2‐4‐4 Truth
転送された先、まず目に映るのは暗い闇だった。
視界には混沌とした炎とも煙とも似つかない何かが漂う。それは、この景色が光に満ちた生者の世界などではなく、死者のための世界なのだと思わせる。眼下には、地面と思われる場所が散見し赤黒いマグマのような濁流が川となって流れる様子は、人体に張り巡らされた血管を連想させる。
戦闘に選ばれたフィールドは、『地獄』。
それは、これから起きるであろう不吉を象徴しているかのようだった。
――《Survival》――
エフェクトが視界に投射されると同時にフィールドに等間隔で配置された8チームが闘争を求めて動き出す。ここまで勝ち残ったのは、『白の教団』、『黒の旅団』、『米帝』、『世界連合』、『王国連』、『神国皇族連』、『水月と愉快な仲間達』、『nameless』というチーム。
最後の『nameless』は、どこかのギルドの出身なのだろうか。明には聞いたことのないチーム名だった。
淡い光が眩く輝き、暗い空の闇を照らし出していく。
視界が白一色に染まっていく。
天が割れたという表現が近いのだろうか。
天を覆う混沌が紅蓮の炎によって切り開かれ、そこには黒いドラゴンの姿が見えた。そして、竜の前に白い光が立塞がった。狂笑と共に雪崩れ込んだ黒い竜、そして、直後に割り込んだ白い光に包まれた何かがフィールド上空で対峙する。
それは、美しく、神々しく、無条件に崇めたくなってしまうような、神の威光とも言うべき何かがそこにはあった。
「このフィールドにいる全員に告ぐ。死にたくなければ、すみやかにここから帰還しろ。この場は私こと白の教団の『教皇』が引き継ぐ」
カリスマめいた何かを持った声がオープン回線越しにフィールド全体に響き渡ると金縛りが解けたかのような錯覚に陥る。
一瞬だが、呆然としていたと、明は後になってから自覚する。
一瞬の沈黙の直後に、王国連のチームが怒りと共にミカエルに襲い掛かる。そんな様子を見物したいのか、サタンの使い手は後方に下がり待機する。
「何様のつもりだ、てめえ」
「『教皇』などと呼ばれていい気になっているようですな」
「俺達に命令していいのは、女王陛下だけなんだよ」
メイス、大剣、大盾と槍をそれぞれ携えた三体のアークエンジェルが連携してミカエルに襲い掛かる。剣を中段に構えミカエルが応戦する。
「引き継ぐといった。リターンしないのならば、倒すだけだ」
叩き潰すように振り下ろされたメイス、これはギリギリで見切られ回避される、そして、大振りの隙をカバーするように盾の影からの槍による連突き、相手が防御に回った瞬間に合わせての大剣の横なぎ。しかし、これも当たらない。
とはいえ、見事な連携だった。
互いが互いの隙を埋めるように行動しつつも決して攻撃は途切れさせない。十秒程度の間に一体何発の攻撃が仕掛けられただろうか。息もつかせぬ連携はついに教皇の操るミカエルから、一瞬の硬直を奪うことに成功する。
「死ね、下郎が」
「我らの手に掛かってくたばるがいい」
「女王陛下にその首を捧げよう」
三者は、それぞれの得物を手に躍り掛かる。
――《Purge》(粛清)――
力ある言葉が紡がれると同時に白い光が瞬き、次の瞬間には王国連の三人はばらばらに砕け散っていた。
「信仰無き者は全て殺す、神は自らの民を選びたもう」
「教皇様は、優しいことで。ひひひ」
その間、しばし傍観者としてホバリングしていたサタンの使い手が、下品な笑い声と共に再度、教皇こと、アティドの前に立塞がる。
「貴様の罪を浄化してやろう。神の前にその血を捧げろ、ニクム・ツァラー」
白銀に煌めく長剣を突きつけ、声高に宣言するアティド。
「は、やってみろや」
黒々とした雲間に雷鳴がとどろき、闇夜に幾重かの光が走る。激しい嵐の中を白と黒のAAがぶつかり合う。今度はただのデモムービーではない、今ここにある一つの真実としての戦闘が始まるのだった。
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