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ROG(real online game)  作者: 近衛
二章
48/151

2‐5‐3 Hell    

 

 「辿り着いたな」

 

 「戦闘中、みたいね」


 空には三条の光が打ち上げられ、天には暗い闇が(たたず)むかのようだった。

 三方から、三重の螺旋を描くように襲い掛かるレナのAA。

 嵐のような剣戟がサタンを襲うが、先ほどのように削らせることなく、爪や尻尾で往なし、交わすニクム。彼女の連携は王国連の三人のような直線的なコンビネーションではなく、立体的な軌道であるにも関わらず背後からの攻撃さえも命中することはなかった。


 「一対一の決闘に水を差すつもりなら、止めておけ。俺の逆鱗に触ることになる」

 

 静かな殺気と共に放たれた言葉は、ミカエルの持つ剣と同じく鋭利な刃のようだった。

 中空に浮くミカエルが明達に向けた刃は、こちらの方が数の上での有利に立っていることとは無関係に全員に畏怖を抱かせた。

 

 「おもしれえ。じゃあ、てめえから片付けてやるよ」

 

 一瞬であっても恐怖した自分自身が許せないのか、御堂雷雅の操るロイヤルガードが宙に浮かぶミカエルに踊りかかる。

 

 「馬鹿、早まるなっ! 仕方ない、縁様、雷雅の援護に入ります」

 

 「もとより、いずれは刃を交える運命。勝ちに行きましょう」

 

 まだ、ミカエルと雷雅の操るロイヤルガードの距離は離れているが、先行し過ぎれば援護もままならない。天正院、風雅が即座に雷雅のバックアップに回る。もともとある程度はそういった事態を想定していたのか、彼らの行動は迅速だった。

 

 「いいだろう。神への祈りは届かないが、断末魔だけは聞き届けよう」

 

 三人を迎え撃つべく剣を構えるアティド。その言葉には、おごりではない自身の力への絶対的な自身が漲っていた。

 アティドの怖い程に強い闘志のせいか神国皇族連の三人には、彼の背後に流れる雲が陽炎のように()らめいて見える。

 

 「御武運を祈ります、天正院さん」

 

 「こちらは、俺達だけで何とかする。全力でぶつかってこい」

 

 「君達の無様な姿はみたくないからな。だから、こちらはそちらが全力で戦えるように尽くすつもりだ」

 

 六対一で戦闘するのが数の上では理想的であるが、つたない連携は相互に不利益であると両チームは判断し、戦力を分割、それぞれの敵にあたることを選んだ。

 そして、残された明達の目の前にあったのは、敵意でも闘志でもない。

 純粋な殺意だった。


 「少し前の俺もあんな感じだったのかな」

 

 他人が命を賭して戦う姿をみて、逆に冷静になった思考は明にそんなことを思わせる。

 命懸けの戦闘を繰り返すことにより生まれる強固な仲間の絆は、逆に怨嗟となって関わってきた人間達を束縛することとなる。

 

 「そうだね、少し前までの君と似ているかもしれない」

 

 当人が必死であればあるほど、周囲の人間からは痛ましくみえていた。

 彼にとって、水月を助けることがいつの間にか電研に入った理由に成り代わり、いるかどうかもわからない犯人に怨念を燃やし続けた。

 その執念の炎を燃やし続けたためか、三島や神代から気を使われていたことに明はなかなか気付けなかった。

 

 「冷静になってみると、こんなこと気付かれない訳がないんだよな。戦う理由が別にできた今ならわかる気がする」


 守るべき仲間のため、国家のため、自身が生き延びるため。

人によって戦う理由は様々だったが、共通しているのは誰も命を粗末にしようとは思っていないことだった。仲間を助けることが自分の命を助けることに繋がり、助けてもらえるという意識がより強く人を生き(なが)らえさせる。

 不合理ともいえる合理がそこにあった。

 

 「助けているものが近くにいると気付けただけでも、大した進歩だ」

 

 「その敏感さを別のところにも活かせばいいのに」


 ぼそりとつぶやく水月だが、その言葉が二人に届かぬ内に前方で爆発が起こり、大音響がその声を()き消した。

 

 「ったく、アークエンジェルの装甲は頑丈だな。もっとも、その方がいたぶりがいがあってちょうどいいんだがなあぁぁっ!」

 

 爆炎を吐き出した双頭竜が牙を()き、威嚇するように咆哮を上げる。

首の数に合わせたのか、四枚の大きな羽をはためかせるその姿は、機械というよりは一体の生きた怪物がそこに存在しているかのように思わせる。

 対するケルビムと二体のアークエンジェルタイプは、炎の剣、槍と盾をそれぞれに構え三角形の頂点にそれぞれ位置するかのようにサタンを囲い込む。三体のAAを同時に操ることができるレナだったが、精神的な疲労はその分大きくなる。

