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ROG(real online game)  作者: 近衛
二章
38/151

2‐3‐3 Arrive

 黒いフェアリーを思わせる細身のAA、その姿は悪魔、鬼、魔物、その異形を形容する言葉にはどれも相応しくあり、また、異なる。むき出しの機械を思わせる全身とその背中には翼と言うには小さい骨組みのような部品が見える。


 「これが私の最も得意とするAAの形、ルシファーです」

 

 漆黒の異形は、やや前傾したような姿勢で(たたず)む。

鉤爪(かぎづめ)のような両手、武装らしきものは手にしていないようにも見えるが、全身の至る所に鋭利な刃物を思わせる突起が突き出している。


 「あんた、デビルのAAを使っているのか?」


 「ご明察。私が使用しているのは擬態のアビリティを持つAA、デビルです」


 デビルは、他のAAに擬態(ぎたい)するアビリティを持つが本体の基本スペックが低いために利用者はほとんどいない。他のAAになれる利点も確かにあるのだが、使いたいAAが別にあるのなら最初からそちらを使うし、汎用性は高いが別の機体で武装を換装するなどしても結局同じことであるためだ。


 「はは、俺と同じで不人気機体が好きなんだな」


 どこか自虐的に笑い、明が言う。


 「案外、我々は似たもの同士なのかも知れませんね」


 そして、現在彼女が擬態しているルシファーのAAも不人気だった。近接戦闘特化型の割には装甲が薄く、戦闘スタイルも特殊であるためだ。


 「では、再戦といこうか」


 「ええ、宴を続けるとしましょうか」


 フェアリーは右手にミスリルソード、左手にリニアライフルを構え必殺の間合いを探る。右に左に揺さぶりつつも間合いを取っていた両者だったが、ルシファーが先んじて前に飛び出す。

 飛び出してきた相手にリニアライフルを放ち、弓を引くようにミスリルソードを大きく引き寄せる。牽制からの突進攻撃をルシファーは、右腕部で弾丸を中空で叩き落し、その場で両腕を交差し体を低くする。

 次の瞬間、黒いAAはエメラルドグリーンの光に包まれる。

 両腕、両足、そして、背中から伸びる翼を思わせる十二本の光の刃で武装した異形のAAが、視界を失った一瞬に合わせ加速する。

 明の視界が戻ると、目の前に淡い緑色の光を纏ったAAがその身を刃として迫る。全身が剣でできているかのようなAAに、ミスリルソードを突き立て応戦する。

 黒い異形は、仕込み刀のように肘から突き出る刃でフェアリーの『累進(ライジング)加速(スピード)』も合わさり神速と化した突きを受け止める。

刃と刃が火花を散らす。

 フェアリーは、更なる追撃を仕掛けんとリニアライフルの射撃と連動して左腕部に装備ざれたショットアンカーを放つ。ヘイフォンは、交差した(ひじ)を支点として回し蹴りで首を狙いつつアンカーを回避する。

 明はこれをバックステップでかわしつつ、リニアライフルで迎撃する。ルシファーは全身の武器を使い、宙返りしながら苦もなく弾丸を打ち落とす。

 そのまま間合いを取り直すと、どこか楽しむようにヘイフォンが言う。


 「あなたの力がその程度では、死んでしまった黒木智樹が浮かばれないですね」


 「言われなくとも、わかっているさ」


 言うが早いか、ルシファーがフェアリーに踊りかかる。中距離射撃が有効でないと判断した明は、リニアライフルをホルスターに納めてミスリルソードを抜き放ち、敵を迎撃する。

 光の刃と化した右腕と左足による攻撃を、二本の剣で受け止める。

相手の体ごと弾き飛ばそうと力を込める。

するとルシファーはミスリルブレイドの刃を支点に回転し、後ろ向きにショットアンカーを飛ばしてくる。


 「受けきれますか」


――《Dragon dance》(竜舞)――


 挑発するようにヘイフォンが引き金となる言葉を紡ぎ、ルシファーが反転しフェアリーに向かい加速する。


 (これは、俺の《Attract tempest》と同じタイプの……)


