3‐2‐5 Opposition
演習室にて、列になった講義用テーブル越しに明と平治が対面していた。
「一回戦の相手は、平治のチームか」
「男女別になったな。今回は、俺のチームが勝たせてもらうぞ」
「生憎と俺のチームは強いぞ」
済ました顔で断言する明。
「攻めるだけが能ではないさ。個人技も一つの強さだが、チームでの戦闘であるならそれなりの戦い方がある」
そんな挑発するような言動もどこ吹く風と受け流す平治。
「はあ、どうやらお互い相手の戦闘方式は予想通りみたいだな」
「万全の対策はしてある。お前と同じ実力の学生が四人いない限り負けないはずさ」
元チームメイトだけあって、互いの行動パターンや性格は熟知していた。そして、おそらく行ってくるであろう戦術や戦略、訓練方式には検討がついていた。
「それは、こちらも同じだよ。だが、今の俺と同じとは言えないが昔の俺と同じくらいには鍛えてやったつもりさ」
「それでも、勝つのは俺のチームだ」
「結果は、学生達が示してくれるさ。そうだろう、平治?」
「できれば、俺達も参加したかったな」
残念そうに語る平治。
「俺達が学生を全滅させてもなんにもならないだろ」
「いい経験じゃないか。とはいえ、俺達はもう見守ることしかできないか」
「そういうことだ。静かに試合を観戦しようじゃないか」
対面する二人は静かに思考し、視界を仮想へと移すのだった。
***
「透過迷彩か。座標は割れているが罠でしょうか」
「かといって放置もできないでしょ」
ツーマンセルの形を取った四葉と白百合のコンビが先行していた。
戦闘フィールドに選ばれた曇り空の『廃墟』にて二体のAAが地上付近を並走する。そこから見渡す景色は、近代的なビルディングが乱立する『』のフィールドに爆撃をしたような有様だ。
「敵はソルジャーが三体、ヘッジホッグが一体。スタンダートな構成ですね」
「そうね、誰かが先行して仕留めないと」
「君の技術に期待しよう」
「そこは、男であるあなたが進んで行く所ではないの?」
「レディファーストで」
「口の減らない奴。……背中、任せるわよ」
「狙いを外す程、射撃は下手ではないつもりです」
チーム用の秘匿回線を利用しつつ加速するメイジとウィザードの二体。目標は、廃墟に潜むソルジャーが一体。遮へい物も多く、到達までに時間を掛けているために既に地雷原と化していることだろう。
だが、相手が待ちの戦術を選択する以上時間を掛ければ掛けるほど状況は彼らに不利に働くとわかっている。自ら積極的に攻めない、と言う選択肢は存在しなかった。
「接敵まで十秒弱、援護して」
「了解しました。一部を建物に当てますので、煙に乗じて仕掛けてください」
『倉庫』からカチューシャと呼ばれる多連発ロケット砲を取り出し、メイジが援護射撃の構えするべく構える。
「仕掛けるわ」
その声を合図に爆撃染みたミサイルの雨がソルジャーの近辺に降り注ぐ。援護射撃に合せてウィザードは大剣を引き抜き、敵に向かい加速する。攻撃がないのは、自身の位置を特定されることを恐れているのか、防御に専念しているのかは定かではない。
そして、予想通り地雷原だったソルジャーの周辺部が爆撃を受けて派手に爆発する。火炎の中を一直線に突き進むウィザードがローブをはためかせながら剣を振りかぶりソルジャーに斬りかかる。目標に到達する直前、白百合の視界に映ったのは三方向からの火線、獲物を仕留めるべく眼前で煌めく銃口のフラッシュマズル。
(やはり、こいつは囮。それでも)
そのまま加速して相打ち覚悟で仕留める選択は、今の彼女にはなかった。
小さな変化は、どんな状況でも自身が生存するべく思考するように何度も教えられたからこそだった。
その先にあるのは実戦を想定した思考、自身が死んでもゲームのスコアを上げる方向で考えるのは愚か者だった。
彼女は即座に思考を切り替え、ローブを分解して盾として再構築する。自身の前面に展開し、コアユニットを守るべく大剣で守りを固める。ギリギリで間に合った防御は、四人がかりの攻撃にさらされるが火線の大半は彼女の眼前を通り過ぎる。
(ふう。あのまま突っ込んでいたら死んでいましたね)
「座標特定。素晴らしい戦果です白百合さん」
メイジが展開した数十ものビットの砲火が駆り立てるようにひし形状に展開した左右の二体に向かう。回避するべく二体は散らばるが、回避した直後の位置に向かい一条の光が走り抜けて行く。
見えざる砲台と化した赤木のソルジャーからの狙撃に右の一体が被弾する。直撃だけは避けたのか、ダメージはあるものの射程から抜けるべく移動を続ける。しかし、破損部からの炎上で可視化された機体を桜井のアークエンジェルが両断する。
敵の陣形は、ひし形は逆三角形となり前衛の二人が戦力を集中しつつ、砲台であるメイジとソルジャーは両翼に展開する。不可視の相手と切り合うのは分が悪いかと思ったが、桜井が相手をしている間にウィザードのソードビットが敵を包囲して問答無用でこれを撃破。
味方もろとも撃破することを避け、この間の援護はなかった。しかし、それは次なる攻撃への布石でしかなく、四人たちに向かい多弾頭ミサイル、ガトリングガンの火線が降り注ぎその場で釘付けにされる。
ヘッジホッグからの攻撃で前衛の二人は、盾で攻撃を防ぐが身動きが取れない。この時点で彼女達の側面に移動していたソルジャーによる射撃でアークエンジェルが撃破される。
しかし、敵の攻撃を掻い潜りつつ武装を展開していたメイジのビットと二丁拳銃による一斉射撃で蜂の巣にされる。不運なことに一直線状に並んでしまったメイジとウィザードは次の攻撃を交わすことはできなかった。
ヘッジホッグの切り札ともいえる、荷電粒子砲による敵の掃討。フィールドに存在する障害を融解させながら光の奔流が薄闇を照らしていく。
何重にも盾を展開してこれを何とか防ごうとする白百合だが、一枚、二枚と盾が光に融けていく。
瞬時に盾を取り出したメイジがその後ろに並ぶ。
「敵が攻撃する瞬間が最大の好機だ、赤木。今だ」
四葉がここで逆転のカードを切る。
吹き荒れる風、重力、熱や磁気による乱れを全てアシストプログラムで演算しつくした赤木のソルジャーがビルの屋上から敵にを重ねる。
「俺達の勝利だ」
彼の思考に応え、ソルジャーがトリガーを引く。
弾丸は音速を超えて敵へと向かい、その装甲を食い破りコアユニットを粉々に破壊したのだった。