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ROG(real online game)  作者: 近衛
一章
8/151

1‐2‐3 Heart

 

 両者の戦闘圏内に自分自身の持つ『エリア』が重なった瞬間にシステムアナウンスが脳に直接響く。


 【REINFORCEMENT】


 援軍として、戦闘に乱入する際に表示されるエフェクトが視界に浮かぶ。

 エメラルドグリーンの燐光に包まれた直後、天使と魔道師が交戦する異様な荒野に機械の妖精が舞い降りる。目の前では、高速で飛び交う二体のAA。それらの後方に映るのは、チャイナブロックの高層ビルが乱立する。

 そんな摩天楼を背景に砂塵が吹き薄ら赤い荒野で対立する両者。

 白い四翼に剣と盾を携えたエンジェルシリーズの一種である純白のアークエンジェル。対するのは、とんがり帽子のようなヘッドパーツと赤いローブをまとった魔法使いを思わせる風貌が特徴の真紅のウィザードタイプ。

 さながら決闘といった風情で、二人は切り合い、往なし、剣戟を重ねる。金属と金属が触れ合うたびに、火花が散り、澄んだ音が響き、土煙が巻き上がる。わずか十数秒の間に両者は一体幾度切り結んだのだろうか。手数ではウィザードが上回り常に攻勢側に立っているが、対するアークエンジェルも攻撃を一撃も浴びていない。

 互角に見えた戦いにも、変化が訪れる一瞬が現れる。

 ウィザードの細身の剣による横薙ぎを盾で受けそこからの唐竹割の一撃を剣で大きく薙ぎ払うアークエンジェル。息も付かせぬ連撃の空白を衝いた強引な一撃は、相手を体ごと吹き飛ばす。

 ウィザードは受け流していたが、それでも殺しきれなかった勢いを足で抑える。砂煙をまき散らしながら引きずられる様に大きく後ろに下がったウィザードに、アークエンジェルは追撃をすることなく構えを整える。


 「援護のつもりなら、手出し無用よ。違うのならまとめて相手になるわ」


 オープン回線越しに、ウィザードのプレイヤーが話しかけてくる。口調は、女性を思わせるが音声は、 フィルター処理が掛けられ、その声色はどこか機械染みていた。


 「手出しは、しないでおくよ」


 「礼は言わないわよ」


 要件はそれだけだと言わんばかりに、オープン回線による通信を切断される。仕切り直しとなった戦いは、さらにヒートアップしていく。

 明は戦闘する両者と適度に距離を保ちながら様子を見守る。アークエンジェルは盾を前に剣をその側面に構える。ウィザードは、体を半身にしつつ両の手で剣を構える。両者は遠い間合いを取りつつ相手の隙を衝かんとし、しばしの沈黙が空間を支配する。

 一陣の風が吹く。

 舞う砂に合わせ、ウィザードが地を駆ける。

 迎え撃つべく、天使が半歩下がり剣を引く。

 二歩の間合い、ウィザードが乾燥した地面を薙ぎ払う。

 砂埃が飛び散り、両者の姿は土煙の中へと消える。

 消えた視界の中で金属を強く叩く音に続き一振りの剣が弾け飛ぶ。

 スモークを突き破って弾けた剣が地面に落下する。

 徐々に開けていく視界の中。

神業的な速度でフェアリーは腰に携えたリニアライフルをクイックドロウで抜き放つ。一瞬で状況理解して放たれた弾丸は、落下した剣が地面に突き刺さると同時にアークエンジェルの胸部装甲を貫通する。


 【THE END】


 敵対するAAを破壊と同時にシステムアナウンスがエフェクトと共に響き、リザルトと並行してデータバンクの自動統合が開始される。

 巻き起こる土煙の中で、ウィザードタイプのAAが地面に突き刺さった剣を引き抜き、明に向けてくる。『GENESIS』においては、止めを刺したAAにデータの統合が行われることを考えれば当然の反応だろう。


 「これは、お礼を言うべきなのかしら? それとも、私の獲物を勝手に仕留めたと怒るところなのかしら?」


 フィルター越しの声がオープン回線越しに響く。

 そして、明瞭になった視界には淡い緑の燐光を放つ幾何学模様にも似た複数の方陣に包まれるウィザードの姿が見える。その周囲にはウィザード本体を守るかのように数十本のルビーの輝きを放つ赤く透き通った剣が浮いている。

 武装を展開したその姿に明は、自分がしたことは結局のところただの横槍であったと理解させられる。


 「行動に至る経緯はどうあれ、結果的にいいとこ取りになってしまったことは認める」


 「ずいぶんとあっさり認めるのね。食って掛かるようなら徹底抗戦しようと思っていたのだけど、そんな気も失せたわ」


 今度は、フィルター越しではない本人の声がオープン回線越しに響く。そういうと、彼女の周囲に周回していた複数の剣がウィザードのローブへと収束する。あちらも元チームメイトと一戦するつもりは無いようだ。


 「久しぶりね、明」


 「半年振りだったか、鏡。積もる話はリアルでするとしないか?」


 機体の動きから、元チームメイトの彼女であると半ば確信していた明は特に驚いた様子も無く会話を続ける。


 「そうね、場所は『いつも』の喫茶店で。《Return》」


 一瞬の沈黙の後に返答した鏡は、現実へと帰るリターンの処理を口頭で入力する。直後にウィザードの体の輪郭がぼやけ、リターンコマンドの認証が開始される。


 「俺は仕事の残りを片付けたら向かうとしよう。すまんが、少し待っていてくれ」


 「了解したわ」


 返答をすると同時に、ぼやけていた彼女の体は完全にサイバースペースから消滅した。


 「まさか、本当に彼女でしたとは。世間は狭いものですね」


 会話が終わると廃墟の影から黒いソルジャーが現れる。


 「あいつの正体が解かっていたのか?」


 「なんとなくですが。少々扱いの難しいウィザードタイプを使う人間は少ないですし、機体のカラーリングや動きが記憶と非常に似ていましたから」


 「細かいところまでよく見ているなヘイフォン。観察眼の鋭さは一級品だよ」


 「私は商人ですからね、商品とお客様のことはよく観察しているんですよ。さてさて、事情は聞きましたし仕事はここで切り上げるとしましょうか。それに目的地は目と鼻の先ですし」


 「今回は、ご好意に甘えるとしよう」


 「いえいえ、どうかお気になさらずに。最後の方だけですが、盗み聞きしてしまったこともありますしね」


 「これで失礼する」


 《Return》


 「料金は、いつもの口座に振り込んでおきますよ。それでは、旧友との再会を楽しんできてください」


 「心遣い、感謝する」


 「何、ただの社交辞令ですよ」


 コマンドの入力を受けてリターンプロセスが開始され、ぼやけた意識の中で最後に聞こえたヘイフォンの言葉はいつにも増して楽しげに響いた。


 まだまだ修正。

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