 突き出した腕部から放たれるアンカーをミスリルブレイドで叩き落す。しかし、その刃がアンカーに引っかかり、そのまま強引に引き寄せられる。

左の掌から伸びる剣から凪払うように、一閃。

 右の手を振り下ろす二撃目。

 交差した両腕で、切り上げにさらに一閃。

 ()ね上げられた右腕の剣が宙を舞い、右足の膝蹴(ひざげ)りが腹部に突き刺さる。その衝撃で、突き出すように伸びた首に左足の前蹴りが放たれる。錯覚として気絶してしまいそうな衝撃が脳にフィードバックするが何とか意識を保つ明。


 「こんなところで、負けられるかよ!」


 勢いをそのままに、駆け上がるように空中へ飛ぶ黒い天使。頭部を蹴られた衝撃で途切れそうになる意識を気合で立て直し、上を見上げる明。機械の頭部がどれだけ揺らされても、自分自身の脳が揺れているわけではないのだ。

 直後に、両腕の掌から伸びる二本の光剣が投げ放たれる。その内の一本を左腕に持ったミスリルソードで叩き落し、もう一本が右腕に突き刺さる。フィードバック現象で攻撃を受けた部分に激痛が走るが、構わずにルシファーに突進を仕掛ける。

 中空に後退した動きに合わせ、左腕でミスリルソードを突き出し、二つのサブアームを展開して二丁のライフルをホルスターから抜き出す。そして、即座に放つクイックドロウで敵の動きを牽制する。

 目前に迫るミスリルソードをすねから展開された刃で()り飛ばしこれを防ぐルシファー。吹き飛ばされる剣を無視して加速を続けるフェアリー。


 「まだだ、今の俺にはこいつがある」


 ぼろぼろになった右腕と左腕で背面部に新たに装備された炎の剣を引き抜き、思い切り振り下ろす。アクロバティックな動きからの強引な制動が祟り、この攻撃に反応仕切れないようすのルシファー。


 「くっ、これ程までに……」


 赤く燃えたつ剣を手に踊りかかるフェアリー。

 その斬撃は、再度両の手に出現した剣のガードを突き破り腕ごと両断する。

 陽炎を纏いフェアリーはその喉元に刃を付き立てる。

 左右のサブアームにはリニアライフルを構え、照準をコアユニットに向ける。


 「これで、終わりだ」


 「チェックメイトみたいですね」


 ルシファーは、降参だとでも言うように両手をあげる。


 「できればもう、あんたとは、戦いたく、ないな」


 呼吸を荒げるように、明は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


 「はは。あなたなら辿り着けますよ、あの高みへと」


 「ったく、俺のことをあまり見透かすなよ、ヘイフォン。だから、これで終わらせよう」


 そういって、明は弾丸を放ちヘイフォンに止めを刺す。フェアリーの傷だらけでぼろぼろになった姿が、僅か数秒の攻防の凄まじさを物語っている。そして、高みとは先程の戦闘で見た白の教団のトップである、アティド・ハレを示しているのだろう。


――【THE END(戦闘終了)】――


 ビジュアルエフェクトのカットインが挿入され、今更ながら自身の勝利を認識する。


 (少なくともあんたと同じレベルにまでは、辿り着けたようだ)


 拳を握り、辺りを見渡す明。

 そこには戦闘中の豪雨が嘘であるかのように晴れ渡り、空中から見渡す風景には虹が広がっていた。剣を背中にしまい、ホバリングしながら俯瞰する風景は広大で、青々とした空がどこまでも広がっていた。


 「実力まで擬態(ぎたい)してやがったな、あいつ」


 ぼんやりと一人毒づいていると、明はポリゴンとなって霧散しエリアから強制的に転送されるのだった。

 修正。

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