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ROG(real online game)  作者: 近衛
三章
57/151

3‐2‐2 Opposition

 「まあ、予想通りだが。負けたな」


 「そりゃあ、負けますよお」


 桜井が明の意見に同意する。

 

 「70体辺りから急に敵が強くなった気がします。もっと精進せねば」

 

 とは、四葉。

 

 「……次は、負けない」

 

 決意表明か何かのつもりなのか、一人つぶやく白百合。

 

 「てか、四葉と白百合に関してはこれ以上強くならなくてもいいと思うんだがな」

 

 二人が好成績なのは周知のことだったが、一緒にチームを組んでみて、改めて自分との実力差を思い知らされたのか赤木がぼやく。

 

 「私が不甲斐なかったから」


 「落ち着け四葉、個人技で全てがどうにかなるなら集団に属する意味はない。早い話わざと負けさせるためにあのミッションをやらせた訳だが」

 

 「ひどっ」


 反射的に口を出したのは桜井。

 

 「新城先生は鬼畜です。……でも、それがいい」

 

 何故か頬を赤らめる白百合。

 

 (白百合、お前は一体何を思っている?)


 軽く寒気を感じた明だが、気にせず話を進める。

 

 「各人の問題点の洗い出し、連携の必要性を説明するために今回のミッションを選択した。なぜ、お前達が負けたのかといえば、単純に連携が全く取れていないからだ。個人技に依存してごり押しで勝ち進もうとした結果がこれだ」


 ARで戦闘データを参照にしながら、反省会を進めていく明。

 

 「適度に広がって各個撃破といえば聞こえはいいが、実際のところお前達はただ単にばらばらに戦闘していただけだ。まあ、個人技でも極めればあの程度の敵を無力化することは不可能ではないのは確かだが、限度がある」


 数的優位というのは、それだけで一つの暴力となる。個別の戦闘では、不可避の状況や連戦に次ぐ連戦で体力的な限界で敗れることもあるだろう。いくら技を磨いて強くなっても、一人でできることには自ずと限界があるのだ。


 「事前に打ち合わせがなかったことも考えれば、善戦したと言えなくもない。しかし、俺は君達の戦力で十分に無効化できる程度の相手だと思って今回のカードを組み、君達は83体のAAを撃破した段階で制圧された」


 一呼吸の空白の後、続ける明。


 「これは、相手が段階的に戦術を変えるようにしていた事にも原因がある。先程、四葉が指摘したように70体目辺りから、複数体で隊列を組み、Aの隙をBが、Bの隙をCが補填するようなパターンで攻めるようにしていたからだ」


 そして、CPUの操作するAAの途切れない攻撃に対し、即時反応して対処する限界が83体目だったということもである。一人撃破され、二人目、後はなし崩しに全滅に至った。


 「攻撃による相手の制圧は少数に対しては有効だが、数で押されると全てを撃破し攻撃を防ぐことは不可能だ。これは実際に体験してもらった通りだから、理解してもらえたと思う」


 内省しているのか、静かに耳を傾ける四人。


 「全員がかの動きになってしまっている現状は、攻守のバランスが悪いのは言うまでもない話だ。最低限一人は、に回り全体の隙をカバーする必要があるだろう」


 厳密な役割分担というわけではないが、前衛攻撃型、防御特化型、後方支援型、などのAAの基本装備に照らした分類が存在する。

 近接武器で攻め立てるエンジェルシリーズは、前衛攻撃型と言われ。

 武器というよりは盾として多く使用されるソードビットを使用するウィザードは防御特化型に分類され。

 射撃武器をメインアームとするヘッジホッグは、後方支援型。

 攻守ないし近接と遠距離をバランスよくこなすタイプ、あるいは前述した以外のタイプは汎用型に該当すると言われている。

 しかし、装備のバリエーションや戦い方次第でこんな分類などいくらでも変わってしまうので大した意味を持つものではないが、役割分担することは作業の効率化に繋がり、それは即ち戦力の増強に繋がる。


 「このメンバーだと汎用型のメイジを使う四葉か、ウィザードを使用している白百合が防御特化型に転向可能だな。単純な撃墜数を考えれば、白百合が防御に回るのが適任だが、近接武器主体のAAであのスコアなら四葉が適任かな」


 汎用機であるがゆえに、防御しながら武装を変更して援護射撃も可能だという考慮すれば彼が一番適任だろう。


 「四葉君が攻撃できなくなるのは、戦力的に厳しいと思うですが」


 あの、と前置いて遠慮がちに意見する桜井。

 

 「無論、攻撃にも参加してもらう。戦況を見極めて指示を下し、必要に応じて支援砲撃や防御を行ってもらうことになる。そもそも手数が足りないのから役割分担をするのに、それで手数が減ってしまっては意味がないからな」

 

 「分かりました、やって見せます」

 

 「それでいい。桜井と白百合の二人は、ウィザードとアークエンジェルで前衛を担当、赤木はソルジャーで後方支援を担当しろ。それと形式的なものではあるが四葉が指揮官役となってこのパーティーをまとめろ」


 シンプルな役割分担だが、個人技に依存したやり方より効率は格段に上昇する。

 個人での打ち漏らしの減少、不意に飛んでくる流れ弾の防御、状況を見極めての配置変換、前衛の露払いなど利点を挙げればきりがない。

 即興の分担では高度な連携は期待できないにしても、それでも十分過ぎる効果が期待できるだろう。

 

 「ところで、戦略的な問題点はわかりましたが、個人個人の戦術的な課題に関してはどのような問題があるのでしょうか?」

 

 笑い出したいのこらえつつ、明は口を開く。

 

 「ふふふふ、良くぞ聞いてくれた。そちらから、聞かれない限り絶対に話してはいけないと神代や三島に言明されていてな。まず、全員動きが遅いな。相手が出現してから一秒以内に発射モーションに入るか回避運動を開始しないと話にならない」


 いきなり様子が変化した明に一同、そろって絶句する。

 

 「赤木、お前の射撃は精度が悪すぎる。最低九割は当てられるようにしろ。三割も外していたら当てる前に殺される。白百合は、強引に前に出過ぎているな、装甲も兼ねているビットを当てにしているのはいいが、だとするなら四体程度は同時に捌けるようにならないと実戦では使い物にならない」


 一気にまくし立てられ、唖然とする四人を尻目にさらに続く講釈。


 「桜井は反応速度が遅すぎるな。あの程度の相手なら、防御を使うまでもなく全て立体軌道で回避しろ。それから四葉は、武装の変更が丁寧すぎる。アクションを起こしている最中に次の武装を用意して間断なく攻撃が続くようにしろ。必要に応じて使い分けるのではなく、攻撃し続けろ」


 四人が、それは空けてはいけないパンドラの箱だと理解するのに時間は掛からなかった。

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