2‐4‐3 Truth
語りだしたといっても、右手でお腹を押さえつつだったが。なんとか笑いをこらえるようにして、もう片方の手を口元にあてて、こほん、と咳払いをしてウーが話し出す。どうやら彼女は相当な笑い上戸らしい。
「二回戦こと、決勝戦は残りのチームが一つになるまでのサバイバルマッチなのはAIからの連絡で知っていますね」
「ああ。そうみたいだな」
「黒の旅団が、米帝のチームとして参加しています。そして、白の教団のトップと並び立つとされる男がそちらから出場しています」
「米帝が本気なのはわかるが、それほどの男がなぜ別チームから参加しているんだ?」
「両者に何らかの合意や約定があったのかもしれませんが、快楽主義者であるあの男がどこまでそれを守るのかはわかりません。そして、彼の操るサタンと直接対決になるようでしたら絶対に逃げてください」
「これはゲームとしての『GENESIS』だろう? 危険がある訳でもないのに、なぜ私達が逃げる必要があるんだ、ウーさん」
「嗜虐趣味のあの男の前では、死ねない方が地獄ですよ。最低でも生きたまま、だるまにされる覚悟があるのでしたら止めはしませんが」
「死なないんじゃなくて、死ねないんだね」
そういう水月の虚ろな瞳は、何を映しているのだろうか。明はむしろそちらの方に妙な不安に駆られる。
「加えて、それ以上にあの男の持つアビリティが問題です。『破戒』のアビリティは、AIの支配から部分的にですが脱却するものです。一回戦で彼らとあたったチームは、私と連絡を取り合っていたのですが、おそらく既に統合されたのだと思われます」
本来統合されないデータが強引に統合される可能性。つまり、その異分子があることでこの戦闘は、ただの試合から殺し合いへとその意味を変える。
「そう、か。貴重な情報ありがとう、ウー」
「礼には及びませんよ。他には固有のアビリティとして『混沌』これは、デビルの擬態の強化版とでも言いましょうか。複数のAAの武装や自身でイメージしたものをキメラ的に融合し使用することができます」
「デモムービーのドラゴンの形態を取っていたように、戦闘中に好き勝手に形を変えることができるってことか」
「その通りです。そして、あのムービーのように教団トップ、アティド・ハレの操縦するミカエルと戦闘するものと思われますので極力あの二人には近付かないことをお勧めします。死にたくないのでしたら、ですが」
「ご忠告痛み入るよ、ウーさん」
「ありがとう、ウーちゃん」
「最後に『転送』のアビリティです。上位のプレイヤーは基本的に全員持っているものと思われますので注意してください。といっても、彼らは戦闘中にあまり使用しないようですから記憶の隅に止める程度で」
以上です、と結ぶウー。
「まあ、すぐに降参するつもりは無いがな。どうせいずれは戦わなければならない相手なんだろ。俺にしたってウーにしたって。なら、戦闘は間近で見ておきたい。それに命懸けはもう慣れてしまったよ」
別段、明たちが死の恐怖を克服した訳ではない。ただ単に感覚が麻痺してしまっただけの話だった。
「本当に馬鹿ですね、あなたは。少なくとも一騎打ちになるような状況は避けてくださいね。それか、早々にやられて退場するか。……お得意様は失いたくないものでして」
「素直じゃないのはみんな同じなんだね、ふふ」
「誰のことを言っているんだか、水月」
おどけるように笑う水月に呆れるように問い掛ける明、鏡はそっぽを向き、ウーは爽やかな営業スマイルを浮かべている。
「さあ、誰でしょう」
そうして時は過ぎていく。
再び命を賭けた戦いの時が、刻一刻と迫っていた。
微加筆。