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ROG(real online game)  作者: 近衛
三章
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3‐2‐1 Opposition

 早朝、教室にて。

 新城明と四葉剣三が机越しに向き合っていた。

 明の方といえば、自身が仮とはいえ教職なので職務のついでになんとなく、四葉の方は芯から真面目だったようで、誰よりも早く学校に来ていた。

 正直に暇を潰していた、とは言いづらかったので、とりあえず、明は教師ぶってみることにした。


 「そういえば、聞いていなかったが、なぜ俺に決闘を申し込んだんだ?」


 「私は先生という強敵を倒して、英雄になりたかったんですよ。先生は、子供の戯言だと思いますか?」


 「それが勝利への欲求であるとするなら、なんらおかしくはないだろう。闘争心なくして勝つことはできないし、そういった意識がないやつは生き残れない」


 勝ちたいと思うこと自体は自然なことであるし、四葉の実技演習の成績が優秀なことを考慮すれば手近なところに対戦相手がいなくなってしまったとも考えられた。だとすれば、戦う相手に飢えていて今回の決闘を申し込んだとしても不思議ではなかった。

 ただ、英雄になることで賞賛されたいという気持ちを原動力に動くには過酷な場所であるのは事実だ。


 「どうなんでしょう。私はただ、勝って勝者になりたいと思っていただけですから」

 

 「間違ってもにだけはなるなよ。早死にすることになる」


 「強者に対して勝ちたいと言う気持ちはありますが、私は戦闘そのものに快楽を求めてはいませんから。きっと、大丈夫だと思います」


 「必要であるのならば、戦闘から逃げることも覚えるように。実戦になれば、次の機会など存在しないのだからな」


 「肝に銘じておきますよ」


 「それと英雄になりたいなら、誰よりも臆病者になるといい。無様でも生き残り続ければ、自然に英雄になれる」


 彼の言う英雄というものが、撃墜王や千人殺しが英雄だというのならば、電研で仕事をするうちに一年もしないでなれるだろう。それが映画や物語で描かれるような、人を導く存在や救世主のようなものでない限りは。


 「そういうものなんですか」


 「そんなものだ」


 もっとも自分が臆病者であったかといわれると、無謀なことばかりやっていたようにも思え少し内省してしまう明だった。そして、思い出すと恥ずかしくなり照れているのを隠すかのように頭をかいて視線を左にそらす。


 「よし、決めました。実技は、新城先生を選ばせて頂きます」


 「とと、ずいぶんと急な話題転換だな。しかし、俺でいいのか? 実技を教えるなら平治の方が上手いし、ビジュアルで選ぶなら鏡や水月もいるだろう。それに先に言っておくが、俺のやり方はスパルタ方式だ」


 「身体に覚えこませる。いいじゃないですか、解かりやすくて。それに恋愛する気がないのにビジュアルで選んだりしませんよ」


 「それもそうか。了解した、期待に応えられるよう努力しよう」


 そうして、早朝という時間は過ぎていった。



 ***




 同日、演習室にて。

 明を含め、四人の教員と十六人の生徒が集合していた。


 「さて、本日は選択した実習生と一緒に授業を受けてもらうことになる。なるべく希望に沿えるようにはしたが、あぶれたものはこちらで相談して勝手に振り分けた。提示された情報を確認した後、担当の教員と合流しろ」

 

 教室前方にいる明が整列した生徒達に指示をする。

 名目上は生徒達の学習が主眼となっているが、これは明達の部下に対する統率訓練の側面も併せ持つカリキュラムだった。各教員が五名のチームを編成し演習の成績を相互に競い合うという形式となっているが、これは実戦を想定した訓練だった。

 電研では、単機での哨戒任務なども行われているが、民間のセキュリティ会社では二人から成るツーマンセルや五人程度のパーティーを編成して仕事にあたるのが一般的だ。

 そもそも相手の殲滅を主目的としない以上効率ではなく生存が最優先されるのは自明だ。

 

「分かれたか。俺の班は、男子が四葉剣三と赤木博徒に、女子は白百合真菜と桜井花子の二人か。今日は、よろしくたのむ」


「よろしくお願いします」


 四人の声が重なる。

 四葉と赤木の二人が男子、白百合と桜井は女子の計四人。男女比的にはバランスもいいのでチームワークはそれなりに期待できそうである。


 「演習とはいうが、実際のところはゲーム版『GENESIS』で戦闘を繰り返すだけだ。硬くならないでもらって構わない」


 「具体的には何を訓練するのでしょうか?」


 自身の希望が通ったことが嬉しいのか、少し明るい顔の四葉が質問する。


 「多対多の状況を想定した訓練だ。これから四人は、それぞれ役割を分担し相互に助け合いながらミッションのクリアを目指してくれ。細部については、今からデータを転送するのでそちらを確認しろ」


 PIT経由で四人にデータを転送する。


 「なるほど」


 静かにうなずく四葉。

 

 「……これは、なんとも」

 

 絶句気味に話す赤木。

 

 「……面白い」


 薄っすらと笑みを浮かべる白百合。


 「無理無理、100対4とか絶対無理!」

 

 初めから諦めモードの桜井。

 

 「ちなみにCPUの設定は最強にしてあるが、なにか問題はあるか?」

 

 「「特にありません」」

 

 冷静な様子で四葉と白百合の声が重なる。

 

 「はあ、多数決で覆らないなら諦めるか」

 

 「……うう、頑張ります」

 

 何かの悟りでも啓いたのか、残りの二人の意見も同じ方向に収束していく。

 

 「それでは作戦を開始する。各員の健闘を祈る」

 

 明の声を合図にミッションがスタートするのだった。

 

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