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ROG(real online game)  作者: 近衛
三章
73/151

3‐5‐3 Election

 

 「やったのか?」

 

 「彼がデータ通りの動きをしていればね。もっとも、そんな安易に死んでくれる奴なら苦労しないのだけど」

 

 光と闇の狭間、雲を掻き分けながら進んでいく。

 ゲームエンドのエフェクトを確認していない以上生存している可能性が濃厚だが、始末し切れなかった海賊連中が一体でもいれば戦闘そのものは継続される。

 

 「クロエとか言ったな。あんた、あいつと戦闘して生き延びたのか?」

 

 「そうでなければ生きていないよ、とはいえ」

 

 「何かあるのか?」

 

 「彼は目的を達成するとすぐに撤退するようだからね。互いに本気でぶつかって、なおかつ生き延びたと言うこととは違うがね」

 

 「今回のようにか」

 

 「生きているにしても、さっさと戦場からいなくなってもらいたいものだ。不確定要素は極力排除したいのでね」

 

 自身がその身を戦場に置かれていてもなお、そこで行われている戦闘をゲームのように表現する彼女は『魔女』と呼ばれるに相応しい存在なのだと明は畏怖した。どこかおどけるような話し方でぼやけた印象を持っていたが、彼女もまた『教皇』と似たような存在なのだろう。

 

 「まるでゲームでもしているかのような口ぶりだな」

 

 「『GENESIS』はゲームだろう? そこで行われている戦闘もゲームだ。たとえそれがどれ程精巧に作られていたとしてもね」

 

 「命懸けの戦闘さえもゲームと言い切るのか?」

 

 「命を賭けたゲームがあってはいけないのかい? それだけのことだよ」

 

 彼女にとっては、『GENESIS』はどこまでもゲームの延長線上であり命を賭けるという行為さえそれに付随するものでしかないのだろう。確かに自身が勝者であり続ける限りは、どんなに激しい戦闘でさえゲームでしかないのだろう。

 二人の眼前に迫る巨大な積乱雲。

 その中に突入すると同時に稲光が彼らを襲う。

 否、雷光と見紛う速さでミカエルが雲の上から舞い降りる。

 

 「殺せたとは思っていなかったが、センサーのバグか? くそ」

 

 明のセンサーには、このポイントに敵の表示はなかった。安心、安堵していたその隙が反応をわずかに遅らせる。

 

 「神の身許へと逝くがよい」

 

 白い光をまとうその姿は光輝と優雅を思わせ、銀の剣が映し出す闇は、明らかに敵対者の破壊を目的にしていた。

 

 「私を忘れてもらっては困るな。アティド・ハレ」

 

 「忘れたことはないよ。一度もね」

 

 逆さまに落下するように襲い掛かる天使の一撃をウィザードの大剣が受け止めるが、力負けしているのかそのまま弾き飛ばされる。

 明はその猶予を利用してメインアームに構えた二本のミスリルソードによる斬撃を放ち、サブアームでレールガンを放つが、明が捉えたのは敵の残像だった。

 

 (とんでもなく速い! どうする?)

 

 取り回しの悪いレールガンの使用は、近接戦闘では得策ではなく速度もパワーも相手の方が上だった。

 だからといって、遠距離武装を捨ててどうにかできる相手とも考えられない。

 

 「考え事をしながら倒せるとでも」

 

 ミカエルの速度が速すぎるためなのか、それとも加減速による技術の賜物なのか幾重にも重なって見える相手の姿を明は捉えることができない。

 自身に迫る死の宣告。

 正面から切り結べば、一瞬で決着はつくだろう。

 

 (いや、違う!)

 

 (俺は、あいつに勝ちたい)

 

 反射的にレールガン放つが、弾丸は雲へと向かうだけ。

 ミカエルが剣を振りかぶる。

 

 「おおおおおおぉぉっ!」

 

 勝ちたいという意識だけが研ぎ澄まされて、身体が無意識に行動を選択する。

 両手に構えたレールガンを正面に放り投げ、右腕の剣で切り捨てる。崩壊寸前だった武器は衝撃で爆散して自身の周囲を埋め尽くす。

 そのままの勢いで回転し更なる斬撃を重ねるが、残像を切るだけだった。

 背後であった位置で視線が交錯し、すれ違う。

 本能が命ずるままに動かしたサブアームで炎の剣を背面から引き上げ首筋に迫っていた斬撃を受け止める。

 目まぐるしく回る視界、どちらが上でどちらが下なのかもわからない。散らばる破片だけが重力を知っていた。

 受け止めた刃を支点に背面蹴りを放つも、縦の動きに対して相手は横の動きで回転しすれ違い雲の中へと吸い寄せられていく。

 今頃になって全身が総毛立つ。

 生き延びたという実感が恐怖と共に呼び起こされる。

 下へ下へと落ちていく影。

 彼の目的は、戦闘からの離脱ならば、更なる追撃が無いのは当然の帰結。しかし、恐怖は終わってはくれなかった。

 影の近くの雲が異様な動きで発達していく。

 

 「今度は、なんなんだよ。訳わかんねえ」

 

 「『女神』様の登場だ。君は私を支えてくれないか」

 

 クロエの操るウィザードの周囲が熱を帯び、空気の弾ける音が聞こえる。細く連ねられた円環が大砲の如く狙いを定める。明に葉それが鏡の持ち技である《Excalibur》と同様の技と思われたが、ビットの推進力を利用できないのであれば明が支えるしかない。

 

 「あとで説明しろよな」

 

 「それは気が向きましたら」

 

 「このくそやろう」

 

 雲の輪郭が巨大な水竜を思わせる形に収束していく。

 巨大な兵器であるAAさえも丸飲みにするような怪物がミカエルを襲撃するが、素知らぬ顔で下を目指す機械の天使。

 しかし、竜はその身を分かち無数の小竜となって再度敵へと向かう。

 絡みつくように迫る数十数百の攻撃さえも無きものかのように進むミカエルの雲が凝縮していく。

 

 「派手な攻撃は牽制で、動きを止めるのが目的ですか。やれやれ」

 

 どこまで本気なのかわからない声が天使から聞こえる。

 抱きかかえるようにしていたウィザードをそちらへと向けると、クロエは定めきれずにいた狙いを完全に合せる。

 

 「今だ、クロエ」

 

 「幕引きといきましょう」

 

 大気を震わせる剣を抜き放つウィザード。

 その剣は、雲を裂き光に吸い寄せられるかのように闇夜を駆け抜ける。

 ただまっすぐに、音を置き去りにして、闇を照らし、前へ前へと進んでいく。

 

 ――【THE END】――

 

 そして、白く黒く明滅する光と共に響く機械音声が終わりを告げるのであった。

 

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