3‐1‐1 Return
某日、時は午前九時。
場所は電脳技術研究所、新城大地の研究室にて。
電研の新制服姿の男性が二人。
いつかのように、新城明と新城大地が向き合っていた。
「という訳だ、新城明、三島平治、神代鏡、天宮水月の4人には、宗光学院に教育実習生として赴任してもらう」
「まだ、説明してないのに『という訳だ』で通じると思っているのか?」
「いや何、最初からそう言っておけば説明しないで済むと思って。どうせ任務だし、部下であるところのお前に拒否権ないし」
「頭痛くなってきた」
軽い目眩を覚え、頭を抱える明。
「知恵熱か? ふむ、お前には少々難しすぎる説明だったようだ」
眼鏡に手を掛けて足を組み替えつつ、いやらしく笑う新城大地。そのいかにも小ばかにされているような態度が明には気に食わない。
「だから、説明してねえよ! それに自分で説明しないですむって、言っているじゃないか」
そもそも、こうやって怒るからこそからかわれていることを考えれば、それは完全に大地の思う壺だった。
「いいツッコミだ。だが、実際に赴任してもらう以上のことは私の口からいうつもりはない。そもそも、お前が通っていた頃もこういった活動はやっていた。まあ、黒木智樹に指導してもらっていれば、短期間で入れ替わる新人教師の印象が薄くなるのもわからんでもないが」
「そうだな、もう、そちらが話したいようにしてくれ」
軽くそっぽを向くようにして、明は言う。
感情が隠しきれていない様子は、公としての自分ではなく、ありのままの姿をさらけ出した明だった。
案外、そんな明の自然な姿を見たいがために大地はわざと明をからかっているのかもしれない。
「ふむ。といっても、先に述べたように教育実習生として学生の様子を見ることを主題としているが、お前達の休暇という側面もあるのが今回の任務だ。慣れるまではそれなりに大変だろうが、事故でもない限りは安全だ。気楽に過ごしてこい」
宗光学院生の様子を見ることが任務なのは、卒業生がそのまま電研で働くことになるので、その下見の意味を兼ねているのだろう。
任務としての重要度はそれほど高くはないが、だからと言って、ないがしろに出来るものでもない。
また、新人である明達に仕事が来たのは、年が近い方が学生と教師の関係は構築しやすく、内偵として動くにはやりやすいという側面もある。
「休暇なんか別にいらないが。週に二日は休みをもらっているし」
「部下の管理も仕事のうちだ。そして、今回の任務をどう捉えるかは、お前達次第だ」
部下の管理といわれては、引き下がるしかない明。
彼は管理される側であると同時に管理する側でもあるのだ。彼が平気だといっても、彼の部下である神代鏡、天宮水月までもが平気であるかはわからないのだ。
特に水月に至っては、少し前までは入院をしていた身だ、心配し過ぎなくらいでちょうどいいのかもしれない。
「いや、任務だったな。了解しました、大佐」
「それでいい。適度に緊張し、適度に休め。それが自身や仲間と共に生きることに繋がる」
思わず敬礼してしまった明に軽く微笑み、敬礼で答える大地。
彼もまた、人の親であった。
「それでは、失礼しました」
「健闘を祈る」
そうして、今回の任務が始まるのだった。