 複数体のAAによる、高度な連携(れんけい)をすればするほどにその負荷は増加していく。そんな状態を反映するかのように、三体のAAは肩で息をするかのように体を揺らす。

 

 「はあ、はあ。はあああああっ!」

 

 レナは、まだ負けたわけではないとばかりに気合を入れ直して、再度ニクムへと攻撃を仕掛ける三体のAA。

 しかし、もはや完全に見切られているのか、彼女の攻撃は虚しく空を切るばかりであった。

 

 「……何で、何であたらないのよ!」

 

 それは、怒りというよりは悲痛な叫びだった。

 攻撃自体は、最初に小競り合いをしていた時と比べて単純に三倍。

 怒りを伴い、激しさを増した攻撃自体の速度も先程よりも遥かに加速している。

 

 「見るに堪えないねえ。そろそろ飽きてきたことだし、終わりにしようか」

 

 ニクムの軽い口調とは裏腹に、その言葉は確定された未来への死刑宣告だった。

 黒き竜の体が隆起し無数の棘となって球体状に展開される。サタンの周囲を旋回していた三体のAAに逃げ場はなく、複雑に絡み合う棘がその肉体を破壊していく。

 レナは声にならない悲鳴を上げるが、地獄はそれだけでは終わらない。

一瞬の間に爪がその体を引き寄せ、傷口を鋼鉄の牙が喰らいつき、灼熱の炎がその身を焦がしていく。

 生かさず殺さず、苦痛を与え続ける。

 

「なんだあ、泣き叫ぶこともできねえのか? 俺を殺しにきたんだろ? この程度で死んでくれるなよなあ」

 

 爪で裂き、蹴り上げ、ジャグリングでもするかのような気軽さでぼろぼろになったレナの機体を弄ぶ。

 おそらく彼女はもう事切れているだろう。仮に統合されなかったとしても、既に人間が受けられる限界を超えるダメージを負っていた。

 

 (なぜ平然とそんなことができる?)

 

 その光景に対して明が抱いていたのは、恐怖ではなかった。

 殺人そのものを許容することはあっても、それは結果としてのものであり、快楽的に求めるものとは質がことなる。

 理解できない何かは、怒りへと形を変え、彼の静かな怒りに応えるかのように鋼鉄の肉体が稼動する。

 彼の意思は、肉体を正確に敵の元へと運び、その腕は敵を倒すべく呼応する。


 ――《Double strike》(二重攻撃)――


 クイックドロウの速射が宙に浮かぶサタンに向かい放たれる。第三者からの攻撃が予想外だったのか、サタンはレナの機体を取り落とす。

 

 「新手か、退屈しのぎにゃちょうどいい」

 

 向けられた敵意はわずかなものであったが、それでさえ戦慄せずにはいられないほど濃密な不吉を(はら)んでいた。

 

 (怖いな、だが、そんな状況を楽しんでいる自分もいる)

 

 目の前にいる敵の方が、自身よりも強いということはわかっていた。

だが、それでも不思議と負ける気がしない。

 今の自分には、信じられる仲間がいるから、守るべきものがあるから、理由なら後からいくらでも付けられた。

 銃をホルスターに収め、両手に振りなれたミスリルソードを握り、サブアームで炎の剣を引き抜く。眼前に迫る敵に向け、声をあげて挑みかかる。

 

 「おおおおおおおぉぉっ!」

 

 咆哮とは裏腹に思考は驚く程冷めていた。

 あるいは、それは自身の死期を理解しているからなのかも知れなかった。

 だから、明は水月と鏡に指示を出しつつ、囮の役目を自ら引き受けることにした。

 そんな彼の行動に対して返って来た返答は短く。

 

 「「明の馬鹿」」

 

 ぴたりと息の合った返答であった。

 そういいつつも、指示にはきちんと従ってくれるあたりは信頼関係があってこそのものだろう。

 一度でも被弾すれば死に直結するというリスクは、逆に明の脳を研ぎ澄まさせ生き永らえさせていた。敵は文字通りの怪物であり、触れればたちどころに引き裂かれ先程のレナと同じ末路を辿ることになるだろう。

 

 「その剣は、あいつのか。って、ことはあんた黒木智樹を殺したのか?」

 

 通常のケルビムが標準装備している剣とはデザインが異なる明の持つ、炎の剣を見てニクムがつぶやく。

 

 「そうだ、俺が殺した」

 

 「惜しい奴が死んだな。だが、そういうことならお前の方があの女よりはあんたの方が楽しめそうだな」

 

 「楽しませるつもりはない、終わらせる」

 

 「いい闘志だ、あんた。俺が直々に殺してやるよ、あはははははは」

 誤字等修正しました。

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