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ROG(real online game)  作者: 近衛
四章
78/151

4‐1‐3  Faith

 「明、いるわね? 入るわよ」


 認証手続をパスして神代が、当然の如く入室してくる。


 「そこは、お邪魔しますだろうが! そういうお前は、鏡だな」


 先程入室した水月と同じように手土産らしきもの、白い日傘を腕に提げて鏡が現れる。服装は涼しげなパステルブルーのキャミソール風のワンピースを着ている。


 「私は、自分のことを邪魔だと思う奴を友達だと思ってはいないから」


 「それもそうか……、いや、おかしいだろ!」


 一瞬納得しかけた明が冷静になって反論する。


 「そういう訳で上がらせてもらうぞ。異論は無いな?」


 「どっちが家主かわからなくなってくるな」


 「そんなもの決まって……。ふふ」


 意味深な笑顔を浮かべて洗面所へ向かう鏡。客人に茶を振舞うべく、リビングからキッチンへ向かう明とすれ違う。彼女の方から、ほんのりと香る柑橘系の匂いが鼻腔をくすぐる。


 「甘い、香りだな」


 「ふ、ふふん。君にしてはやるじゃないか」


 彼女が振り返るとスカートがなびく。振り向き様に見せ付けるように黒く長い髪をさらりとかき上げる鏡。


 「オレンジ系の食べ物とは、なかなかいい選択だと思うぞ」


 そんな彼女の心境など露知らず、明は背中に向けて親指をつき立てる。


 「前言撤回だ。君と言う奴は、相変わらずだな」


 「そういう人間だってわかっているなら、お互い様じゃないのかな」

 

 くすくすと笑う水月の声は、明には届いていない。


 「女の努力って、実は意味が無いんじゃないかと思うときがある」


 「悲観しないの。きっと平治君辺りなら気付いて褒めてくれるよ」


 「きっとその直後に、すまない縁、君と言うものがありながら。とかいいながら小芝居をしてくれるだろうね」


 「むしろ馬鹿にされているような感じになってしまうのは、平治君らしいよね」

 

 「何か言ったか、お前ら」


 ポットに入れてあったお湯を茶器に注ぎながら明が聞く。

 

 「何、君の悪口さ」


 「なんだって」


 しかし、水の音に遮られはっきりとは聞き取れない。


 「むしろ、褒め言葉かもね」


 鏡と水月は笑い合うのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 小休止した後、明達の雑談は再開された。

 

 「さて、茶を飲みながらでもいいが、俺達の今後について話し合おう」

 

 「私達、離婚でもするの?」

 

 「吹くなよ、絶対吹くなよ!」


 「ふう、ふう、なんとか乗り切った」


 気合で耐えたのか、息も絶え絶えに鏡が言う。


 「冗談だよ。だって、私達まだ結婚していないし」


 「将来的にはするかのように話さないように。事実無根だ」


 「既成事実にしてみる?」


 「や、役所には行かせないぞ水月!」


 その場で立ち上がり両手を広げ通路に立塞がるようにする鏡。


 「何故そこで鏡が慌てるのだ」


 「ご、ごほん。それで、今後についてどうするんだい?」


 わざとらしく咳払いして座りなおす鏡だったが、そんなことには気が付かずに明は話が修正できたことを秘かに喜ぶ。


 「そうだな。現状の戦力では、教皇や仮想の深層にたむろっている連中には太刀打ちできないことは理解しているとは思う。そこで、戦力を増強するためにガーディアン狩りと優秀な指導者を探そうと考えている」


 「漠然としているな」


 「電研の上層部にはあまり期待できないからな。戦力の増強を望んではいるだろうが、それ以上に根幹的な部分での情報が外部に流れることを恐れているように思う」


 「普通に聞いて教えてもらえるものなら、既に全員に指導されて然るべきか」


 「実際、俺達が階級持ちになったのだって自力で駒を進めたからだ。そして、その技術自体の存在は、黒木智樹の残したデータを漁っていた際に確認している」


 「裏技みたいなものがあるってことかな?」


 マイペースに紅茶を飲みながら水月が話す。


 「もしかしたら勘付いているかもしれないが、一部のユーザーに『信仰』と呼ばれているシステムがあるらしいんだ」


 「それって、一体どういうものなの?」


 「ふっふっふ、そう答えを焦るな。これから説明するんだから」


 カップをソーサーの上に置きながら苦笑する明。なんだかんだで他人に対して知識を自慢したいと言う人並みの感情はあるので、その声はどこか嬉しげだ。


 「開発チーム連中が、ゲームバランスの是正のために作った補正効果らしい。具体的に何があるのかと言われると、目下のところ検証中だが」


 「教皇の『技』等はシステムを利用したものということかい?」


 「可能性は高いだろうな。ただ思考してその動きを再現するだけなら、誰もが同じ速度を出せるはずだからな」


 イメージしているものの速度が違う可能性もあるが、本人の認識以上の速度が出ているということは無いと踏んでいた。誤差があり過ぎれば、そもそも全ての行動に支障が出てしまうしこんなゲーム自体が成り立たなくなってしまうからだ。


 「サタンと戦闘していたときに明が再現したものはどうだったの?」


 「戦闘中で興奮していて気が付かなかったが、実際の力以上のものが発揮できているような気はしたな」


 「それが、君が奇襲に成功した原因かもしれないな」


 「低層の連中には『信仰』のシステムが知られていない、という認識だったのかもな」


 「でも、そういった人達からどうやって技を盗むの?」


 「……あ、それはだな、ええと」


 改めて聞かれてみると言葉に詰まる明。これまでは、奇襲が成功したり、見逃してもらったりしたが正面からやりあって勝つ自身はなかった。まさか、本人達に教えを請いに行く訳もいかないだろう。


 「それを相談するのが今回の会議、と言うことで」


 「ふん、上司が部下に相談とは嘆かわしいな」


 「上司に茶を汲ませている奴の言う事とは思えない台詞だな」


 「でも、ガーディアン狩りの方は、私達だけでなんとかなりそうだね」


 相も変わらずマイペースにスコーンをかじりながら水月が言う。

 

 「そうだな、今はアビリティの方だけでも増強しておくか。なんにしても全員分の『』だけは欲しいからな」

 

「わからないことを議論していてもしょうがないか。情報屋を頼るなり、望みのアビリティが出るまでひたすら狩るか、やってみようじゃないか」


 何時の間に平らげたのか、スコーンの包み紙を畳みながら鏡言う。


 「……お前ら食うの早いな」


 「「乙女の嗜みですから」」


 こうして今後の方針が決まったのだった。

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