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ROG(real online game)  作者: 近衛
三章
59/151

3‐2‐4 Opposition

 放課後、宗光学院にて。

 夕日に照らされた教室で四葉剣三がARを利用してメールチェックをしていた。


 「了解しました、と」


 ふう、と溜め息をつきながら四葉がPIT経由のメールを閉じる。


 (厄介なことになった)


 それが自身に与えられた仕事であるのならば、どのようなものであっても実行するという覚悟はしていたつもりであった。そもそも、そんな覚悟すらなしに来的には前線に立つことを要求される宗光学院に入学する人はほとんどいない。

 最先端技術の仕事と言えば聞こえがいいが、やっていることはといえばゴロツキの掃除や傭兵紛いの仕事だ。報酬はそこらの一流企業などの比ではないが命懸けの仕事であることを考慮すれば高給取りというほどのものでもない。

 彼のように学生の内から依頼を受けて仕事をすることは珍しいことではなく。金銭的に問題を抱える学生が宗光学院に入学した直後に雇われの用心棒をすることや自主的に民間人の護衛に就くことはよくある。

 宗光学院は教育機関ではあるが、電研では少しでも経験を積んだ優秀な人材が欲しいこともあり、黙認されている行為である。

 訳の分からない『海賊』崩れの企業に頼るよりも宗光学院のネームバリューを持ち教育や訓練を受けている学生の方が信頼されているし、実力的にも上の学生が多いのも事実だ。

 無論、民間企業全てが粗悪な訳ではないが、仕事全体の量に対して必要な人材が不足しているのが現実だった。


 「まあ、何とかならなくても何とかするしかないのですが。仕方ない、私のポケットマネーを切り崩してでも間に合わせるとしますか」


 そういって割り切ると演習室を目指す四葉だった。

 

 「さて、我々の目下の目標は三島先生、神代先生、天宮先生のそれぞれが受け持つチームの打倒にある。対戦相手はまだ確定していないが、事前に対策を立てて置こうと思う」


 現実に対して追加の視覚情報を付加するARの機能である、セカンドサイト越しにARを確認しつつ明が説明を始める。


 「基本的な戦術や個人技に関してはこれまで仕込んできたことをやってくれれば構わない。しかし、それだけで確実に勝てるとは言い切れないので敵の動きを想定した訓練を検討することにした」


 そんな明のレクチャーを四葉、赤木、桜井、白百合の四人が傾聴する。ちなみに演習室は複数個あるので各自情報が流失しないようにチーム毎に違う部屋を利用してのブリーフィングをする事になっていた。


 「まずは三島先生の率いるチームだが、おそらく生存を優先とした隠ぺいからの奇襲特化型の作戦を取ってくると思われる。透過迷彩を利用した狙撃戦術、陽動から地雷原への誘導、待ち伏せからのが考えられる」


 それぞれの戦術の画像を添付した資料をAR越しに表示しつつ、説明を進める。


 「いずれにしても待ちに特化した作戦で自分から攻めてくる可能性は薄いだろう。そして、特定のポイントに踏み込まなければ脅威にはなりえない。個別での戦闘になれば、間違いなく勝てると断言できる。それだけの訓練をこなしてきた」


 あれから、幾度となく繰り返してきた戦闘演習で彼らは、反応速度、回避技術、防御技術、射撃精度、全てが学生の水準を超えていた。同様の訓練をしていない限りは、遅れを取るとは明には思えなかった。


 「基本的に、全滅するまで戦闘は行われることになっている。例外となるのは、突発的な事故や相手が降参をしてきた場合、相手が戦闘エリアから離脱した場合だ。いかにして効率よく破壊するかについてはこれ以上教えることはない、相手の戦術についても連携を乱さなければ対処可能だと考えている」


 一呼吸して、強く言い放つ。


 「対立してくるなら、正面から叩き潰せ」


 「「「了解!」」」


 四人の声がぴったりと重なって響く。スパルタな訓練を共に乗り越えた影響か、奇妙な連帯感が生まれていた。


 「ふう、次に神代先生のチームについてだ。まあ、あいつが何をやっているのはあまり想像したくはないが、おそらく俺と同じような指導法を相当に苛烈に実践しているのだろう」


