのガーディアンとは別物、ってことなのかな」


 戦力が分かれたところを各個撃破するという戦略的な行動をあえて選択せずに、片方を無視して通過させ本体が向かい討つという行動は、彼女達の感覚からすればイレギュラーだった。

 ポップアップ上限までであれば無尽蔵に使えるNPCによる攻撃を捨てて、数の有利までも相手に渡すのは不可解極まりない。


 「なんにせよ、あの時の二の舞は御免ね。たとえ二人でも、確実に仕留めるわよ」


 「負けられない、か。そうだね」


 水月は、鏡にも、AIにも負ける訳にはいかない、という決意を口にする。二度と御免だという思いは、むしろ水月の方が強いのだ。失われた時間を取り戻すためにも、過ちを繰り返さないためにも、きっと乗り越えなくてはならないものなのだろう。


 「ガーディアンは、プレイヤーに与えられた試練なのかな?」


 「鏡、って無神論者じゃなかった?」


 フィールド中央に設置された塔の扉を潜り抜け、その上部へと二人は登っていく。フライトユニットでなくても、最低限の飛行能力は全てのユニットに共通して与えられているために移動に際して支障はない。


 「質問に質問で返さないの。一応、ミッション系の学校にいれば本人の思想や思考とは無関係に考えさせられるものもあるわよ。水月はどう思うの?」


 「強いガーディアンを倒せば倒すほどその恩恵は大きくなって返ってくる。単なる試練と言うよりは、むしろ、誘っているような気がするの。奥の奥まで辿り着いて来いとか、より強くなってその力を奪い合えとか」


 多少のランダム要素のあるものの、ツールコードやアビリティといった力は、平等に与えられたAAのパワーバランスを崩壊させるものであり、手にした者を半ば強制的に強き者へと変貌させるものだ。そして、それを手に入れた者は大きな力を得る代償として、常に狙われることを意味している。


 「まるで、北欧神話のヴァルハラみたいだね。死せる戦士達は、ワルキューレによって集められ、来るべき終末の日、ラグナロクまでそこで互いを高め合うと聞く」


 「仮想がヴァルハラで、戦士達は私達、ワルキューレが戦士を選定するガーディアンだとでもいうの? 今日は、随分と詩人だね」


 「あるいは、現実逃避なのかもしれないね。ただ、少なくとも『GENESIS』というゲームが一つあるいは複数のバックボーンを持って構成されているのは確かだ。単にの神や異教の神が、神の敵である邪神や悪魔として表現されているだけの話」


 「複数の神話が同時に並列に進行している可能性っていうことかな。でも、それって現実そのものなんじゃないの?」


 「そうだね。そして、現実にあったかもしれない可能性として、どれが生き残るか楽しんでいるようでもあるね。アハリ・カフリ氏は、この混沌とした世界が見たかったから、こんな馬鹿げたものを作ったのかもしれないね」


 「でも、それならストーリーは決まっているよね」


 「なにか明確なシナリオが用意されているとでも?」


 「勝つのは、私達だから」


 自信満々に言い放つ水月、そんな彼女の姿に鏡は声をあげて笑う。

 そして、永遠と続く塔の壁を見送り、二人はガーディアンと対峙することとなる。

 

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