2‐5‐1 Hell
明達がそこに辿り着いたとき、そこには。
参加チームのデータによると『黒の旅団』チームのものと思われる二体分の残骸があった。執拗なほど破壊され尽くしたその残骸は、対戦者の怨念染みたものを感じさせた。
「……今回の対戦は死罰なし、つまりは死ねないんだったよな?」
死なないのではなく、死ねない。
それは、生存している限りは苦痛を与えられ続けるということだった。セオリーであれば、相手の反撃の可能性を迅速に摘み取るために的確にコアユニットを破壊するが、中破から大破の間程度、ギリギリのラインで相手を生かしたまま行動不能にすることは不可能ではない。
「生きたまま火の中で炙られるような苦痛を味わったことでしょうね、悪趣味な」
「闘技者の風上にも置けんな。俺がぶったおして、目を覚まさせてやる!」
明の独りつぶやいた言葉に御堂兄弟が答える。そういう彼らの言葉には明確な怒気が込められていた。彼らにとっても、あるいは、多くの参加者にとってもこの戦いは、あくまでも試合であり自らの力を示す場であった。
まっとうな競技者に対しては、反則スレスレのラフプレイのようにも映るこの行為は、決して褒められたものではなかった。
「どうやら、ノーマークだった『nameless』の仕業らしいね。あくまでも位置関係から推測した情報でしかないが」
「……強い、怨念のようなものを感じます。誰かの復讐なのでしょうか?」
表層とそこに込められた情動について、鏡と水月が異なった見解を述べる。
事実を事実のまま汲み取る鏡と、起こったことに対してその理由を考えてしまう水月の思考はそれぞれの性格ゆえの反応だろう。
「その可能性は濃厚といえるでしょう。とするなら、次に向かうのはあの二人が戦っているフィールドの中央部。我らも向かうとしましょう、風雅、雷雅」
「「仰せのままに、我らが君」」
怒りという感情が先立ってしまっているのか、御堂兄弟が先行してそれを御するかのように天正院が続く。
先走る彼らをみて、逆に冷静になった明達は後方から支援するべく後ろに続く。
「俺達も行くとしよう。戦場に立つことを選んだ以上、どの道危険は避けられないんだ」
「なあに、いつも通りに戻っただけのことさ」
すました声で、鏡がいう。現状はイレギュラーではあるが、命懸けでないという状況が当たり前だったこれまでに、戻っただけの話でもある。
「不確定要素同士が潰し合ってくれるのなら、それが理想だけどね」
そこに込められた感情を理解しつつも、敵対する者には冷静な判断をする水月。
そして、不確定要素は彼らの目前へと迫っていた。
二章部分は、終わらせます。とりあえず。