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ROG(real online game)  作者: 近衛
三章
67/151

3‐4‐2 Terror

 十や二十ではきかない数を撃破するうちに明は敵の数を数えるのを止めた。

 数分足らずで片端から撃破してみたが未だに敵の勢力が衰える気配はなかった。初めのうちは適度に勢力を削いですぐに合流するつもりであったが撃破した分だけ補充要員が出現してくるので後退もままならない。

 明のみであれば敵を捌きつつ後退することも可能であったが、敵の軍勢を生徒達と交戦させたくなかったので可能な限り敵の数を減らしつつ、ゆっくりと後退していた。


 (実戦経験のある者ならば対処できない数ではないはずだが、初陣の奴は……)


 戦闘中にできたわずかな空白。明は周囲に警戒しつつ思考を巡らせるが、今は詮無きことと割り切る。

 ミスリルソードで近くにいたソルジャーをすれ違いざまに断ち切る。射撃主体のスタイルのプレイヤーだったのかろくな防御もできずにその命を散らす。フィールドに張り巡らされた金属製のパイプに向けてショットアンカーを放ち、縦横無尽に移動を繰り返す。

 壁を蹴り、ブースターを吹かし変則的な軌道で移動しつつ確実に斬撃と射撃を繰り返し障害となるAAを排除していく。兆弾などまったく気にせずに打ちまくるような輩は優先的に撃破し道が重なる場所へと辿り着く。

 そして、明は一つの結末を目撃することとなる。

 

 その数分前。


 「あなた程度の腕で私を倒すつもりなの?」


 「相応の準備はしましたからね、ご満足いただけるかと」


 盾で大剣の攻撃を防ぎつつ、周囲にビットを展開していくメイジ。


 「一人で無理なら数で倒す、正論ね」


 鏡としては、すぐにでも遠隔操作可能なビットを破壊したいところではあるが、広域に展開させすぎれば自身の防御がおろそかになるために積極的に攻められないウィザードはメイジを攻めきれずにいた。


 「卑怯とでも何とでも言ってください」


 「戦略に卑怯も何もないでしょう。勝たないことにはお話にもなりはしないのだから」


 方陣の周囲を旋回するソードビットの刃も、打ち鳴らす大剣の攻撃も、ビットや盾に弾かれ反らされる。鏡の体感では明の反応速度程ではないにせよ、かなりの反応だった。

 そして、勝たないことには話にならず、ここでの死が現実の死としての意味を持つ以上は準備しすぎると言うことはないのだろう。

 死んでしまえば、後悔さえできないのだから。

 数に頼ること、地の利を活かす、相手の戦力を分断するなど当然の準備だ。


 「それでは、そろそろ本気で行かせてもらいます」


 背面にビットを展開しつつ、メイジが左手に持った剣を大きく天に掲げる。


 「ずいぶんと真面目な卑怯者ね」


 左手を前に突き出し、大きく引いた大剣の刃に添えるウィザード。


 「今更、奇襲など意味がないでしょう。もっとも、援軍はいくらでも用意してあるのですが」


 その声に呼び出されたかのように機械の兵隊たるソルジャーの軍勢がそこかしこから結集してくる。


 「で強制的に動かしているのね。案外、残酷なのね」


 方陣を自身の前面に展開し、次なる動きへと備えるウィザード。


 「残酷なことをするのはあなたですよ。私は動かすだけですから」


 ビットの銃口が薄っすらと輝く。


 「詭弁ね。銃が人を殺すのであって撃った人間に罪は無いとでも?」

 

 姿勢を低く、走り出す直前ようにするウィザード。

 

 「我々に問答は不要でしょう」

 

 盾を前に視線を重ね合わせるメイジ。

 

 「そうね、はじめましょう」

 

 重心の移動、重さを速さに変えて一歩を踏み出す鏡。

 

 「さあ、存分に殺し合いましょう」

 

 四葉が天に掲げた剣を振り下ろすと、それに答えるかのように一斉に射撃を開始する数十からなる軍勢。室内戦である以上同じ場所に一定以上の密度で呼び出すことが不可能なことを考えればその程度が一箇所に呼べる上限だった。

 その軍勢の支配者に向けて、自身を弾丸として放つウィザード。

 鏡の目に映ったのは、

 圧倒的な殺意、

 視界を多い尽くす閃光、

 そして、

 意識は白く染まっていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「みんな無事だよね」

 

 祈るように思考しつつ、流れるような動作で槍を突き刺しヘッジホッグを大破させる水月のウィンディーネ。アビリティ『』の効果で、教師陣の思考が流入してくるのは今でも確認しているが生徒達には犠牲者がでていると感じていた。

  ほんの数分前に数十体の敵が出現したとき、自分が受け持っていた生徒たちに対しては殿をつとめるなどと教師染みたことを言ってみたが、内心は自由に動くための口実だと割り切っていた。

 彼らや彼女らと過ごした日々は確かに尊いものであったが、彼女が本当に守りたい人は別にいる。

 とはいえ、生徒達が安全に脱出する上で後方からの敵がいないということは、その生存率を飛躍的に上昇させるファクターであることは紛れもない事実であり、それが合理的な判断であることは間違いではなかった。

 それを差し引いても水月は、愛しい人に一秒でも早く会いたくて、親しい友の無事を確かめたかった。

 彼の姿を目で見て、

 彼の声を耳で聞き、

 叶うのならば、

 すぐにでも抱き締めて彼を感じたかった。

 ……たとえ他の何かを犠牲にしたとしても。

 

 「……私を一人にしないでよ」

 

 ――《Cluster edge》(刃の群れ)――

 

 自身の周囲に無数の水の刃を呼び出し放射状に解き放つ。放たれた刃は、自身に迫る敵を無残な鉄くずへと変えていく。その攻撃は防いだとしても俊二に凍りつき一瞬の硬直を余儀なくされて彼女の持つ銀の槍の餌食となる。

 彼女の思考は冷静であったが、その攻撃は激烈だった。

 自身に敵意を持って近付いてくる者は問答無用で破壊しフィールドを破壊しながら最短距離で移動していく。フィールド自体はかなり頑強であったが、それでも圧力を掛けた水の刃の前では無力だった。

 

 「すぐに、会えるよね」

 

 誰にでもなく向けられたその言葉に返答はなかった。

 彼女が本当に答えて欲しいと願う人はここにはいないし、質問に答えられる状態の人間など彼女の周囲には、もういないのだから。

 

 

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