 ここ数日、彼女が指導する生徒たちは何かにされたかのようであった。訓練された猟犬のように彼女の指示に的確に応え、従順な犬のように服従する。気の毒な話だが、よく訓練された軍人と言うよりはそのような表現の方があっていた。


 「個人技については、お前達と同等程度かそれ以上に訓練されているだろう。気を抜けば一瞬で破壊されることを覚悟しておけ。戦略プランについては、戦力を分散した各個撃破をしてくるかと思われる」


 個別の四体、二体毎の連携、一体と三体の組み合わせなどのパターンが役割に応じて動くと言うスタンダートな戦略。しかし、フィールドを移動しつつ陣形や布陣を変更してくることを明は想定していた。


 「深追いはするな、複合的な戦術で先行する機体が挟み撃ちにされることなるだろう。常に二人はセットになるように心がけ、相互に仲間を支援しろ。先行してくる相手に対して数の優位で個別に撃破するように動け」


 移動しながら攻守を切り替え、全員がゼネラリストとして機能するハイレベルな連携であるはずだが、のような生徒達の様子をみていると完璧にこなしてくるだろう。パブロフの犬よろしく、動きを身体に刻み込まれたのだと明は推察していた。

 

 「さて、最後に天宮先生のチームについてだな。おそらく、こちらの攻撃を防御しつつ陣形を変更、相手の一部を包囲して撃破するというような作戦で動いてくると考えられる。個別での戦闘に持ち込めれば負けることは無いと思われるが、連携重視で動いてくるだろう」

 

 「つまり、いかにして連携を崩すかが重要になってくる。ということですか?」

 

 四葉が軽く笑みを浮かべ質問をはさむ。

 

 「その通りだ、四葉。役割を固定化した連携訓練で、その技術だけは高いだろうが、期間的に個別の技術までは完成されていないはずだ。防御主体の連携は、個人の能力の低さを隠すためのまやかしでしかない」

 

 「戦略さえ突破できれば、なし崩しに勝てそうだ」


 期待に満ちた目で強気に断言する赤木。


 「仕掛けてくる瞬間を逆に狙い撃ちにして仕留める。というところでしょうか?」


 と、不敵に微笑む白百合。


 「そんなところだ。まともにやり合っても防御主体で動かれれば長期戦は必至。その場合、先に隙を作るのは攻め手の側であるこちらだ。なら逆に攻めを陽動として相手に攻撃させそこをカウンターする」


 「そうは言いますが、全て新城先生の想像ですよね? 情報が相互に秘匿されていますし」


 おっかなびっくりしつつ手を上げて、桜井が質問する。

 クラスの内部で情報統制がしかれている訳ではないが、勝負の前に進んで自分の情報を提供する輩はいなかった。

 教師の性格が反映されているのか偽の情報を流す作戦をしているチームもない。

 

 「なんだかんだであいつらとは付き合いが長い、大きくは外れていないと思うぞ。それにあくまでも留意しておく程度に知っておけばいいことだ。当れば儲け物、外れてもそれが実戦では当然のことだ」


 「相手の情報が筒抜けになっていることなんて、例外もいいところですからね」

 

 とは、四葉。

 

 「だが、何かに特化することはそれだけで武器になる。それは、あいつらもよく知っているはずだ。なら、下手に何でもできるように仕込んだりはしない。自身が一番得意な方向で特化するように訓練しているはずだ。わかっていても対処できるかは、お前達次第だ」

 

 「違いないですね」

 

 四葉が小さく答え、他の三人は首肯する。

 

 「あとは、本番で結果を出すのみだ。あえて、命令させてもらうぞ」

 

 拳を心臓に当てて一息して明は声を張り上げる。

 

 「必ず勝て」

 

 「「「了解!」」」

 

 再度、四人の声がぴったりと重なって響くのだった。

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