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ROG(real online game)  作者: 近衛
三章
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3‐3‐5 Untrue

 翌日、仮想空間内、国内エリアにて。

 そこには、新城明、神代鏡、天宮水月、三島平治の教員四人と生徒十六名、計20人分のAAが構成する即席ギルドの姿があった。


 「今回は、国内エリアの無法遅滞を周回し『海賊』連中と交戦することになればこれを掃討、いなければそのまま帰還することが目的だ。すでに個人的にこうした命懸けの戦闘を経験している者も多くいるだろうが、気を抜かず生存を最優先に行動しろ」

 

 「「了解」」

 

 明の指示にオープン回線上で生徒達の声がシンクロする。

 

 「それでは移動を開始する。不測の事態には事前に渡したマニュアルないし、教員の指示に適宜従うようにするように」


 先頭に明の操作するフェアリー、鏡のウィザードの二機、後方を水月のウィンディーネと平治の操るソルジャーの計四体で護衛しつつ行軍が開始されるのだった。 

 進行を開始して数十分、目的のエリアまで数分で辿り着く位置にまで来ていた。


 (内通者がいるのか?)


 明は周囲に警戒しながら思考する。


 (誰が、何の目的で、略奪が目的ではない?)


 学院内部の者が手引きをした場合、教員か生徒の誰かが事を起こすとして襲われるのがただの生徒達であるのならばそこから得られるバックはタカが知れている。護衛として仮想での戦闘訓練された人間がいることも考えれば割に合わないことであるのは明白だった。

 一般に養成校の生徒達は、そこらの『海賊』連中よりも優秀であるが金銭的には裕福ではない場合が多い。単純にこれは自衛も含めてプレイヤーに対する『狩り』の経験が少ないために手持ちの金銭が乏しいという話だが、相手にすればリスクとバックが釣り合っていないのなら積極的に狙う理由がない。


 (個人的な恨みか?)


 特定の誰かに恨みがあるのならばデメリットなどを差し引いて考えることができるが、ここにいる20人にそれが適用できるほどの共通点はない。強いていうならば、全員が宗光学院生ないしそうだったという程度の存在でしかない。

 念のためにヘイフォンを通じ身辺捜査の依頼と国内エリアに関する定時連絡を受けてはいるが、それらしい情報は入手できなかった。

 いや、あるにはあったが規模が大き過ぎて自身に関りがあることと考えることがナンセンスに思えるものだった。



 (数百名規模の連合軍でわざわざ俺達を狙うとは到底思えない。俺や平治達を含めたとしてもとてもじゃないが支払いきれる額じゃない)


 普通に考えれば、旧来の方法でのガーディアン戦かギルド対ギルドのための戦力の増強辺りが妥当だった。『白の教団』などの有名どころは確かに仮想の深層へと消えたみたいだが、海賊連中にも縄張り意識はあるようで小競り合いのような戦闘は日常茶飯事である。

 一方の逆鱗に触れるようなことがあればギルド対ギルドクラスの戦闘が組まれてもおかしくはない。


 (エリアの端を通過して極力戦闘は避けるか)


 本来ならば、戦闘も含めて今回の演習だがわざわざ危険なタイミングで突っ込むことはないと判断した明は進行ルートを迂回気味に変更し部隊の全員にデータを転送。『摩天楼』の設定されたフィールドを避け『機械都市』のフィールドを周回し帰還するルートに変更するのだった。

 

 『機械都市』に辿り着いた明達は、周辺部に敵がいないことを教員が先行し確認する。歯車や訳の分からない角度で曲がりくねった金属パイプが迷宮のように入り組むフィールドは閑散としていた。

 隠れる場所も多く待ち伏せに適した場所ではあるが、ポートエリアから外れの位置にあることから人も少なく、わざわざそんな場所に踏み込みたいと思う人間もいないので、狩る側と狩られる側のどちらも寄り付かない場所になっていた。

 

 「それでは、フィールド内部を分担して周回、しかる後に帰還する。それでは、諸君らの健闘を祈る」

 

 「「了解」」

 

 演習での教員一人に対して四名のチームに再編し各自が分担して内部を探る。今現在の時点で敵がいなくても、初期出現位置に設定しておけばいくらでも沸いてくる可能性はあるだろうしガーディアン以外のNPCのエネミーはポップアップ自体が完全にランダムでエンカウントする可能性はそれなりに高い。

 こんなところにわざわざ襲撃に来るとも思えないが『転送』のアビリティを持っている者であればいきなりここに出現してくることもありえた。

 例外的な状況などいくらでも想像できたので敵がいない状況であってもそれなりに緊張感を持って生徒達も演習にあたっていた。

 そして、閉鎖的な室内のフィールドの最奥に到達し帰還しようとする際にそれは現れた。

 

 ――《Survival》――

 

 「集団対集団のエフェクトだと。NPCが大量に発生、いや、海賊連中か?」

 

 「来ましたか」

 

 迎え撃つべく得物を構える四葉。周囲を警戒するように赤木、桜井、白百合も武装を展開するなどして準備する。

 

 「くそ。敵と思われる集団の規模および目的は不明だが、防衛を最優先にしつつ『機械都市』から離脱しろ。後衛は、俺が一人で引き受ける」

 

 ポリゴンが形作る敵の姿を認めると即座に移動を開始する四人とそれに追従する明。

 入り組んだ地形でなおかつ敵は室内随所に出現しているらしく明の正面で散発的に爆発音が聞こえる。

 そして、これは『海賊』連中の奇襲と思われるが不自然な点が散見する。

 まず、待ち伏せであったのであればフィールドにこちらが近付いた時点で交戦になるはずであり即座に離脱することができたはずであるということ。仮に内通者がいたとして、こちらが移動先を変更したあとに初期出現位置を変更することは不可能だ。そもそも数分前に突発的に変更されたものに周到に用意をすることなどできるはずもない。

 一般に『海賊』連中がAAを出現させた状態で待ち伏せをするのは、こういったトラップのような方法ができないからだ。当たり前だが、相手が来る時間と座標を正確に把握していなければこうした奇襲は成功しない。つまり、取引の際に裏切りでも発生しない限りは起こりえない状況だ。


 (いや、今は目の前の敵に集中か。数に押されて分断されたがあいつらなら捌き切れないというということもないだろう)


 そして、明は薄暗い工場のようなフィールドでひたすらに撃ち続け少しでも生徒達に向かうであろう戦力を削り続けるのだった。



 

***




 『機械都市』内で鏡と相対するAAが一体。


 「我らが主は、実に寛容だ。裏切ったあなたの存在を認めているのだから。だが、私の考えはそうではない」


 「別に今更あなたなんかに許してもらいたいとは思わないけど」


 「裏切り者には死の制裁を」


 「脱退を裏切りと解釈するのは、あなたの都合でしょ?」


 「これは『黒の旅団』唯一の不文律ですよ。たとえそれが『魔女』の片割れだろうと例外なく適用される絶対の掟だ」


 「はあ、あなたもそうなのね。いい加減うんざりする」


 (誰もが私を彼女の影としてみる。ついででしかないのなら、放っておいて欲しいのだけど)


 「なんにせよ、あなたはここで死んでいただく。問答など不要だ」


 「そうね、明には悪いけどあなたには死んでもらうわ。四葉剣三」


 大剣を引き抜き、円状の方陣がウィザードを中心に三重に展開される。


 「不実には、然るべき報いを」


 そして、大剣と盾を構えレーザービットを展開したメイジが戦闘を開始したのだった。

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