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ROG(real online game)  作者: 近衛
三章
62/151

3‐3‐2 Untrue

「戦闘開始だ。四葉」


 右手を前に突き出し、三井が言い放つ。皇帝が下す命令を受けて、その兵士たるビットが地上へと雪崩れかかる。


 「それでは行かせてもらいます。三井君」


 迎え撃つべくメイジも地上でビット武装を展開しつつ、右手にリニアライフル、左手には盾を構える。そして、両者の前に何十ものビットが展開されるとそれを合図に光の雨が降り注ぎ、弾幕が天に向かって駆け上がる。

 個別の攻撃や操作に捕われていては絶対にできない複雑な操作を完璧にこなす両者は攻撃、防御、牽制、揺動、それらを見極めて必要な部分だけを防御し、即座に攻撃に転ずる。

 三井の操縦するエンペラーは、高速で移動し回避をしつつビット武装を空から地上へと展開する。対する四葉の操るメイジは、左手に盾を右手にリニアライフルを構えてレーザービットを空に、周囲に展開する。

 一見派手に見えるその戦いの実態は、驚くほどに精緻だった。

 詰め将棋のように、相手の遠隔武装を一つずつ撃破し火線を減らす。急所以外への攻撃は防御せずに極力隙を作らない動作を繰り返していく。

 そして、遠隔武装の数が半分を割った頃に戦局に変化が現れる。遠隔武装のみに特化した機体ではないメイジの武装が先に尽きる。牽制射撃をしつつアビリティ『倉庫』で次なる武器を自身の手元へと引き寄せる。

 対するエンペラーは、小ぶりな剣を三本空中から投げ放つ。武装の呼び出しから発生までのタイムラグを利用した武器破壊を狙っての行動だった。銃ではなく実体剣なのは、呼び出された武器が発生するタイミングが多少前後したとしても破壊できるからだろう。

 しかし、これを見越していた四葉は、ランダムに複数個出現させた武器の内一つに的を絞り他のものは見放した。

 そして、その一個に向かってくる剣を空中で打ち落としカチューシャを背面に装着し即座に全砲門を解放、空にいくつもの砲火を打ち上げる。

 ビットとエンペラー本体は回避と迎撃に回るが、先程投げ放たれた剣が意思を持っているかのように動き出す。エンペラーの固有アビリティ『暴君』を受けて、本来飛行能力などを持たないただの剣がメイジに襲い掛かる。

 厄介ではあったが、大量の火線に比べれば簡単に対処できる範囲ではある。盾で打ち払いつつ本体に向けてリニアライフルでの射撃とバックパックのように背中に背負ったカチューシャで砲撃を繰り返していく。

 地上から空中への攻撃なので命中率は低い、しかし、正面からの勝負である以上いつかは決着が着く。

 四葉にも三井にも逃げるという選択肢は存在しないのだから。

 

 「正面から決着をつける。これで、最後だ」

 

 三井がメイジに向かい大剣を引き抜き、空を駆ける。残存しているビットがエンペラーに続き決着をつけるべく幾つもの射線を重ねていく。

 頭の悪い特攻のようにも映るが、長期戦になって不利なのは武器の補充ができないエンペラーであり、ならば火力が残っているうちに全力の攻撃を仕掛けることは、むしろ理にかなった選択だった。

 

 「それでは終わりにしましょう」

 

 正面からくるエンペラーの態度を潔し、としたのか四葉はリニアライフルを『倉庫』で回収し大剣に持ち替え、眼前に迫る敵へと向かう。

 空中から降り注ぐビットとエンペラー本体にカチューシャを乱れ撃つと即座に分離して背後から迫る三本の剣への障壁とする。

 盾を前に半身になった姿勢から放たれた突きは、相手の持つ大剣と空中で滑るように交錯し互いのコアユニットへと吸い寄せられていく。そして、コアユニットを破壊したのは『倉庫』によってエンペラーの側面から呼び出されたリニアライフルだった。

 

 「てめ、そんなんありかよ」

 

 「切り札は最後まで取っておくものですよ、三井君」

 

 四葉がやったのは、回収された状態を引き継いで呼び出される『倉庫』の性質を利用した技だった。

 発射モーションに入ったリニアライフルを回収し、呼び出した瞬間に攻撃させるという時間差攻撃。

 そんなに多用できる技ではないが、メイジ周辺ならばどこからでも使えるのは大きなアドバンテージであると言える。


 「くそ、次は負かしてやる」


  納得のいかない方法で負けたからなのか、三井が捨て台詞を吐いて戦闘停止する。

 

 「また、会い見えることがあればやってみて欲しいものですね」

 

 「本当に嫌味な奴だ」

 

 こうしてリーダー同士の戦闘は、四葉の勝利で決着したのだった。

 

 「こちらも決着をつけるとしましょうか」

 

 四葉が勝負を決めるのをみて、独白する白百合。

 そういう彼女の周辺には、今も自身を破壊するべく弾丸や炸薬が降り注ぐ。コートのようにまとったソードビットが盾の役割をしているので致命傷こそないが、無傷と言う訳にもいかず軽微ではあるが何度も被弾していた。

 ビットを展開して相手に攻撃を仕掛けたいところではあったが、防御手段がない状態で荷電粒子砲を喰らってしまえばひとたまりもなく、盾の役割も兼ねるビットを攻撃に回す選択を選べないでいた。

 敵の周囲を旋回し、正面からの戦闘を避けていた白百合は意を決し敵を中心として螺旋を描くようにヘッジホッグへと向かっていく。

 円周が小さくなるにつれ苛烈さを増していく攻撃に対して自身の装甲であるビットをリアクティブアーマーの要領で衝撃に対して衝撃をぶつけるように弾き飛ばし威力を相殺し被弾しつつも加速していく。

 破壊に対して破壊をぶつけると言う矛盾を帯びた相克は一種の美しさを帯び、爆炎と共に弾け飛ぶ剣は魔術師の軌跡をなぞり、敵を包囲していく。

 逃げ場を無くした敵の攻撃は刻一刻と激しさを増していく。

 

「さようなら」


 そして、全てのビットをもがれつつもヘッジホッグの正面に辿り着いたウィザードは、別れの言葉と共に大剣が袈裟懸けに振り下ろすのだった。

 

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