2‐1‐5 Demonstration
同日、正午。草原には、風が吹き渡り薄い緑色の草がたなびいていた。
先日、フロアマスターである黒木智樹を倒すことによって手に入れたこの場所は、外界から完全に隔離された場所であった。そして、プライバシーが保護されるという側面以上に明はこの場所自体がそれなりに気に入っていた。
ここが現実世界では失われた風景を再現したものか、あるいは、単に最初から作られていた空間だったのかは定かではない。また、水月が彼のことを憎み切れていない要因の一つとして、彼は狂ってはいたが、乱暴なことはしなかったという点があるだろう。
ただ、黒木が言っていた水月が自分の意思でここにいたと言うのは、単に選択肢が無かったというだけの話だということがわかっていた。帰還させてもらえなかったが、結果的に保護してもらっている側面もあったために嫌悪の対象とはならなかったらしい。
「la♪」
教会の方から明の耳に声が届く。歌声のような心地よさがあるが、大きさが小さすぎてそれが何かも誰のものであるかも判別が付かなかった。また、パスコードを水月と鏡には発行しているために彼女たちも自由に立ち入ることができる。リラックスするためにここに来ていた彼だったが、同じ理由だろうか。
様子を見るために、教会の扉を開ける明。
薄暗い室内に、扉を中央に二列に配置された長椅子、その間にある通路の先に佇む誰か。
明がゆっくりと歩みを進めると、薄暗い室内にはステンドガラスから光が降り注ぎ、白い服の少女を照らしていることがわかる。
「水月? いや、黒木愛か?」
一瞬、見間違えたが、以前水月がここで着ていたものと同じ服装をした少女。明の脳内に該当するのは彼女しか思いつかなかった。
「はじめまして、新城明さん」
スカートを軽く持ち上げ、恭しく礼をして彼女は言う。
「そして、ようこそ。この世界へ」
木霊のように室内に反響する彼女の声は、どこか冷たく。教会と言う日常とは切り離された空間の所為か、薄闇の中で光を浴びる彼女の姿は、神や霊といった存在のようにどこか神秘的だった。
修正修正。